第二話「おっさん、ダンジョンに潜る」
■タイトル
自動車解体業者のおっさん、クビになったのでダンジョン内の魔導機兵をバラバラに解体して無双する
〜「油臭いから近寄るな」と言うのに、なぜかS級美少女たちが離してくれません〜
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第二話「おっさん、ダンジョンに潜る」
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翌週、渉は「東京第三ダンジョン」の管理棟にいた。
受付で書類を書き、簡易身体検査を受け、入域許可証を受け取る。バッジ型の小さなそれには「一般作業員 Eランク」と印字されていた。
「Eランクって、最低ランクですよね」と渉は確認した。
「そうです。でも第一〜三層なら問題ないですよ。危険生物はほぼ出ませんし、魔導機兵の残骸が転がってるだけですから」と受付の若い女性は答えた。
支給されたのは、ヘルメット、ヘッドライト、厚手の作業手袋、そして「ジャンクバッグ」と呼ばれる大型のキャリーバッグ。
「これだけですか」
「あ、あと工具セットです」
出てきたのは市販品のソケットセット、モンキーレンチ一本、ペンチ。
渉は無言でそれらを受け取り、持参した自分のバッグを開いた。中には愛用の道具が収まっていた。十年選手のコンパクトインパクトレンチ(バッテリー式)、各サイズのトルクスビット、浸透潤滑剤(KURE556の業務用)、バール(中・小の二本)、ワイヤーカッター。
「……自前ですか」受付の女性が目を丸くした。
「昔からの癖で」
渉はヘルメットを被り、ダンジョンの入り口に向かった。
◆
第一層は思ったより広かった。
天井高は十メートルほど。壁は滑らかな灰色の石材で、どこか人工的な質感がある。ところどころに淡い発光体が埋め込まれており、不思議な薄明かりの中を、渉はキャリーバッグを引きながら歩いた。
そして最初の「ジャンク」を見つけた。
――なんだこりゃ。
床に転がっているのは、金属の残骸だった。直径三十センチほどの球形の胴体に、関節付きの腕が四本。素材は鉄ではなく、触れると冷たいが軽い、見覚えのない合金。側面にはびっしりと、渉には読めない文字が刻まれている。
どう見ても機械だった。
それもかなり精巧な。
渉はしゃがんで残骸を手に取り、ひっくり返した。
「ふむ」
関節の構造を目で追う。油圧式ではない。何か別の動力――おそらくこれが「魔力」というやつだ――を使っているらしいが、基本的な設計思想は渉の知っている機械と大きくは違わなかった。
部品を固定しているのはボルトとナット。頭の形は六角ではなくトルクス型に似ているが、渉のビットセットの中に合うものが一本あった。
試しに当ててみると、するりと回った。
「へえ」
渉は黙々と分解を始めた。
業務上は「回収」でいいのだが、バラして分別した方が搬出が楽だし、後でどんな構造をしているか確認できる。昔から渉はそういう男だった。
十五分後、球形の残骸は綺麗に四十二個のパーツに分解されていた。整然と床に並べられたそれを眺めながら、渉は独り言を言った。
「なんでこの部分だけ違う素材なんだ。ここ、熱がかかるのか?」
誰も答えてくれる人間はいなかったが、渉は構わず考え続けた。
◆
第一層の回収作業を終えて地上に戻ると、受付の女性がバッグの中身を見て固まった。
「……こんなに綺麗に分解できるんですか」
「バラした方が袋に収まりやすいんで」
「いや、そういう問題じゃなくて……エンシェント・ギアの残骸って、特殊合金でできてるんで普通の工具じゃまず分解できないはずなんですが」
「合う工具があれば回るもんですよ」
渉は至って普通の顔をしていた。
◆
それから一週間。
渉は毎日ダンジョンに通い、黙々と残骸を回収し続けた。
第三層まで降りられるようになった頃には、彼の「仕事の評判」が管理棟の中でじわじわと広がっていた。
「Eランクの作業員なのに、うちのBランク機材より効率いいらしい」
「残骸の分解精度が、研究所レベルらしい」
「なんかすごいおっさんがいる、って話」
渉本人は知らなかった。
自分が毎日ひとりでランチを食べに行く小さな定食屋で、日替わり定食を食べながら「次の仕事、どこか別に探した方がいいかな」と本気で考えていた。
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〈第二話 了〉
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