血をください…。
そろそろ吉晴君にも休日が必要かもしれませんね…。
「ふぁ~…久しぶりによく寝たわ…。」
シヴィはまだ寝ている吉晴の姿を確認すると、ポツリと呟いた。
「信用はしてるけど…信頼まではしてないわよ…。」
昨日のあの言葉が嘘だとは思わない…思いたくない…。でも所詮魔族と人間…限界があるわ…。それにリュミと一緒にいるなら…必ず問題がおきる。だってリュミは…
「おはよう…あれ?リュミちゃんはまだ寝てるのか…」
「えぇ。リュミは朝は遅いの…。」
「そっか…夜行性…夜型の人か。んじゃ、朝食の準備するか」
「て、手伝うわ…」
「お、ありがとな!ところで…リュミにはやっぱり必要なのか?」
「え、何が…」
「血だよ、血。ちょっとさっき歯が見えてな、魔族のなかであんなに尖っている歯を持っているのは、俺のなかじゃ吸血鬼しかいなくてな…あ、違ってたらごめん。」
え…吸血鬼なのよ!?なぜこんなに落ち着いているの!?確かしリュミは吸血鬼…。血を吸われるかもしれないのになぜこんなに冷静なの?
「そうよ…リュミは吸血鬼だわ…血はあった方がいい…。」
「そっか~血液型は輸血でもないし関係無いよな…用意しとくから心配すんなよ♪」
「そ、そうなの…?」
そう言って準備を進める吉晴の背中は頼もしいけど…謎がいっぱいだった。
これで準備完了だな。結奈がいないぶん冷凍食品ばかりになっちゃたな…。
「おはようございます…」
まだ眠気のとれないリュミが目を擦りながら歩いてきた。せっかくの綺麗な銀髪が寝癖で台無しだな…でもこの姿で抱き枕を抱かせたら最高に似合うだろう。
「おはよう!早く着替えておいで?着替えはテントの中に置いといたから」
「え!?あれって私のだったんですか?そんな勿体ないですよ…」
「他に着る人なんていないだろ…」
「でも…そんな…」
「シヴィよろしく頼んだ。」
こうなったらシヴィに頼むしかない。シヴィも分かってくれたようでさっさとリュミをテントの中に引きずり込む。全くあんな小さな体のどこにあんな力があるのやら…
「ほら、そんな格好で森なんか歩いたら直ぐに破れちゃうわよ?」
「ぅ~分かったよ…。」
お、さすがシヴィ。もうリュミが言いくるめられた。
それから数分してリュミがテントから出てきたが我ながら中々いい趣味してるぜ♪
「よし、ちゃっちゃと食べて出発するぞ?ほれ」
「これって!?」
朝食はサンドイッチセットだが、リュミが驚いたのはコーヒーカップに入った赤い液体だった。
「どうだ?ダイジョブそうか?輸血パックのじゃダメだったか?」
「なんで…知ってるの?」
「それなら、さっきシヴィから聞いたんだ。」
リュミはシヴィに振り替えるが、シヴィは黙々と目の前の小さな朝食を食べていた。
「リュミ…いつまでも隠し通せる問題じゃないわ。」
「でも、だって…」
リュミの視線がコーヒーカップに入っている血と、俺をいったり来たりしている。
「安心しろ。俺の血じゃない。飲みたきゃまだたくさんある。」
リュミはその言葉を聞くとゆっくりカップに手を伸ばし、口に近づけて行く。
「不思議な味…でも美味しい…。」
輸血用の血と生き血は微妙に成分が違うのだろうか…美味しいと言うのは不純物の少なさか?
