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苦手な先輩

「あ、また怒ってる」

 思わず漏らすと、近くで書棚の整理をしていたバイトの坂井が、手を止めてそちらへ視線を向ける。

「ホントっすね。よく飽きずに怒れるなと思いますよ」

「飽きずに?」

 怒ることに飽きるも飽きないもあるのだろうか。不思議に思って訊けば、坂井は何でもないことのように言う。

「怒りって、エネルギーいるでしょ。怒っていることに飽きれば、怒らなくなるんすよ。怒るたびに疲れること繰り返せば、飽きてくる。実際、俺の姉はある日いきなり、飽きたからやーめたって言って怒らなくなりました」

「それはお姉さんが特殊なんじゃないかな」

「そうっすか?」

 坂井は首を捻りながら、書棚の整理を再開した。

 俺はというと、奥の漫画コーナーの棚で新人の梶本を怒っている先輩の神島の横顔を見た。

 背中に銃口やナイフを当てられる感覚、と言うと伝わりやすいだろうか。

 神島の目は、正にそんな鋭さを秘めていた。

 坂井だけは唯一、神島に注意されてものらりくらりとかわしてしまうが、俺を含めたほとんどの書店員は神島が苦手だった。

 だが、俺の場合は他の同僚以上に、過剰に反応してしまうことが多く、神島を余計に苛立たせている気がした。

 説教が終わったのか、不意に神島の視線が梶本からずれて、俺の方を向く。

 一瞬目が合ってしまい、俺は慌てて逸らした。

 そして、今更遅いかもしれないが、何食わぬ顔をして書棚の整理を再開する。

 棚を一列整え終わるまで、神島の視線が全身に突き刺さっているのを強く感じていた。 

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