休日の大依頼 前編
危険物取扱者の資格勉強で執筆に時間がかかり間が空いてしまい、毎度のことながら申し訳ありませんでした。今回は久しぶりに1万文字を突破しました!
なんだか、大勢の人が大きな広場に集まっているようだ。それにしても随分と騒がしいく、となりの人の声さえはっきりとはわからない。
「……何かのお祭りだろうか……ねぇ?なんだたと思う?」
「あれ? 俺は誰に話しかけたんだっけ…… (あれ……確かに俺の隣にはいつも“誰か”いたはず…いや、気のせいか)」
正体のわからない違和感。俺はそれからずっとその違和感を感じながら、ただ一人で大衆の中で何かを待っていた。
目的はわからない。ただ、まわりに合わせてそれに紛れ込むように立ちすくむ。それが、今の俺には気が楽で落ち着いた。
しばらくすると、大勢の人に囲まれたこの広場で、唯一人のいない木の骨組みで構成された建物に人影が現れると、さらに人々の歓声があがる。
「(有名人でもいるのかなぁ……それにしても……)」
当然俺には歓声の示す意味はわからない。だだ、“処刑台”に似た雰囲気を放つ木の台に俺は少し離れたいと感じた。
そして、現れた男に釣られるように台に引き連れられた少女が痛々しい姿で乱暴に投げられる。
さらにその男は倒れた少女の髪の毛を掴み無理矢理顔を見せ、こう続けた。
「我らグローラリア様にあだなす憎き魔族をここに捕らえたり!!!」
あろうことか、周囲の人間の歓声はここでまたさらに増していくではないか……。
再び、銀髪の少女に目を向けた瞬間
「あれは……!? 知らないっ! 俺は何も知らないっ! 」
俺の……自分自身でもわからない記憶が、無理矢理呼び覚まされるように俺の頭へと流れ込んで行く
「うあ”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
訳のわからない とてつもない頭痛……今にでも脳みそが壊れちまうように、激しく俺の中で暴れる。
いっそ、死んでしまいたい……。そう思うほどの頭痛の中で、偶然銀髪の少女と視線が合ったような気がした。
《……た……けて……》
声は聞こえない。でも、なんとなく聞こえた。口元がそう動いた。
その時すでに俺の頭を押さえる手の反対の腕が、無意識に彼女へと伸ばされる。決して手の届かぬ距離だとわかってても、腕を下ろすことはできない。
台の上には顔を隠して巨大な斧を持った大男がゆっくり彼女へと近づいていた。
「やめろ……やめてくれ……」
おぼつかない足取りで、目の前の人で作られた壁を押し退けながら、彼女のもとへ向かうが当然果てしない時間がかかる。
非情な時間の流れが、着々と“その時”を引き寄せて行くなか、流れに逆らう事などできない俺はただ闇雲に彼女のもとへ急ぐことしかできなかった。
気づけば先程までの歓声は小さくなっていた。
慌てて彼女へと視線を戻すと……
「ハッ!……」
「吉晴くん……?」
「あ、あのぉ……」
━━━━━━リュミ━━━━━━
私はリュミです。まぁ、言わずと知れたヴァンパイアなので、4時間くらい眠りました。私的には十分眠ったはずなのですが、外はまだ朝日すら上がっていませんでした。
しかし、これもいつものことなので、何となく一人の時間を満喫……そう、満喫するんです!
