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第三話「Sランクの窮地」

■タイトル

自動車解体業者のおっさん、クビになったのでダンジョン内の魔導機兵をバラバラに解体して無双する

〜「油臭いから近寄るな」と言うのに、なぜかS級美少女たちが離してくれません〜


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第三話「Sランクの窮地」

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 その日、渉が第三層の奥に踏み込んだのは、単純に「まだ誰も回収に来ていない残骸があるはずだ」という職人的な直感からだった。


 ところが。


 通路の先から、轟音が聞こえてきた。


 続いて、爆発音。


 そして――


「くっ……魔法が通らないって、こんなの反則でしょ!」


 女性の声だった。


 渉は小走りで角を曲がった。



 そこにいたのは、三人の少女だった。


 一人は騎士鎧を纏った銀髪の少女。年齢は二十歳前後か。盾を構えて前に出ているが、全身に小さな傷が滲んでいる。


 一人は白衣に近いローブを着た、眼鏡の黒髪少女。魔法陣を展開しようとしているが、何かに阻まれて発動できていないらしい。


 一人は赤みがかった金髪のポニーテールの少女。弓を構えているが、矢が何かに弾かれ続けている。


 三人の向こうに、それがいた。


 身長三メートル。人型だが四腕。胸部に巨大な魔法陣が描かれており、金色に光っている。関節という関節が太い金属で覆われており、表面には傷一つない。


「エンシェント・ギア……神話級の」


 渉の目が、静かに細くなった。


 そして彼は、それを見た。


 彼にしか見えない「線」が。


 機体の全身に走る、細い光の筋。関節の接合部。動力の経路。応力のかかっているポイント。弱体化している箇所。そして――


 右腕の付け根、外装パネルの継ぎ目。


 そこだけ、線の色が違った。


 橙色に滲んでいる。


「……カプラーが劣化してる」


 渉は独り言を言った。


「もしあそこが動作時に熱を持ったら、内圧で爆発する。危ねえな」


 そして渉は、何も考えずに前に出た。


「ちょっとすみません、通りますよ」



 三人の少女が同時に振り返った。


 そこにいたのは、作業着にヘルメットの、四十五歳のおっさんだった。


「え」と銀髪の少女が言った。


「え?」と黒髪眼鏡の少女が言った。


「え……?」と金髪ポニーの少女が言った。


 渉は三人の間をすり抜け、巨大な機兵の前に立った。


 機兵が渉を認識する。頭部が向く。腕が上がる。


 渉はバッグからバール(中)を取り出した。


「待って! 死ぬ気!?」と銀髪の少女が叫んだ。


「いや、ちょっと作業するだけです」


 渉は機兵の足元にしゃがんだ。


 右足の外装パネル。見た目は鉄壁だが、渉の目には隙間が見えていた。本当に微細な、製造上の公差による歪み。バールの先端を当てて、体重を静かにかける。


 コキン、と小さな音。


 外装パネルが、浮いた。


「えっ」「えっ」「えっ」と三人が同時に言った。


 渉はインパクトレンチを取り出した。バッテリーを確認。モードを「弱」に設定。機兵はまだ腕を振り上げているが、渉の動きはその眼中にないかのようにゆっくり、しかし無駄がなかった。


 外装の裏に露出した六角ボルトを、インパクトが咬む。


 ヴィィィ、という音とともに、一本、外れる。


 二本目。


 三本目。


「お前ら、後ろ下がってろ。あの右腕の付け根が爆発するかもしれんから」


 渉の声は静かだった。


 三人は後退した。自分たちでも気づかぬうちに。



 四本目のボルトが外れた瞬間、機兵の動きが止まった。


 右肩の外装が、ぱかりと外れ落ちる。


 中に見えたのは、複雑な配管と、一本の太いケーブル。そしてその接続部に、明らかに腐食した銅色の金属片。


「やっぱりカプラーだ。こりゃあひどい」


 渉は浸透潤滑剤を取り出して、噴いた。


 次にワイヤーカッター。


 ケーブルを一本、切断。


 機兵の胸の光が、消えた。


 金色だった魔法陣が、すうっと暗くなる。膝から崩れるように、三メートルの金属巨人が床に倒れた。


 ゆっくりと、静かに。


 まるで眠るように。



 沈黙があった。


 渉は立ち上がり、バールとインパクトレンチをバッグに戻した。


「あー、動力ケーブル切ったんで復帰はしないと思いますが、念のためもう少しバラしておきますか?」


 誰も答えなかった。


 渉は三人を振り返った。


 三人とも、口を半開きにして、渉を見ていた。


 銀髪の少女が、まず口を開いた。


「……あなた、今、何を」


「解体です。機械のバラし方は、車でも魔導機械でも基本は同じなんで」


「え」


「急所さえわかれば、神話級でも部品ですよ、部品」


 渉は倒れた機兵を見下ろしながら、ぽりぽりと頭を掻いた。


「にしてもよくできてるな、これ。ボルトの規格が統一されてる。作った連中、几帳面だったんだろうな」


 感心したように呟く渉の横顔を、三人の少女は呆然と眺めた。



 我に返ったのは、黒髪眼鏡の少女だった。


「あ、あの……! 今のは……」


「ん?」


「どうやって急所が……魔導解析でも、神話級の機兵のウィークポイントは特定不可能とされていて……」


「目で見ればわかります」


「……え?」


「劣化してるとこは色が違うから。光の当たり方が変わる。素材が変質してたら微妙に歪む。二十五年やってたらわかるようになりますよ」


 渉はそれだけ言って、また倒れた機兵の方を向いた。


「すみません、ちょっと仕事の続きさせてもらっていいですか。これ回収物なんで」


 そしてしゃがんで、黙々と解体を再開した。



 三人の少女は、しばらく言葉を失っていた。


 やがて銀髪の少女が、隣の金髪少女に小声で囁いた。


「ねえ……見て。あの手」


 金髪少女が頷く。「わかる。職人の手だ。ただの清掃員じゃない」


 眼鏡の少女は既に手帳を取り出して、渉の作業を凝視しながらメモを走らせていた。


「動作の無駄がゼロ……各工程の所要時間が……ボルトの緩め順序が……合理的すぎる……!」


 渉は気づかなかった。


 背中に三対の視線が刺さっていることに、まったく気づかなかった。


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           〈第三話 了〉

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