飲み終えたときには、腕の傷が消えていて、赤い目も更に赤くなった。その他に変わった箇所はないが、これがリュミの本来の姿なのだろうか。
「まだ飲むか?」
「いえ、もう大丈夫です…飲みすぎると酔っちゃいますので…1日このくらいがちょうどいいです。」
「酒みたいなものか…飲みすぎも良くないからな~」
そうして食べ終わる頃にシヴィがこれからのことを聞いてきた。
「これからどうするの?仲間…に会うとか言ってたわね…」
「だからそんなに警戒しなくても大丈夫だって…取り敢えず、開けた平らな土地が必要なんだ。木がじゃまでね…」
「そんなことでいいの?」
リュミが当たり前のことを言うように呟いた。
「木を無くせば良いのね?」
「あぁそうだけど…もしかして出来るのか?」
「焼き払えば良いじゃない?」
「山火事…なんないか?」
「私たちならできる。血をもう一杯くださいませんか?」
そう言って飲み干したリュミは森の方に手をかざした。
「大きな音があればいいのですが…沢山の生き物が巻き込まれてしまいます…」
成る程…リュミは優しいんだな…
「リュミ、シヴィ、ちょっと耳塞いでてくれ。」
「え、分かりました…」
「分かったわ」
二人とも耳を塞いだのを確認したらとあるものを召喚する。ピンを抜いたあと、大きく振りかぶって森に投げ込んだ。その直後その物体が投げ込まれた一帯に非常に明るい光が満ちたかと思うと、それ以上の爆発音が響いた。
「きゃ!?」
「な、何なの?今のは…」
森を見れば沢山の生き物が我先にと逃げている。こんなに生き物がいたのか…
「今のはフラッシュバンて言う俺らの非殺傷武器なんだ。本来の目的は、部屋に立てこもってる奴にあの光と音で、目と耳を一時的に使えなくする武器なんだけど…効果抜群だったみたいだな…」
「そんな武器聞いたことないわよ…」
「ま、詳しいことは仲間と合流できてから話すよ。で、これからどうするんだ?」
焼き払うとか言ってたよな…火属性魔法とかかな?
「じゃあ、始めるわよ。」
シヴィが輝き始めたと思ったら、森に光輝く半透明な一辺50m程の幾多の魔方陣が書かれている正方形と思われる箱が浮かび上がった。それが完成したと思ったら次はリュミがその箱に両手をかざした。
「まさか…焼却炉なのか…?」
リュミの口元が少し動いたと思ったら、箱の中に地獄を連想されるような炎があがった。間違いない。あの半透明な箱は火を遮断する障壁かなんかだな。炎は周りの木には、箱に遮られて燃え移らず、炎は唯一障壁のない上から吹き出すように燃えている。猛烈な上昇気流に巻き込まれて燃えかすや灰などが一緒に飛ばされる。「凄い…」
焼却は10分に及び障壁がなくなる頃には、箱の中に広がっていたはずの森は消え去り、地面が真っ黒になっている。文字通り、焼き払ったに相応しい有り様だ。しかしまだ、飛ばすことは出来ない。
「まだ燃えてるな…ここは俺に任せろ!」
俺は湖の水をイメージで召喚した。それは空気中に大きな水の塊が現れたかと思うと、やがて重力に従い落下してくる。水が地表についたとたんに、大量の水蒸気があがった。水を撒いたのは2つの理由がある。1つは消火のためだ。2つ目は、あの状況でエンジンを始動させれば、大量の灰などがエンジンに吸い込まれてしまい動作不良を起こしてしまう。だから水を撒いたのだ。
「これからどうするの?」
「空飛んで帰るよ?」
「人間が空を飛ぶの!?不可能よ!」
「人間諦めなきゃ、空飛ぶんだぞ?その先の宇宙まで行ったしな♪」
俺はF-35Bを召喚した。昨日乗っていたのは、F-35Cという機体で、空母から発艦するために作られたのに対して、このF-35Bは垂直離着陸戦闘機だ。垂直離着陸機とは滑走路を必要とせず、エンジンの排気を下向きに噴射することで、ヘリコプターの様に離陸することができる画期的なシステムだ。
シヴィは飛びながらF-35Bを色んな箇所から眺める。てか飛べたんだね…まるで妖精だろシヴィさん…
「これは…乗り物?飛ぶの?これが?」
「そうだぞ!音より速いからな♪」
「いくらか何でも騙されないわよ?」
「まぁまぁ、でもひとつ問題がある。実はこれ一人のりなんだ。シヴィはどこでも良いとして、リュミには俺の膝の上に乗ってくれないか?」
「何か腹立つ言い方ね…」
「私は構わないのですけど…良いのですか?」
定員オーバーだけどまぁ問題ないだろ…他の戦闘機でもいいんだが、ここはあえて一人乗りをチョイスした。Gスーツの関係上、無理な飛行は出来ない。ま、のんびり行けば問題はないだろう。
俺はコックピットに乗り込み各種装置を準備した。
「リュミおいで?」
「し、失礼します…」
「やってることだけ見てると、変態にしか見えないわ…」
「シヴィは置いてくぞ。」
「ちょ、ごめんなさい!それだけは…」
そんなことがあったが、遂にエンジンがかかる。
「昨日の変な音は貴方だったのね…」
そんなに響いていたか…なにがともあれ、エンジンの出力をあげていく。振動が大きくなるにつれ、緊張が高まる。そして振動が小さくなったと思ったら、フワリとした感覚が感じられた。
「と、飛んでるの?凄い…こんな鉄の塊が…」
「もう木を超してしまいました…」
「じゃ、進むぞ♪」
俺はゆっくりと加速を始めた。
「速い…」
「そうか?まだ全然本気出してないぞ?そうだ…ちょっと寄り道していいか?」
「良いですけど…」
俺は少し進路を変えガレッド帝国を見ていくことにした。
その際にリュミ達に今回、ここに来た目的を話した。
「そうだったのですか…」
「当然じゃない?やられたら、やり返す。これは常識だわ」
どっかの銀行員さんと同じこと言ってるよ…。全く…
「ま、そうなんだけどな…」
そうしてるうちに、ガレッド帝国の町が見えてきた。今は攻撃する気はないから大きな円を描くように町全体を観察する。さすがにまだ1日で復興も何も進んでいない。港も同様だ。いくつものクレーターが見受けられ、城なんかは木っ端微塵に吹き飛んでいる。あの様子じゃ国王も生き埋めになったんじゃないか?
