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異世界でも、チートよりも大切なこと。  作者: 芳賀勢斗
ギルド会員としての旅立ち。
29/97

旅の始まり。出発

大変長らくお待たせいたしました!大分高校生活にも馴れてきて、執筆する時間がとれてまいりました。

読者の皆様から読みづらいと言うご指摘があり、今回から改善してみました。

また何かあれば遠慮なくお申し付けください!

「遅いですね~」


「もう約束の時間のはずですけど……」


「ミリアーテンの仕入れに手間取ってるんじゃないか?もしかしたら漁師の帰りが遅いとか……」


確かに指定された時間に来たはずだが、依頼者であるガリムさんの姿が見えない。今の時間が町が眠りから覚める少し前と言うこともあり、辺りはいつもとは違った雰囲気が漂っている。


「もう少し待ちましょうか?」


「そうだな」


十字路の中心に西洋的な美しい彫刻の施された噴水のある中央広場と呼ばれるその場所は本来ならば行き交う人びとの賑わいを感じさせるのだが、今はただ薄い朝焼けに照らされ、風にのって人々の話し声が届く。そんな中央広場におかれたベンチに座る四人であった。


-同時刻-

ある女性はとある扉の前で、ある書類を胸に立ちすくんでいた。扉にはこう書かれてた。


【ギルド総本部代表兼ギルド本店主任 ロージルバー·ガランド】


女性はゆっくりと扉に拳を当てた。


コンコン


(入りなさい。)


すぐあとに返事があり、ゴクリと息を飲みゆっくりと扉を開けた。


「失礼します。」


ギルド長と呼ばれる彼は、私の最高上司であり、ギルドの最高幹部でもある人だ。一般では私が普通に話すことなんて恐れ多いけど、最近はその通念も壊れ始めてしまっているのが現状だと思う。彼は目だけを私へ一瞬向けただけで、直ぐに手元の書類に戻ってしまった。


「なんだ、君かね。どうしたのかな?」


「は、はい!受理していただきたい書類があるんですが……」


相変わらず彼の目は私から見えることはない。


「この部屋に押し入る程重要なのかね?それ以外はそこへ置いといてくれんか?」


「い、今すぐに見ていただきたいです!」


今日ここで初めてギルド長と目があった瞬間だった。


「ほぉ。良いだろう、そこまで言うなら見せてもらおうかな?」


彼女は恐る恐る手にしている書類を、彼に差し出した。


「何かと思えばただの休暇届だと?……っ!?君……これは本気なのかね?」


ギルド長は休暇届の下に重なっていた、もう一枚の紙を見た瞬間言葉を詰まらせた。


「このパーティーの専属ギルド職員になる意味は分かっているのかね?」


「はい…。私は彼らに付いて行きたいです。」


「ふ~っ…。」


ギルド長が大きな深呼吸を1つ吐いた。


「良かろう。」


「え…えぇ!?良いんですか!?そんな簡単に…」


「うむ。ここだけの話じゃが、専属ギルド職員とは、優秀なパーティーの手綱を握るための優秀な派遣社員なのだよ。じゃがあの勇者…。いや、違うな、Magic Leadと言ったか。あやつらの力は未知数で、手綱を握る事は出来んだろう。だから無理な仕事に優秀な人材を割くよりも、君のようなどこにでもいる普通職員を当てる方がいいんだよ。」


彼女は失礼なことを言われたにも関わらず、専属ギルド職員が許可されたことでそんな些細な事は耳には入っては来なかった。


「これが専属ギルド職員の証明書だ。さぁ行きなさい、彼らはもうすぐこの町を出てしまうぞ?」


「は、はいぃ~!い、今までお世話になりましたぁ~!失礼しましたぁ!」


彼女は勢いよく扉を開け、勢いよく扉を閉め、騒々しく廊下を飛ぶように走り抜け、ものすごい勢いで階段をかけ降りて行った。


「全く…騒々しいやっちゃの~…。」


ギルド長は再び本来の職務に戻り、新しい書類に目を通していった。




「そろそろ来てもおかしくないんだけどな~」


「ドタキャンは勘弁してよ~…」


「どうしたのでしょうか…」


「全く…時間を守らないのは最低だわ。」


みんな、さすがに限界が近いようだ。約束の時間から30分は過ぎているが未だに現れる気配はなく、うっすらと朝方の霧が架かる静寂な時間だけが刻々と過ぎていた。


「何か事情があるんですよ、もう少し待ちましょう?」


リュミは、相変わらず優しいな~…。つい最近まで人間に迫害されていたとは思えないいい子だ。


「ん?…あれか?」


霧の奥から人影のような物が此方に走ってきている。いや、手もふってる?