いつもは吉晴さんの本を読んでいたり、銃の手入れをしてみたり、本当に色々なことをします。
音を出せないので、そこは制約を受けますが……
そして、いつも通りテーブルに置いてある本を取りに行こうと、ゆっくり皆を起こさないようにベットを抜け出します。
こう言う1人の時と言うのは中々新鮮です。夏場のピークも過ぎて過ごしやすい適温になった部屋は、みんなの寝息以外ほとんど静寂です。
でも、今日……いえ、昨日の事があってか、今は音はしないですけどどこか騒がしいです。
蝋燭の灯りで本を読むのは目に悪い。と、結奈さんに言われましたが私的にはこれでも十分明るいのです。
しかし、吉晴さんの世界の技術はとても素晴らしいです。このような立派な書物が大量に出回っていて、さらに子供のお小遣い程度で買えるなど……恐ろしいです。最も凄いのはこの本の内容を当たり前に子供が学べる環境があると言うことです。そして、ここに記載されている内容はいままでの魔法の常識を覆すものです。
私には理解出来ないことも多いのですが、わかる範囲でも私の魔法がいかに無駄が多かったかを痛感できるほどです。なんと言いますか……ページをめくるのが楽しいのか怖いのかよく分からなくなっちゃうんです…
他にすることもないですし、こうしていつも読むわけです。
しかし、それは朝日が昇りはじめて間もないときの話でした。
「あ”ぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「ふぇ!?」
突然ベットの上で吉晴さんが苦しみ出してしまったのです。
他のみんなも何事かとそれぞれ目を冷まして行くなか、吉晴さんは本当に苦しそうに胸を押さえています。
「ど、どうしたの!?」
「何事よ……」
「吉晴様! しっかり!」
みんなも私同様、突然の出来事に困惑です。
「ただ事ではないわね……(おかしい……魔力を持っていないはずの貴方から、なんで若干だけど魔力を感じるのかしら……状況的にみて一番関係ありそうね)」
シヴィはあり得ない現象に顔をしかめる。
その間にも吉晴は苦しみを続ける。彼女たちも今だどう対処していいかわからない。
と、吉晴さんが力無く腕を伸ばしました。まるで何かを求めるように……
私はその手を取ってできる限りの力で握りしめます……
その時です。吉晴さんの手から流れるように私の中に何かが流れ込んでくる感覚がありました。
なにか、断片的なイメージが次々と私の意思に関係なく再生されて行くようでした。
「これは……(もしかしたら、これを見て……)」
その頃には吉晴さんの様子はまた、いつもの様子へと戻ってい
【邪魔された……。】
「え?」
空耳かと思うほど微かな声は、何となく聞こえたような気がしたのですが、今は吉晴さんが落ち着いたようで満足でした。
「りゅ……リュミ?……リュミ……よかった……」
吉晴さんはちょっと強引でしたが、突然なぜが私を引き寄せて抱きしめられてしまいました……
「吉晴君……?」
結奈さんたちは、ちょっと怖い顔でしたが……(笑)
「あ、あのぉ……」
訳がわからなくても、なんだかこうして吉晴さんといると、ちょっと嬉しいです。
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徐々に不規則だった呼吸も落ち着き、いったんの安静が戻った吉晴は気まずそうに一連の事について謝った。しかし、何が起きたのかだけは明かされることはない。
そして、結奈達には何度も「本当に大丈夫?」「無理しないで休んでください」とか、かなり心配をされた。結奈達が、俺自身をどう見ていたかは分からないが本当にヤバい状態だったんだろうか……
こうしたこともあってか、結奈達の心配した視線が拭えない中、シヴィだけは普通に話す吉晴の腕で、怪しく薄い紫色に光る“腕輪”を睨んでいた。
「その腕輪……」
「え?」
吉晴は自分の腕につけられている腕輪を確認しようとした直前、まるで隠れるように先程までの輝きが鈍くなっていった。
「これがどうかした?」
「……何でもないわ。(気のせい? いや、確かにさっき……)」
腕輪は今になっては、なんの疑問も抱かせない普通の腕輪なのだが……
大きな戦いを控えた彼にまた新たな問題がのしかかるのだった。はたして、これは放置しても構わない本当に些細なことなのか……、もしくはこの国に……この星の根幹にさえ関わる事なのか……。
