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第七話「解体屋の死神」

■タイトル

自動車解体業者のおっさん、クビになったのでダンジョン内の魔導機兵をバラバラに解体して無双する

〜「油臭いから近寄るな」と言うのに、なぜかS級美少女たちが離してくれません〜


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第七話「解体屋の死神」

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 第六層の奥は、「広間」と呼ぶには語弊がある空間だった。


 「格納庫」と呼ぶ方が正確だ。


 天井が高い。ヘッドライトの光では届かないほど高い。壁は左右に広く、どこまで続くのか見通せない。足元には、何か大きなものが往復したような溝の跡が規則的に刻まれている。


 広間の中央あたりまで進んだ時、渉は立ち止まった。


「……多いな」


 それだけ言った。



 リーニャが盾を構えた。


 メイが魔法陣の展開を試みた。フィオナが弓を引いた。


 そこにいたのは、七体だった。


 全て起動状態。全て、こちらを向いている。


 最小が三メートル、最大が五メートル。形状はそれぞれ異なるが、全員の胸部魔法陣が金色に発光しており、動力が充填されていることを示していた。


 Sランクパーティが全滅してもおかしくない。そういう状況だった。


「……撤退しましょう」リーニャが低く言った。「この数は、さすがに」


「待ってください」


 渉がバッグを下ろした。


 いつもの動作だった。地面に静かに置いて、ジッパーを開ける。


「佐藤さん」リーニャが声を低くした。「七体ですよ。いくらあなたでも……」


「一体ずつやればいいんで」


 渉はバッテリーパックを確認した。残量九十五パーセント。予備バッテリーが二本。インパクトレンチのビットを換えて、空回しする。ウィィ、という滑らかな駆動音。問題なし。


「……弱点は見えてますか」と渉は聞いた。自分ではなく、目の前の七体に向けて言うような、独り言に近いトーンで。


「一番手前。左膝の駆動軸が偏摩耗してる。動くたびにぶれてる」


「二番目。冷却フィンが歪んでいる。熱を逃がせないから、長時間動くと内部で熱膨張が起きる」


「三番目は……首のカプラーだな。固定が一本足りない」


「四番目は……右肩の外装が浮いてる。ボルト、たぶん二本だけで止まってる」


 七体分の独り言を終えた時、渉は立ち上がった。


「後ろにいてください」



 そして渉は、一人で暗がりの中に歩み出た。


 三人には、その背中しか見えなかった。


 作業着の背中。くたびれた生地。肩幅のある、四十五歳の背中。


 そこから漂う、鉄と油と汗の匂い。


 フィオナが思わず息を止めた。緊張ではなく、その匂いを逃したくないからだった。我ながら変だとは思ったが、止められなかった。



 最初の音が響いたのは、渉が暗がりに消えてから三十秒後だった。


 ヴィィィィ。


 インパクトレンチの駆動音。


 それに続いて、カカカカカ!という断続音。ボルトが固い時に出る、トルクがかかった時特有の打撃音だ。


 機兵の一体が、ゆっくりと傾いた。


 そのまま、音もなく横たわった。


「……一体」とメイが呟いた。手帳を持ったまま、動けなかった。



 沈黙。


 次の音が来るまで、十秒ほどの間があった。


 ヴィィィィ。


 また、インパクト音。今度は少し違う場所から聞こえる。


 カカカカカカカ!


 今度は少し長い。固着気味のボルトがあったのだろう。


 二体目が膝から崩れ落ちた。


「……二体」


 リーニャは盾を構えたまま、微動だにしなかった。


 暗がりの中で、渉の姿は全く見えない。


 ヘッドライトの光が時折、遠くの壁に反射する。それだけが渉の位置を示す、唯一の証拠だった。


 ただ、音が来る。


 規則的に、確実に。


 ヴィィィィ。カカカカカ。


 機兵が倒れる音。



 三体目の時、リーニャは静かに悟った。


 あの人は、怖くないんだ。


 七体のエンシェント・ギアを前に、恐怖がない。


 いや、そうじゃない。


 怖い怖くない以前に、「戦っている」という認識がないのだ。あの人にとってそれは「解体作業」であって、戦闘ではない。


 仕事をしているだけだ。


 その静けさが、リーニャにはなぜか堪らなかった。


 胸が苦しくなるような、そういう感覚だった。



 四体目の直前、渉の動きが止まる気配がした。


 二十秒ほどの沈黙。


 その後、ガコン、という音。バッテリー交換の音だ。


 使い切ったバッテリーをポーチから抜いて、充電済みの新品を装填する。


 フィオナが目を細めた。


「……弓使いが矢を換えるみたいだ」と小声で呟いた。


 メイが頷いた。「無駄のない動作です。慌てていない」



 四体目が倒れた。


 五体目が倒れた。


 六体目の時、小さな爆発音がした。


 三人が息を呑んだ。


「佐藤さん!」


 リーニャが一歩踏み出した瞬間、メイとフィオナに両腕を掴まれた。


「邪魔になります」とメイが静かに言った。


「でも……!」


「邪魔になるんです」


 リーニャは奥歯を嚙んだ。


 その後、静寂。


 そして七体目のインパクト音が響いて、最後の機兵が倒れる鈍い音がした。



 渉が戻ってきたのは、それから三分後だった。


 インパクトレンチをバッグに収めながら歩いてくる。


 作業着の肩に、新しい油染みがついていた。


「終わりました」


 それだけ言った。


「……あの爆発は」とリーニャが声を絞り出した。


「六番目のやつが内部で熱膨張してました。予想より早かったんで、少しだけ離れてました。問題ないです」


「問題ない……」


「すみません、六番目の残骸は少し焦げてます。回収物の品質が落ちるかもしれない」


 リーニャが額に手を当てた。


「今、心配すべきことはそこじゃないと思います……!」



 フィオナが渉の背後に回った。


 作業着の背中に近づいて、そっと鼻を動かした。


 油と金属と、火薬に似た焦げた匂いと、汗と。


 全部が混ざった、佐藤渉の匂い。


 フィオナは一瞬、目を閉じた。


 ばれないように、ゆっくりと息を吸った。


 メイが横から「……何してるんですか」と目を細めた。


「なんでもない」


「顔、赤いですよ」


「なんでもない!!」



 翌日から、ダンジョン探索者の間で噂が広まった。


 「第三ダンジョンの死神」。


 第六層の格納庫で、七体の機兵が一夜にして全滅していたという話。


 目撃者によれば、暗闇の中から定期的に金属音が響き、そのたびに機兵が一体ずつ沈黙していったという。


 音の主は、最後まで姿が見えなかった。


 戦闘らしい戦闘もなかった。


 ただ、音だけが来た。


 金属的な、甲高い打撃音が。


 まるで死を告げる鐘のように、規則正しく。



 その噂を、管理棟の廊下で田所が耳にした。


 彼女はコーヒーを飲み干して、ゴミ箱に捨てながら呟いた。


「……あのおっさん、本当に何者なのよ」


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           〈第七話 了〉

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