神島の真意と、溢れ出した想い
神島の姿は、既に店内になかった。
帰路がどちらかも知らないままでは、探しようもない。
俺は落胆しながら、ふと思い立って神島と以前来た喫茶店へ寄ることにした。
店内に流れるBGMは、ちょうどあの時に流れていた歌と同じだった。
視線を何気なくあの時の席に向けた俺は、心臓がドクリと音を立てるのを感じた。
神島が、一人でケーキを目の前にぼんやりと座っている。
「お客様、お一人ですか?」
声をかけてきた店員に、いいえ、待ち合わせをしていますと答えたのは、どうしてか分からない。
ただ、そうするのが自然な気がした。
「神島さん」
席に近づき、呼びかけると、神島は目を見開いた。
「嶌崎……何で」
「神島さんに話があるんです」
はっきりと答えれば、神島は気まずげに視線を逸らす。
その反応を気に留めずに席に着き、神島と同じケーキを注文する。
「話って、何だ。俺は何もないぞ」
「神島さん、態度が変です」
「どこがだ。いつも通りだろ」
「何で急に態度が変わったんですか」
「だから俺は……」
変わっていないと言い張ろうとする神島を、強く見つめて黙らせる。
「お前こそ、何なんだ。急に変わりすぎだろ」
「どこがです」
「そこがだ。そんなに俺に対してはっきり言えなかっただろ」
「それは神島さんが、俺を怒らせたからです」
「怒ったって……」
唇を尖らせると、神島は唐突に噴き出した。
その笑顔があまりに眩しくて、俺は怒りを忘れて呆然と魅入ってしまう。
「すまん。悪かった、確かに俺が悪かったな。俺も事前説明もせずに、お前を混乱させていたな」
「説明、してくれるんですか」
「ああ。あのな、お前には正社員登用の話が来ているんだ。店長が俺に、お前を正社員登用試験に合格させるため、厳しく鍛えてくれと頭を下げてきてな」
「そう、だったんですか。俺はてっきり……」
「てっきり?」
てっきり、坂井が言っていることを気にしているのかと思ったと口にしかけて、そもそも坂井が神島にそんなことを本当に言ったかさえ怪しいことに気がつく。
「坂井……」
「坂井が、何だ」
神島の手が、いつかと同じように俺の手に重なる。
「神島さん?」
問いかければ、神島は頬を僅かに赤らめて言う。
「お前の口から、他の男の名前を聞きたくない」
俺は照れてしまいながら、神島の手に手を重ねた。
「神島さん、いつから俺のこと好きだったのか、いつか聞かせてください。俺も、たぶんずっと前からあなたのことが」
大事な台詞だったのに、神島が人差し指を俺の唇に当てて黙らせる。
「その台詞は、俺から言うから待ってくれ。続きは、俺の部屋で」
その先を予感させるような誘い文句に、俺は自然と期待に胸を高鳴らせた。




