受験者の通学
全員が立ち上がるとみさきが通学用鞄を手に持ち、きりかとななこの分を渡す。
和茂は秋光をちらりと見ながら自分の鞄と共に結城のを一緒に持った。
まだ痛むのだろう、よろよろと秋光は歩きながら自分の荷物を背負う。
結城はいまだにショックがあるのか、いつも以上にどす黒い不機嫌オーラを出しているが和茂に頭を軽く下げて感謝と謝罪の意だけは示した。
「ありがとう、和兄。後、ぶつけてごめん」
「ん、大丈夫。かなり痛かったけど」
そうして受験組は家を出る。オレは留守番したり、ついていったりとその日の気分で決めているが今日は朝だけはいようと思う。授業が始まったら邪魔になってしまうから帰ろうと思うけど、せめて結城の傷を少しは癒してあげたい。
中学は、高校へ行く道の途中だ。普通の道を秋光中心に普通に話しながら、普通に歩いていく。が、今日はあんなことがあって今も秋光は静かだ。元気でもななこと和茂が近づかせなかっただろう。
中学校の前で結城は持ってもらった荷物を受け取って門をくぐる。その後ろを回復した秋光が追うと、またも蹴りを今度は腹に入れられてその場に蹲る。そのまま無視して結城は教室に向かう。その頃には先に来ていたるりこ達も朝練を終えて片付ける頃だ。
中学から更に歩けば、偏差値やや高めだが平凡な高校がある。そこまでの道のりは先ほどとは違い、口数がかなり減るらしい。うるさい秋光がいないために、話すことも人もないようだ。和茂が先に行くと、受験勉強で鈍ってしまう身体で制服のまま、荷物を持ったままで、全力疾走で走り去っていくのが後ろを振り向けば見える。
きりかとみさきは少し歩くペースを速める。走らなくても遅刻はしないだろうが、余裕を持ちたがる2人は先ほどに比べると速く歩き始めた。
着く頃には翔平と恭助もきっと部活を終えて教室にいるだろう。
「ハァ・・・」
『大丈夫?オレは授業始まったら帰るけど危険になったらすぐ逃げて』
「・・・頼りになる仲のいい味方は上の階のクラスしかいねえからなぁ。先生だって呆れて相手にしねえし。いつもの子は休んでるしよぉ」
『・・・(冷汗)』
「まっ、いつもどおりなんとかなるさ。フェイ、さっきはありがとな。嬉しかったよ」
全然興味が湧かない面倒な授業がもうすぐ始まるというのに結城は珍しく普通の笑顔を見せた。少しだけ、オレの存在意義が証明された気がした。
結城は少しだけ教室の窓を開けてオレの帰り道を用意してくれる。
今朝は晴天、オレの心も晴天なり。