000 過去×現在=プロローグ
初めまして。
さようなら。
とある夏の某月、某日。
日本という国の田舎の某所。
古びているが手入れの行き届いている、板張りの床の道場。
壁には木刀や竹刀、竹槍のような殺傷能力の低い武器から、真剣や鉄製の槍、鎖鎌などの殺傷能力の高いものが、立て掛けられている。
しかし、その道場の床、壁、天井の至る所が所々赤黒く汚れている。
その中心には、二人の人間が立っている。
「…よくぞ、境地まで、来たな…。」
一人は、真剣を手に持ち、息荒く肩で呼吸をし、途切れ途切れに言葉を発し、辛うじて立っている老人。
が、その目は相手を見据え、爛々と光っている。
「……。」
片や、手に同じ真剣を持ち、息は荒れているが、無言で、だがまだ余裕がありそうな少年。
が、その目は相手を見つめているが、どこか戸惑いの残る瞳をしている。
「…っ、師匠!!他に…他に方法はないのですか!?」
「なんじゃ?まだ腹を括れんの、かっ!?」
少年は首を振り絶叫し、老人はそこに隙を見い出し少年に迫り、刀を上段から振り下ろす。
それに気づいた少年は、老人の一振りを刀を顔の前に持ってきて、間一髪防ぐ。
そのまま両者、動くことができず膠着状態になる。
「なぜ…何故師弟で殺し合わねばならないのですか!?」
そこで再度問いかける少年。
それに対して老人は、上から圧をかける。
「…これは儂らが流派の掟。いい加減腹を括らんかい!」
「くっ…。あああぁぁ!!」
少年は力一杯振りぬき、老人を後ろへ後退させる。
思わずその時膝を着く老人。
そこに思わず駆け寄ろうと少年はするが、老人に手で制される。
「…来るな。…儂も乗り越えた壁じゃ。お主に越えられぬはずはない…。故に越えてみせよ、将太よ!」
ふらつきながらも、自力で立ち上がる老人。
「…それしか。それしかないのですね、師匠…。」
二人は道場中央で再度、向き合う。
「…分かりました。…僕…いえ、俺が…継ぎます。」
少年の目からは戸惑いが消え、覚悟のこもった瞳になり、構える。
老人はその目を見て、一瞬だけ微笑み、覚悟を決め、構える。
お互い、斬る覚悟と斬られる覚悟を。
「…柳葉流を…頼んだぞ。将太。」
「…はい、師匠。」
一瞬の静寂がその場を支配する。
少年の頬を涙が伝い、落ち、床に着く。
まるで打ち合わせをしたようにそれが合図になり、その瞬間に両者は飛び出した。
そして―――
「おい、将太。起きるんだ。」
「…ぅんあ?」
そこで俺は起きた。
「あっ、会長。すいません、寝てて。」
目の前には態々起こしに来てくれたと思われる呆れ顔をした生徒会長がいた。
「様子を見に来てみればこれだ。私が来なければまた遅刻だったのではないかね?」
「いや、あー、そうだったかもしれませんね。あはは…。」
自分でもその予想が当たっていただろうと思い、頭を掻いた。
その様子を見ていた会長は首を振りながら溜息をつく。
「全く…。どうせこれ以上言った所で直りまい。行くぞ。」
「毎度毎度申し訳ないなぁ、とは思っているんですけどね。」
会長の言うことが図星過ぎて、苦笑いするしかない。
会長が背を向け教室から出ていったので、俺も荷物を持って後を追い無人の教室から出る。
その時ふっ、とさっきの夢を思い出し。
「…久しぶりに見たな、あの夢。」
「うん?何か言ったか?」
思わず独り言が漏れたようだ。
この年で独り言とは恥ずかしい。
顔には一切出さないが。
「あ、いえ何でもないです。」
「そうか。皆待っているだろう、早く行くぞ。」
「はい、分かりました。」
俺と会長は三人が待つであろう生徒会室へ向かう。