こうして俺達の1日が進んで行く。
10ヵ国対談は昨日の騒ぎで中止となり、多くの代表者が国へ帰るなか、一部の国の代表はトローデス王国に留まることになった。訳は少し考えれば想像はつく。
「残った国は同盟国辺りで、帰った国は仲良くない国か、中立国か……」
「一概にそうではありませんが、大体の目安にはちょうどいいのです。しかし、今重要なのはこの国に残った方なのです。」
ミーシャはこれでも立派な王族。もしもの時はこの国を代表として立たなければならない立場だ。だから、俺以上に国を見極める力はある。
「え? 残ってくれた国って仲間じゃないの?」
「そういう国が多いですが、友好国でも必ずしも見方についてくれるとは限らないのです」
「簡単に言うと、見方と見せかけてこちらの情報を敵に流す国が一番怖いんだ。だから、国王様たちはこれから信頼できる国を見極めなきゃいけない訳だ」
結奈が納得したところでその話は一旦切り上げて、ミーシャの提案で外に朝食を取りに行くことになった。確かに城内は昨日の騒ぎで付いた血痕で酷いことになっている。さすがにそんな環境ではどんなに美味しい食べ物でも喉を通ることはないだろう。
廊下へ出れば使用人や兵士がせっせと壁や床に固まった血を拭いていた。
さすがに遺体だけは早いうちに運ばれていて、はち会わせることはなかった。死体に不馴れな結奈と俺も含めて安心した。
そうして歩いていると後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。まぁ、俺からすれば少し苦手な相手である。
「ミーシャ姉ちゃ~ん!」
「お待ちください姫様!!!」
昨日の事など忘れているかのように元気に駆け寄ってくるマリーデス王国次期王女ことリナミアだった。
無邪気に手を振る姿は次期王女には到底見えない。
その後ろからは、お付きの騎士だろうか……重そうな鎧をガチャガチャと音を鳴らしながら、今にでも倒れそうな顔で追いかけてくる。
「またあの子ときたら……」
「はぁ……」っと額を押さえながら小さくため息を付くミーシャ……なんだか気持ちが分からなくもないかもしれない……。
「あの人は?」
「彼はリナ直属の騎士隊の隊長のダリウスさんです。いつもは……良く言えば明るく、悪く言えばノー天気と言いますか……そこが、リナが選んだ最大の理由なんですよね……」
「大丈夫なのかな……」
「剣技は一流と噂がありますが……なにしろ実戦を見たことがありませんから何とも……」
彼は一見はそこらに売っているスタンダートな鎧を身に纏っているように見えたが、良く見れば細かいところが丁寧に仕上げられていて、チラチラと良くわからない魔方陣が鎧の内側などに書かれてあった。表面は鏡面ではないにしろ丁寧に磨きあげられていて、高級感を醸し出している。
そして、腰に挿された長さ1m近い剣はその存在を自ら主張しているようだった。
「はぁぁ……姫様……勝手に動かれては困りますよ……疲れちゃうじゃないですか……」
しかし、人は見た目によらないとはこう言うことを指すのだろうか……
「遅いよダリウス! たったと走る!」
「そうは言われましても……鎧を着ては……はぁはぁ」
なんか、尻に敷かれてる感じが伝わってくる。
それにしても彼は戦うとき鎧を着ないのだろうか……
「ミーシャ姉はこれからどこ行くの?」
「え、あぁ……少し朝食を取りに行こうかと……」
「良いなぁ……」
俺達のところへやっと付いた頃には、ダリウスさんは顔面蒼白で倒れてしまうのでは? と、心配したが意外にも直ぐに落ち着いたようだった。
そんなダリウスにリナは、チラッ……またチラッと視線を送るが、
「なりません」
「えぇ~~っ! なんでさ! お父様だって【今日は自由にしてよいぞ】って言ってたじゃん!」
「第一に一国の姫が城外へ出ること自体、珍しいことなんですよ!? さらに食事をするなどあり得ません! そもそも国王様の許可も無いのですし」
お、おい……顔がひきつってるぞミーシャ……
確かにダリウスさんの言うことはもっともなんだが……
「わかった……なら、お父様に許可とれば良いんでしょ?」
「国王様の命であれば……しかし、ミーシャリア様方のお邪魔になったら大変でございます」
あれ? この人意外にしっかりしてない?
