マリーデス王国
自分でも今回は特に展開がカオス過ぎることになってしまったと言うか…
ごちゃごちゃしてしまった感があります…
「ん…いつの間に寝てたんだっけ…って、あれ?ここって…たしか…」
花の種類が違うのか、以前とは少し違って落ち着けるような香りが漂ってリラックスできる。
「気がついたみたいね、」
「フィーリアさん!」
目の前で心なごむような笑顔で微笑む彼女こそ、結奈と吉晴を異世界に飛ばした張本人である。
そんな彼女を結奈は憎んでいるかというと全くその気はなく、逆に慕っているほどだ。
「久しぶりね♪結奈ちゃん!」
「本当に久しぶりですよ~!でも今日は私一人なんですか?いつもは吉晴君もいたけど…」
「あ、あぁ~大丈夫ですよ?今日は本格的な魔法を使った感想を聞きたかっただけだし、それに言っておかなきゃいけないこともあるしね…」
「いけないこと?」
フィーリアさんの表情からは何となく良くないものが感じられた。それは思い詰めてる顔にも見えなくもなかった。
「あ、この話は後にするわ。でっどうだった!?」
「…特に違和感はありませんでしたよ?自分の思い描いた通りになってくれて気持ちがよかったです。」
頭の中のイメージ通りに魔法を使えた感覚は今でも覚えている。
「そう?なら良かったわ。前みたいに無限魔力っていう矛盾が起きないか心配でハラハラしちゃったよ…でもその様子だと本当に問題は無いみたいね。これで私も1つ不安が晴れたわ」
「ふふっ♪何だかんだでフィーリアさんって私たちのこと見守ってくれているんですね♪」
「当たり前よ?それが私の仕事。いえ義務ですもん!あ、手助けはしませんよ?要らないとは思いますが…あ、もうこんな時間ね…さっきの言っておかなきゃいけないことだけど…」
さっきまでの陽気な雰囲気は感じられずこれがどれだけ真剣な話かが伝わってくる。
「私達のいる神界にも神級牢獄っていう牢獄があるんだけど…そこから1人とんでもないものが脱獄したのよ…」
「牢獄?神様にも法律とかってあるんですか?」
「えぇ。当然あるわ。神規約っていう十箇条があるの。その下にも何個も項目があるけどそんなことは忘れたわ。…なによその目は…取り敢えず十箇条さえ覚えれていれば良いのよ!」
「で、その神規約を破った1人の神がいたの。もちろんすぐに捕まって神級牢獄へ送られたけどいつの間にか抜け出されてたの。直ぐに足取りを追ったら、運の悪いことにあなた達の世界へ逃げ込んだらしいのよ…脱獄で体は失ったみたいだけど人間の体を奪って怪しいことをしてるみたいなの。」
「怪しいこと?」
「分かりやすく言えば人体実験みたいなものね…。あいつを捕まえようと下界に降りたらそいつはもういなくて、代わりに人間の死体がたくさんあったわ…あなたたちも戦ったことあるのよ?」
「ふぇ!?いつ!?どこで!?」
結奈は自分と全く関係のない話だと思っていたら、いきなりそんなことを言われてかなり動揺してしまっている。
「そうね…シラエとか言ったかしら?あそこで出てきたのがそうよ?あの時は吉晴君が跡形もなく吹き飛ばしてくれたみたいだったから良かったけど…。あの世界の住人ではあれは倒せないわ…。居るとしてもそれは極少数で、そんな彼らでも命がけもしくは相討ちってレベルなのよ…。そして、あれは人間をどうやったかは分からないけど、変異させたものみたいなの…。私達は…いえ、神界は私が見た死体の山が変異の失敗例としてみてるわ。そしてあなたたちが倒してくれたのが成功例…幸いにも失敗例と成功例の差からして簡単には変異させれないみたいだけど…。」
「人間を…改造…したって事ですか?…あんな姿に…」
身近なところで大変な事が起きていたという事実に驚愕を隠せなかった。今でも忘れられない、あのおぞましい程に不気味なヤツが元は人間だったなんて考えられなかったし、考えたくもなかった。