「でもあれは…手ぶら、では無いようだけど…ミリアーテンを売りに行くような格好ではないようね…」


(お~い!待って~ぇ!)


「呼んでますよ?知り合いでしょうか…」


「俺は…どっかで聞いたことあるような気がするんだよな~」


謎の女性は進路を変えることなく、真っ直ぐこちらに向かってくる。


「あの人…ギルドの人ではないですか?受付の…」


リュミの言葉で俺も何となく似ていたような気がする。そんなことを思っているうちに、女性はあっという間に俺たちのもとへ来てしまった。







晴天の青空の下、一台の馬車と七人の旅人がどこまでも続く一本道を進んでいた。


「いや~いい天気ですね~!」


呑気な事を言っている彼女…。俺もよくわかっていないが…何となくの勢いで付いてきてしまった。


「と言うか、あんな短い説明で俺達は認めた覚えはありませんよ!」


「よ、吉晴君…落ち着いて!?」


と言うのも、【私も連れていってください!わ、私がいれば良いことありますから!…だ、ダメですか?】そんなことを言われたら、無理に断ることはできず成り行きでここまで来たんだが…


「大体、ギルドの方はどうしたんですか?」


「これも仕事ですから!」


このやり取りも何度もしたが、返答は大体これと同じものだった。


「なせだかメンバーが増えていたので少し驚きましたぞ?」


俺たちの依頼主であり護衛対象のガリムさん。今朝集合時間に遅れたのは、案の定ミリアーテンの仕入れが少し遅れたからだそうだ。ミリアーテンは見た目貝なのだが、なぜ真夜中から漁をするのかと、地球の漁との違いが気になり聞いてみると、ミリアーテンの特性から決まると言っていた。ミリアーテンは夜の2時辺りから朝方にかけて薄い緑色に発光するため素潜りでその時間帯に漁をすると見つけやすんだそうだ。


「メンバーではありませんけどね?でもしかしこれが一晩の収穫ですか…」


馬車満杯に積載されたシジミ台のミリアーテンは、貝嫌いの俺にとっては見るに耐えないほどの迫力があった。


「でも、良かったです。何かあったのではないかと心配していましたから。…あ、ゴブリン3体こちらに来てます。」


リュミの観察眼は人間の域を超えすぎている。俺からはいるのはわかるがゴブリンとは判別できない。


「分かった。殺れそうか?」


「大丈夫です!」


俺に笑顔を見せたリュミはXM8のスコープを覗き込むと、今までとは全く違う雰囲気が伝わってくる。

しばらくの静寂が続いたかと思えば、図書館に響く爆竹のごとくその銃声は青空を掻き乱した。

バァンッ~…

双眼鏡から伝わる光景に俺は思わず口が滑ってしまった。


「1ダウン…。」


たった今、この場所のような隠れる場所のない平原はスナイパーにとっては絶好の狩り場だ。

必然的に俺たちの出番は無くなってしまう。あえて出番と言うなら…


「落ち着け、落ち着け。大丈夫だぞ~」


銃声で驚いた馬のケアぐらいだろうか…


「吉晴さん!全部倒しました!」


「リュミさんばかり活躍ですねっ!」


ちょっぴりご機嫌斜めのミーシャは、一回出番が回ってこない事にご立腹のご様子だ。


「この調子だと、あと数時間ちょっとであの森に入るわね。」


「シヴィありがとな。ミーシャも機嫌直してよ?森に入ればミーシャも頑張ってもらうから。」


「分かっています!それに私は怒っていません!」


明らかに怒ってるなこりゃ…。ミーシャってたまに好戦的な部分があるって言うか…なんと言うか…

それから、敵を見つけては俺たちの知らない間にリュミが仕留めるという作業が続いた。馬も銃声に馴れてくると、いよいよ俺達のやることがなくなった事はここでは伏せておきたい。