「私……邪魔?」
そんな顔でそんな事言われたら断れる人はいないと思うんですよ……
ダリウスさんも、こりゃダメだ……と言わんばかりの顔だ。
「そんなことは無いですよ? あははは……」
「本当!?」
さっきまでの沈んだ顔はどこへやら……といった感じだ。
「(ミーシャちゃんも大変だね……)」
「(昔からです……)」
それからリナは通信機のような道具を使うと、上機嫌で戻ってきた。どうやら、お許しが出たみたいだ。
「国王様はなんと?」
「ダリウスも同行すること、だそうだよ♪」
勝ち誇ったように無い胸を……いやいや、5年後はどうかはわからないが……とにかく勝ち誇ったように胸を張った。
「あと、ミーシャによろしくって」
「そうですか……では参りましょうか」
ダリウスもやれやれと首を振りながら付いてくる。
ふと、リナの服装が気になったが、元々そんなに豪華なドレスではないため、ギリギリ町で浮くことはないだろう。ダリウスさんの鎧も見た目はスタンダートだから問題はない。
中庭に通りかかると、さすがに昨夜の襲撃で警備が厳重になっていた。
城に続く門と言う門には、人目見ただけで弓、剣、槍……いかにも多種多様な装備が揃っている。
そんな厳重な門に少し怖じ気づきながらもミーシャの顔パスで素通りする。
やっぱり城の中にいるとミーシャの権力を改めて実感するんだなぁ~
城を出て少し丘を下ると、ちょうど朝の活気溢れる港町へと姿を変える。
「さすがは海の都と吟われるだけはあるな」
「賑やかだねぇ♪ それでどこで食べるの?」
リナミアは周囲を物珍しそうにキョロキョロしながら歩く。ダリウスさんは別の意味でキョロキョロしているが……
「どうしましょうか……」
「それなら、あのお店にしない? ほら、え~っと……」
「え……まじ?(たしかあの店は……)」
「そうね、なかなか美味しかったしちょうど良いわ」
「たしかこの先を曲がったら……ほらあった!」
ヤバい……非常にヤバい。あの店はヤバい……このままでは……
どうしようか考えているうちに、いつのまにかその店の扉の前へと来てしまっていた。
「そ、そうだよ……頼まなければいいんだ。大丈夫……」
「さっきから何独り言いっているのよ!」
店内は以前と変わらず落ち着いた雰囲気が漂う。外の賑やかな音も、店内にはあまり気にはならない程だ。
「このお店は……どういった食事があるの?」
先程までの様子から察するに、こう言った外食をするのは初めてなリナミアはメニューを広げながらも、これから起きることに期待を寄せる。
「リナ、足を揺らすのは良くないですよ?」
「はーい」
何だか話だけ聞いてると母と娘の会話にしか聞こえない……。確かに見た目は幼さが若干感じるけど、こう見えてミーシャって同い年なんだよなぁ……15歳って言ったら大体大人と同じ精神構造してるし……
さらに言うと王族での経験で俺達よりもよっぽど人生経験があるだろうし……
いやいや、俺だって一般常識やマナーくらい知っていると思ってるけど……王族のマナーなんてここに来て少し毛が生えたようなもので、ミーシャと比べれば足下にも及ばない……。
そう言うことも含めると同い年であっても、ミーシャの方が断然大人なのかもしれないな
「吉晴君は何にする?」
「……(海産物系は苦手なのが多いんだよな……。貝類が無ければ何でも良いんだが……)……じゃあこの【日替り魚の切身定食】にするわ」
さすが港の定食屋だ。見事に貝が紛れ込んでいそうなメニューばかりで頭痛が……
唯一、魚の切身定食と言う安全そうなメニューを見つけ出すことに成功した。あとは貝が来ないことを祈るだけだ。
「そう言えばミリアーテンのお爺さんはどうなったのかな……無事に商売できてるかなぁ~」
「確かこの店であったんだっけ? そのあとの出来事が強烈すぎて余り覚えていないけど……」
「たしか……あなたが雷皇とか言う狼に吹き飛ばされてたわよね」
「あれは死ぬかと思った……」
スチールプレートがものの見事に切り裂かれてたからな……恐ろしや恐ろしや
正直、あの衝撃で肋骨の3本や4本折れて、回復能力が無ければ今も完治しているか疑問が残るほどだ。
「あの時はビックリしたんだから……」
