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異世界でも、チートよりも大切なこと。  作者: 芳賀勢斗
世のため国のため。
15/97

ガマデス失脚と攻城計画。

「では、海龍種討伐の報告を始めたまえ。」

「はい。海龍種は結果として討伐できました。」

貴族席からどよめきが上がったが、一人だけ反論するものがいた。

「嘘に決まっておろう…そうだ、まやかしだ!」

「ガマデス防衛大臣。それはなぜかな?」

すかさず国王が問いかけた。手はず道理だ。国王はポーカーフェイスを決めている。

「か、海龍種など討伐できるものでは無いのだ!」

罠にかかった…これを待っていた。

「確か…海龍種討伐を頼んだのはガマデス防衛大臣。貴方でしたね?おかしいですね~。何故依頼主であるガマデス防衛大臣が無理と断言するのだ?つまりは達成不可能な依頼を、我が娘の夫である吉晴殿にしたと言うのか?」

ガマデスの顔色が真っ青になる。他の貴族もガマデスとは関係ないと自らさりげなく離れていき、ガマデスは周囲から孤立した存在になった。

「滅相もございません…しかし海龍種討伐成功の証拠など…」

証拠を求めてくるのは想定内だ。良いね~現代情報技術と言うのは。

「証拠ならここにありますよ?すみません部屋を少し暗くしてくれませんか?」

「良かろう。」

国王様に許可を得た俺は素早くパソコンとプロジェクターとケーブルを召喚し壁面投影の一式を揃えた。

そしてポケットの中にあった戦闘中の録画映像の入ったSDカードをパソコンにセットする。

運がいいことに、この部屋の壁は真っ白で目立った装飾品も凹凸もない。

「では、海龍種戦の映像をご覧ください。」

再生ボタンを押すと上空からの海龍種と大和達が映し出される。貴族席からは先程よりも大きな動揺があった。ガマデスは口をあけ、先程見た現代戦艦と同じものと確認し、膝から崩れ落ちた。

(間違いない…海龍種だ…それにしてもあの船はなんという大きさなのだ…)

(海龍種が血だらけの姿など見たものはおるまい…)

(海龍種の放った虫ども全てが船に近づくまえに撃ち落とされておる…)

(おぉ…船が爆発したかと思えば、海龍種が悲鳴を上げとおる…)

(一方的だな…)

(これが勇者の力なのか…)

貴族達は海龍種を見たことがある者、ない者、どちらも常識外の海戦に驚くばかりだ。

「これで証拠になったでしょうか?これで足りなければ明日にでも海龍種の死体をお見せしますが…」

「証拠はこれで十分じゃ。しかしここからが本題じゃ…実はガレッド帝国の主力艦隊がトローデス王国に攻めてきよった。」

貴族からは驚くもの、遂に来たかと呟くものと様々だ。

「直ぐにでも向かい撃つ準備を!ガマデス防衛大臣!」

「そうです!この日のために我々は資金を提供し我軍を強化してきたのです!」

「今すぐ我主力艦隊を結成の決断を!防衛大臣!」

貴族の面々が国防の最高責任者であるガマデスに言い寄った。一方ガマデスは大量の大粒の汗が顔をしたっている。

「どおしたのかな?ガマデス防衛大臣。」

国王が問いかけるが、俺にはにやけ顔に見えるのは気のせいだろうか…

「しゅ、主力艦隊は今…その…」

「どうしたのだ?よく聞こえないのだが…」

「主力艦隊は…今は………大規模演習中でトローデス王国を離れております…。」

「では、どうするつもりだったのだ?前々からガレッド帝国との開戦は時間の問題だったことは、ガマデス防衛大臣が一番よく知っておろう?そんな時期に我軍の主力艦隊を国から出すなど…。反逆罪だぞ!」

国王が眉間にシワを寄せ部屋に響き渡る声で一喝する。もうガマデスは言葉もでない。

「しかし、まぁガレッド帝国の主力艦隊は吉晴殿が海龍種討伐のついでに壊滅してくれたから最悪の事態はまぬがれたが…ガマデス防衛大臣。いや元防衛大臣。責任は取って貰わねばならない。今頃、お主の屋敷に我の部下が調査しに行っていることだろう。色々と見つかるだろうよ」

「国王様!お考え直しを…」

この世界にもあるんだな~家宅捜索…ガサ入れとも言うんだっけか?