「暇だな~ぁ」


「こう見るとのどかだよねぇ~」


「遂に難所に来たわよ…って何呑気なことしてんのよ!あなた達には緊張感が無いのかしら?」


「だって、こんなに落ち着く森なんだよ?小鳥の囀ずりとか、滴る水滴がキラキラして」


結奈がこんなにも心和んでいるのは俺でも理解できる気がした。なぜならこの森が地球にあったなら間違いなく世界遺産に登録されているに違いないと思えるほど、緑が青々としていて葉の隙間から漏れる光がまるで森全体が光っているように見えるといっても過言ではない気がした。俺はこの時が初めて自然を感じた瞬間だったのかもしれない。比較的都市化されたアスファルトとコンクリートのあの町では到底味わうことはできず、また人工的に整備された森とは格別した壮大さを今度森は持っていた。


「なんだか元気が出てきたみたい♪」


「それはここの森は魔素濃度が回りに比べてかなり高いらしいからだと思います。私たちの魔力は少しずつ空気中から魔素を変換して魔力にしてますから、回りが程度にもよりますが濃度が高いほど、気持ちよく感じれるんだと思います。」


「リュミはスゲー物知りだな」


「えへへ…そんなことはあr」「当たり前よ!」


「ヴァンパイア族の後継者であるリュミには私がみっちり教えたんだから!」エッヘン


シヴィはいったい何者なのかが気になる。思えばシヴィの事はあまり聞いたこと無いことに今気づいた。

リュミと同い年で昔から家族ぐるみの付き合いだった事は聞いたのだが、それだけだ。シヴィの種族もまだ知らない。


「でもその魔素濃度が高ければ高いだけ、より強大な魔獣が寄ってくるわ。つまりこの森には…」


この誰が見ても美しい森には数多くの敵が潜んでいると思うと、この美しい森の外観は俺達を森に引き寄せるためのトラップだとも思えてしまう。そう思うと複雑な気分になってしまうが、逆に言えばそう言った危険があるからこそ人を寄せ付けずに開発を逃れ今のこの美しい原生林が存在していたわけでもあるような気がした。そういう意味ではこれが本来の自然の姿なのかなと考えさせられる。


「行くわよ?早くしないとミリアーテンが痛んじゃうわ。」


シヴィを先頭に俺達は、草木が生い茂る神秘的かつ危険が溢れ、人の足を拒んできた森へと入っていった。






「地面がぬかるんで凄いな…雨でも降ったのか?」ぐちゃ…


「昨日の夜に雷と大雨が降ったみたいですね、今朝ハンターの人から聞きました…」ぐちゃ…


「雷雨かよ…通りで木が所々焦げてたり吹き飛んでるわけだな…」


近くには巻き添えを食らったと見られる黒い肉片がある。原形が保たれていないものも少なくはない。


「見てこれ!大きな足跡だよ!?私の倍以上あるんだけど!」


確かにでかいな…見た感じそんなに古くは無いようだが…足跡がある以上何処かにいるはずだが、今は出会わないことを祈るしかない。

こんなに美しい森でも、普段とは少し違う雰囲気を彼らは感じとることは出来なかった。





深い茂みの中を1人掻き分けながら進む男がいた。


「うお!?危ないやないかい、この毒クモは一発であの世や…」


この世界の魔獣と言う生物は実に進化の方向性が多種多様だ。例えば地球と同様に退化等を繰り返しながら、より合理的な姿に変わっていくこともあれば、この世界特有の魔素を変換して特定の部位を強化したりと様々だ。この様に魔素を変換して行使できる生物をこの世界では魔獣と呼ぶ。因みにこのクモは毒線に魔力を注ぎ自然界では有り得ないほどの猛毒を作り出すことができ、その毒は青酸化合物の比ではない。魔力的抗体を持っていなければどんな生き物でも仕留めることができる。この森はこう言った猛毒を持つ虫が大量に生息していることから、人の侵入をまず最初に拒んでいたのだろう。


「久しぶりにこの森に入ったけど…思った以上にアカン森やな…しっかい、何で森の始まりだってのに森のすみに魔獣が密集してんのかねぇ~…」


身を隠した男は本来森の中心にすんでいるはずの生き物が、こんなにたくさん外側に来ていることに疑問を覚えていた。奴等をよく見ると体のあちこちに切り傷や、どう見ても致命傷を負っているものも見受けられる。それが驚く事に、一般的に討伐が難しいとされるものから、三組のパーティー合同でも難しいものまで傷を負っている。この状況を見たハンターなら誰しも仕留めるチャンスと我先にと討伐に向かうだろうが、彼はその衝動を押し殺した。相手は怪我をおっておるとはいえ、舐めてかかれば返り討ちにされてしまうし、何より多勢に無勢だ。こんなところで騒ぎを起こせば必ず他の奴も集まってくる。数で攻められればいくらベテランの彼でも無力に等しい。


