15話 登録 その2
ちょいとスランプ気味。
うまくかけたか心配ですが、大目に見てください…………。
こんな事になるのならあの五年間は家でじっとしているべきだったか?
俺は貫在家に無理やり保護されてから一年間は義兄姉妹たちと馴染む為にあまり外には出なかった。が、さすがにこれ以上引きこもっていたら体が鈍ると思って、偶に外出して狩りを楽しんでいたんだが…………まさか『黒幻』なんて恥ずかしい通り名が付いてしまうとはな。
今、激しく後悔している。
だが、別にそこまで困った状況でもない。『黒幻』の正体が俺とばれるほどの決定的な証拠もないわけだし。
もし訊かれても適当に否定しておけばいい。そう思った俺は特に反応を見せなかった。
「で、マジな話、恭也は『黒幻』なのか?」
弘斗だけじゃなく、周りの視線のほとんどが俺に集まってきていた。
ちょうどいい機会だな。皆の前で否定しておこう。
「そんなわけないだろ? 確かに俺の黒髪は珍しいかもしれないが……まず『黒幻』が持っているって言う刀なんて知らないし、第一、俺はそんなに強くない。なんてったってFクラスだしな」
そう言ってから周りの様子を窺うと、冒険者たちは納得や落胆の色を見せ、各々の会話に戻っていった。璃緒もふ~ん、とか何とか言って頷いてくれた。
しかし、分かっていたことだが《漆黒》のメンバー、残り二人は俺に疑惑の視線を向けてきた。
仕方ないけどな。
何せ真唯には俺がBランクの魔物をやすやすと倒す場面を見られているし、弘斗には教員の情報を探る事を依頼してしまっている。そんな奴がただのFランクと思うほど、真唯も弘斗も馬鹿じゃないと思う。
だが今は無理やりでもこの理由で納得して貰う他ない。
ということで。
「それじゃ、早く登録を済ませよう」
俺はこの『黒幻』の話を誤魔化すため、さっさと受付で登録してしまおうと三人に一応声を掛けてから、カウンターへ向けて足早に歩き出した。
☆★☆★☆★☆★☆★
「あの、すみません」
俺はカウンターの向こうに座って事務仕事をしている、栗色の髪を背中の中ほどまで伸ばした、十分美人の部類に入る顔立ちの女性に声を掛けた。
「あ、護神騎士学校の生徒さん達ですね。登録ですか?」
彼女は大変、感じのいい笑みを浮べて応えてくれた。
「はい。このメンバーでチーム登録したいんですけど」
「わかりました。登録の前にギルドについての説明は必要ですか?」
多分、この人に訊かなくても弘斗あたりが教えてくれるだろう。だが、一応本職の人から聞いておいたほうが良さそうだ。
「お願いします」
「はい。えーギルドは主に冒険者――――依頼を受けて報酬を貰って生活している人たちのことですね――――の人達へ国や民間からの依頼の斡旋を請け負っています」
そのくらいはさすがに知ってる。
「依頼の内容は国などからの魔物や賞金首の討伐依頼、素材の採集、要人や商隊の護衛、近隣住民からのちょっとしたお願い、の大体四種類に分けられます。ですが例外として国でも対処しきれないような災害が起こった場合、ギルドに所属する冒険者は拒否権なくその依頼を受けなければいけませんので、あらかじめ知っておいてください。そして、依頼にはそれぞれランクが設定されており、高い順からU、SSS、SS、S、A、B、C、D、E、Fとなっています。このランクは冒険者の方にも設定されていますのでそれを目安として依頼を受けてもらいます」
Uランクのヤツと戦ってみたいな……。
こんなことを思っていると栗毛の彼女が俺の心をまるで読んだかのようなタイミングでこう続けた。
「まあ、Uランクの人なんて今までいた事が無いですし、SSSランク以上の依頼なんて滅多に入ってきませんけどね」
これはあんまり知りたくなかった事実だな。おかげで今後のこの世界に対してのモチベーションが下がった……。
「依頼は自分のランクより一つ上のものしか受けられません。ランクを上げるにはその一つ上のランクの依頼を五回連続で成功させることが条件となります。逆に五回連続失敗で一ランク下がります。Fランクの人は三万円の罰金です。チームで受ける場合、その中で一番低いランクの人の二つ上のランクの依頼を受けることが出来ますが……一つ上でも二つ上のものでもランクは一つしか上がりません。二チーム以上で受けることも出来ますがその分報酬が減りますし、ランクも上がりません」
