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異世界でも、チートよりも大切なこと。  作者: 芳賀勢斗
ギルド会員としての旅立ち。
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自由の始まり

少し短めです。今回は自由世界の過去と言うことになります。

光の届くことがない地下室。

悪臭を伴うゴミの山にもたれ掛かる全身アザだらけの男達。こんな清潔と対局にあるようなこの独房みたいな部屋に俺を含めて13人。もっともつい最近までは29人ほどがこの狭い部屋に押し込まれていた。それを思えば、こんな狭い部屋でも少しゆとりを感じられる。


「ほら、飯だ」


鉄格子の外から食糧が投げ込まれる。

食糧と言ってもカビが生えかかったパンに、よくわからない草…頼めばもらえる水でさえどこの水かはわからない。


ハエがたかる部屋でいつ終わるのかわからないこの地獄に、弱音を吐かないで堪え忍んでいた。と言うより弱音を吐く気力さえもがもうすでに無かったのかもしれない。

まだ、小さい俺は部屋の隅っこで膝を抱え身を縮こませる。







一眠りして目が覚めるとちょうど“あの男”が鉄格子の外に立っていた。

この次、何が行われるのかは知れている。

他の男達は立ち上がることが使命と言った感じで、壁にもたれ掛かりながらもゆっくりと立ち上がる。


「時間だ。」


鉄格子の小さな扉が、キィィ~っと音を立てながらゆっくりと開かれる。

男達がぞろぞろと、ふらつきながらもこの部屋をあとにする。そんな彼らに合わせるように俺も進み始める。この間、話し声は全くない。素足が硬い岩石をする音に、足と手首に繋がれた鎖が放つ不快音だけが沈黙の空間にこだまする。


「(あぁ…あの女の子を見捨てていれば…)」

最悪だ。あれは俺がかってにやったことだ。助けてとも言われてないから、あの女の子を責めることは出来ない…そんなことを考えていた。

そうして粗末な階段を上がった先は俺達、奴隷の取引所になっている。

取引所は表向きには合法奴隷、いわゆる生活難などで自分から志願して奴隷となった者の取引だけだと決まっているが、ずいぶん前からそう言った決まりがあやふやになり、違法奴隷と呼ばれる拉致されて強引に奴隷に仕立てられた者の取引がされるようになった。俺もこの類いの違法奴隷…気を失ったかと思えば手足に鎖が…。

例えここで「俺は奴隷なんかじゃない!」って言ったとしても、ここに来る奴なんてろくなやつはいないだろうから、事情は察するだろうが気にすることはないだろう。それよりも、あとで俺達の管理者であるあの奴隷商に何されるかわからない…


と言うことで、子供は基本入っては来ないし、来る用事もない。

でも、俺は奴隷が立たされる台の高い位置から人がごった返す集団のなかを縫うように進む少女を見つける。少女はキョロキョロと辺りを見渡しながら…迷っている…。俺は気づかないうちにその少女を目で追っていると、あることに気付いた。


「あの子…まさか…」


見覚えのある青空の様な薄い水色の長い髪の毛に、小さな体には釣り合わない杖を抱き抱えている。魔法に疎い俺でもその杖がどれだけ高価なものかはわかる。

場違いな少女は、人混みの中を進むなかで人にぶつかる度に健気に謝っている様だ。もっとも相手は奴隷を選ぶのに集中していて気づきもしてないようだ。

そしてついに少女と目があってしまった。


少女は俺を確認すると、恐る恐る近寄ってくる。近くで見ると本当に整った顔つきをしていて暫く俺は見とれてしまっていた。そんな俺の様子など気にも留めていない少女は、俺の奴隷商の名前と番号だけ見ると足早に走り去っていく。

結局、この日も奴隷市で俺の買い取り手は居なかった。なんだか売れ残りは複雑な気分だ…






あの部屋へ再び戻ることになった俺は騒ぐことなく何時もの“定位置”へと座り込む。そして鉄格子の扉が閉じられた頃に居た人数は10人。今朝19人いたから、今回の市で9人売られたことになる。


そして、この日の食糧は無かった。







「ん…」


この日は中々いい眠りができた。珍しく仰向けになり目が覚めたとき、虫が走る天井を眺めた。

「また1日が始まる…」そう思うとずっとさっきみたいに寝ていたいと思った。幸いにも奴隷市は毎日ではなく2日おきに開かれるみたいだ。だから今日は何もすることがない…。

俺がここに居るのは約7日あたり、そろそろゴミみたいな食糧では本気で酷しくなってくる。


「飯だ。」


いつものように“あの男”がいつもの食糧を投げ込む。

本来ならあの男はここには用がないはずだが、今日はなぜか鍵を開け始めた。


「そこのガキ、早く出てこい。」


この部屋にガキは俺しかいない…


「は…はい…。」


自分なりに大きめに声を出したつもりだが、力が抜けてふぬけた返事になった。

“まさか、売れなくて処分されるのか…!?”

もう7日だ。奴隷市も3度経験している。そう考えると背筋が凍る…

俺がゆっくりと出たのを確認すると扉は閉められた。


「着いてこい。」


俺は男の五歩あとを着いていった。一歩一歩がいつもより重い。

そんな中、男に連れられてやって来たのは奴隷には似合わない清潔で明るい部屋。


そして部屋の中心に座る“あの少女”。その少女は俺を見ると優しく微笑んだ。


「やっと見つけましたよ?ミランさん」


その少女は昨日奴隷市に来ていた少女にして、7日前 俺が助けた女の子。

改めて見ると、どこかの貴族かと思わせる白と水色を基調とした気品ある魔導服に、背丈ほどある杖。

そんな彼女だけども、貴族特有の嫌な感じはしなかった。


気づけばあの男はもうこの部屋にはいなく、彼女と俺だけが残された。


「そこに掛けてくださっても構いませんよ?」


「あ、はい…」


「…お疲れのようですね…。では早く話を進めましょうか…単刀直入に言います。」


俺の返事を聞いて衰弱度が分かったのか、彼女は手短に話を進めた。


「私と旅をしてはくれませんか?」


「そ、それは…奴隷としてですか?」


彼女は深く首を横に振った。


「仲間…パートナーとして、対等に旅をしてほしいのです。嫌なら断ってもいいし、途中で嫌になったらそこでやめてもいいです。どうかお願いします!」


「旅…旅って言うことは何か目的が…?」


彼女は少し間を置き、話始めた。


「私の最終的な目的は…祖父が進めてきた“奴隷を無くす”こと。私はその為に魔法を勉強してそれなりの地位を獲得しました。そして奴隷を経験したあなた、いいえ…私を助けてくれたあなたなら信頼する価値がある。そう思っています。」


これがサーシャ・リニットと言う女性と俺、ミラン・シュルバートの最初の出会いであり、自由世界の始まりと出発でもあった。


奴隷のような人身売買が先進国で多いのは日本らしいですね…ちょっと信じられないです。

皆さんからのアドバイスをお待ちしてます。どうぞ、よろしくお願いします!

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