坂井の一言
「好きって、怖いによく似てると思うんすよね」
物思いに耽りながらレジに立っていたところへ、坂井がサラッと言う。
「えっ」
正にタイムリーな話題だ。思わず坂井を凝視すれば、坂井は切れ長の目を俺に向ける。
「嫌よ嫌よも好きのうちって言いますよね。あれと似た感じで、相手に嫌われるのは怖いとかありますし。そもそも、強烈に好きになればなるほど、怖いに限りなく近くなります」
坂井がいつになく大人びた口ぶりで言う。
いや、今思えば、坂井はいつも年下なのに、妙に物知りで、人をよく見ている。
「坂井、そんな経験あるのか」
問いかければ、坂井はうっそりと笑うだけで答えない。
それが秘め事を子供に隠す大人そのものに見えて、俺は何だか悔しいような、羨ましいような気になった。
「すみません、この本ありますか?」
「あ、それですね。確か先週入荷していたはずです。お調べいたしますのでお待ち下さい」
接客を始めた坂井をよそに、俺は半ば無意識に視線を巡らせ、神島の姿を探した。
新刊コーナーで難しい顔をしている姿を見つけると、坂井の台詞が脳内で反響する。
ーー好きって、怖いによく似てると思うんすよね。
思い返すと、俺は神島が他の従業員を怒る姿をよく見ていた。
横顔もよく見ていた。
目が合うとすぐに逸らしたくなるのは、神島の目が単純に怖いだけ、だろうか。
自問してみてもまだはっきりとした答えは出ないけれど、どんな意味であれ、神島を意識している事実は認めざるを得ない気がした。