数で押せば依頼はクリアできるがメリットは減るって事か。
「Aランク程になればギルドや国、依頼主側から指名があったりしますからね。その場合、報酬は通常よりかなり多くなります。ですのでみなさん、がんばってランク上げてくださいね?」
「がんばりましょうね、恭也さん!」
真唯がやる気満々の笑顔を見せてくるが……
「ああ……」
悪い、真唯。俺、あんまりがんばれない。
なぜって受付の彼女の言うAランクになってしまえば国どころかギルドにまで目を付けられてしまう。そんな面倒ごとはごめんなんだよ。
「? それでは登録に移らせていただきますね。このギルドカードに血を一滴、垂らして下さい」
やる気なさげな返答をした俺に、受付嬢は一瞬不思議そうな顔つきになるも、すぐに元の営業スマイルに戻って四人分の銀色をしたカードと針を取り出した。
と、ここで璃緒が
「あ、私はもう登録してるからいいですよ」
「そうですか。それは失礼しました」
受付嬢は申し訳無さそうな顔して謝った。
「ではそちらの三名様、どうぞ」
「うわ、俺こういう自分で自分を傷つけるの苦手なんだよな……」
「なに、顔に似合わないこと言ってるんですか、正山君」
「君も顔に似合わず結構ひどいこと言うよね……」
真唯と弘斗のやり取りを横目に俺はさっさと指に針を刺してギルドカードに血を垂らした。
カードが薄く光りだし……収まったときには既に文字が表示されていた――――――――
* * * * * * * * * *
[氏名]
貫在 恭也
[ランク]
F
[称号]
<全距離戦闘者【コンバットエキスパート】> <刀神> <魔術戦闘者> <闘気の神髄を極めし者>
<銃火器戦闘の達人> <超能力者> <龍殺し【ドラゴンスレイヤー】>
<悪魔殺し【デビルキラー】> <究極転生者【アルテマチェンジャー】>
<大虐殺者(正)【スローター】> <異空間の創造主> <異世界渡行者【ユニバースウォーカー】>
<理破り【イレギュラー】> <神の協力者> <如月> <生命を与えし者>
<グロワール王立護神騎士学校一年生>
* * * * * * * * * *
――――――!!??
…………なんだこれ……!
称号の意味は分からなくともヤバさはわかる。これはまずい!
これを見られたら最後、今までの努力が水の泡になるどころか、その水ごと蒸発しちまう…………。
「ギルドカードは主に身分証として使われたりします。今、カードに表示されている情報は貴方たちが今、この場所に至るまでのすべて「魂の力【アルマ】」によって読み取ったものです」
つまり転生前のことも問答無用というわけか。だからあの滅茶苦茶な称号が俺のギルドカードには並んでいるのか。
だが……明らかにおかしいのがあるな。
<神の協力者>
コイツはなんなんだ。
俺は神に会ったことすらないぞ。
どうなってる。
というか密かに<如月>が入ってるし。
「氏名の欄にはそのまま氏名が、ランクは当然最下位のFになってますね? 後は称号についてですが……称号の欄にはその人の実力や経歴、所属などを表す名称や資格などが表示されるはずです。魔法を使う人なら<魔術士>とかですね。依頼を受けるときに、特定の称号の有無が条件となっている場合があるのでご注意ください。あと、この称号は犯罪者の捜索にも使われています。犯罪者はそのまま<犯罪者>の称号を授かっていますからね。主に関所などでの検問でチェックが行われています」
もし見られたら牢獄行きじゃなくて研究所行きになりそうなんですけど…………。
受付嬢は俺の心中などお構いなしに、淡々と説明を続けていく。
「ですが、別に犯罪者じゃなくてもギルドカードを見られたくない人もいます。珍しい称号だから騒がれそうで嫌だ、とか、高ランクなのを知られたくない、とかですね。ですのでそういう人のために、ギルドカードには秘匿機能があるんです」
ナイス!