「ここは我慢やでぇ…って、今日はやたらビリビリするな…」


幾度も静電気を受けるたびに体が勝手に反応してしまい、そのお陰で草が揺れてバレそうになったことは何度かあったが、森の中心に近づくにつれて静電気自体も強力になっている気がする。

だが、またベテランの彼も異変には気づいたものの、それほど気には止めなかった。今の彼の頭には勇者と言う存在の観察の方が勝っていたからだ。


「はよ、勇者さんを見つけなアカンな…」


彼はゆっくり草むらを掻き分けて勇者を探しに森の中心に進んだ。







「バチバチしますね…」


「静電気怖くて銃を触れないな…さすがに暴発は無いと信じたいが…」


「服がビリビリだよぉ…」


彼らも静電気に悩ませられながら長年使用頻度の少ない荒れた道を進んでいる。道には木の根が生えたり、陥没してたりと、戦車などの履帯車輌で走行したいほどの悪路で、それを馬車で押し通ろうとするものだからどうしても時間がかかってしまう。木製のタイヤの耐久値もそろそろ心配になってくる頃合いだ。


「この調子だと昼頃にはマリーデスにつきそうね」


今まで魔獣に出くわさないと言う幸運もあってか、どうにかミリアーテンが傷まない時間帯で到着できそうだ。馬車を囲むように進んでいる俺達は、この時までこの森の恐ろしさを過小評価していたかもしれない。

その時馬の耳が前方にピクッと動いた。


「お、おいどうしたんだ?いきなり…」


突然止まった馬に俺達は辺り一帯の空気が違うのが感じ取れた。


「空気が…重いよぉ…」


「いきなり、魔素が減って…体が追い付きません…」


魔法を使うことのできない俺は彼女達程の異常はないが、確かに圧倒的な何かに睨まれていると言うことがわかる。


「何かいるぞ…!?」


そう言いかけた瞬間、森の奥から蒼白い閃光がほとばしったかと思うと、次の瞬間目の前で爆発が起き、その爆発は火薬とはどこか違う音質だった。


「雷属性の魔法よ!今の魔素の少ないこの場所じゃあ、私の障壁は一回ずつしか持たないわ!」


シヴィがとっさに障壁を張ったお陰で、俺達には被害がなかったが、障壁より向こう側は黒焦げで大変なことになっている。空気中の魔素を使うシヴィはこの魔素の極端に低い場所においては、必然的に魔法の効果は下がってしまう。


「とっさに作ったとはいえ、障壁を一撃でこんなにするなんて…。普通じゃないわ。それにこの一帯の魔素をあいつがほとんど吸い上げてるみたいね。」


そいつは一見モンスターを狩るゲームをしていたときに出てきたモンスターと何処と無く似ているような気がした。狼を大きくした体からは常に放電現象が見受けられ、その巨体を支える足にはこれまた巨大な鋭い爪が生えている。なにも知らない俺でもそこら辺のモンスターとは格が違うことに気づき、どう見てもボス級の敵だと感じた。。


「う、撃て!近づけさせるな!」


大量の5.56mm弾がやつに向かうが、そのほとんどが奴に届くことはなかった。


「障壁…いや。迎撃されてるのか…!?」


奴は体に蓄積している膨大な電気エネルギーを、フルメタルジャケット弾の銅と言う伝導性の高い金属に向かって照射して、ジュール熱により一瞬で銃弾を蒸発させていた。あんなものを食らえばどうなるかは見ただけで分かった。


「くっ…。なら、これはどうだ!」


俺のM4A1についている40mmグレネード弾を装填し、奴に構えた。


ポン!と言う気の抜けるような発射音がしたあとやつの目の前で、爆音が轟いた。


《ドォカーン!!~。》


腹に響くような衝撃が俺達を包み、辺りを静まり返した。爆発の余韻が長鳴りをして晴れた空に吸い込まれる。この瞬間俺は勝利を確信していた。確かにあいつの目の前で炸裂した感覚があったからだ。だけど、



[イヤァァァ!!!!!!!!!!!!!!]




結奈の悲鳴が聞こえたとき、俺は奴の鋭い爪が目の前に現れた事に頭が追い付かなかった。奴の恐ろしいほどの目と視線が合った直後、ゆっくりと爪が振り下ろされる光景を目にする。


(あれ?…俺…死ぬのか?)

前よりは更新が不安定がちにはなりますが、書き続けますので、応援よろしくお願いします!

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