「そうね…。なにを思ってそんなことをしているのかしらね…。あと、この件については全ての上級神で話し合って、神聖剣をその世界の善良な一部の住人に‘貸し与える’と言うことに決まったわ。結奈ちゃん達に任せるっていう案も上がったけど…私が取り下げたわ。これ以上迷惑かけるのも忍びないからね…」
自分のせいで故郷の世界を捨て、全く知らない異世界に飛ばした上に、今度は神の捕獲を手伝えなんてフィーリアは口が裂けても言えなかった。
「そんなに落ち込んだ顔なんてフィーリアさんには似合いません!ほら、いつもみたいに笑うの!」
「結奈ちゃん…。結奈ちゃんって、私のこと憎んでたりとかしないの?なんでそんなに優しいの?」
「ん?私が?全然憎んでなんかいないよ?失敗なんて誰にでもあるし…そりゃぁ死んじゃってたりとかしたらさすがにわかんないけど…。ほら生きてるし?それに…」
結奈は少し間を空けた。フィーリアはその間が何だったのかは知ることはできなかったが、ただ結奈の顔を見た瞬間そんなことはどうでもよくなってしまった。
『今も楽しいから♪』
その笑顔はフィーリアの心の中にあったモヤモヤをスッっと晴れたような気持ちにさせた。
結奈はその一言がどれ程フィーリアを救ったかは知ることなく神界を後にした。
「ほんと…優しい子なのね…」
(結奈はほんとに大丈夫なのか?)
(何度目よ!魔力使いすぎるとこうなるの!ましてや魔法に慣れてないんだから尚更よ!)
(確かによく幼い子が魔法の練習するとこうなるって聞いたことあります。それに吉晴様達は魔法がない世界から来たのですし、耐性の無いのも当たり前です。そのうち慣れると思いますが…)
あれ?あ、そうか…起きなきゃ…って…
「イタタタタ!!!!な、なにこれぇ~」「ウォッ!?ビックリした~!」
「気がつきましたか?お体の方は…大丈夫ではないようですね…」
な、なにこれぇ!?少し動かすだけで凄い痛い!怪我はないはずなんだけど…す、少し筋肉痛に近いかも…無理にでも動かしたら意識飛びそう…。
「肉体疲労…筋肉痛よ。魔力は筋肉とかを通るから、知らず知らずのうちに疲労がたまるのよ。ここまで酷いものは初めてだけどね…どう?腕が一番痛いでしょ?」
「ホントに痛い…。もう泣きそう…」うる…
筋肉痛で涙目になる人を見たことが無かった俺は、尋常じゃない程の痛みなのだと思った。
「取り敢えず…湿布貼っとくか?」
「何でも良いから、どうにかしてぇ~!!!!!」
結奈がこうして目覚めたのは雷皇を倒した二時間後のことだった。
「って言うことがあったの。」
「つまり、逃亡神がこの世界に逃げてきて、シラエを襲ったり、訳のわからない人体実験してるっていうのか?」
「あと、私達は特になにもしなくて良いんだって、でも見かけたら宜しく見たいな雰囲気だったかな?」
全身…特に上半身が湿布でミイラ状態になった結奈が言うには、普通の筋肉痛になった…。だそうだ。
そんな結奈が口を開いたと思えば、嫌なフラグが、軽く1000本位立ってるであろう不吉な伝言を持ってきてしまっていた。
(吉晴さん達は何を話してるのかな…)
(気にはなりますが、どうやら真剣な話のようです。安易に割り込んでもいけませんし…)
(どうせ、また厄介事でも増えたんでしょ?あいつといるとホントに飽きないわ…)
相変わらず感の鋭いシヴィは見事に予想を的中するが、これが本当に厄介事に繋がるかは現段階では誰も分からなかった。
「つまりは、俺達は逃亡神に会わないことを祈るしか無いんだな?」
「そゆこと~。それとさ、気になってたんだけど…ギルドの人居なくない?あと、その頬っぺたどうしたの?」
結奈は辺りを見渡すが、ギルドから来たあの人が居ない事に気がつくとともに、頬っぺたに赤く残る手あとに気付いた。
「あ、あぁ…それのことなら…。」
俺は苦笑いをしながら、その赤く腫れた頬っぺたを擦った。
微かに魚介類特有の香りが漂う日光の入ら暗い隙間に、一人の女性が体を丸めて耳を塞いでいた。
ババババ!!!!!ババババ!!!!!!