「私はあなたの悲鳴の方が印象に残ってるけどね……ニヤニヤ」
「あ、あれは……」カァァ///
珍しくシヴィが結奈を弄ってる……珍しいなぁ。てか、ヤバい……顔を真っ赤にする結奈、まじ天使……
その後もみんな心にゆとりが出来たのか会話は弾んだ。今までろくな休日がなかったから体を休ませるので精一杯だったんだろう。今日は精一杯ゆっくり過ごしてリラックスしたい……これから今まで以上に忙しくなるんだから……。
その会話をリナミアも珍しく大人しく聞き入る姿を見ると彼女にとっても興味があったんだろう。
次期王女の彼女なら一々聞かなくとも俺達の正体を知っているだろうし、ダリウスさんも同様に俺達のことくらい知っていて当然と言えば当然と言える。
仲のいい国であっても、探りぐらいは入れたいものかもしれない。ミーシャもそれを承知に話しているのだから、俺に咎める理由はない。
聞き入るリナミアの視線は時折妙に大人っぽく、鋭かった。
きっと今の彼女こそが、マリーデス王国次期王女の姿その物なのだ。直感的にそう感じ取ってしまった俺は気を取り直すように、出された水を飲む。
「(こりゃお手上げねぇ~……そもそも勇者を取り込むなんて発想自体が頭パーの考えることなのよ。私が勇者を取り込もうとしても、彼らの中に私が付け入る隙は何処にもないし、力で押さえつけようにも昨日の戦闘や今までの話や実績から結論付けると、答えは不可能。逆に最悪滅ぼされるわ。可能性が有るとすれば、適当な理由を付けて、正直にお願いするしかなさそうね……敵に回したギリタフルって可哀想ね)」
「(それにしても勇者の戦闘はずいぶんと対人戦闘に特化したものね。遠距離からの強烈な一撃を連続で与えられるあの武器は対人戦闘では利にかなっているし、雷皇や龍種までも倒す力があるのならば、彼らに敵うものはこの世界にあるのか不思議ね……)」
リナミアの普段は見せない怪しげな顔を時たま見ているうちに頼んだ料理ができたみたいだ。
この店は一人で切り盛りしているのか、同じ人が何回かに分けて運んでくる。
「お待ちどうさま。ってあらあら、この前も来てくれた子達だね?」
「は、はい! 覚えていてくれたんですか!?」
「そりゃもちろんさ、最近は若い子は来ないからねぇ……今日は前より多いんだね」
「え~っと……《遠くにいた親戚がこちらに来たので朝食代わりによらせていただきました》」
すかさず結奈にミーシャのフォローに入る。さすがミーシャだ。なにも嘘をつかないでこんなに普通に言い返せるとは……
「そうかいそうかい、そりゃ嬉しいこったい♪ じゃあゆっくりと食べていきなよ」
ここで初めて【日替り魚の切り身定食】に目が行く俺は、直後……
「こ、これはまさか……」
見た目は日本の刺身と変わらない。とても美味しそうに見えるのだが……
「かっ、貝だ……」
「どうしたの? あ……そういえば」
なぜ、魚の切り身定食に貝が入っているのか……なんで?
とりあえず、貝だけを残し他を全て美味しくいただくことにした。残った貝は、みんなの隙をつき、隣に座る結奈の皿へと瞬間移動した。
「目的である朝食は終わりましたが、あと他にすることはある?」
「私は特に無いですけど……あ、そう言えば久々にギルドに行きませんか?」
「ギルド? あぁ……そんな所もあったな……まぁ依頼を受けるのも今日ぐらいしか無いし簡単なものだったら良いんじゃないかな」
でも確かこの国のギルドには俺達の正体バレてるんだよな……突然行ったらどうなんだろ……
「てか、リナミア達はどうするんだ?」
「私は構わないよ!」
「姫様!? それはいくらなんでも……」
「だってお父様には自由にして良いって言われてるし…… “それに……ね?”」
リナミアはダリウスに向かい、必死に懇願するような素振りを見せていたが、最後の怪しい含みが込められた一言だけは俺には何か別の雰囲気が感じられた。
これにはシヴィも多少は怪しんだものの、あまり気には止めていない様子だ。
ダリウスはリナミアの意図を察したように、また仕方なく承諾をした。
「では、近場でできる簡単な依頼にしましょうか?」
「そだな、普段他の人がやりたがらない依頼を受けるのも悪くないかな」
