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異世界でも、チートよりも大切なこと。  作者: 芳賀勢斗
ギルド会員としての旅立ち。
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黒龍の没落

随分と時間が空いてしまいました。本当に申し訳ありません。

言い訳を言わせてもらうなら、大会前日なのにロボットが全く動かない事態が発生しまして執筆時間がとれなかった次第です。

誤動作などで初戦敗退でしたが、これからは時間が作れると思うのでどうぞこれからもよろしくお願いします。

透き通る真っ青な空に浮かぶ真っ白な雲が辺り一面を支配する。

しかしそんな幻想的にも思える空間に殺意とも感じられる轟音がこだまする。


「現在目標を視認。ミサイル発射の許可を」


「了解、ミサイル発射を承認しました。以後はその場の判断にて発射を許可します。」


「了解」


その声と供に少しだけエンジンから発せられる“轟音”が少しだけ大きくなったような気がした。

吉晴の乗るFA -18スーパーホーネット、以下F-18は、立て続けに2本の電子の矢を放つ。


本来は40㎞離れてから攻撃できるサイドワインダーミサイル。わざわざこんなにも近づく必要はないのだが、このミサイルの直撃を受けたのにも関わらず未だに飛び続けている黒龍がどうやって防いだのか、これからの事も考えこの目で見てみた方がよいと思ったからだ。


薄い白線を空に描き、マッハ2を超える超音速で黒龍に突き進む。

さすがに黒龍も二度目の攻撃で何もしない訳ではなかった。黒龍は素早く例の生物的にも航空力学的にも不可能な速度を発揮する。が、

しかし、やはり超音速で飛翔するミサイルにとっては取るに足らない旋回と速度であった。

推力偏向システムが細かく12.7cmの細いミサイルを調整する。それこそ、人間の手では不可能なほどの繊細な作業を……

そうして円弧を描きながら一瞬で距離を詰めたサイドワインダーは黒龍のすぐそばで信管を作動させ、爆発と共に発生した衝撃波と撒き散らされた破片で黒龍はズタズタに引き裂かれるハズだった。


「魔方陣……なのか? それにしても随分と巨大な……」


爆発に対応するように広がるように現れた水色の巨大な魔方陣に目がいった。

その魔方陣がすぐに消え去ったが、それを待っていたかのように丁度良く2発目のサイドワインダーが黒龍に“直撃”した。

黒龍は片翼を失い、右半身が破片でズタズタになった。

俺は今度こそ確かな手応えを感じた気がした。

黒龍はほぼ垂直に落下して行く。眼下には緑に覆われた島が見えるが、黒龍は比較的近い海に落ちることになりそうだ。運がかなりよければ背中に乗っていた人間も無事でいられるかもしれない。


「目標撃破確認、目標は無人島らしき小島付近の海に落下。」


「了解です。艦長は一旦艦へお戻りください。カリナさんが目を覚ましたようです。」


「了解しました、これより帰投します。」


F-18(スーパーホーネット)は進路を変え、ニミッツへと急いだ。









目まぐるしく代わり行く大地と天空。

天空と大地を統べる黒龍にとっては屈辱にも思える落下。もはや、自分の姿勢も制御できず重力に成すがまま、飲み込まれるような黒い海へ引き込まれて行く。

そんな屈辱は黒龍だけでなく背中に必死にしがみつく一人の女性もまた同様に目に薄い涙を見せながら必死に安定を取り戻そうとしていた。


次第に白波が肉眼でも見えるほどに近づく海面に黒龍は覚悟を決めたように目を細める。

黒龍は最後の力を振り絞り尻尾と片翼だけで、最後の減速を試みた。

女性はしがみつくように黒龍の背中にもたれる。





そして誰にも知られる事なく1体の最強と吟われる黒龍と龍騎士が高い水柱とともに海へと呑まれていった。







「艦長、カリナさんの意識ははっきりしています。すぐにでも黒龍の確認をしたいのですが、今はカリナさんの無事を喜びましょう」


「そうだな、傷の具合は?」


「現状は問題ありません。さすがにしばらくは絶対安静ですが……。カリナさんに今後の治療の説明をしたら明日からでも魔法を使った治療を始めたいと思います。」


「よし、じゃあ30分後に黒龍を確認してこよう。20mmの砲弾を防いだあの鱗の事を考えると生きていてもおかしくない。それに話も聞かなくてはいけないだろうし……」


確かに見えた黒龍の背に乗っていたあの女性。もし本当にギリタフル王国の刺客だとしたら、俺達は大変なことに巻き込まれたことになる。


「承知しています。落下地点の座標も特定済みです」


「じゃあシーホークを用意しといてくれ、あれなら水面下の捜索も陸上の捜索もできるはずだから」


SH-60Bシーホークですね、了解しました。しかし、雲行きが怪しいですよ?」


「そうかな……その時は状況によるな」


俺は深いため息の後、カリナさんに一旦会うべく医務室へ向かった。





(あれ……柔らかいし暖かい……な、……そろそろ起きなきゃ……)


目覚める直前のカリナはゆっくりと体を起こそうとする。


「え……ここ……って!? 痛っ……」


(そうだ……私あの時……)


その事を思い出したカリナは確認するように恐る恐る自分の“傷口”に手を伸ばした。


(塞がってる……?)