「これは予想外だわ…これをあなたたちがやったの?」
「そうだ…」
「凄いです…あんな事どんなに有名な魔導師でも無理ですよ…」
俺は重要な箇所をカメラで写真におさえ、ガレッド帝国を離れた。
そして今は雲を突き抜けて、青空の元を飛んでいる。
「もうそろそろ…ニミッツのいる海域なはずなんだが…」
お、でたでた。レーダーにニミッツの文字が浮かんだ。しばらくして目視できる距離まで近づいたら、ギアダウンする。あいにくこの機体には着艦フックがついていないため、垂直離着陸をすることのなる。
「あ、お帰りなさい艦長。ちょっとぼ~っとしてて気づかなかったわ…」
「うわ!?しゃべった!?」
「リュミ落ち着け、あそこの船にいる仲間だ。ニミッツ?垂直離着陸機なんだが…大丈夫か?」
「分かりません?排気で熔けるかもしれませんし…水を撒いておきますね?」
「大丈夫なのかよ…」
俺達は水の撒かれたニミッツに素早く着陸しエンジンを切った。
直ぐにミーシャ達が駆け寄って来た。
「吉晴君!遅い!お腹すいたわよ!」
「私も…」
「敵地から無事帰ってきた俺に言う第一声が飯くれかよ…」
なんか涙出てくるな…確かに二食分食べてないだろうけどさ…仕方なくコンビニ弁当を渡した。
「この方達は…?」
膝の上にちょこりと座っているリュミが聞いてきた。態度には出ないが、小さな手が震えているのが分かる。彼女なりに頑張っているのだろう。
「金髪の彼女が第三王女ミーシャリアだ。そのとなりの黒髪の彼女が結奈で、遠くに見える女性がニミッツ…正確には人間ではないけど、仲良くしてやってくれ。」
「人間じゃないの?どう見たって…」
「そこら辺は彼女に直接聞いてみるといいよ?多分話してくれるから」
「分かったわ…?」
弁当を食べ終えた結奈達がやっと正常に戻った頃、ようやく本題に入った。
「あなたたちが魔族の方々ですか?」
「は、はい…リュミです…」
「シヴィよ。」
「私はトローデス王国第3王女のミーシャリア·トローデスです。」
「私は綿嶬結奈って言うんだ♪よろしくね!」
「こ、こちらこそ宜しくお願いします…。」
「今まで大変だったでしょう?ガレッド帝国は魔族に対しては容赦無い差別体制ですから…。でもトローデス王国は魔族に対してもそんなに差別意識はありませんから、安心してください。」
ミーシャは落ち着いた声でリュミに微笑んだ。
「ありがとうございます…」
「吉晴君!この子は何!?この可愛い娘は!」
「ちょ、やめ、やめなさ…い」
「結奈…放してあげなさい。困ってるぞ…」
シヴィが結奈のおもちゃになりかける寸前だった。シヴィ…よく耐えたな。
「リュミとシヴィは今日から俺達の仲間だ。みんな宜しく頼むな♪」
「こんな日が来るなんて…夢にも思っていませんでした…ほ、本当に感謝しています…」
リュミの赤い瞳からは、透明な雫が流れ落ちる。みんなそんな彼女を見て、優しげな目で見つめるのだった。「よし、帰るか。」
ミニッツは俺達が飛び去ったあと、大分ガレッド帝国に近づいてきてくれたみたいで、今日中には着くと言っている。その間、俺は沢山のガレッド帝国の写真をみて被害規模をおおよその見当を着けていた。
「かなりひどいな…城は10発中8発が直撃…2発が兵倉に命中…いったい何人が死んだんだ?」
城は中学校位の大きさだ。そんなものに8発ものJDAMが直撃したらどうなるか…言うまでもない。
「ここら辺の城壁は衝撃波で吹き飛ばされたのか…民家に破片が飛んでるな…」
そこまで民間人に被害が及んでいない事にホッとする吉晴だが、ある不安がよぎる。
「国王が死んでいたら、国が崩壊するな…」
国王がいない王国など、ただの人の集団でしかない。治安悪化は避けられない。それでトローデスにどんな影響があるかは知らないが…
その時部屋のノックが聞こえた。
「どうぞ?」
「失礼します…」