かなり困難な依頼のわりに報酬額が低いやつとか、簡単で報酬額も無いに等しい……言い換えれば、ボランティアに等しい依頼も誰も受けたがらない。
……
「やっぱりギルドに近づくほど、周りの視線が集まるな……」
「以前、はっきりと公言してしまいましたからね」
「当たり前ちゃあ、当たり前でしょ?」
なんだかなぁ~……
そうして視線が集まるなか、ギルドの扉をくぐる。
結果、案外俺達に気づく人は少なく、ギルドのガヤガヤも止む事はなかった。
「さっさと、済ませてでるか」
大量に埋もれる依頼の下の方から内容を確認する。
最初に手に取ったのは……
《竜の卵の納品》
一瞬でもとに戻した。
きっとさっきの依頼は他の人がしてくれる。
さて、次は何かな~♪
無理やり気分をリセットして、もう一度……
《内容は契約後に通達》
なにこれ……めちゃ怪しいんだけど……
あとで断ったら契約放棄とか言い出すんだろうな……
その後もいまいちピンと来ない依頼ばかりが俺のもとへ来る……。
いや、もう少し依頼整理しようよ……
「吉晴君! これなんかどう?」
顔を上げれば結奈が差し出した依頼書に目が入る。
ちょっと依頼されてから時間がたったのか、紙の端がささくれて、色も若干あせている。
「えっと……鍜治屋からの討伐依頼か?」
「正式には鍜治屋からではなく、鍜治屋の親組織からみたいですね」
横から覗き込むミーシャの反応も良いみたいだ。
しかし、鍜治屋とかからの討伐依頼とは一体……
「なら、これにするか?」
「ですね、場所は……」
ダリウスも依頼主、依頼内容や場所を確認した。姫の護衛と言う立場上必要なことなのだろう。
「なるほど……確かに悪くない依頼だが……」
「どうかしました?」
「確かに良い依頼なのたが、少し距離があるな……申し訳ないが私達は遅くとも今日中には帰ってこなくてはならない」
リナミアはダリウスに、「ケチケチしないでよぉ!」と、駄々をこねているみたいだが、確かにリナミアが外泊するのは不味いな……
昨日の襲撃でただでさえ不安が残るなか、奇跡的にこうして外出できたのだ。それを思えばこれ以上無理をさせるわけにはいかない。
「どのくらい離れているんですか?」
「徒歩で行くとすれば1日弱かな? 馬で行っても今日中には無理だな」
「そのくらいなら……」
…………
俺達はその依頼書を持って受付のカウンターへと向かう。さすがに大勢の中を歩けば目立つわけで……
「て、てめぇは!?」
「ま、マジかよ!?」
酒樽を抱えて飲んでいた大男は、俺と目があった瞬間に酔いが覚めたのか、目を丸くして驚く。
その男の反応が水面にできた波紋のように広がり、瞬く間に俺達が浮いてしまった。
「あちゃ~……」
「いい加減馴れないといけませんね……はぁ……」
なったものは仕方ない。そう割りきってカウンターへと再び進み始める。
俺自身、こう言う雰囲気はあまり好きじゃない……俺達以外一言も話そうとせず、ただじっとこのあとの展開を待っているようだ。
なにがともあれ、無事に受付へとたどり着いたが……
「ほ、本日はどのような……ご、ご用件でしょうか!」
「……えっと、この依頼を受けたいんですが……」
こんなに緊張しなくても良いのに……
やっぱりギルドは苦手だなぁ~
そんなこともあって、朝の7時頃だと言うのにどっと疲労が溜まってしまった……
依頼を請け終えた俺達は時間もないため、早々に出発することになり、少しの買い物を済ませたあとぱっぱと町の郊外へ向かった。
「今まであえて黙っていたが……これからどうする気なのだ? まさか歩いて行くとは言わないよな?」
「そうですねぇ~、ここら辺なら人目も薄いからもう構わないかなぁ」
「?」
そう言えば、こいつとも久しぶりに会うんだよな♪
その直後に地面から数センチ上に姿を表した重厚な塊が、重苦しい音と共に硬い砂地へと着地した。
最初の頃とは違い、もうすでにエンジンが良い音を響かせておりいつでも乗り込んでくれと言わんばかりだ。
いや……実際に言っているのだが……
《やっと出してくれましたか……もう浮気されたかと……》
「浮気って……」
《軽装甲機動車とかストライカーとか……でも、こうして呼ばれて良かったです》ホッ…
