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異世界でも、チートよりも大切なこと。  作者: 芳賀勢斗
ギルド会員としての旅立ち。
24/97

異変。

これからの方向性を考えていたら、5日も空いてしまいました…。本当にすみませんでした。

「あらあら…。いつの間にか、ゴブリンちゃん達がほとんど死んじゃいましたわ…。あの程度の町なら、なすすべは無いと思っていたのだけど…。どうやら見立てが悪かったようね…」

「直ぐに原因を究明いたします!」

暗い森の中、長い黒髪をなびかせる女と、その彼女と恐れるような態度で話す男がいた。

「それは必要ないですことよ?。もうあの町には興味ないですの、今回はこの力を試したかっただけですので…。でもそうですね…。」「…。」

男は押し黙り、彼女の言葉を待っている。その顔からは脂汗がにじみ出て、彼は心の中で叫んだ。


逃げたい。


「でもそうね…。全滅させられたと言うのも気にさわるわ…。貴方?行ってきてくださらない?」

「い、私が行っても役には立ちません!」

「誰も今の貴方なんかに期待はしてないわ。私が欲しいのは貴方の体だけよ…♪あら?どこに行くのかしら?」

嫌だ…。もう嫌だ…。こ、殺される…離れなきゃ…誰か助け…!?

「かけっこは嫌いですのよ?どちらにせよ…《私からは逃げられないわ。》」

「ぎゃああああああ!!!!!!は!?入っでぐるなぁぁ!!!!!か、体が千切れぁぁぁ!!!!…」

「ふふふ…いい声だわぁ♪私の魔力を注いであげたのだから…。精々役に立ってくれないと困りますのよ?」

その日、彼の人生は終わり新たな人生が始まった。それは醜く破壊をするだけの人生に…



「弱者の行進じゃない?どういうことです?」

「言葉の通りだ。この町…いやこの国じゃあゴブリン討伐は少ないんだ。馴れたハンターは報酬の低いゴブリンなんてやりたがらないし、経験値も相当数討伐しなきゃ足しにもならない。やるとしたら駆け出しのハンターとかだけだな。その駆け出しのハンターでさえ最近は減ってきている始末だ。そんな状況で弱者の行進が起こるとは到底考えられないのだ。」

「ゴブリンの気まぐれと言うことは無いんですか?」

「気まぐれでこんなことになっては堪らん。」

「そうですよね…あはは」

たった今俺はアレルラ姫に連れられて来たのは、ここの領主でありアレルラ姫の夫のミハイル公爵様だ。

でもミハイル公爵はどこか周りの貴族とは違うオーラと言うものが感じられた。上手くは言えないが一番近いのは歴戦の戦士?といった感じだ。

「しかしさすがは海龍種を討伐した勇者だな。ゴブリンだらけの町を救ってくれるとは」

「住居とかあったので隠れ混んでいたやつとかは残してしまいましたが…」

「十分だ!後は我々でもなんとかできるだろう!本当に感謝している。」

ミーシャの結婚相手が勇者だと言うことは貴族の中では有名な話で、例外なく彼にもその話は届いている。それどころか記憶にはないが結婚式にも参列していたらしい。挨拶の時に初めましてと言ったら顔を渋られた。「しかし弱者の行進じゃないとしたら何が起きたんでしょうか…。」

全くもって謎だ。謎が多すぎる。弱者の行進が起きる前兆など無かったらしいし…。

「分からぬ…。この様なことは生まれて初めてだ。弱者の行進は一週間前から特定の生物が異常に増える現象が必ず起こるのだ。この異変はハンターでも冒険者でも直ぐに察知できる。この町は多くのハンターが拠点にしている町だ。そう言った情報は入ってくるはずなのだが…。突然すぎて対応もできなかった…。」