カリナが一旦落ち着くと、あの死ぬほどの痛さと血が体から抜けてゆく恐怖が思い出されて、喉の奥から何かが沸き上がってくる感覚が襲う。


「ゴホッ、ゴホッ……はぁはぁ……」


「か、カリナ!? 目を覚ましたのか!?」


「え……? あ、うん……ここはどこなの?」


咳き込んだ声を聞いたのか、隣の椅子でうとうとしていたジャンが気づいた。


「エヘヘ……ちょっと今は動けないみたい……」


「無理すんな、さっきサーシャがしばらく寝てろって」


「そっか……」


カリナは少しだけ体の力を抜いた。それとともに二人の会話も無くなった。ジャンはカリナが目を覚ましたと言う一旦の安心感。

カリナは色々なことを整理する時間。そして……

二人はそれぞれ違う意味のため息をついた。


「じゃ、みんなを呼んでくるよ」


「ま、まって!」


「ん?」


カリナの顔は少し赤らんでいた。


(二人きりの時間なんてみんなで旅をしてれば取れないし……ここで言わなきゃ……)


「約束……覚えてる?」


「約束……あぁ、もちろん。それがどうした?」


「そぅ……じゃあ、もしその約束の解釈変えたとしたら…………」


【俺はカリナから離れないし、俺はカリナを忘れたりしない。絶対にカリナを守る。ずっと一緒にいよう。だから泣くんじゃねぇぞ】


「私はジャンが好き。私もジャンから離れたくない。ずっと一緒にいたい、ジャンの力になりたい。」


カリナは人生一生分の勇気を振り絞ったように、手を胸に当てて深呼吸のような深い呼吸をする。


「……俺は、」


その時、医務室の扉がノックされ、二人はビクリと体を震わせた。そして、ゆっくりと視線をドアに向ける。


「吉晴だけど入ってもいいかな?」


カリナはハァ……っと、ため息をついた。


その後、医務室へと駆けつけたサーシャ達とともに、今後の治療方針がニミッツから話された。

カリナは自分の体が糸で縫われていると言うことを知ったとたん、少し恐がってはいたがサーシャが治癒魔法で“完全”に治すと聞いたら安心したみたいだ。











「シーホーク、離艦する」


「お気をつけて……」


機体に激しく打ち付ける雨粒の音が聞こえるなか、1機のヘリが鉛色の空に舞い上がる。


(今のところは大雨だけだから問題はなさそうだけど早めに戻った方がいいかな……)


風がないからと離艦したが、段々不安が募ってきた。


SH-60Bシーホークはバタバタと音をならしながら雨のなかを進む。

しばらくして視界の悪い中、うっすらと島影が見えてくる。


「赤外線カメラからは……」


モニターでもあまり鮮明には映らなかった。

この雨なら仕方もないかもしれないが、偶然にも砂浜にうっすらと線が残っていた。


「あれは……っ!?」


その時、目の前を何かが高速で通過した。それも、ぶつかる!? っと思えるほどかなり近くを。

しかし、思ったより早くその正体がすぐに思い知ることとなった。


「竜巻!? ヤバッ! シーホークからニミッツへ、後方4時の方向に竜巻ができた! 色々飛んでくるから、一旦帰艦する!」



「了解、飛来物に注意して帰還してくだ……」


方向を変えようと機首を90度曲げた瞬間、機体が横方向への激しい衝撃にさらされた。

その影響で吉晴はコンソールに頭をぶつけてしまう。幸にもヘルメットのおかげで意識こそ失うことはなかったが、強い脳震盪のうしんとうで意識がもうろうとする。


「艦長!? 応答を! 艦長!」


「大丈夫……だ……」


気を抜けば失ってしまいそうな意識のなかで微かにささやくような声で無心に無線機を掴んだ。

機体は徐々に回転しだし、煙が出ていることがわかった。


(……テールローターが止まったか……動画でしか見たことなかったけど、まさか自分がなるなんてな……)


テールローターと言う後ろにつく小さなプロペラが止まって、コマの様に回転しながら墜落する姿は多くの映画や動画サイトで見た人は多いだろう。

ヘリ墜落の代名詞と言っても良いかもしれない。


しかし、SH-60Bシーホークはそんな“ヤワ”ではない。

素早く機体を傾け、回転を和らげて速度を増すために機体を前傾させる。細かい微調整のおかげか、垂直安定板でおかげか徐々に機首が安定し、遂にシーホークは滑空するかのように緩やかに下降してくる。

