14話 登録 その1
3/30 文化と魔法についての記述を変更させていただきました。
「り、璃緒さんっ!? そんなわけ無いじゃないですかっ。私と恭也さんは別に……」
「ああ、そんな訳が無い。俺と真唯は断じてそんな関係じゃない」
顔を真っ赤にして焦った真唯に加勢するように、俺は真唯との関係についてきっぱりと否定した。
俺はただ、至上の強さだけを求めて、何度も何度も人生(転生)を繰り返すような戦闘馬鹿なんだ。そんな頭のネジが五、六個足りない奴と噂されるなんて、迷惑でしか無いだろう。
しかも六年前にたった一度会っただけなのだ。恋愛感情など発生するはずが無い。いや、これは別に俺が真唯のことを嫌っているとかそう言うんじゃない。真唯の方が嫌がるだろうと、そういう事なんだ。
だが真唯は俺の予想とは違う反応をして見せた。
「え、え――。そんなにはっきり断言しなくても……」
真唯はショックを受けたようで、顔を俯かせ悲しそうな表情で両手の人差し指同士を突き合わせては、離すを何度も行っている。
どういうわけだ? そこは安心して喜ぶべきじゃないのか?
俺の困惑を他所に、見かねた(何を?)弘斗が真唯のほうに近寄り、慰めようと声を掛けた。
「真唯ちゃん、気にすること無いって。あいつの発言は鈍いだけだから。大丈夫、まだ脈はあるさ。俺は応援してるよ」
「ありがとうございます……。私、貴方の事は虫にさえ劣るクズだと思っていたんですが……、誤解だったんですね……ごめんなさい……」
「なぜ今言った!?」
「正山君…………貴方はいい人ですね……」
「なに『別に気にしてないさ』みたいなこと返された雰囲気になってんの!? 全く許せないんだけど!?」
……まあ、こんな掛け合いが出来る位なんだから元気にはなれたのだろう。
その間、璃緒は何かを考え込むような顔で顎に手をやりブツブツ呟いていた。
「……他に彼女がいるっていう理由は出さなかったということは恭也君、今フリーなんだよね……! 私がアタックしても友達からの横取りにはならないよね……うん、うん!」
仕舞いには笑顔になって何度も頷いていた。
……俺、攻撃されるのか?
☆★☆★☆★☆★☆★
そんなことを喋っている内に、いつの間にか一階に辿り着いていた。
靴を履き替え外に出ると、そこには縦三メートル、横五メートルの白く輝くアーチ状の門があった。
これは「移動門」というもので、転移魔法に並ぶ長距離移動手段の一つだ。しかし、これは魔法とは違うもので、「力」では動いていない。別の『ある力』が原動力となっているのだが…………この世界では大多数の人間がその正体を知らないようだ。
――――古のときから存在する秘術で、この学校の「移動門」は神より授けられしものである。
今のがこの学校にあった「移動門」に関する記述だ。……よくもまあこんなふわっとした言葉を信じられるものだ。だが現に、この説明をこの世界の人間達は信じているらしい。誰も不思議の思っていないみたいだからな、真唯たちを見たところ。
ちなみに、なぜ俺がこんなことを知っているのかというと、昨日のうちに俺の本物が調べ当てたからだ。
何か真っ白いもので薄く満たされている「移動門」をたくさんの生徒達が俺たちの目の前で出たり入ったりしていた。
「そういえばチーム名はどうするの?」
璃緒がふと思いついたように口を開いた。
「そういえばまだ決めてませんでしたね」
「カッコいいのにしようぜ、せっかくだから」
何がせっかくなのか。
いや、それ以前に俺には不安なことが一つある。
それは……。
「《諍いの火種【クォーラルシード】》なんてどう?」
「《闘争への飢え【コンバットスターベイション】》だろ!」
「いや、ここはあえて単純に《真紅【クリムゾン】》、または《真紅》で行きましょう!」
……もうお分かりだろう。
そう、この世界の人間は若干、厨二病が入っているんだ……。
いや、この世界だけじゃない。科学のエクシト――つまり地球以外の異世界すべての者たちがイタいんだ!
