ダメ人間はサンドバック
ななこが持っている・・・・・・・・携帯?
違和感を感じてその携帯を見た。見覚えのある黒く、丸みを帯びた形に見覚えのあるシンプルなストラップ。
携帯を持っているのはかんな義姉とさや義姉だけだ。さや義姉の携帯は有姉が出かけに持つようになってからさや義姉は使っていない。しかもその二つともが白だ。ストラップは女子が好むような可愛いマスコット付きで、今ななが持っている物とは違う。
「結ちゃ~ん?ななちゃ~ん?携帯返してくれないかしら?」
階下から聞こえてきた声は母さん。・・・・・え?
「母さん帰ってるの?」
「ハァ?昨日言ってたし・・・さっきだってかんな姉迎え行って来るって言ったじゃん」
「だから勉強してないんだから。監視役いないから」
『聞いてなかったんだよ。ずっと上の空っぽかったし』
「和兄、きっと皆和兄が頼りになってくれるかとかそんなに期待してない」
結の言葉は結構グッサリと来る。わかってたさ、俺より義姉さんたちのほうが頼れるのは。
でも、多少はいいじゃないか。頑張ろうって意気込んだって・・・
「兄さんっっ!!早く母さんに顔見せてください!僕の精神がもたないからっっ!!」
翔が階下から命からがらというような大げさに疲れた顔をしながらやってきた。多分9割以上が演技だ。いつものごとく。
母さんと一緒にいて一番嬉しそうなのは翔だからな。
「・・・今すごく誤解をされている気がする」
「それはないよ」
ジトリとした目をこちらに向けている翔にしれっと言い返すとベランダを出た。翔のマザコンはほぼ100%真実で誤解ではないから。
ベランダを出て階下に降りる。
母さんが帰ってきたならやっぱちゃんと顔見せてあげないといけないしな。滅多に会えないんじゃ皆色々と話そうとするかもしれないけど、全員でいるこの賑やかさは母さんにとっては大事なものだと思う。
「母さん、お帰り」
「和ちゃん久しぶり~」
「母さんも相変わらずで・・・」
「お義母さん、和義兄がすごいぶつぶつぶつぶつ言ってるんだけど」
「きり義姉が美人だとか言ってたの、録音してあるから」
『消してあげないの、結城?』
「ちょっ、待て!そこも録音してるのかよ」
「うん、お母さんに聞かせるため」
「あぁ、私じゃなくて結が録音してたから。私も止めなかったけどね」
「ななこ!結!!今すぐ消せっ!!(汗)」
「事実そう思ってるって記録じゃん」
「とっておくな!聞かせるな!」
「墓穴掘ってるよ、和兄|(嬉々)」
「秋!」
「あらあら、そうなの~(ニヤニヤ)」
「母さん!!」
「・・・クスリ」
「ちげーよ!!きりかだけじゃねぇって!!ななこ!お前も聞いてただろ」
「癒しキャラはきり姉だ、って?」
「そう言ったのは和兄じゃん」
『結、苛めるのは程々にしないとかわいそうだよ』
「今更じゃん、可愛いとか美人とか言ってるの」
「兄さん、言うなら誰もいないときにしてください」
「恭兄と同レベル・・・・」
「きり義姉がかわいそう。このヘタレのダメ兄さんに・・・・」
『いやぁ、あながち間違ってもいないけど』
「だぁ!もう!!なんなんだよこの多勢に無勢は!!」
たとえ誰にも望まれてなくても俺はこの立場一人だけでも脱してやる!目指せ!脱・ヘタレだっ!!
賑やかなリビングの中で小さく意気込んだ。