確かに自衛隊の軽装甲機動車はカッコいいんだけど……やっぱ俺にはハンヴィーが落ち着いてしまい、それはきっと、今まで見てきた映画の影響が強いんだろうが……でも今に思うときっかけに過ぎないと思ってしまう。
今の俺がこのハンヴィーを使うのは今までに何度も救ってきてくれたこいつに向いた信頼の二文字だろうか。
《呼ばれたってことは、今日はどちらまで行かれるんですか? あ、皆さんどうぞお乗りください!》
「こ、これ……」
「て、鉄の塊? いや……車輪が付いていることは動くのか……?」
時間がないのは変わりようのない事実なので詳しい説明は全て車内にて行うことにした。
乗り込むときのリナミアやダリウスはやや緊張気味だったがいざ乗り込み動き始めると、その力強さと安定さに呆気を取られていた。
「これは秘密兵器か何かなのか?」
「別にそんなことは無いですよ? 軍では普通に歩兵の足として沢山使われてますし、民間用の車なら一家に1~2台はあるくらいです。ちなみに魔法の類いも使っていませんから、どんな人でも馴れれば運転できます」
リナミア達は馬車などとは比べ物にらならない早さで過ぎ行く景色眺めながら呆然としている。
時速にして70kmを維持しているだけなのだが、この世界ではそれは凄い事なのだ。小学生みたいな表現だが彼らの反応を見る限りそれが一番相応しい。
《で、今日はどこに向かうのですか?》
「討伐依頼を受けに採掘上に行くんだよ」
《またまた……前みたいな一見に繋がるんじゃないですか? マスターってトラブルメーカーっぽいですし》
今話しているのはハンヴィー自身だ。この擬人化の波に抗うかのように、今は声だけのナビの様になっている。人間のような身体も持ってはいるらしいのだが、あまり実体化しても意味はなく車内スペースを取るだけと、あまり本人も気乗りはしないらしい。
あと、自分自身の意思で運転できるようだが、普段は運転してもらいたいようだ。それが車としての本能で、彼女なりのアイデンティティーなのだろう。
「トラブルメーカーって……そんなラノベ見たいな……」
《違いますか?》「ご免なさい……」
暫く……と言っても100km程をダリウスの道案内で1~2時間走ると段々と人工の建物がチラチラと見え始めて来たのだが、俺にはどうも採掘上と言うわりにはちょっとした集落のような気がしてならなかった。
しかし仮に集落だとしても、この場所はあまりにも不自然だった。
「人が一人もいないねぇ~」
「こんなことってあるのでしょうか……」
まるでゴーストタウンのようだ……。これで夜にゾンビでも出てきた時にはもう精神的にお手上げだ……
と、冗談はさておき、ここが採掘上で働く労働者の一時的な生活環境としても人っ子一人いないのは些か普通のことではないだろう。ましてや俺たちの来た理由も考慮するとすれば……
「リュミ、上の扉から周囲警戒を頼む。もうM2も用意してあるからもしもの時はよろしく頼む」
「わかりました……」
すぐにリュミは天井を思いっきり押し上げて、ハンヴィーから上半身をぴょこりと出した。
ヴァンパイアとしての生まれつきのリュミの目は、下手な機械製品よりも優秀だ。測離技術に至っては、軍用のレーザーレンジファインダーと同等の精度だ。
リュミの監視のもと俺たちの乗ったハンヴィーはゆっくりと集落を進んで行き、十字路で一旦止まった。
「……吉晴さん、なにか居ますよ」
「あぁ……さっきから建物の影をゴソゴソ動いてるよな」
《何だか中東のゲリラ戦を思い出させますね……》
「それなら民間人がいないだけ、こちらの方がラッキーじゃないか?」
《そうですかねぇ?》
幸いなのは夜じゃないと言うくらいだろうか? 真夜中の暗闇でこんな事態になったら、一目散に逃げていただろう。
「どうしますか? 気配のある箇所に射撃してあぶり出しましょうか?」
「いや、無理にしなくともその内出てくるんじゃないかな? それよりもシヴィはいつでも障壁を展開できるようにリュミと待機だ」
「しょうがないわねぇ~」
これで何か居る事は確実になったわけだから、あとは注意しながら依頼主と会うだけだ。
「結奈にはM4カービン、ミーシャには89式小銃で言いかな? あとこれが予備弾薬と、もしもの時の俺の大好きベレッタ92Fだ」