おそらく「力」のせいで皆が非日常の住人になっていることが原因なんだろうが…………いくら転生したって俺は元は地球、それも日本生まれなんだ! ……これだけには慣れることができなかった……。
俺がこんなことを考えている間も真唯達三人は平然と話し合っている。
「あ、良いかもねー、真紅」
「でしょう!?」
璃緒は真唯の意見に心が動いたようだ。
真唯も嬉しそうに目を大きくして応じている。
「え~いいじゃねえかよ~、《闘争への飢え【コンバットスターベイション】》」
弘斗が口をを尖らせすねた顔でつぶやく。
璃緒が弘斗の顔にキモッ、と一言。
そしてそのまま意見の否定に入る。
「いやよ。だってあんた、言葉の響きで決めたでしょ」
「ちぇー」
それを言ったら真唯のだって語感だけっていうかノリで決めていたんじゃないか?
「あ、これなんて良くないですか? 恭也さんの黒髪黒目にちなんで《漆黒》!」
真唯がさも名案!と人差し指を立て、こっちを向いてきた。
俺に意見を求めないでくれ!……というのが本音だったが……璃緒や弘斗のよりはマシだったので賛成票を投じた。
「いいんじゃないか?俺にちなんで、というのが恥ずかしいが」
俺は目を逸らしながら頬をポリポリと掻いた。
「確かにこの中じゃ一番まともな理由だよね。うん、私は好きだな」
「ああ。いいんじゃね?」
璃緒は《漆黒》を気に入ったようだ。弘斗も《闘争への飢え【コンバットスターベイション】》(笑)への執着を無くしたらしい。
「それではチーム名は私の《漆黒》を採用するということで、決まりですね!」
瞳を輝かせ笑顔で宣言する真唯。
「じゃあ早速……チーム《漆黒》、ギルドに目指して出発!」
勝手に号令をかけて弘斗は「移動門」をくぐって行った(「移動門」はあらかじめ設定された行き先の中から通行者の心を読んで出口を繋げる)。
「だからなんであんたが仕切るのよ。しかも出発って、もうある意味目の前なんですけど」
璃緒はしっかりとツッコんでから弘斗の後に続いた。
「恭也さん。私たちも早く行きましょう」
「ああ、そうだな」
俺と真唯は二人そろって「移動門」をくぐった。
☆★☆★☆★☆★☆★
真っ白い空間から一秒も掛からず抜けるとそこは、人の喧騒の溢れる全く別の場所だった。まさに現代日本から中世ヨーロッパにタイムスリップしたかのようなつくりだ。
まあ、それはあの学校のほうが異常なせいだが。
これも昨日の内に本物の俺が調べた事だが…………あの学校は神が創ったらしいというのは前にも言ったが、制服や鞄などの所謂、科学技術の産物も毎年人数分授けてくれるそうだ。
これが意味することは即ち、この世界にある「科学」はこの世界の人間が築き上たのではなく、ほとんどその神のお陰、ということだ(この世界で言う「科学者」とはその神から授かった物を研究する人のことをいうらしかった)。
つまり、簡単に言えばこの世界は{「魔法と闘気と能力の世界」でそこに神様が無理やり科学をぶち込んだ世界}ということになる。
問題は、なぜ神がそんな真似をしたかだ。それがあの図書館で分かると良いんだが…………望み薄だろうな。護神騎士学校は神のお膝元らしいしな。
だがもし、神とやらが人間を良いように使おうとしてるなら…………俺が――――――・・・。
俺は誰かに利用されるのは大っ嫌いなんだ。
――『あの時』と同じ悲劇は二度と起こさない。
――俺はもう力不足なんかじゃない。
――俺は誰にも屈しないんだ。
――――例えそれが『神』であろうと。
「……さん。恭也さん。怖い顔してどうかしたんですか?」
真唯の訝しげに名前を呼ぶ声で我に返った。
「……ッ。いや、なんでもない。ちょっと考え事をな」
「そうですか。ならいいんですけど」
それにしても、と真唯は続け、
「ギルドって結構広いんですね」
辺りを見回して素直な感想を述べた。
たしかにギルドは中々の広さだった。おそらく千人くらいは余裕を持っては入れるのではないだろうか。
俺たちの出てきた場所は二階分ぐらいの高さの巨大なホールで、たくさんのテーブル席が並んでいた。
制服姿の学生達や、傭兵らしきゴツイ鎧の筋肉質な男ども、黒いローブの性別不明な人影、果てはスーツを着た綺麗な女性など(全員もちろん武装済みで)実に様々な格好の者たちで席の六割方が埋まっていた。