「それは仕方ないですよ。何たって真夜中に起きたことなんですし…。それよりもこれからの事を考えた方が良いですよ」

「…それもそうかもしれないな。何時までも半壊の町では国王様に顔向けできんからな、それに何時までも多くの民を養って行ける余裕はシラエには無い。早急に復興せねば…」

やっぱり変わってる…。俺の貴族のイメージは自分の名誉を第一に考えて民衆の事は二の次と言うものだ。でもこのミハイル公爵は考え方が他の貴族とは、かなり違っている…。

「どうしたのかね?」

「そんな大したことではありませんよ。ただ…ミハイル公爵はどうも他の貴族とは違うなと…」

「そんなことか…元々私は貴族の家系ではなかったんだ。昔はハンターをしていてな、その活躍で国王様に貴族の位を頂いたのだ。そして気づけばアレルラ姫をもらい、領地つきの公爵様になっちまってたって言うことだ。」

平民出身だから考え方とか俺に近いのかな…。それにこのオーラはハンターで鍛え上げられた賜物ってか…。もう少し若ければ物語の主人公路線を走ってるような人だな…。

その時扉のドアがノックされ一人の兵が入ってきた。

「報告します!現在、町の8割の安全を確認しました!昼頃には完全に町を奪還できると思われます!」

「ほぉ、それは本当か!よくやった!」

「は、昨夜のゴブリンが嘘のようであります!」

どうやら、この町は落ち着きを取り戻すのも時間の問題みたいだ。

その時今度はノック無しにまた一人の兵が入ってきた。明らかにさっきの兵より顔がひきつっていた。

「ほ、報告します!!南門正面にて正体不明の生物を発見…。これを一個中隊で迎撃…」

「ど、どうしたんだ?」

兵は顔を真っ青にさせ震える口でミハイル公爵に告げた。

「全滅…。私の 目の前で全員…喰われました…。敵に弓が効かず城壁の竜滅用バリスタでさえ歯が立ちませんでした…。」

「バリスタが効かない!?そんなはず無いだろう!?」

竜滅用バリスタがどんなものかは知らないが、そんな攻撃が当たって無傷で居れる生物がいるのか?そもそも、それは生物なのだろうか…。もしかして物理反転シールドとかか?異世界だから何でもありと言えばありなんだが…。そんな物があったとしたら、現代兵器もお手上げだな。

「あと敵の速度は人の歩く早さより遅いです、時間にして15分後には南門に侵入されます…。」

「何でだ!次から次へと!兵を南門に集めろ!竜滅用バリスタも南門に集中させろ!何としても阻止するんだ!」

「りょ、了解しましたっ!!」

この命令を始めとして城内が呼び声と足音で一斉に騒がしくなった。ミハイル公爵も眉間にシワを寄せて落ち着かない状況だ。それほど竜滅用バリスタが効かなかった事に動揺しているようだ。

「竜滅用バリスタとは一体何なんでしょうか…?」

「文字通りだ。竜を撃退するために作られた大型のバリスタだ。」

「バリスタを大きくしただけですか?」

「基本的にはそうだ。でも単なる矢を竜に当てても意味がない。しかし竜滅用バリスタ専用の矢には特別な魔法が掛けられてあって、条件によって色んな効果を期待できるのだ。この魔法は非常に複雑で高度なものでな、このトローデス王国には首都の王宮に住む王宮魔術師しか作れないらしい。詳しい内容は王家機密事項にもなる。」

なるほどな、国防の要の軍事機密か…。どんな物か見てみたい気もするけど…。

「何ができるか分かりませんが、協力しませんか?私達もいずれはこの町を拠点に冒険したいと思ってますから、」

「そう言ってくれるのは助かるが…本当にいいのか?今の俺には十分な報酬を用意はできないぞ…」

「はい、せっかく救った町です。こんなところで失うわけにはいけないと思いますから…」

ミハイル公爵は信じられないという顔で俺を見て、少し考える様な仕草を見せたあと、

「どうやら勇者様は昔も今も相当なお人好しの様だな」

「あはは…」


(おらぁ!そこ!なにサボってやがる!さっさと竜滅用バリスタを南門に引きずっていきやがれ!!)

