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異世界でも、チートよりも大切なこと。  作者: 芳賀勢斗
ギルド会員としての旅立ち。
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自由世界。

少しの潮風に混じり、少し鉄と油の臭いがする。

微妙に揺れを感じる地面を叩くと固い金属音がする。


「久しぶりに戻って来たなぁ~」


「前にも来たことあるの?」


「何回かね?でも、吉晴くんが居なきゃ、こんな戦うための船なんか見もしなかったろなぁ~」


「戦う船…軍艦って事よね…」


サーシャがその巨大すぎる船体を見渡す。

何がどうやって動くのか、何がどんな役割を果たしているのかなんて検討もつかないが、ただすごさを感じている。


「あ、戦争とかするつもりで持ってる訳じゃないよ?海龍種っていうのを倒すために…」


海龍種の名を聞いたサーシャは驚きこそするが、すぐにいつもの顔になる。


「薄々気づいてはいたけど、やっぱりあなた達は勇者だったのね…」


「私は隠すつもりはなかったんだけどね…何かと広まると面倒だから…」


「そう…よね。」


ここで1回会話がとぎれる。

何となく気まずい空気が漂う。でもそれも長くは続くことはなかった。


「そう言えばちゃんと自己紹介してなかったよね!」


「そう言えばそうかしら…色々と立て続けに起こりすぎたから…」


気を取り戻すように、1回わざとらしく「コホン!」と咳払いをする。


「私は綿嶬結奈わたぎゆうな。15歳で、…えぇっと…次、何言えば良いのかな…?」


肝心なところがひょっこり抜けている。それが結奈だ。そんなことを感覚的に察したのかサーシャも心なしか笑っているように見える。


「!?笑ったぁ!」


「ぇ?そりゃ私だって笑いますよ!」


「ううん、さっきまで前々笑ってなかったよ?だから、ちょっと嬉しいな♪」


「…。からかわないでくださいっ!いくら勇者でも怒りますよ!全く…」


サーシャはぶつぶつと口に出しながら艦橋へ歩いて行く。途中何かに気づいたようにこちらを振り替える。


「…私はサーシャ・リニット、15歳。自由世界って言うパーティーに所属してる。普段はダンジョンに潜る冒険者で、たまにハンター業もするわ。ギルドでは魔導士サーシャで通ってる。…これからよろしくお願いしますね、結奈さん」


自己紹介には慣れているのか、テキパキと話す。

でも、結奈はそれとは別の事で驚いていた。


「嘘!同い年なの!?」


「悪いですか…」


確かにサーシャの体つきは、15歳というには少し身長も顔つきも雰囲気も…-2歳ぐらいかな…


「ふぇ~同い年ね~」ぷにぷに…


「ひゃう!?つつくなぁ!」


「へぇ~普段はそんな話し方するんだねぇ~♪」


「しっ、しないわよ!」


さっきは大人っぽい女の子だなぁっと思ってたけど、15歳と知った今は何だか可愛く思える。

少し怒り気味のサーシャは今度こそ船内に戻る。そんな後ろ姿を結奈は、ニコニコと見送る。


「さってと…吉晴くんはいつ起きるのかな…?」


硬い甲板で大の字で寝ている吉晴。

今の時間帯になれば甲板は太陽で程よい温度になる。さらに微妙な揺れとかさなり硬いことを無視すれば寝るには最強になる。


そんな吉晴の隣に結奈もちょこんと座り込む。


「確かに暖かくて気持ちいいかも…」


沈みかける太陽は海面もオレンジ色に染め上げる。夕焼けに見守られる二人はロマン溢れる絵柄だ。イビキがなければ…


(ふふ…。でも何で吉晴くんと結婚してるんだろうな…だって私1回吉晴くんを振ってるだよ…吉晴くんはどう思ってんだろう…今は頼れるし格好いいと思ったことも少なくないし、好きか嫌いかで言えば絶対好きだし、でも違う世界に来ちゃって武器も使って15歳で結婚してから恋…なのかわかんないけど…こんなことを思い始めるなんて、私の人生波乱万丈…?だよね…)


「おぉ~い、起きないのぉ~?………やっぱり起きないよねぇ~…(…硬くて頭痛そう…)」


(少しなら良いよね…)


結奈の膝の上に乗せられたのは吉晴の頭。吉晴の知らないところで『膝枕』を体験することになった。


(意外とずっしりなんだね…)


《結奈さーーーーーん!!》


「(ゴツン)にゃ、にゃにぃ!?」


飛び上がった拍子に吉晴の頭が硬い鋼鉄板に叩き付けられる。


「…なぜか頭痛がぁ、とっても夢を見れてた気がするのに…ってあれ?夕方?…てか結奈はそんなに顔赤くなってんの?」


「…。何でもなぁ~いよ。さ、リュミちゃん呼んでるから行こ?」


「お、おう…?」






ぴ…ぴ…ぴ…ぴ、っと規則的な電子音が響く。たくさんの医療用のホースや、電極パット、折れ線グラフみたいに表示されて行くモニターに囲まれるカリナ。口は酸素マスクでふさがれ、呼吸するたびに白く曇る。でもそれが死んだように眠っているカリナが“生きている”証拠でもあった。


