03-01(おまけ)
→教室へ続く廊下へと向かった(おまけ)
「湊?こちらですか?」
帰宅後、いつもなら聞こえるはずの湊の声がしない。どうかしたのかとキッチンを覗くと、こちらに背を向けた湊の肩が小さくはねるのが見えた。
「どうもしないです。おかえりなさい、すぐご飯にしますから先にお風呂はいっちゃってください」
「湊、こちらを向いてください」
頑なに背を向け続ける湊を少し強引にこちらへ向かせる。
「あ、あの」
「ああ、そんなに泣かないでください、理性が保てなくなる」
「あなたが理性的だったことがあるんですか!」
湊は大きくもないが小さくもない、けれど印象的な瞳を涙で潤ませて見上げてくる。それへ思わず理性が負けた。
「ちょっ!何すんですか変態!」
こう言う時に下手に言い訳をすることは湊へは逆効果だ。その代わり、俺はいつもの調子でいつものように返す。
「誘っているように見えたので、つい」
「何がですか!あなたの頭にはそう言うことしか入ってないんですか!?」
「そんな誤解です。でも」
「…でも?」
いまだ涙の止まらないらしい瞳が俺を睨みつけてくる。その様さえ心底愛らしいと感じる。
「湊に泣かれてしまうと…大いに興奮しますね、もちろんそういう意味で」
「こ…の、花粉症になってしまえ変態!」
「ああ、だから涙目なのですね。洟をかむ際はぜひ一声掛けてくださいね、喜んでお世話いたします」
「コスプレ服といい、どこまで変態なんですか…」
やや疲れた風に呟く湊へ追い打ちとなるだろうことを敢えて聞かせる。
「湊ならどんな格好でも歓迎ですが、そうですね。ミニスカートは好きですよ、脚が見えますし」
「何があっても穿きませんから!そう言う女性を追っかけてください変態!」
「脚が見えなくとも、この指先がネギ臭くとも、大好きなんですあなたのことが。だから、いいですよね?」
握っていた包丁をさりげなく置かせて取った指先を己の手で包み込む。家事を一手に担ってきた湊の手は柔らかさより手荒れのかさつきの方が印象に残る。その手を労わるつもりで撫でさすると、顔をひきつらせた湊がものすごい勢いで自身の元へ引き寄せた。
「何がいいもんですか。作業が進まないから、とっととどっかへ消えてください!」
怒り心頭。まさにソレな湊はいつものように俺を足蹴にし、キッチンから追い出した。
こう言うことは本当に嫌がっている癖に、相手を無視することはできない。そんなお人好しな湊をついついからかい過ぎてしまうのはもはや他には代えがたい俺の生きがいだった。