(誰か、バリスタの矢がどこにあるか知らないか!?)

(そこどけ!南門に障壁を張るぞ!)

(おいおい、聞いたか?一個中隊が全滅したらしいぞ?)

(噂には全員喰われたらしいな…)

(竜滅用バリスタはまだ集まらんのか!?)

(あと三基がこちらに向かっている途中です!)

(あと少しで到着します!)

「メチャクチャですね…。」

「本当に騒がしいわね…。」

「それだけ皆さん必死なのですよ…。」

「で、吉晴様はどうするんですか?」

はっきり言って、現代ではただの的その物なんだよな…。やっぱり障壁とかの線が濃厚かな…。シヴィはどんな障壁にも限界はあるって言ってたけど…成形炸薬弾のメタルジェットを弾き返されたら、後は物量戦しかないよな…。後は戦車砲か…。そこまで行ったらただ者じゃないよな…。そもそも12.7mmの弾丸じゃ無理かな…。詰まりは何もわからない以上、色んな武器を試さなきゃダメか…。

「なんなら私が手榴弾落としてくるけど…」

「それはダメだ。敵の攻撃がわからない以上、あれに近づくのはやめた方がいい。今は遠距離から攻撃するのがベストだ。」

「なら大体距離は1800m位ですけど…。このMP7でしたっけ?この銃で撃てるのでしょうか…」

「リュミは距離を測れるのか…。あ、1806mだってさ…目視で誤差6mかよ…。」

レーザーレンジファインダーと言う光の往復時間で距離を測る装置を使うと同時に、リュミの予測距離が聞こえたので、計測値と見比べた俺はその正確さに言葉を失ってしまった。

「あ、ヴァンパイア族は…と言うより魔族は大体目がいいのです。私は性別的に空を飛ぶことはできませんが、元々ヴァンパイア族は空を飛ぶ習慣があったので、距離感を測るといった空間把握は得意なんです。」「ふくろうとかと同じか…。と言うより正確すぎないか?ま、それは置いとくとして…。今回はまずこれを使う。」

俺は全体を黒く塗られた比較的大きな物を召喚した。

「随分大きいのですね…。それに凄く重そうです…」

「ミーシャすまないが、これの説明はあいつを倒してからでいいか?それと、この位重くないと、この弾は撃てないし、撃つ音は凄くうるさい。だからこれをみんなは着けておいてくれ。」

「これは?」

「無線つきのイヤーマフだよ。それをつけてれば、耳が壊れる心配はないから、使い方は結奈に聞いてくれ。」

「もう!また私ばっかり!私は取説じゃないんだよ?全く…」

「あはは…」

俺は1800m狙撃の準備を始めた。1800mと言う超長距離の狙撃は現代のベテランと呼ばれるスナイパーでも出来るのは数少ないだろう。でも今回のターゲットは低倍率の双眼鏡で見たところトラック並みの大きさで移動速度もかなり遅い。当てるだけなら十分のはずだ。倒せるとは思っていないが、今はあいつの防御手段が知りたい。それがわからなければ、対策のしようがない。腹ばいになった俺は心と呼吸を落ち着かせ、ゆっくりとスコープを覗いた。

「なんつうグロさだ…。全く夢に出てきそうだな…。」

そこには本当に謎の生物としか言い様のない肉の塊があった。口と思われる場所からは迎撃に向かった兵と思われる体の一部が力なくぶら下がっていた。今まで映画のCGでしか見たことがなかったような光景が、たった今スコープの目の前で起きていることを思った瞬間、どうしようもなく胃から逆流しそうになった。その事で呼吸が荒くなり、スコープの中のあいつが上下に揺れた。

「…くそったれ…。」

「吉晴君…。大丈夫なの?顔色が…」

「大丈夫だ…。」

俺はもう一度大きな深呼吸をしてスコープを覗いた。呼吸を止め、しだいに脈拍が減少する。長距離狙撃

において、呼吸はもちろんのこと、心臓の脈動さえ銃身の揺れに繋がり狙撃の邪魔になる。まず、あいつをレティクルの中心に捉える。そこからは重力、気温、風向、風力、湿度、気圧等と言う様々な条件を考える作業が待っている。結奈にスポッター任せればよかったな…。

十数秒後、呼吸が苦しくなってきた頃、トリガーを引いた。

ドゴォーン!!!!