入ってきたのはリュミとシヴィだった。どうしたんだろう…
「ニミッツさんに貴方の正体を聞いたわ…」
「そうか…それで?」
「吉晴さんの方が私達の存在より一大事なのです!」
「そうよ、貴方…勇者だったのね…」
大昔、魔族を追いやったのは伝説の勇者こと自衛隊だ。彼女も魔族だから思うところがあるのだろう。
「誤解しないで…私達は勇者を恨んでなんかいないわ。」
「どうしてだ?勇者は君らを…」
そう言いかけたときシヴィもリュミも首を横にふった。
「この話は私達が人間界に追放された話と繋がるわ…話して良い?リュミ?」
「うん…。」
「まず、魔族には大きく分けて3種類…3つの考え方があったのよ。簡単な話よ…侵略、独立、共生。この3種の考えが存在してた。」
なるほどな…。共に生きる。関わりを持たない。人間を滅ぼす。か。
「私達の祖先は共生の道を望んでた。でも、どれを取っても他から恨まれる。共生を選んでも独立派と侵略派に恨まれる。その逆も同じ…。それでもリュミの先祖は共生を選んだ。その結果、侵略派の連中が勢力を増した。その勢いで人間界に進出してしまったわ。これが人間に魔族は野蛮で恐ろしい。っていう認識を持った始まりと聞いているわ。」
「なるほど…魔王はどんな存在だったんだ?」
シヴィは首を振った。
「魔王は私達の中でも情報は入ってこなかったわ…ただいたと言うことしか分からないわ。それから数年間侵略派は人間界を支配したそうよ。」
「そして勇者が現れたのか」
リュミが頷き話始めた。
「侵略派は瞬く間に減少していきました。でも、バランスが崩れてしまったのです。これはあとにしましょう…。続けますね、私達の祖先は勇者に相談しました。共生したいと。勇者はこころよく受け入れてくれました。侵略派が破壊した瓦礫の撤去など勇者達と共にしたそうです。」
「そして勇者は消えてしまった。」
突然ミーシャの声が聞こえてきた。扉を見ればそこにはミーシャが申し訳なさそうにたっている。
「すみません…盗み聞きするつもりは無かったんですが…でもトローデスが魔族に対してそれほど悪い印象を抱いていないのは、多くの勇者達が消えてから復興を手伝ってくれたのは魔族だからです。」
「そうですか…勇者の国とはトローデス王国でしたか…でもそれから多くの共生派の魔族が帰ってきました。理由は定かではありません。でも、独立派の魔族が黙っていませんでした。」
勝手に人間界に行ったんだから勝手に帰ってくんな。と言うことか。独立派はそうなるだろうな。
「共生派と独立派の対立は今も続いています。そんな中で私は独立派にシヴィと一緒に捕まり強制的に追放されてしまいました。半年ほど前の出来事です。」
「何でリュミなんだ?まだ子供を…」
シヴィが口を開いた。
「リュミは魔族最強のヴァンパイア族。それも族長の孫娘。リュミの存在は大きいわ。」
「……。リュミってやっぱり…お嬢様?」
「そうなります…でも態度を変える必要はないです…いつもの吉晴さんが好きですから…。い、言えました…」ボソボソ…
「そ、そうか…。分かったよ…」
フラグなのか?これは…。しかし意外にもミーシャが追い討ちをかけた。
「ヴァンパイア族との関係…魔族との友好関係…。良いですねこれは♪」
「どうしたんだ?」
「吉晴様。リュミさんと結婚してあげてください。」
「「「…。」」」
俺、シヴィ、リュミは固まってしまった。今…ミーシャは何て言った?しばらく沈黙が訪れる。ミーシャは笑いもせず、大真面目と言った顔だ。
ポンッ…。
リュミの意識が事切れた。シヴィはカクカクとこちらを振り替える。
「あんた…本気…?」
「俺に聞かれても…」
俺はハーレムを少ししか望んでいないはずなのに…どんどん増えていくのか…。時の流れに逆らえないように、俺はハーレム街道を進まなあかんらしい。もうお腹一杯です…。




