今では無敵の変態さん。
「なるほどな…事情は百歩譲って理解できる。ある意味、宗教間の争いみたいなものだな。だがな…しかしだな…仲間に照準合わせる馬鹿がどこにいる~!」
こうなるとは思わなかったが、良く考えれば想像出来たことだ。その点は俺のミスだ。しかし仲間に敵意を向けて良いと言うわけではない。
「悪かったわ…金剛…。やり過ぎたわ…」
「こちらもです…こんごう…」
どうにかならないかな~戦艦の砲撃戦のように戦い、イージス艦の様にミサイルでロングレンジ攻撃ができる夢のような船が………。あった。
「ミサイルと大砲は共生できると思うか?」
俺はコンゴウに問いかけた。
「「そんな事あり得ません。」」
「それじゃ、これなんかどうだ?」
俺は艦隊の最後尾に新たな船を召喚した。
「地球最後の戦艦のネームシップ…アイオワだ。」
地球ではミサイルの有効性と運用コストが馬鹿にならないと言うことで、徐々に幕を閉じてきた戦艦だが、そのなかでつい最近まで生き残っていた戦艦があった。それがアイオワだ。アイオワは戦艦にミサイルと積むと言うロマン溢れるコンセプトだったが…それも長くは続かなかった。
「可愛い女の子がいっぱい…美味しそうだな…」ペロリ
俺には変な声が聞こえたが無視することにした。
「この彼女がアイオワ級アイオワだ。…」
「これは…」
「…。」
アイオワには近接防衛火器としてのCIWSが標準装備されその他、対地攻撃用のトマホークと対艦ミサイルのハープーンの発射が可能になっている。指し積め戦艦の近代化改修でより高度に電子化されたと言うべきだろうか、当然直径30cm近い主砲も装備している。これで二人の間が近づけばよいのだが…しかしこの願いは
違う意味合いで達成されることになる。
「来ないでくださ~い~!」
「こんごう!こっち来るな~!」
「可愛い…女の子が…目の前に…」ハァ~ハァ~
アイオワの紹介からわずかに数分。アイオワがコンゴウ達を追いかけ始めてしまった。変な息づかいで…
結果から述べよう。アイオワは…
「同性愛者か…これは予想外にも程がある。俺に責任はない。お大事に。」
「あ!艦長が逃げてる!」
(助けてくださ~い!き、来た!?)
そんな断末魔みたいな悲鳴を聞かなかったことにする、他のメンバーはコンゴウ達が仲良くかけっこしている姿を見て、それぞれの持ち場に戻った。
(やっと…捕まえたわ…)ペロリ
(ヒィッ!?)
(は、放せ変態!放せ~~~~!!!!!!!!!)
そんな声が空へ吸い込まれて行ったが、それについて皆からの反応はなかった。
とある船内に装飾の豪華な鎧に身を包んだ男が水兵に告げた。
「あの場所まであとどのくらいだ?」
「は!明日の明け方までには到着すると思われます。」
「そうか…分かった。それと決して物音を立てるな!そう徹底しろ。」
「了解であります!」
「我らは今敵国の領海を進んでいる。それも海龍種が要るかもしれない海域をだ。まだ敵に見つかっていないのも、海龍種を恐れて近づかないだけだ。ましては変に物音を立てて海龍種に気づかれてしまっては、全滅じゃ。しかし見事にたどり着くことができれば、我らの勝利も同然じゃ!」
この船はこの艦隊の指令船だ。そして今この海を進んでいるのは、全艦合わせて、数百隻の大艦隊だ。
「心得ています。それではガレッド帝国に祝福を。」
そう言って、とある水兵は部屋を出ていく。男は一人で呟いた。
「トローデスに鉄槌を。」
そんな彼らを、ずっと見られていることを知らない彼らは、ただ目の前の作業に追われるだけだった。
「館長…先頭を行く妙高さんから、水上レーダーに感ありだそうです。」
「海龍種か!?」
「いいえ…どうやらたくさん小さいものが密集しているらしいです。」
「こんな所に何のようでしょうか…海龍種もいると言うのに…」
ミーシャも不思議そうに考える。
「誰にも見られたくない秘密の事とか?」
「!?」
珍しくも結奈の一言で、俺はある可能性に気づかされる。
「数は?それは船か?」