その瞬間、破裂音ではない確かな爆発音が辺りを包み込んだ。地面の塵が巨大なマズルブレーキで向きを変えた発射ガスで舞い上がり、ゴロンと巨大な手のひらサイズの薬莢が中を舞う。そう、これがバレットM82A1であり、秒速800m超えの速さで吐き出された直径12.7mmの巨大な弾丸は計算された弾道をだどり、あいつに突き進む。そのエネルギー量は狩猟ライフルとは桁が違う。狩猟ライフルのエネルギー量は大まかに5000Jと言う数値であり、このバレットM82は17000J近くある。

「なに!?」

しかし命中弾は、空間を割っただけだった。そう空気中がガラスのように割れ落ちた様に見えた。

「障壁だわ…。それもかなり強力な障壁が何重にも重なっているみたいね…。」

シヴィが吐き捨てるように続けた。

「あの孤児院の障壁は見事だったけど…。あいつのは比べ物にならない程強力よ…。それも何枚も同時展開なんて…そんなこと生き物のできる常識を超えているわ…。」

「で…今のでどの位割れたんだ…?」

「3枚位かしらね…。もう修復されてるみたいだけど…。」

「はは…は。どんなチートモンスターだよ…。」

自然に笑いが出てきてしまった。

「全部で何枚くらいなんだ?」

「あの感じだと…20枚前後ね。」

20枚…。ミサイルのタンデム弾頭でもそんな数は想定外だろうな…。やっぱり数のごり押ししかないのだとすると、妄想で終わってた事を実践するしかないか。

87式対戦車誘導弾を山のように召喚し、レーザー誘導装置を一個召喚した。

「この山は何ですか?」

「これは87式対戦車誘導弾って言うんだ。ミーシャに分かりやすく言うと伝説の勇者の武器だよ。そのミーシャにはここを覗いてあいつに中心を合わせてもらいたいんだけど。ミーシャが狙ったところに俺達の攻撃がされるからね。」

「そ、そんな重要な役を私に!?ぜ、是非やります!」

ミーシャは飛ぶようにレーザーをあいつに向けた。そんなに焦らなくてもいいんだが…

「リュミは結奈に撃ち方を教えてもらってくれ。」

「また私…。」

「ご、ごめんなさい…」

「あ、リュミちゃんは悪くないからね!?あぁ泣かないで~」

結奈には悪いけど、あいつが最優先だ。1つの筒を担ぎ上げ、発射ボタンを押した。ミサイルの独特な飛翔音が遠ざかっていく間にも、次のミサイルを発射する。その早さは5秒に1発という現代では考えられない使い方だ。こんなふうに連射できるのは召喚のお陰であり、このミサイル一発は何百万円もするのだ。現代では決してこんな使い方を出来る様な裕福な国はないし、ましてはする必要もない。リュミも使い方がわかればただ担いで、ボタンを押して捨てての反復作業になる。瞬く間に山のようにあった87式対戦車誘導弾は減っていき最後の一発を発射した。気づけば俺らとあいつの間には、ミサイルの飛んだ跡で白い道ができてた。

「障壁は貫通してほとんど吹き飛んでるわ…。後は本体がどうなっているかだけど…。」

あいつの周囲には未だに爆発の黒煙が立ち込める。シヴィは同系統の魔法属性らしいから感覚で分かるらしいが…やつは弱っているしダメージも食らったようだ。でも…

「なんか…あいつ…ピンピンしてるみたいに見えるけど…」

「そんなはずないわ!?あんなに体はボロボロでまだ障壁を修復しようとするなんて…。普通なら高度な魔法ほど痛みで集中が途切れて使い物にならなくなるはずなのに…。それにあれだけの障壁を維持する魔力なんてもうないはずよ!?なのに…なんであいつは…。」

