002 召喚×勇者=異世界
気味の悪い浮遊感に囚われたが、それも一瞬の出来事だった。
俺は他人には悟られないように、荷物に手をかけ、いつでも行動に移せるように準備をしながら、目を開け周りを見渡した。
そこには座り込んだ美姫先輩方と、
「…やった。やりました!成功です!」
「…彼らが…勇者。」
少し離れた位置で、俺らを囲んでいる明らかに普通ではない人たちがいた。
俺は囲まれてる。
と、認識した直後にまず出口を探し――そこでまず、ここが地下であることに気付いた――た。
さらに、囲んでいる人の格好が、現代らしくないことにも気付いた。
それに、
「…おい、勇者は4人じゃなかったのか?5人いるぞ?」
…嫌な、面倒くさそうな単語が聞こえた気がする。
いや、絶対した。
特に4人というところに。
「…逃げてぇ。」
正直逃げ出すのは、今がチャンスな気がする。
しかし、相手方が何を要求してくるか分からないし、何より美姫先輩を放置して逃げる、というのは流石に気が咎めた。
そんな天秤をかけていると、位の高そうな気品を漂わせた女性が出てきた。
見たところ身長160くらいで、金髪蒼眼の美女だ。
日本人ではなさそうだ。
そして、一礼しながら口を開く。
「お待ちしておりました。勇者様方。」
「…勇者?もしかして…私たちが、か?」
俺が答えようかと思ったが、美姫先輩が答えた。
どうやら美姫先輩は、思考停止から立ち直ったようだ。
「そうでございます。あなた方は、私共が勇者を召喚出来るという召喚陣と召喚魔法を用いて、お呼びさせて頂きました。」
「…召喚陣?魔法?そんなこと…あるはずが…。」
と、思ったらまたショートしたみたいだ。
まあ、今の話を聞いたら、混乱してもおかしくはないしな。
普通は。
「ちょ、ちょっと待て!勇者とか、召喚とか、訳が分からない。しっかり説明しろ!」
「そ、そうよ!」
金木先輩たちもとりあえずは立ち直ったようだ。
黙っていてくれたほうが、個人的には嬉しかったのだが。
「はい。詳しい説明はガルハ王の前でしたいと思いますので、謁見の間に移動願います。申し遅れましたが、私はガルハ王国第3王女、ナダーリア・ガルハ・クレッセンです。ナダリとお呼び下さい。」
そう言うや否や、機械じみた口調のナダリ王女はすぐに衛兵に指示を出し、俺たちを立たせ、移動を始めた。
美姫先輩方は完全に空気にのまれ、言いなりだ。
俺はそんな美姫先輩方に合わせる。
それにしても今までの会話や空気から、やはりここは日本、否、地球じゃないらしい。
ガルハ王国なんて聞いたことないしな。
詰まる所、ここは異世界なのだろう。
認めたくはないが。
…何故だろう、とてつもなく嫌な予感がする。
階段を上がり、廊下にでると益々異世界な気がする。
中世の西洋風な作りで、所々に見た目高そうな壺とかが置いてある。
今の地球に、こんなあからさまなお城然としたところなんて、なかなかないしな。
そんな移動中に、完全復活を遂げた美姫先輩が俺のそばに寄って、小声で尋ねてくる。
「…将太、これはどういう事だと思う?テレビか何かの撮影か?私には聞かされてないが。」
流石は美姫先輩、よく見ている。
しかし、それは一般的な発想だろう。
サブカルチャーに手を出している人間なら、俺みたいに異世界だと予想はつくだろうが。
何となくの予想は俺の中ではついている――否、確信している――が、ここは黙ってるが吉だと思う。
「いえ、さっぱり。それにあまりにも情報が少なすぎるので、まだなんとも…。」
「…将太は随分冷静だな。」
感心されてしまった。
あれ?言葉の選択肢間違えたか?
「いえいえ。ただ現実味がなくて、思考を放棄してるだけですよ。」
あまりの勘の鋭さに改めて驚きつつ、苦笑いで返すとジト目が返ってきた。
解せぬ。
そこで視界に如何にもな扉が見えてきた。
「まあ、あの先で色々分かりますよ、きっと。」
美姫先輩は扉を確認し、溜息をはき、
「…どうせ今無理に聞いても、答えてはくれない、か。」
困り笑顔で確認してくる。
こういう察しの良いところが流石だ。
だからこそ唯一信用出来る。
そんなやり取りをしていると、扉の前に着いた。
「それでは謁見の間に入ります。勇者様方は私に続いて下さい。」
扉が開き、謁見の間にナダリ王女が入って行く。
それに続き若干緊張している美姫先輩、カチコチな金木先輩たち、俺の順で入る。
さて、嫌なパターンにならないのなら良いんだけど。
ストック切れ。