ポン!…バゴーン!!!!!!!!
イヤァァァ!!!!!!!
ババババババ!!!!!
鳴り止まない可笑しなくらいの爆発音。彼女はすでに後悔していた。
‘舐めていた。’
この世界を超えた戦い。さらには雷皇と戦っているなんて…見ているだけで寿命が縮まってしまうのではないかと思ってしまった。
先程の悲鳴が何だったのかは分からない。でも、その悲鳴が恐怖をさらに駆り立てる。
「嫌だ嫌だ嫌だ…。なんでこんな…雷皇なんて…。」
彼女は半ば死を覚悟していた。それほど雷皇という存在が彼女を追い詰めていた。
その証拠に彼女の目からは大量の涙が溢れている。勢いでなってしまったあの時の自分を呪っていたのかもしれない。こんなことになるんだったら絶対に、専属ギルド職員なんてなってはいなかった。
「もう嫌だぁ…」
彼女の精一杯の押し殺した心の悲鳴は、自分以外誰も居ない馬車に微かに響くだけだ。そんな彼女はより一層、耳を強く押さえた。たとえ彼女がギルドの職員でも、その仕事は所詮事務作業だ。こんな命がけの仕事などしたことないし、する機会もない普通の女性なのだ。
いつの間にか終わってしまった銃声にも気づくことはなく、いつまでもうずくまっている。
不意に彼女の肩に、何かが触れた。
『…!?キャァァァァ!!!!!!!,*<"%);<#>?;+~¿‘“€×µ×°›¥||{|“‚$^“}』
「俺が見つけて肩を叩いたら…」
「ビックリしてビンタされたと…。それは災難だったね…でも意外ね、ギルドの人でもこんなになるなんて…。」
彼女は軽いPTSD【心的外傷後ストレス障害】と言う病気にかかってしまっていた。このPTSDは最近になって問題となってきたが、噛み砕いて説明すると言うならば、とてつもない恐怖を体験したあとに精神面で問題が出てきてしまうことだ。つまりトラウマと言えば分かりやすいだろうか…
「そうか?警察だって全員が事件の捜査する訳じゃないだろ?町中走り回る刑事も居れば、広報として小学校とかを回って安全教室的なのをやる人もいるし。」
「そっか…確かにね~。でも…そのPT…なんたらって精神病何でしょ?治るの?」
「ん~。一応薬物投与が望ましいって聞いたことあるけど…」
「薬物!?そ、そんな!?ダメだよ!?」
「違うから!、坑うつ剤?とかが効果があるらしいけど…さすがにそこまで俺にはできないな…」
投与量が間違えば大変なことになるくらい一般人の俺でも分かる。
本格的な医療行為なんて、専門知識を持っていなければできるはずもなく、俺の使いこなす能力もそこまで万能ではなかった。
「…取り敢えず、今はそれほど酷いわけでもないみたいだし、経過観察でいんじゃないか?」
「元気は無いみたいだけどね…。」
そうして、無事に森を突破した吉晴達は再び残り少ない平原を進んだ。
太陽が真上に上った頃、辺りには夏特有の暑さが襲ってくる。この暑さでミリアーテンが急速に傷みが進んでしまうためもう残された時間はなかった。
「お前さんら、見えてきよったぞ!?マリーデスじゃ!」
一定間隔で馬のヒヅメの音が時計のように静かに鳴る平原は、もうすぐで終わろうとしている。
それはこの旅のゴールを指すが、同時に終わりも意味していた。
「長かったね~…。半日歩きっぱなしだよ~」
「私も初めてこんなに歩きましたよ…。」
そりゃ、お姫様がこんなに歩くわけ無いからな…。
こうも歩きが長いと、たった半日の旅でも非常に長く感じてしまう。
「それにしても、太陽が…」
「頑張りなさーい、ファイト~。」
シヴィは常に魔法で飛んでいて疲れた顔さえしてないし、その魔素も空気中から取り入れてるため、実質無限に飛んでいられそうだ。ちょっとずるい…。
「私は軽いから、飛ぶのなんて簡単なのよ?慣れれば私みたいに空気中の魔素だけで飛んでいられるわよ?ちなみに人間が飛ぶとなると…空気中の魔素だけではまず無理ね。」
一瞬だけ女性陣の視線が、シヴィに向いたような気がしなくもなかった。
「か、勘違いしちゃダメよ!?飛ぶのは簡単だけど、維持するのは頭使うんだから!」
そんな事もあるが、いよいよマリーデス王国の関所に差し掛かろうとしていた。
(この馬車の積み荷は何だ!)
