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第八話「元職場の自滅と、国家の影」

■タイトル

自動車解体業者のおっさん、クビになったのでダンジョン内の魔導機兵をバラバラに解体して無双する

〜「油臭いから近寄るな」と言うのに、なぜかS級美少女たちが離してくれません〜


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第八話「元職場の自滅と、国家の影」

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 電話が鳴ったのは、昼休みだった。


 渉はいつもの定食屋で、焼き魚定食の骨を丁寧に外しながら、スマートフォンの画面を見た。


 田中、という表示。


 元同僚だ。渉より十歳若い、三十五歳のベテランで、渉がクビになった後も山下自動車解体工業に残っている。


「もしもし」


「佐藤さん……! 久しぶりです」


 田中の声は、少し沈んでいた。


「どうした」


「いや……ちょっと、報告というか。山下が、ガタガタです」



 話を聞けば、単純な話だった。


 二代目社長の山下颯太が進めた「完全デジタル化」は、スタートから躓いていた。


 解体作業の効率化のために導入したAI管理システムが、現場の実態と全く噛み合わなかった。廃車の状態は一台ごとに違う。エンジンの年式も、錆の状態も、部品の損傷具合も、全て個別だ。マニュアル化できない判断が、解体作業の七割を占める。


 それを「経験年数だけが取り柄」と切り捨てたのが、間違いだった。


 熟練工が次々と辞め、残ったのは経験の浅い若手と、使い方を誰も完全に理解していないシステムだけになった。


「取引先の鉄くず業者から、品質が落ちたって苦情が続いてて。先月、大手の契約が二件切れました。二代目が銀行に頭を下げに行ったって話もあって……」


 渉は魚の骨を箸でよけながら、黙って聞いた。


「佐藤さんがいなくなってから、本当にガタガタで……」


「それは俺には関係ない話だ」


 渉は静かに言った。


 怒ってもいなかった。溜飲が下がったわけでもなかった。


 ただ、事実として受け止めた。


「機械は正直だ」と渉は続けた。「ちゃんと手入れして、ちゃんと向き合えば応えてくれる。データだけ見てたら、そのうち痛い目を見る。それだけのことだ」


「……佐藤さんらしいですね」


「田中、お前は今どうしてる」


「俺は……まだいます。でも、そろそろ限界かも」


「そうか」渉は少し考えた。「もしどこか移るなら、言ってくれ。ダンジョンの仕事は向き不向きがあるけど、田中なら向いてると思う」


「え……佐藤さん、今ダンジョンにいるんですか?」


「清掃員。ジャンク回収」


「……なんか、すごいおっさんがいるって噂、佐藤さんのことですか?」


「俺は清掃員だって」


 渉は電話を切って、魚の残りを食べた。


 味は変わらなかった。


 旨かった。



 管理棟に戻ると、受付の田所が「お客さんです」と言った。


 眉が少し下がっていた。


「どんな人ですか」


「……スーツの方が二名。なんか、かたい感じの人たちです」


 渉が待合スペースに行くと、二人の男が立って待っていた。


 三十代後半から四十代。グレーのスーツ。短く刈った頭。立ち方が軍人か警察に近い。


 先に立っていた男が名刺を差し出してきた。


「国家ダンジョン管理機構、略称NDM。特別技術評価部の神崎かんざきと申します」


 渉は名刺を受け取り、眺めた。


「……聞いたことないですね」


「設立三年の機関ですので。佐藤渉さん、ダンジョン清掃作業員ですね」


「そうです」


「単刀直入に申し上げます」神崎は一歩前に出た。「あなたの技術を、国家安全保障に活かしたい」



 話の内容は、こうだった。


 NDMはダンジョン内の機兵を「軍事転用可能な古代兵器」として研究・回収することを目的とした機関だった。しかし現状、神話級の機兵に対して有効な攻略手段がなく、解析も進んでいない。


 そこに、渉の情報が入ってきた。


「あなたのダンジョン活動記録を拝見しました。神話級への対応能力、固着型への対処、そして七体同時対応。我々の評価では、あなたの能力はSS級相当に試算されています」


 渉は、また名刺を見た。


「SS級……」


「ランクの問題ではなく、その技術の希少性が、です」


「俺は車屋の解体工です」渉は名刺をテーブルに置いた。「ランクで言われても、ちょっと」


「謙遜では……」


「謙遜じゃないです」


 神崎が少し言葉に詰まった。


 想定外の反応だったらしい。


「とにかく、国家機関として正式に技術協力を……」


「清掃員の仕事が、今のところ俺に合ってるんで」


 渉は立ち上がった。


「また来ます」と神崎は言った。


「どうぞ」と渉は答えた。



 その夜、リーニャは王都騎士団の先輩に電話をかけていた。


「先輩、折り入って相談があるんですが……。佐藤さんを、組合の特別顧問にする手続きって……どのくらいかかりますか……?」


『突然なに? そんなポジション、あるようでないようなもんだけど』


「作ってください!!」


『……お前、ほんとに』


 そのほぼ同時刻、メイは研究室で書類を書いていた。


 「王立魔導技師団 専任研究協力者 任命申請書」。


 自分で様式を作った書類だった。


 そのまたほぼ同時刻、フィオナはリーニャとメイに個別にメッセージを送っていた。


 内容は同じだった。


 「二人とも、遠回りしてない?」



 翌朝、三人は佐藤の前に揃った。


 まずリーニャが書類を差し出した。「騎士団顧問のポジションを用意できそうで……」


 すかさずメイが書類を重ねた。「魔導技師団の研究協力者として……」


 二人が同時に渉に詰め寄ったところで、フィオナが一歩前に出た。


「二人とも、落ち着いて」


 フィオナは渉を真正面から見た。


「佐藤さん。うちのパーティに、正式に加入してください」


 シンプルだった。


 リーニャとメイが「え」という顔をした。


「正式なパーティメンバーなら、国もそう簡単には引き抜けません。私たちと一緒にいた方が、変な組織に振り回されなくて済みます」


 渉は三人を順番に見た。


 全員が、真剣な顔をしていた。


「……考えておく」


 渉が言った。


 三人の中で、それが一番現実的な「前進」に聞こえたのがわかった。


 フィオナが、こっそりガッツポーズをした。



 その日の帰り道。


 渉はひとりで夜空を見ながら歩いた。


 考えておく、と言った。


 なぜそう言ったのか、自分でも少し不思議だった。


 本来なら「俺みたいなおっさんが正式加入したら邪魔だろう」と断るはずだった。


 でも、断れなかった。


 ……なんでだろう、と思った。


 わからないまま、渉は歩き続けた。


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           〈第八話 了〉

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