これからどうするか・・・・
ご主人様がオレをちょっとやそっとじゃ壊れないようかなり丈夫に創ってくれていると聞いている。それにそのご主人様の危険な実験で何度も死線を彷徨っていたから、壊れるということについての心配はなかったのだが、帰る手段がない。ここにタイムマシンはない。
あのタイムマシンは現在進行型でご主人様が創っている未完成品だ。どこが駄目なのかを調べるために残したものから地道に改良を重ねに重ねた物だ。ご主人様は既に20回は1週間を超える徹夜・断食・断飲をしている。没頭しすぎて2週間を超え、救急搬送のサイレンを近所に鳴り響かせる羽目になった。
その努力のかいあってか、後は時間を越える際にその物体がどこにあるのかが判るようなサーチやマーキングをつけるだけで完成らしいのだが、まだできそうにないらしい。本当に過去に行けるのか半信半疑だったが・・・実際、オレはこのように過去に来ているから、タイムマシン自体は完成品だ。
帰る為の装置も先にできている。過去に失われた書物を取り寄せるための物だけど、それを応用すれば改良もほとんどいらないと言っていた。それを使えば帰れなくもないのだが・・・・
『当たり前にこの時代にご主人様はいないし、あのバカが押したボタンがどれかなんか判別できないだろうな』
時間軸と場所の特定はおそらく困難だ。
ご主人様の事だからきっと履歴なんか寝ぼけてても(寝ぼけること自体ないけど)つけられるだろうけど・・・既に移動させたものを履歴に残すのは時間かければできるだろうが・・・・やっぱり無理だな。
だってオレのコピーの3体が先週、紀元前に飛ばされたはいいが居場所不明。過去に影響を残さないよう配慮し、3日後に上空へ昇って大気圏で摩擦を利用した発火での完全消滅をプログラムさせたもので見つからなかった2体が今は既に灰や塵となっているだろう。
あの時ご主人様はあらゆる計算をしていたが時間軸移動後に自由に移動させた2体の時間軸と場所は特定できなかった。あの時は指定位置で待機していた1体がなんとか見つかっただけ。
今回は時間軸も場所も何も指定していない。動いてしまえば帰れる見込みはあのコピー達同様0だ。
しかし、このままじっとしていても後2回太陽が沈む前にオレは充電切れで死ぬ。移動しないというのも無理だ。
ご主人様に賭けるか、生きるためにオレの時代と別れるか・・・
まぁ、自滅プログラムなんてついていないし、幸い携帯充電器は刺さったままだ。しかも充電器は、電気さえ流れていれば直流だろうが交流だろうが、超高圧電流だろうが一定値以上の電気が流れているなら端子を突っ込むだけで充電できる代物だ。つまり、オレ一人でもできる。だからどっかの家のコンセント、もしくは電池を拝借すればいい。
ご主人様に会えなくなるのはかなり寂しいが、下手すればご主人様達、オレがいなくなったのに気付くのに数日かかりかねないからなぁ。あのバカに任せてるからって安心しきってるだろうし、あのバカはバカだから叩かれた事で絶対数日は呆然としてるだろうし・・・。
『よし、移動しよう』
オレはあっさりとあの時代を諦めることにした。未練はご主人様だけだ。でも、あの危険な実験につき合わされるのは正直勘弁だったからちょうどいい。寂しければオレのコピーを作るだろうしね。あのバカはむしろ会わなくて清々する。
充電さえできれば別に何も必要な物はない。服は多少汚れるだろうが、水さえあれば自分で洗える。オレは完全防水だしな。厳禁なのは・・・・・・薬物も平気だし・・・電池切れぐらいだな。
携帯充電器はあるが、すぐに充電できるとは限らない。こまめにして置くのが無難だろう。何人か許してくれる人を頼ってウロウロするのがいい。そう思ってオレは了解してくれそうな人を探したが・・・
『もしかして、この時代の人ってオレの事見えてない?』
先ほども言ったがオレの身長は約15センチ。ちょっと細身だけど青い服に薄い青の結構立派な羽のおかげで存在感はあると思う。人間の顔の前を飛んでいるのに、そのまま気付かずに歩いてぶつかりそうになっている。そのたびにオレが全力で避けているのだ。
これでは連れ帰ってくれる人は見つかりそうもない。泥棒みたいで正直嫌だったが、都合よく開いている窓から侵入するしか方法はないようだ。そのためにもこの辺のことも知らないとな・・・。
『うわ、時間かかりそう・・・』