「まるで無意識の本能だな。」

「無意識…。…まさか!? 吉晴さん、黒煙で視界が遮らない攻撃してくれないかしら!」

「お、おう?わかった…シヴィは離れて見ててくれ…。」

俺は邪魔な使用済みの発射機とレーザー部分を消し、新たな重々しい車両を召喚した。

「ごめん…。リュミとミーシャはここで待っていてくれ。」

「吉晴さんがそう言うのなら…」

「仕方ありません…。」

乗り込んだ俺は改めて謝罪しハッチを閉めた。

「ごめんな?結奈は操縦手を頼むよ。俺は砲手やるから。」

「いいけど…。この戦車って三人乗りなんでしょ?なんで二人を待たせたの?」

「結奈は一人で待つのと、二人で待つのとどっちがいい?」

「あ、そう言うことなの…吉晴君は優しいね~」

「それより早くエンジンをかけて、シヴィ達から離れるぞ。ここじゃあ主砲の白煙でシヴィが怒る。」

「はいはい、でも戦車なんて初めてだよぉ~」

「俺もだよ…この中ってこんな風になってたんだな~。機密保持の理由で動画じゃモザイクかかってたからな~」

日本で一番重い90式戦車のディーゼルエンジンが唸りをあげ黒煙を吹いた。

「弾種、120mmTKG JM33装弾筒付翼安定弾。行進間射撃!」

90式戦車はまた唸りあげ50t近い巨体を動かした。そのすぐあとに、120mm滑控砲がバレットM82とは比べ物にならないくらいの轟音と共に、秒速1200m以上の矢を打ち出した。その砲弾はいつの間にか修復済の障壁もろともあいつを貫通していて、とても大きな風穴を開けていた。

「畜生!まだ立っていやがる…。弾種同じ、次弾装填。撃てっ!!」

発射される度に町全体の空気が震えているような轟音が轟き、地面から塵が舞い上がる。

「さすがに…おかしくない?」

「そうだけど…。87式対戦車誘導弾を食らっても生きてる事態おかしんだけどな。」

やつはまだ立っている。体の二ヶ所に大穴開けられってもまだ歩みを止めない。まるで何かに呼ばれているように…さすがに気味が悪くなってきた。同軸機関銃で掃射するが効果はありそうになかった。

「やっぱり…何かおかしいよ…。」

「それな…。」

こうなったら、足を止めるしかない。三発目の装弾筒付翼安定弾が放たれた瞬間あいつは倒れた。

「何やったの?」

「足を引きちぎった…。」

「うわぁ…。」

120mm滑控砲の着弾の衝撃は凄まじいものだ。肉の塊くらい簡単に吹き飛ばし分断する。

あいつは腕と残った片足だけでまだシラエにたどり着こうとする。

「あいつは何がしたいんだ?」

「分かんない、でも…。なんで痛がらないんだろう…」

突如、ぶっ倒れたあいつの体が不規則に発光し始めた。なんかヤバそうだったから、一旦シヴィの所に戻る。「なんか息が重苦しい…様な気がするかも…。」

「た、大変よ!?あいつ空気中の魔素を手当たり次第に吸収してる!!!あ、あれじゃ暴走するわよ!!!???」

シヴィのこれまでにない慌てように、事の重大さが感じられた。

「暴走?どうなるんだ?」

『半径数千mの空間大爆発よ!!!!』

「空間爆発!?何それ!?」

「やつの暴走が空気中の魔素にも干渉して一緒に爆発しちゃうのよ!この爆発も普通じゃなくて、干渉された空気中の魔素が同時に爆発しちゃうから…。」

「空間その物の爆発…。」

「そう…。魔導師のもっとも恐れることよ。大昔の魔界で空間爆発で国が滅んだと言う事があったわ。」

「嘘だろ…。止める方法は!!!??」

「あいつが起爆剤なの。あいつを消し飛ばせば…爆発は起きないわ。」

結局吹き飛ばさなきゃいけないのか…。

「時間は?」

「そんなにないわ…。吸収量から見て…ざっと5分ね…。」

「吉晴様…。」

どうする…。どうすればいい…。そんな爆発なら戦車に籠っても安全とは言い切れないし、そもそも戦車内にも魔素はあるのだ。あ、そうか…やつはこれを狙って自爆しに来たのか…。

