おとなしそうでも恐ろしい義姉
苦笑した和茂の声に重なったのは(冗談抜きで)音もなく帰宅していたさやか。ただ単に気付いていなかっただけかもしれないが、いきなり現れたかのように喋られると心臓に悪い。更にかけている眼鏡のレンズは光が反射していてこちらからは目が見えない。その状態で部屋の前で仁王立ちしながら笑みの形にしているのは恐ろしいったらありゃしない。
今までの和やかムードが一気に消え、危険モードのサイレンが鳴りっぱなしになった。
「悪い、ちょっとトイ」
「隆がうるさいから黙らせてくれる?それと、秋と結はあれほど気をつけといてって言ったでしょ?」
和茂と共に逃げようとさやかの横をすり抜けようとして、(どこにあったのかわからないが)テニスラケットに阻まれる。そのままさやかは面倒事をあくまでにこやかに押しつけた。
仕方なく和茂はそのまま階段へ向かった。
「確かに隆星は多少突き放しただけでも文句を言う。けど、今回は素直に降りたんだぜ?うるさくするとは思ってなかったんだ。秋光と結城は別々の部屋で勉強することになってる。というか、自分の勉強していれば気をつけろもなにもないだろう?・・・って言えればどんなにいいことか・・・(溜息)」
『さやか、怖いしねぇ・・』
「それにどっから取り出したんだよ、あの昔の愛用ラケットは・・・」
『確かに・・・隠せる大きさじゃないのに・・・』
どこに隠していたのか、昔使っていた愛用のラケットを手に早く行けというかのようにドア枠を叩いている姿を見ればどんなにデカイ勇気も萎んでしまう。
従うのが一番の安全選択だった。いつものことだけど和茂って苦労してるよなぁ。