「船だと断定はできませんが、その可能性は高いそうです。その数、数百はくだらないそうです!」
この反応を船だと仮定した場合、大変なことだ。
「なぁミーシャ…トローデスと最高に仲の悪い国とかあったりするか?」
ミーシャもこの言葉で気づいたようだ。
「ガレッド帝国…その国とは長年、この海の利権を巡って幾度か争い事がありましたが…まさか…そんな…」こんな大艦隊がこそこそ他国の領海に侵入する目的はかなり限られてくる。
「奇襲だ。」
大和が急いで他の人に無線で伝える。
「全艦に通達です!今正面の艦影は敵国であるガレッド帝国ものと言う可能性が高いです。指示が有るまで、警戒を厳にして待機をお願いします!」
「どうしますか?」
「決まっているだろ?」
「そうですね…領海に入ってるから文句は言えないはずです…」
ミーシャが諦めたように呟いた。
「海龍種の腕ならしだ!ついでに国助けもしちまおう!」
こうして俺らは初の戦争をすることになった。
「改めて、アイオワです。先ほどの私がお世話になりました。」
ペコリとお辞儀をするアイオワにはさっきの面影は何処にもない。
「ど、どういう事だ?」
コンゴウ達はおびえて仲良く隠れている。共通の敵を持つとここまで変わるんだな~
「私…私の中にもう一人居るらしいんです…」
多重人格者…性同一性障害だったか…詳しくは知らないが、その辺りだろう。
「そして館長?現状は?」
「あ、あぁ、今トローデス王国の領海にガレッド帝国の大艦隊が押し寄せてきている。」
「警戒の船や巡回は無いのですか?」
もっともな疑問だ。日本は海に囲まれているため海洋警備が中心となる。これは沿岸を持つすべての国が共通することであり、例え海がなく陸地だけの内陸国でも国境線を警備する国境警備隊なるものが存在しているのが普通である。しかし今はこの周辺海域にガレッドの船団と自分等の他には、船の1つもない事を自らのレーダーで感じ取ったのだろう。
「実は戦略級の生物がこの辺りに発見されたらしい。普通の貿易船も並の軍艦もこの辺りには、一切近づかなくなったんだ。それを逆手に、奴等は危険を承知でこの海を渡ろうとしてる。」
「成る程…よくわかりました。詰まりは領海内への無許可での侵入と言うことですね?」
「その認識で構わないよ。問題はここからだ。ミーシャ…この場合は問答無用で沈めてもいいのか?」
「問題ないです。しかし、一応、威嚇してからしています。」
「そこなんだよな~ミサイルで威嚇つっても、この世界の人が攻撃と思わない可能性もあるからな~」
「それなら砲戦?」
大和がちょっと嬉しげにたずねてきた。
「そうなるな~それとも、航空戦力による殲滅か…海龍種の乱入も考えられるな…」
考え始めるとキリがなくなってしまう…あ、大事なことを聞き忘れていた。
「ミーシャ…この世界の海戦ってどんなのなんだ?」
「え…と、それは国の指針によってまちまちです。一応トローデスではですけど、大きな備えつきの弓に油をを塗った矢を燃やしながら打ち出します。魔導師の多い国では直接魔法で火球を飛ばして攻撃をしてきたりします。」
詰まりは木造船を燃やして勝負を決めるのか…備えつきの弓とはバリスタのことだろう。
「勝てるな。あいにく俺らの船はそう簡単には燃えないし、そう簡単に装甲が破られることもない。まずは警告だ。攻撃されてもけして焦るなよ?警告をする先見艦隊は大和を中心とする金剛型戦艦四隻だ。空母は偵察機をだしリアルタイムで監視をしていてくれ。先見艦隊は攻撃されてもセリフを言い切ってから反撃しろよ?」
「了解です。」
「イージス艦は海龍種の警戒だ。金剛達が戦闘中に背後を狙われては危ないからな。」
「了解した。」
「私は!!?」
「アイオワには戦艦とイージス艦のアシストだ。臨機応変に対応してくれて構わない。」
「了解でーす!」
まだ敵は遠いい。考える時間もたっぷりあるから、まだ余裕がある。
「では作戦開始!」
この言葉を合図したかのように汽笛をならして答えてくれた。