「あいつは自爆しに来たんだ。足を失って町へたどり着くのは無理だと感じて、あそこで自爆することに決めたんだ。」

「そんな…。」

「あり得る話ね…。何処のどいつだかは分からないけど…。こいつの膨大な魔力は命を無理やり削って補っていたんでしょうね。あの光ってるのは魔方陣よ…。意図的に空間爆発を起こすためのものみたいのと、命を無理やり削って魔力に変換する魔方式ね…。魔族でもこんなことしないわよ…。あとひとつは…読めないわね…見たことがないわ。」

吹き飛ばすっつっても…あ、

「ニミッツ!俺らの前で光っているやつを何でも良いから木っ端微塵にしてくれ!!!」

「え?あ、はい!しかし上空待機している機は爆弾は使いきってて…。でも直ぐに爆装したF-35を5分で向かわせます。」

5分か…ギリギリだな…

「出来る限り急いでくれ!超音速航行しても良いから!!失敗すればキロトン級の核爆発と同規模の爆発が起きる!!」

「か、核!?さ、さっき5機編隊が発艦しました!現在全速で向かっています!目標地点にはJDAMを二発、計十発を投下します。」

少しでも遅れれば俺達もろともシラエの大部分が吹き飛ぶことになってしまう。

「シラエの兵を今すぐ城壁の中に入れてくれ。今からガレッド城を崩したのと同じ攻撃が来る。」

やつとの距離は意外にも近くて生身の人間が衝撃波で吹き飛んでしまうかもしれない。近くの兵に伝言を伝え城壁の中へ後退させた。

「私達は…どうするのですか?」

「俺達は見てなくちゃいけないからな…こいつに乗ってくれないか?ちょっときついかもしれないけど…。」「それは構わないのですが…。」

俺達は90式戦車に乗り込み、空爆までの時間をまった。その間も主砲と同軸機関銃による攻撃は継続した。気持ち的にしないよりはましに思えたからだ。それでも発光現象は治まる気配がなかった。

「他に止める方法は無いのか?」

「…。あ、止める方法ではないけど、被害を減少させる方法はあるかもしれないわ。」

「何で、カモなんだ?」

「今思い付いたからよ!方法は簡単。空気中の魔素を使いきれば良いのよ。私の障壁でヤツの周りを密閉して、その中の魔素を使いきれば原理的に爆発は起こらずにすむわ。でもこれだと貴方の攻撃が障壁で通らなくなるわ。保険には無理ね…。これは貴方の攻撃が失敗して、障壁を張り魔素を消費する時間があって出来ることだわ。」

つまり今は空爆を待つしかないのか。そろそろ装弾筒付翼安定弾も無くなるな…同軸機関銃も弾切れが近い…。

「艦長!!目標確認しました!空爆を開始します!」

今までは地響きのような飛行音が聞こえない。音速よりも速い物体が上空を飛び去った後には轟音ではなく、衝撃を伴った轟音が聞こえる。時にこれは聴力障害や町中の窓ガラスを破壊する程だ。戦闘機を知らない敵の上を超音速で飛行したら、戦意喪失の効果は絶大だろう。今回も例外ではなく、異なった幾つもの衝撃が車内に届いた。それは無音で上空にF-35の5機編隊が逆Vの形で侵入してきたかと思うと、直ぐに俺達を通り越して行き、何とも言えない衝撃が体を揺さぶった。戦車の厚くて重い装甲越しに聞いても身震いするほどだ。一瞬たってまた10回のさらに強い衝撃が車内に届いたり、装甲に何かが衝突したりする音が聞こえる。これは爆発で吹き飛ばされた石ころ等だろう。この石ころは人体に損傷を負わせるほど非常に高速な物もあるため俺達は戦車の中に入ったのである。