「…ジャンくんって言ったかしら?カリナちゃんなら麻酔でしばらく起きないわよ?」


「わかってます…」


「そう…」


様子を見に来たニミッツはそれ以上は何も言わなかった。

たがこんなにもすやすやとカリナが寝息をたてれるのも、手術室を完備したニミッツがいてこそだった。あの傷はあと少しで背骨を砕き、助かっても下半身不全などの後遺症があったかも知れなかったと聞いたときは、ジャン達は顔を真っ青にして冷や汗を垂らしていた。

結果的に手術は無事に成功して、あとは麻酔から目覚めるのを待つだけになっている。まぁ、目が覚めても完治するまでしばらくの間絶対安静なのだが。


部屋を離れたニミッツは少しため息をつく。


「疲れたぁ…まぁ、止血がある程度してあったからスムーズに処置できたんだけど、魔法って凄いわねぇ、あとで治癒魔法って言うのも聞いてみたいわね」


すると、いつの間にか後ろにいたリュミに話しかけられる。


「それなら、サーシャさんに聞いてみたらどうですか?カリナさんに治癒魔法をかけ続けてたのは彼女ですから」


「サーシャ…あぁ、一緒にいた女の子のことですよね?でも…あの子ってかなり小さいようだけど、治癒魔法って意外に誰でもできるものなのかしら?」


「魔力の量は必ずしも体格と年齢とは比例しませんから…それに一流の魔導士でも覚えたての子供でも時間辺りの効果はあまり変わりません。でも魔力量の多い人の方が継続できる時間も長いので結果的に優れていると言われているだけです。それに効率もすごい悪くて、ちょっとの切り傷なら数分で治せますが…カリナさんのような傷だと何日かけ続ける必要があるかわかりません…私が感覚と独学で話せるのはこのくらいです。サーシャさんなら魔法学とか色々知っていると思うのでもっと詳しいことが聞けると思いますよ♪」


(なるほどぉ。独学って言うわりにはかなり詳しいわよね…でも結構理解できたかしら。つまりもともと人間が持つ自然回復力を膨大な魔力と時間を使って強化するみたいなものなのね…。だとしたら投薬とか手術とかよりも患者にとっては負担は軽いのかしら?もしかしたら…いえ結論付けるのは早いわね。)


「色々教えてくれてありがとうございますね、あ、そうそう。結奈さん達が甲板にいると思うので艦長室へ呼んできてはくれませんか?」


「はいっ♪それでは!」


たったった…っと走り去るリュミ。それを見届けるように一旦おいてニミッツも歩みを進める。


(今日は金曜日…そう言えばもう少しで大和さんが港へ戻る時間ですか…レーダーはあまり発達はしていないようですし船に灯りをともしておきますか…)






「んで、怪我の具合はどうなんだ?」


「手術は無事に終わったみたいで、今は麻酔で眠ってる」


「ふぅ…よかった~間に合ったか…」


結奈はそんな俺を見て少し微笑むが、それはすぐに少し暗くなる。


「大丈夫かな…フィーリアさん…」


「あのキリアスっていうやつが言ったことが本当なら神同士は戦えないはず…だから、大丈夫だろ」


つまり、俺のこの能力チートも通用しない…。たとえ戦車砲を当てても、ゼロ距離で核爆弾を起爆しようとも、あいつに傷ひとつ付けることはできない。

しかし俺は人間でありながら神の力を行使しているにすぎず、神であるキリアスは人間である俺を“殺せる”あまりにも分が悪すぎる相手だ。


「そう…だよね!」


「あぁ、たぶんな」


すると、俺達の追うように着いてきていたリュミが会話に参加した。


「フィーリアさんとは、あの時光の中から現れた人ですよね?いったい誰なのですか?」


「!?…まぁ、恩人に当たるのか…」


「ん~簡単に言えば、私達がこの世界に来るきっかけを作った人かな?」


「そんなとこだな~」


「なんか、しっくり来ませんが悪い人ではないのですか…あのキリアスっていう人と知り合いだったようで、てっきり悪い人なのかと…」


さすがにあの人が神だと言って良いかわからず…と言うか、言う勇気がなく曖昧にしておいた。


「そう言えばニミッツさんが、艦長室に来てくれって言っていましたよ?」


「おぅ、ありがとな、結奈達は…ジャン?とか言ったか…彼らと先に食堂に行っててくれ、なんなら食べてても良いぞ?」


「ううん、私は食堂で待ってるよ!」


「そっかぁ、なら早めに向かうよ」


やりとりを終えた俺は一旦結奈達と別れて、一人骨組みのような階段を上る。

しばらく歩くと1つの扉に行き着いた。

いつものようにノックをしようと腕をあげたとき、不意に腕が止まった。


(艦長室ってことは、一応俺の部屋ってこと…になるのか?いや、しかしたまにしかいないのに艦長ぶるのも気が引ける…)