誰か知らんがその機能考えた奴、よくやった。
このままだと碌に動けなくなるところだったな……。
「使い方は簡単で、他人に見せたくない称号、またはランクの部分に『消えろ』と念じながら指で触れるだけで大丈夫です。逆に『表れろ』と念じれば戻ります」
よし、使い勝手のいいものでよかった。
早速、消しまくろう。
称号の部分がまっさらになってしまうが仕方がない。
「そして、特定の称号の確認をするにはこの水晶を使います」
彼女はカウンターの上に拳大の水晶を置いた。
結構な大きさの魔力を感じる。
「では犯罪経歴調査と同時にチーム登録も行いますのでギルドカードを」
チーム登録なので璃緒も俺たちと一緒にカードを差し出した。
俺のカードを手に取ったときに、訝しげな顔をされたが称号を見られるよりはマシだ。
「はい……では」
受付嬢は合計四枚のギルドカードを受け取ると水晶の上にそれらを翳し
「称号<犯罪者>」
彼女が言葉を発した途端、見た目には変化が起こらなかったが、水晶に込められた魔力が活発に動き出すのを俺は感じた。
が、水晶には何も起こらず魔力の活動は収まった。
「皆さん全員問題ありません」
「ふうっ」
受付嬢はがカードを置いて安心させるように言うと弘斗の安堵の息が聞こえた。おそらく学校などでの情報収集の行為が引っかかっていないか心配だったんだろうな。
「それではチーム登録のための必要書類を記入しますのでもう少し待ってくださいね」
それだけ言うと彼女はすぐに下を向きペンを走らせ始めた。
「そういえば、璃緒さんはどのくらいのランクなんですか?」
受付嬢が書類を書いて暇になったこの時間、真唯が疑問を口にした。
「私? Cランクだけど」
璃緒は何てことないように返答したが真唯はそうはいかなかった様で目を丸くして驚いていた。
「C!? Cランクの定義って確か……熟練の冒険者二、三人分に相当するレベル、でしたよね」
後から聞いたことだが、真唯によると冒険者のランクのそれぞれの定義は次のようになるらしい。
F――〔新米の冒険者一人分に相当するレベル〕
E――〔新米の冒険者二、三人分に相当するレベル〕
D――〔熟練の冒険者一人分に相当するレベル〕
C――〔熟練の冒険者二、三人分に相当するレベル〕
B――〔一流の冒険者一人分に相当するレベル〕
A――〔一流の冒険者二、三人分に相当するレベル〕
S――〔一国家の騎士団に一人で戦い勝利できるレベル〕
SS――〔一国家の軍に一人で勝利できるレベル〕
SSS――〔この大陸全土の軍に一人で勝利できるレベル〕
U――〔測定不能〕
……べつにUランクじゃなくてもいいな。
SSSランク、どこかにいないかな。
「すごいじゃないですか!」
「Cランクとは……水野相手だと悔しいが、そこだけは認めてやろうじゃないか!」
弘斗もこの事実は知らなかったらしく、多少は驚いたようで珍しく璃緒を賞賛した。
もちろん俺もご多分に漏れず、しっかりと褒めた。
「ああ、全くな。さすがだ」
璃緒がつかえる「力」は闘気一つだというのに、なかなかやるな。普通人にしては、だけど。
「そんなことないって。そんなに褒められたら照れちゃうよ」
えへへと照れくさそうに璃緒は笑った。
……可愛い。
「お待たせしました。個人登録、チーム登録、終わりました」
四人で適当にしゃべっている間に手続きが終わったようで、ギルドカードを返される。
「はい、これで皆さんは冒険者ギルドの一員になりました。今からでも依頼を受けられますがどうしますか?」
壁に掛かった時計を見ると11時。
今から受ける依頼がどんなに簡単なものでもさすがに一時間じゃ帰れないだろう。12時にはあの馬鹿との「決闘」が控えていることだし、やめておこう。
「今日はやめておきます」
真唯達だって事情は知っているだろうからわざわざ余計なことを聞くのはやめておいた。受けなかったからって「何で受けなかったんだ!」なんて怒られる訳ないし。
「そうですか。ではこれから冒険者としてがんばって、沢山の依頼に励んでくださいね」
そう言ってから彼女はきれいな姿勢で頭を下げた。
「はい。これからよろしくお願いします」
軽く頭を下げ、俺達はギルドを後にした。