「貴様の息子宛に娘のミーシャリアから伝言を受けている。」

手短にミーシャからの手紙に目を通した国王は鼻で笑ってガマデスに伝えた。

「要約すると、貴様の息子の行動、言動全てが目障りだから、視界に入らないでくれ。と言うことと、結婚なんて論外だそうだ。」

この国王の言葉で出席している貴族が我慢できなくなり笑い始める。その規模はどんどん大きくなる。

「クゥッ…」

ガマデスは腰の剣に手をかけた。その瞬間笑いに満ち溢れた場内は時間が止まったかのように、静まり返った。

(あれは不味くないか?)

(王の前で剣に手をかけるのは、その場で斬られても文句は言えない…)

(ガマデス家は終わりか…)

(国王の近衛隊が動き出したぞ!?)

(不味い…あれでは国王様にガマデスが先についてしまうぞ!?)

(国王様が…)

「死ね!国王!俺がこの国を」パァ~ン!

その言葉は最後まで話しきることは出来なかった。

「ギャアァァァ~!!!!?あ、足がぁ!!!?」

国王の10m手前で転げ回るガマデスに周囲の貴族は何が起きたかわからないでいる。

その間にも、すぐにガマデスは近衛隊により身柄を拘束される。

「何が起きたかわからんが、反逆罪の罪で拘束する!連れていけ!」

近衛隊の隊長らしい人物が部下に指示を出している。そしてその目は俺に向けられた。

「おかげで国王様にお怪我は無くて済んだ。感謝をしてもしきれない…」

さりげなく俺の手にしている物に視線を送る。

「すみません…いくら何でも王の前で武器を使うのは不味かったですね…」

そう言って俺はベレッタM-92を消す。

「それは良いのだが…それは魔法なのか?」

「詳しいことは言えませんが、これは私の世界の普通の武器です。魔法の類いは一切使っていませんよ」

「それは凄いな…」

国王様を見れば、命を狙われたのにも関わらずニコニコしてるし…隣の秘書の女性はハンカチで汗を拭いている。

そんなこんなで一騒動起きたが、無事に報告会は閉会し後日ガマデスの家からは、汚職の証拠である、軍備増強の資金の着服に違法薬物の密売組織への資金援助。更には海賊への情報提供、違法な強制人身売買に至るまで、様々な証拠が盛り沢山で報告された。国王もここまで酷かったなんて思っていなかった様子で、驚きを通り越して呆れ、こんな奴に国防を任していたと気付き恐怖したのだった。

「良く無事でしたね…この国…」

「幸運の女神様のお陰かもしれん…。それにしても、ガマデスの貯金は凄いものだぞ…」

ガマデスは大臣の座と貴族の位を剥奪され、全財産を没収のうえ、家族は全員永久国外追放となった。もちろんガマデス自身は国家反逆罪で死罪となる。

「凄いですね…国家予算の¼ですか…」

汚職で稼いだ金は莫大な額だった。これに財務大臣が大喜びした。

「これで国債を浮かせられるぞ♪いや、それでも大分お釣りが来る…」

この国の国債の額を知りはしないが、それを支払ってもお釣りが来ると言うんは、日本人の感覚で言うと物凄いことだ。

「全ては吉晴殿のお陰じゃ、例を言う。本当にありがとう。」

「いえいえ…それより明日、出発しようと思います。」

「そうか、お主には不可能と言うことが無いように感じられるわい。」

「いいえ?海龍種の方が大変だったと思いますよ?」

そう。俺は明日、ちょっくらガレッド帝国に行って城を空爆してくるのだ。国王もやられたのなら、やり返さねば国としての威厳が保てない。と言うことで、挙兵すると言い出した。しかしそれでは大量の犠牲者が出てしまう。そのくらいなら、俺が空爆する方が良いので手を貸すことにした。それに俺がやらかしたことでもある。その責任をとる感覚で国王に提案した。そして今回使用する兵器をスマホで分かりやすく説明し、簡単かつシンプルな作戦プランを提示した。