ノックするか、しないかで悩む俺を後ろで静かに見ていた人がいた。


「あら、艦長?来ていたのですか、そこで何をなされているのですか?」


「ニミッツ!?いや、これはそのぉ…って君はたしか…」


ニミッツの後ろに着いてきていた彼はさっき俺が「メガネ!」っと呼んでしまった…誰だったけ…


「私は自由世界と言うパーティーの代表をしているミラン・シュルバート。今回は…」


「まぁ、立ち話もなんですから、中へお通しなされたらどうですか?」


慌てる俺にさりげなくリードしてくれるニミッツ。

そんな助け船を受け取った俺はそそくさと中へ案内する。

ソファーに腰かけた俺は、久々の独特な座り心地にしたっていた。と言ってもミランと名乗った彼はソファーにはあまり慣れていないようだったが…

ニミッツは部屋に備えつきで置いてあるコーヒーメーカーに向かう。


「まずは自己紹介から始めようか…俺は新島吉晴にいじまよしはる。Magic Leadのパーティーリーダーをしてる。あの子が治るまではここにいて良いよ。」


「!?…しかし、私たちには何も返せるものがない…金と言えばはした金くらいなものだし…ものと言っても仲間の命を救ってくれたことを思えば釣り合わない…」


「あ、いやいや、そう言う見返りは求めてないんだ、あくまで俺達は助けたいから助けただけだよ、第1に君達が俺達に助けを求めてはいないだろ?」


この言葉に彼は心底驚いていた。

しかし、あいにく俺達は異世界の常識なんてまだ知らない。知ったところで今までの常識は簡単には変わらない。たとえ俺が異世界の常識と言うものに慣れてしまったとしても、きっと“彼女”がそれを許しはしないだろう。


「それはそうだが…いや、しかし…」


「君もなかなか頑固だな… そうだなぁ~、そんじゃ少し質問して良いか?もちろん君もしても良い。どうだ?時に情報は命と同等の価値がある。釣り合わないか?」


彼は今一つ納得はしてなさそうだったが渋々了解してくれた。

そこで、合間を仕切るようにニミッツが、コーヒーを運ぶ。


「とうぞ、暖かいうちにお飲みください」


コーヒーを飲みかけた俺は、やっぱり…と言った感じで“苦かった…”




「じゃあ…まず、魔族…とりわけヴァンパイアへの風当たりかな~。」


「それは、国ごとということで良いのか?」


「あぁ、それが分からないと色々と俺達は不味いから…」


リュミが人間の世界にどれだけ打ち解けようとしても、国の政策、文化という壁が立ちはだかる。


「魔族と言う観点で言えば、トローデス王国、マリーデス王国は住みやすい国で良いだろう。他の国は可もなく不可もなく…そんな感じだ。ただ、グローラリア教国、シュルツ皇国と言ったグローラリア教徒が多くいる国は絶対に行ってはダメだ。」


「グローラリアっていうのは宗教的な何かなのか?」


「そうだ、ちなみにグローラリア教は一番信仰者が多くて、魔族を見かけでもしたら…生きてはいられないだろう…さらに言うと、あいつらは勇者と言うものも否定している。“魔族を滅したのは勇者ではなく、グローラリア様”らしい。」


「なるほどなぁ~」


俺は深いため息をつきながらソファーに深く沈む。

今の話から分かることは、グローラリア教はどうしようもない糞教と言うことだ。

この流れでいくと教会の幹部も腐ってるんだろうな…


「…俺からも質問して良いか?」


「ん、良いよぉ~」


ミランという彼は一息ついてから口を開いた。


「あなたは…あなた達は勇者ではないだろうか?この世界の人間としてはこの世界のことを知らなすぎる。それにこの気違いみたいな大きさの船なんてこの世界のどんな国でも作れはしない。」


「…まぁ、普通はバレるよなぁ~…。そうだよ、この世界に来たら勇者って呼ばれるようになったよ」


「やはり…では海龍種を倒したと言うのも…」


「そうだ。この船も使ったけどな」


「(噂ではなかったのか…)ならガレッド帝国を実質的に壊滅させたのも…」


「壊滅…そうだな…国の中心である城を破壊したんだもんな…それにあれだけでかい港が軍用だけのはすがないし流通のことも考えれば仕方ないか…」


今のガレッド帝国がどうなっているかはわからないけど、戦争を仕掛けて負けた。その時、たまたまトローデス側に俺達が居ただけで、負けたにはかわりない。戦争なんてものは正々堂々とか卑怯とかは関係ない。最終的に勝った方が正義なのだ。


「ガレッド帝国のことで私はとやかくいうつもりはないんだ。ただ、噂を確かめたかっただけなんだ。」


「いいよ、別に気にしてないから。そういや、君達はどこの出身なんだ?」


「みんなバラバラさ…そうだなあなたが勇者なら話しても良いかな…」


そう言うとミランは軽く目を閉じた。

そして意を決したように再び瞳を開くと、あとにこう続けた。









「俺達は…“奴隷”…だったんだ。」

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