「移動門」から出てきた俺たちから見て後ろは当然「移動門」、その左隣にはギルドの出入り口が、そして両側の壁には大きな掲示板があり、A,B,Cなどとランクごとに分けられた依頼の書かれた紙が、所狭しと画鋲で貼り付けられている。正面の奥にはカウンターがあった。それは中央から無骨な壁で仕切られており、見たところ右が依頼の受付で左が料理の注文の受付らしい。見ればウェイトレスらしき女の子たちがお盆を片手にテーブルとカウンターの間を慌しく行き来していた。
「私は来たことあるけどね。ギルドにも12歳くらいのときに登録してたし」
「俺も登録はしてないけど野暮用で何度かね」
だからこの二人はさほど驚いていなかったんだな。
というか璃緒、登録してるならそういうことは普通前もって言うだろ。
――――と、周りの冒険者らの視線が俺達、いや、正確には俺に集中してきた。
原因は多分俺の黒髪黒目の容姿だと思うんだが……それにしては反応が大きい気がする。
「おい、あそこにいる黒髪のボウズって……」
「言いたい事は分かるわ。『黒幻』の正体って言いたいんでしょ?」
「たしかに、この辺じゃ黒髪なんて見かけないしな」
「だがまだ子供じゃないか」
「全然強そうに見えないし、刀も差してないな」
「ていうか、そんな事よりあの子……中々イケメンじゃない?」
「今はそんな場合じゃないでしょ! ……その意見には同意だけど」
「…………思ったんだが噂通りの『黒幻』ならギルドにこないんじゃないか?」
……半端なく厄介ごとのニオイがするな。
そして厨二な二つ名『黒幻』。
どっちもヤバそうだ。
「あ! そういやすっかり忘れてたけど恭也なら……」
「たしかに! 恭也君、結構当てはまること多いかも……」
「え? な、なんなんですか? 私にも教えてくださいよ!」
何か知っている風な様子の二人に、周りの話に不思議そうに耳を済ませていた真唯が尋ねる。
俺も気になった。
当たり前だろう。ある意味、当事者っぽいしな。
「あれ、二人とも知らないの?」
「ああ。『黒幻』ってのは?」
意外そうにこちらを見てくる弘斗に俺は質問した。
弘斗は淡々と『黒幻』について、知っている情報を教えてくれた。
「『黒幻』っていうのは、AランクやSランクの魔物を狩り続けている、5年前位から登場した謎の冒険者なんだ」
ふむ。
「で、ギルドカードで個人情報管理がされている冒険者のはずなのに、なぜ謎なのかというと……なんと『黒幻』はギルドに登録していないらしいんだよ」
うん?
「え? でもそれじゃあ依頼は受けられないんじゃ?」
「そう、その通り。だからコイツは依頼なんか受けていない。勝手に狩って――って駄洒落じゃないよ? ――――るんだ」
…………。
「どういう事ですか?」
「こういうことだよ。あ、今から話すのは『黒幻』を見たって言う数少ない目撃者のうち一人から聞いたことなんだけどさ、ある日、自分がAランクの討伐系クエスト受けて現場に向かうと、黒髪で黒い服の黒い鞘の刀を差した青年がすでに目標の魔物を倒していたんだと」
…………。
「つまり『黒幻』さん?は無意識の内に冒険者達のクエスト横取りしちゃってるって事ですか?」
「そゆこと」
「でも、こんな事してて恨まれていなくて、寧ろ畏怖されているのは、五年間もそんな無茶を続けられているからだよね~」
…………。
「……じゃあ『黒幻』っていう名前の由来は?」
「黒の方はその全体的に黒い外見。幻の方はその存在がギルドでは確認されていないのに、冒険者達の間では畏怖という形で認められているから、実態が無いって事で幻らしい」
…………。
「へ~。よく考えられていますね」
「だよね~」
「でさ、最近入った情報なんだけど…………何でも、半年位前に『黒幻』はさ、SSランクに近いSランクの魔物を倒してて、この国だけじゃなくて他国でも我先にって勢いで、ヤツを捜索しているらしくて、とっとと見つけて自分の国に召抱えようとしてるらしいんだよね。あくまで、噂だけどな」
…………。
「そんな人が本当にいるなら会ってみたいですね」
「うんうん♪」
「だよな~」
……………………。
………………………………。
…………………………………………。
…………どう考えても俺だな、そいつ。
3/31現在 種族とかを精霊とかを追加するかもしれません。
後から後から付け足してごめんなさい<(_ _)>