だが、竜巻が近くにあるため強風が機体を再び不安定にしてしまう。警報音が鳴り響くなか、歯を食い縛りスティックを操る。機首が右へ左へと落ち着かないが確実に島へ近づいてはいる事は見てとれた。

それが希望になって吉晴も諦めることはしなかった。



しかし、現実はそぅ上手くは回らなかった。



『ガツン!!!!!』


「う、嘘だろ……」


吉晴は目の前のあるメーターに絶句していた。

そのメーターの針は明らかに半時計回りへ動いていた。それは……


【エンジン出力の低下】


吉晴は直ぐに再始動を試みるが一向に動き出す気配はない。メインローターの回転数も落ちてきている。

色んな計器を確認するがやはりエンジンが“停止”してしまったようだ。


吉晴に追い討ちをかけるような2回目の衝突。それは、よりにもよってエンジン付近を直撃してしまっていた。しかしメインローターに直撃してローターが折れてしまっては今よりもよっぽど最悪な状況になっていたかもしれないことを考えると、運がよかったとも言えるかもしれない。


「あと少し……」


現在高度1300mで、海岸がら300m辺り。どうにか辿り着けるか……ギリギリの状態だった。

あまり知られていないようだが、ヘリはエンジンが止まったとしても直ぐには墜落はしないようになっている。俗に言う【オートローテーション】というやつだ。例えエンジンが止まったとしてもローターは十分なほどの回転エネルギーが残っているから、それを上手く温存しながら徐々に下降してゆく。もちろん失敗すれば死が待っているのだから、簡単には出来ない。それにパイロットも相当な操縦する技量も必要となる。


もう海面の波紋が見える位置まで高度が下がっている。砂浜も目前まで迫ってきて、後は時の運に任せるしかなかった。


「いっけぇぇぇ!!!!!!!!!!」


8トンの機体は砂浜から数m手間へで着水し大きな水しぶきを起こしたあと、砂浜へと突っ込んだ。雨で濡れているためか固い砂で機内にはさっきよりも強い衝撃が来た。

機体が斜めで突入したためなのか横に横転してガラスが砕け、ローターが折れて飛んで行き、転がって行く。

転がった機体はヤシの木みたいなものを数本折ってやっと停止した。


意外にもコックピット内の損傷は少ない。

今度は衝撃に備えたと言うこともあるかもしれないが、シーホークの墜落に備えた頑丈な設計のおかげが大きいかもしれない。


「痛たた……」


他のモニターや計器は割れたりしていたが、奇跡的にも無線機は生きていた。


「シーホークからニミッツへ……エンジンの損傷後、目的の島へ不時着? した……海も荒れているから天気が良くなったら戻る。」


「それは墜落……まぁ、無事でしたら何よりです。こちらも今から航空機を飛ばすのは無理そうです……」


「そうか……じゃあまた連絡するよ」


扉が歪んで開かなかったから、仕方なく機体自体を消した。

俺は少しの浮遊感を味わうこととなった。それと同時に雨粒が徐々に服を濡らしてゆく。

俺はしばらくの間、黒い空を見つめながら大の字で砂浜に横たわった。

そして、唐突に一言呟いた。


「俺……生きてる……」


(そう言えば黒龍もこの島にいるんだよな……なんか怖いな……戦車で一眠りするか……)


最近、価値観が崩壊したような気がしている……















「……今は動かないで……傷がまた開くから……」


深い森の中で一人の女性が、傷だらけの龍を相手に話しかけていた。

黒龍が出血すると言うあり得ない事実を目の前にした女性は予想外の出来事で何をどうすればいいかわからなかった。

彼女が黒龍に選ばれ“龍騎士”となって以来、黒龍が怪我どころか体調ひとつ崩したことはない。それが、この一瞬で翼を失い、この世界最強のバリスタでも傷1つ付かない程の硬い鱗も何枚も砕かれた。


「何でこんな事に……」


黒龍は苦しそうに横たわりながら、荒く唸っている。


(あの鉄の塊……私たちより早く飛んで……こんな強力な攻撃を連発できるなんて……信じたくはないけど私達は最強ではなくなったのね……)


「あなたも悔しいよね……」


黒龍も悔しそうに喉を鳴らす。


「天気……悪くなってきたわね……少し待っててね……」


女性は大きめの葉をできる限り傷口を隠すように並べた。


「でもこんなところで終わる訳にはいかない……私達には種族の存続がかかっているんだから……」


遠くで雷鳴が響いたとき、女性の悲痛な思いが語られた。この出会いが吉晴達の新な幕開けであり、苦難の始まりでもあった。

これからの展開を予想出来たものは居ないし、知ってとしてこの物語を変えることは出来ない。


もし、可能だとしたら……彼くらいだろうか……?


「疲れた……」


分厚い装甲に守られた小さな空間で眠りについた。

これで、今章は終了とし、次回からは新章となる予定です。

お読みいただきありがとうございました。

これからもよろしくお願いします。

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