「これはA-10と言って、対地攻撃用に運用される戦闘機です。まずこれをここからガレッド帝国に向けて5機飛ばします。A-10の戦闘行動半径は1300kmですから、ガレッド帝国には問題なく往復できます。」

意外にも地図で確認したが、トローデス王国とガレッド帝国は近い距離にある。何だかトローデス王国の立場は日本を思い出すな…

「そしてガレッド帝国城、上空に到着し次第、JDAMと言う爆弾を各機2発、合計10発投下します。その際に大量のビラを町にまきます。トローデス王国の復讐と言うことを国民にわからせて、次は無差別に攻撃すると脅します。絶対に無差別攻撃はしませんがね」

そこは市街地の近くであり、少しでも外せば大惨事になるため、誘導性能のある精密誘導爆弾にしたのだ。クラスター爆弾も検討したが、地球での不発弾の問題を思いだし除外した。

「更に帰りがけに軍港を破壊します。今頃主力艦隊からの報告がないことに疑問を抱いていることでしょう。第二次攻撃があるかもしれません。そこはMk.77と言うJDAMとは別の爆弾を使い建造中、停泊中含めて殆どの船舶を焼き払います。」

「バクダンと言うものはそのスマホと言う物で見させてもらったが、すさましい威力だな…」

「そうですね…科学と言うのは恐ろしいのですよ…」

「カガク?なんだそれは?」

科学を聞かれても、答えようがないと言うか…

「僕らの世界のは魔法と言うものが全くありませんでした。その代わり科学と言うのが栄えたんです。」

「なるほどな…難しい話だ。」

「取り敢えずこのプランで行きましょう。国王様には直筆でビラの原稿を書いてもらいます。」

「分かった。容易いご用だ。」

そう言って外務大臣と自分の秘書を呼んだ。全く自分で書く気0だな…。すでに外務大臣が涼しいのに汗をかきながら頭を抱えている。ご苦労様です…

外務大臣の頭の中は数年先から数十年先の事まで長期にわたる戦略を考えている。

「このくらいが、脅し文句としてはちょうど良いでしょう…」

「お疲れ様です…」

「いえいえ毎度のことですよ…ハハハ」

おい、国王様…仕事すれよ!

それから国王の直筆で書かれた原稿をとにかく大量にコピーした。途中から結奈にも手伝ってもらいコピー機2台でコピーしている。もうテーブルには紙の束が溢れかえっている。

「こんなにコピーしたの初めてだよ…」

ミーシャはどんどん増えていく紙の束を、呆れながらも整えてくれる。本当に良い嫁を持てたな…

「吉晴様は明日行かれるのですか?」

「そうだぞ?でも半日ぐらいで帰ってくるぞ?」

「私も付いて行っても宜しいでしょうか…」

「なら私もいきたい!」

あ、どうしたものか…

「良いけど…結奈は良いとしてミーシャはどうしようかな~A-10は単座だし…」

色々と考えたが、

「ミーシャは悪いがただ乗るだけになるが、それでも良いか?」

「それでも十分です♪明日が楽しみです♪」

消して誤解してはいけない。ミーシャは空を飛ぶことを楽しみにしているのだ。空爆を楽しんでいるわけではない。

「それじゃあ、空母達を呼ぶか、」

沿岸警備に当たっていた空母に作戦内容を伝え、明日の朝までにトローデスの沖合に来るように指示した俺は深い眠りについた。明日は長時間のフライトになる予定だ。

「一人で頑張りすぎだよ…」

「優しいのですよ、吉晴様は…」

「そうだね…この世界に来てから吉晴君すごい変わったからね~」

「この世界に来る前の吉晴様はどんなお方だったのですか?」

「うーんとね…」

そんな二人のガールズトークの夜は長い。その部屋では吉晴の寝息と、二人の少女の小さな笑い声が聞こえていた。




《誰か助けて…》

吉晴は頭の中でそんな声が聞こえたような気がした。それは単なる夢かもしれない。もしくは…

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