「まるで花火大会のフィナーレだな…」

「そんなことよりあいつはどうなったの?」

ハッチを開けて、あいつのいた場所を確認するが、大量の濃い砂煙と爆発の黒煙で何も分からない。

「魔力は感じられないわ。」

「俺もあれでまだ生きてたら、お手上げたよ。」

後ろから強めのそよ風が吹き、視界を遮っていたものが薄れてきた。

「…。何もないな…」

「地面が…。」

「信じられません…。」

「雨降ったらちょっとした、ため池ね…」

恐ろしく正確に着弾した10発のJDAMは地面を深く吹き飛ばし続け、あいつを肉片残らず消滅させた。そして上空を見上げれば何事もなかったように雲ひとつない晴天の空を旋回するFー35Cがいる。

「ニミッツ…。作戦は成功…。帰投してくれ。」

「良かったです~。ガレッド帝国の一件よりも疲れましたよ…。暫く休暇をくださいね?」

そんな冗談を言うくらい疲れたニミッツはこのあと丸1日船としての自分を捨て、本当に陸地でバカンスをするのだが…。それは別の機会で良いだろう。

今はとにかく、

「依頼成功をギルドに報告しよう…。」

町中に転がっているゴブリンの牙を10体分折り、バックに積めた。もちろんアルコール消毒済だ。

「吉晴様!見てくださいこの討伐数!」

ミーシャの会員カードからホログラムの様にカード情報が空間に写し出され、その数は1963体となっている。リュミは3216体、シヴィが368体、そして結奈が4037体と言う滅茶苦茶な数字だ。俺はほとんどヘリの操縦してたからそんなに倒していないと思っていたが…。

《4209体》

「あれ?」

空にはニミッツの笑った顔が見えたような気がした。

「あれも俺の攻撃にカウントされるのか…」

こうして本当にシラエの日常が取り戻されたのであった。



「あら?あらあら?空間爆発の魔方陣が壊れたようです…。どこまであの男は使えないのでしょうか…。それとも…。フフ…面白いですね…。そのうち調べてみましょう…♪私の人形が壊れた理由を…。」

「や、やめてくれ!!お、お願いだ!俺には家族がいるんだ!頼むから…い、いやだ…来るな…来るなっ!!」

「おやおや…さすがにそんなこと言われてしまうと悲しいですわよ…?」

「か、神様…お助けを…。どうか、おたガッ!?ギャアアアアア!!!!??ヤメデグレェェ!!!」

また壮絶な悲鳴が森を駆け巡り、小鳥が一斉に逃げ出す。大型の獣も例外ではなく、一目散に逃げ出す。

「ふふふ…。もっとも…神様は“わたくし”でしてよ?…。あぁ、また失敗ですの…。成功は今朝の実験だけとは…。この体は制御が難しいのですね…。これでは、また新しい材料を見つけなくてはいけません…。」

彼女が森の向こうの闇の中へ立ち去った場所には、体が内部から破裂した様な死体に、体の一部が変形したようなものまであり、人の原型を留めているのは極々一部だ。突如、辺り一面が光に包まれた。

「これは…。遅かったようね…。どこにいるのかしら…。」

「ダメだったようじゃな…。まぁ良い。フィーリアは神界に戻りなさい。闇雲に探してもあやつは見つかりはせん。」

「はい…。」

眩い光と共にその場所から消え去った。

(吉晴君、結奈ちゃん…。あんまり目立たないでね…。)

なぜ最新鋭の10式戦車ではなく90式戦車なんだ?と思った人もいるかと思われますが、私は北海道民なので実際に見たことがある90式戦車の方が馴染み深いんですよね~。90式戦車も十分最強です!10式戦車のスローラム射撃も魅力的ですが…。74式戦車はグネグネ油圧が動いて面白いですよね♪

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