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 「助かったよ」

と僕は渡されていたバスローブを着てバスタブから出た。彼女は首を振ると煙草を勧めてくる。僕はそれを遠慮すると、ベッドに座った。僕にはもう必要の無いものだ。

「でも本当に助かった」と僕は改めて礼を言った。

「いえいえ、お気になさらずに。お節介はいつものことですから」と彼女は笑う。


 雨の止んだ夜の八番街を彷徨っていた僕はどうにか一人の女性とすれ違い、彼女に風呂を貸していただきたいと懇願するとそれだけでなく一晩だけ泊めて貰えることになった。

 八畳一間程度の彼女の部屋は橙の照明で照らされていて、ベッドと机に一つだけはめ殺しのくすんだ窓があり、その向こうには電線街が見えた。ベッドに仰向けになるとコンクリート剥き出しの天井が見え、寒さが込み上げる。

「でもどうしてこんなところへ?」と仰向けになった僕を覗き込むようにして聞いてきた。

「帰郷なんだ。でも街がかなり変わっていてね、道に迷ってしまった」僕は情けなく云う。

「そうですか。確かに私がここに来た頃に比べたら街はだいぶ変わりましたね」

彼女の微笑む顔に僕はつい目をそらす。

「でも昔ここに住んでいたようには見えませんね」

彼女が顔を持ち上げたので僕も身体を起こした。

「どうして?」

「ここの人たちは……そう狂っているから」

「……僕だって狂っているさ」

「そうですか?」と彼女は不思議そうにこちらを見る。

そうさ僕は狂っている。


 それから彼女は自然に身を寄せ、僕の身体をバスローブ越しに触れた。僕の向いている真正面のベッドの上に座り込み、彼女は僕のおでこに自分のおでこをあわせる。彼女は僕の頬に手を添え、唇を重ね舌で僕の口のなかをまさぐる。それから彼女は行き場をなくしていた僕の手を自身の腰に置き、下着のホックを取るように指示する。僕は仕方がなく下着との服を脱がすと彼女の綺麗な肌は橙の照明に照らされ艶かしく光った。どこか幼い体つきに僕は欲情を隠せず、今度は僕の方から彼女の唇を奪う。火照っていく彼女の体温を感じ彼女の顔を見れば、今までのきっちりとしていた顔は崩れ、惚けた瞳と開いた口に幼さが見える。

 ベッド運びから煙草の勧め方まで大人びて見える行動とは裏腹に、素直に火照りあどけない表情をする彼女からは、どこか妹のノエルと同じ匂いがした。

「君の歳は?」

「女性に歳を聞くなんて、礼儀知らずですね」と彼女は微笑んで云う。

彼女は目を瞑ったまま僕をバスローブ越しに抱きしめ押し倒した。

「二十くらいから数えるのをやめました。来て少し立ってからだから……」

「二十四くらいか?」

「その位って事にしておきましょう」彼女は僕の頬に自分の頬を摺り寄せる。

「ずいぶんと曖昧だね」

「曖昧なくらいがちょうどいいんですよ」彼女は耳元で囁くと微笑んだ声がした。

「だってハッキリした事なんて何一つ分からないのですから」


 「昨日クソッタレな夢を見たんだ」

彼女はそそりたつ僕のに無造作にしゃぶりつく。

「臭くないかい?」彼女は首を振る。

「夢のなかで気がついたら、僕のが立ったままベッドに寝転がっていた。勿論裸で。僕はそのまま動けないから金縛りかなって思ったんだ。でもよく見れば天井がコンクリート剥き出しでね」僕は天井を見る。

彼女は聞いているよ、と云うように僕のの頭の部分を舌で舐める。

「そう、僕の寝転がっていたベッドが実家のベッドだって気がついた。それから僕自身も実家に住んでいた頃の身体になっていてね。すると誰かが僕のをくわえ始めた」僕は目を閉じる。瞼の裏にはまだ街で見た少女の姿が焼き付いていた。

「くわえていたのは死んだはずの僕の妹のノエルだった」

目を開けてしまえば少女の姿が消えてしまうんじゃないか、と僕は怖くて目が開けられなかった。

「ノエルは僕のそれをくわえているだけでなにもしない。僕は必死に身体を起こそうとするんだけど、うんともすんとも云わない」少女が写る瞼の中で僕は続ける。

「すると動かない間にノエルは僕の知らない男に犯されてしまうんだ。僕は必死にもがいて、せめてと思ってノエルの首を絞めようとするんだけど、その前に僕の義理の母がノエルの頭を撃ってしまうんだ」飛び散ったノエルの顔からは、クリノハナの臭いとそれを隠すために塗りたくったパルファンの臭いがした。飛び散った赤と脳ミソが僕のに触れて僕は絶頂を感じる。





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