(へ、へい…。コショウでございますが…)
(うむ…。では確認を取らせて貰うぞ。)
(…。良し、通って良いぞ。次!)
絵に描いたような関所っぷりを目の当たりにした俺は何故か内心ホッとしてしまった。
現実離れしたこの生活のなかで、久しぶりに見た俺の常識が通用する光景だからだったからかもしれない。
「あれって、なにやってんの?」
「簡単に言えば持ち物検査だよ。危険なものを国に持ち込ませたくはないからね。」
「あぁ~、なるほどね~」
そんなことを説明しているうちに、俺たちの番が訪れた。
もとから分かっていたことだが、門番はすごい目付きでこちらを見ている。
「マリーデス王国になに用かね?」
ガリムさんが淡々と答えて行くが、門番の表情は緩む兆しは訪れるようなことはなかった。
「うむ。と言うことは積み荷は海産物だな。確認させて貰うぞ。」
門番がそう言うと、部下と思われる数人が積み荷を確認し始めた。
「この間に身分証を確認する。護衛の君らもだ。」
身分証と言われて一瞬焦ったが、直ぐにギルド会員カードのことだとわかった俺は、ポケットからカードを出した。
「うむ。確認は取らせてもらった。積み荷も問題は無いみたいだ。入国を許可する。」
入国許可を受けた瞬間、今まで門を横一列で塞いでいた騎士が、ガシャン!と音をたて一気に道を開けた。その動きは自動制御かと思わせる連携で俺は少しだけ唖然としてしまった。
そんな練度の高い軍国的な側面を目の当たりにした俺は、町もそんな感じなのか…と、思いもしたが、門をくぐって町に入った瞬間、考えを変えることになった。
「うわぁ~!キレイ~!」
「こりゃ、にぎやかだな~。」
門の先に広がったちょっとした広場には、様々な音色を奏でる見たこともない楽器から、何となく知っているような楽器に溢れ、様々な人々が‘娯楽’を楽しんでいた。
あるところにはピエロのような人がいたり、占い師のような人のところには、行列ができている。
他にも出店、路上販売に至るまで、まさにお祭り騒ぎだった。
「この国では、これが普通ようですよ?前に来たときは私もビックリしましたから…でも…。でも犯罪が多い国としても有名なんです。だから気を付けて下さいね?」
「なんで?こんなに楽しそうな国なのに…」
「結奈…。今から言うことは覚えておけよ?かなり残酷な話になるけど…」
俺は直ぐにその理由が分かった。
「まず、皆が幸せなんてことは不可能に近いんだ。この国は楽しくてみんな幸せそうだけど…そんな国には反対に貧しい人も必ずいるんだ。ま、貧富の差って言われてるけど…」
「…そ、そうなんだ…」
そうなってくると、銃はしまったけど丸腰って訳にも行かなそうだな…。何かしらの武器は必要か…。
さすがに町中でサブマシンガンを持ち歩くのは目立ちすぎるから、逆に危険か…
「それじゃあ…」
結奈達に、ある拳銃を渡した俺たちは、ガリムさんの知り合いの店へ向かった。