「分かった、サイドアームって言うんだっけ?」
「そうそう、よく知ってたな! ご要望があれば何でもどうぞ?」
「……追々ね♪」
実を言うと結奈も結奈なりに頑張って居る事はずいぶんと前から気づいていた。彼女は決して頑張ってる姿を見せないけど、リュミと俺の会話を横目でじっくり聞いてたり、俺が居ないときにリュミに貸した銃の本をコッソリと読んでいたり……まぁ正直なところ俺に隠し事をしていたことについては、ちょっとショックだったけど、銃の世界と言うのは女の子にとっては後ろめたいことなのだろう。
俺としてはミリタリー系女子は大歓迎なのだが……
「それが勇者たちの武器と言う事か……」
「(この前のと同じのが2つ? 残りの大きな方も形は大分違うけど筒を向けるのを見ると全体的な構成は同じ見たいね……それに上に固定されてるバカデカイあれも彼女らが持っているそれともよく似ている……ぁあ!訳がわからなくなってくるわね!)」
ダリウスさんもいよいよ臨戦態勢だ。
「今は採掘会社の事務所みたいな所を探しましょう、話はそのあとです」
「ですね、現在の状況が何も分かっていない時点で無闇に波風を立てるのは得策ではありません。まず何故この様な事態に陥っているのか……それが分からなくては対策のしようもありませんから」
ミーシャの意見ももっともだ。原因が分からなくては行動のしようがないのも事実だ。
《何だか、雲行きが怪しいですねぇ……》
ハンヴィーのエンジン音だけが鳴り響く無人の集落に何が起きたのか。それはまだ分からず、分からない不安と言うものが吉晴達の心を染めて行く中、
「っ!?」
吉晴の背中が何かを感じた。身震いを伴った嫌な感覚は確かに吉晴に届き、理由の分からない胸騒ぎがただ巻き起こった。
しかし、その感覚は初めてではない。何故なら……
【あらあら、見張りの子から侵入者と聞いて来て見れば……本当に縁がありますわねぇ~ フフフフ♪】
「お前は……っ!?」
フィーリアさんの姉であり、今や神の世界から追われる身となったキリアス本人であった。
「てめぇ……まだこの世界にいたんだな……てっきり独房に居るかと思ったよ」
【あら、随分とお口が達者になったじゃなぁい? と言っても目的はもう済んだのよね~、でも……計画の邪魔になりそうだからここで消しておこうかしらね♪】
「そうかい……」
リュミのM2も既にキリアスを捉えている。いつでも12.7mm弾が浴びせられる状況にあるのだが
【もう忘れたのかしら? 貴方の神の力では私には傷ひとつ付けることは出来ませんのよ?】
そう、俺のこの力は所詮神様からの借り物だ。彼女の前ではチートどころかゴミカスな能力に成り下がるだけの能力。でも……
「ミーシャ、結奈、車から降りて直ぐに撃てるようにしてくれ。ダリウスさんたちはここにいて下さい」
「しかし……」
「これは俺達の戦いなんです……だからお願いします」
「分かった」
少しの沈黙のあと何とか了承してくれたダリウス。俺達は直ぐに降車し、ハンヴィーを囲むように構えた。
俺の手には時折活躍したバレットM82A1がある。そして“ポーチ”から弾薬を取りだし、数初込めたあとハンヴィーのボンネットにバイポッドを乗せて低倍率のスコープ越しにキリアスを捉えた。
「撃てっっ!!!」
勝負は先手必勝。リュミのM2が重苦しい発射音を轟かせながらキリアスへ向けて撃ち続け、ミーシャと結奈が弾幕を張り続ける。ミーシャも最初の頃とは比べ物にならないほど射撃の腕も目に見えて上がっている。
しかし予想通りすべての弾丸はキリアスへ直撃するも、何事もなかった様に通過するだけだ。
俺の弾丸も2発とも同様に通過してしまった。
だが、俺が放った3発目の弾丸は……
【だから何度も言っておりますのに……私は貴方の力では ッグハ!?】
3発目の弾丸は、確かにキリアスの体を抉りながら通過した。
飛び散る肉片、血飛沫は奴の見くびった結果だった……
何だか吉晴くんが段々と私の手に負えないくらいにたくましくなっていると思うのは作者だけでしょうか……
今回もお読みいただきありがとうございました!これからも宜しくお願い致します!




