↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

第一話 「名無しの少年」



......なんだ?これ。



なんだか、落ち着く匂いだ。



あったかいなぁ。



おれ、......寝てるのか。



......あれ......おれ......。




「ここ......どこだ?」



重たい瞼(まぶた)を開けると、黄金色の麦の穂と、眩しい真っ青な青空が目に入った。



雲一つない。燦(さん)々とした青空だ。



俺は、そんな空の下、麦畑の中で寝ていたらしい。



「俺......なんで、ここに......たしかさっきまで......。」



......あれ?なに、してたんだっけ......。



......いや、それより......。



俺......今まで何してたんだっけ。



俺......名前......なんだっけ。




「......え?あれ......おかしいな、なんでだろ。」



まるで、頭の中に靄(もや)がかかるように、


まるで、記憶を仕舞った箱が何かに引っかかっているかのように、



思い出せない。



今までの記憶も、仲間の記憶も、



俺という存在自体も、何も思い出せない。



自分が、真っ白な空間で穴があいたように。



混乱しながら、寝転がっていた身体を起こす。


座った状態でも、麦の穂の方が背高く、辺りは何も見れない。



この世界に、俺独りかもしれない。


そんな孤独感に苛まれる。


突然襲ってきた不安に、恐怖に、身体の芯が冷える感触がした。



「......おれ、どうしたらいいんだ。」



頭を抑えて、蹲(うずくま)る。




そんな俺に追い討ちをかけるように、勢いよくこちらに向かってくる爆音が近づいてきた。



(ドスッドスッドスッドスッ!!!)



俺は驚いて、咄嗟に立ち上がってしまった。


そして見た。


巨大な化け物の姿を。




「えっ!?えー!!デカッ!なんだ、あいつ!!」



緑色の、人間五人が縦に並んだ程の背丈の、鎌のような腕を振り翳(かざ)し、こちらに走ってくる虫。



蟷螂(カマキリ)と呼ばれる虫の形をしていた。



俺は、必死に走って逃げた。


どこに向かっているのかも、わからない。


道などない。



行く手を阻む麦を、掻き分けて前に進む。



麦畑を抜けて、森に入った。



途中つまづいて、それでも走る。


森には枝木がある。



彼奴も、枝に阻まれてこちらまで来ないかもしれない。


そんな、淡い期待も虚しく。


あの虫は、その巨大な身体と鎌のような尖った腕で枝を薙ぎ倒して俺を追った。




その様子を後ろ向きに見て、足元が疎かになり、木の根に足を取られ、倒れ込んでしまった。



「......なんで、だよ!くそっ!」



彼奴は、もう目の前に来た。


もう......駄目だ。



鋭い鎌に切り裂かれて死ぬ。


一瞬先の未来を想像して、俺は咄嗟に目を閉じた。



「危ない!!」



しかし、切羽詰まったその声に、目を開けた。



巫女装束の女の子が、こちらに走ってくる。



「......我が風で息を吹き込み、我が露でかの者を癒し、我が光で常闇を照らせ!」



女の子が、あの虫に向かって何か、紙のようなものを投げる。



投げられた紙は、虫の眉間の間にくっついた。



「[神(しん)術(じゅつ)護(ご)符(ふ)]!」




その瞬間、紙から眩い光が溢れ出す。



あまりの眩しさに目を背けると、次にそこを見た時には跡形もなく虫の化け物は消えていた。



ただ、光に溶けたかのように、辺り一面に光の粒が舞っている。



何が起こったのかわからないけど、この女の子が俺を助けてくれたらしい。



「......ご無事ですか?」



「え?あっ、うん、ありがとう。」



「本当になによりでございます!」



女の子に差し出された手を掴んで、立ち上がると、今度は女の子が俺に跪き、頭を下げた。



「えっ!?な、なんで?」



「......遅くなり、申し訳ありません。この菖蒲(あやめ)、貴方様をお護りする為馳(は)せ参(さん)じました。」



「え?えっと......まもる?」



「はい。これからは、私が貴方様の盾です。」



顔を上げた女の子に見覚えはもちろんない。



だけど、その安堵が滲む笑顔に、



俺は安心していた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。