オレ、フェイ
――――――遥辺町。
都市と比べれば田舎だが、田舎と言えるほどの田舎ではない、ごく普通の町。だんだんと都市らしい建物が増えてはいるものの、自然も残されている町だ。暖かい日差しを受けて柔らかな青葉が育っている並木道を子供がかけていく。滅多に外へ出ないオレにはかなり新鮮な風景だ。
遥か未来からこの時代へ来た歴代最高の人工知能をもつ妖精人形のオレ、フェイはこの町をとてものどかだと思った。
『ぶっちゃけオレの時代ってごちゃごちゃしすぎだし。・・・まぁ、だからって過去に来たくはなかったなぁ(泣)』
何でそんなすっごーい(自分で言ったら終わりとは言うな)人工知能を持つようなオレが、今の時代に来てるかって?そんなのは一言で済む。
『ご主人様の喧嘩に巻き込まれて過去に送られたんだ!!ちくしょー・・・』
オレを完全なる無から創り出して命を吹き込んでくれたのは、未来――オレの時代で一番有名な技術者。名を桑田沙奈という。生きた彫刻と呼ばれるほど見た目は秀麗でコンピューターも真っ青なほど秀才なのに性格が残念なことに超サディスト。
そんな彼女は生命力と集中力がすごく、集中するとオレの存在を忘れる(つまりオレが栄養補給ができなくなって死線を彷徨う羽目になる)上に睡眠・栄養どころか水分さえとらずに1週間没頭できるという超人。疲労も空腹も喉の渇きも一般人と同じ様な普通な生活を1日挟むだけでで1週間分カバーできるというびっくり体質。というか、動物としてそれは分類できるのか・・・基本的な欲求が常に危険な研究とサディスティックな実験とか言っている辺り、この世にいて大丈夫かと思う。
しかも、それは生まれつきの体質で、未来の科学技術の助け一切なし。更に、そんな不健康な生活中でも誰もが羨むような容姿を保っている。
『あぁ、こう述べると改めて人間離れしていて恐ろしい・・・あの実験の手助けよりももっと恐ろしいかもしれ・・・・って、過去に浸ってる場合じゃないしっ!』
この時代に来ている理由・・・。数多の不幸の重なりが原因だ。
事故が発生する数日前、主人様はいつもの如くオレを忘れて作業に没頭していたんだ。ただ、今回はオレの血の滲むような努力のかいあって(嘘です、何もしてません)ご主人様の唯一(ここかなり重要)の人間の友達(本人は婚約者だと言い張っているが)にオレの栄養補給を任してくれていた。おかげで死線を彷徨う事態になることははなくなった(はずな)んだ。
ただな、ソイツは救いようがないくらいドジだったんだ。ほぼ毎日ご主人様のところに来ては壊したから直してと頼んでいたくらい物を壊す奴だったんだ。どうやったらこうなるのかという位にぶっ壊すことのできる人間。
『ああ!案の定ソイツは壊したよ!オレの充電器!!』
しかも充電切れ一歩手前でだ。ご主人様に壊すなって念押しされていたのに1回目で充電器は天に召されたのさ、チクショー!
当たり前にオレ死線彷徨いながらソイツに運ばれた。目の前に花畑なんて見えない。だんだん視界が暗くなって、ノイズが走っているかのような感覚。その中で辛うじて見えたのはご主人様がそいつを鬱陶しそうな目で見ながらオレを瞬時に生き返らせてくれる姿は視認できた。予備の充電器がつくってあったらしい。絶対壊すと思ってたらしい。良く考えてるぜ、ご主人様。ご主人様がちゃんと考えてくれてたおかげでオレはこうしているのだが・・・
『あの充電器、○○万はするんだよね。たしか』
一体それがどれだけ高いか分かるだろ?・・・あっ、もちろんオレ本体のほうが高いよ!?桁がかなり違うから!!
有名な技術者で世界的にもかなり高い給料もらってるご主人様から見ればそんな対した金額ではないだろうけど、ご主人様はソイツを思いっきり平手打ちしたのさ。技術者って自分の作ったものに愛着心が少なからずあるんだと思うんだよね。
・・・サディスト魂じゃないよね?あれ?でも昔好きな人は虐めるのが一番面白いとか言ってた気がするぞ(冷汗)
・・・・・理由はどうであれ、ご主人様が叩くときに振り切った手が充電器を自分の体から引っこ抜こうとしていて周りを見てなかったオレの腹にクリーンヒット。ご主人様の一撃を喰らったソイツはバランス崩して変なボタン押してしまった。人間の大人でそこそこ体格のいいソイツがバランス崩すほどの威力が身長15センチ、体重は秘密だがサイズに比例した重さ(で軽く3時間は飛べるくらい)のオレにくれば吹っ飛ぶさ。
ソイツの押したスイッチがタイムマシンで、転送機の真下に吹っ飛んだという二重の不幸でオレはここにいるというわけ。
はじめまして、L☆Eです。
へたっぴですが、楽しんでいただけたら幸いです。