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第十話「お前なんかが住んでいいのか、という話」

■タイトル

自動車解体業者のおっさん、クビになったのでダンジョン内の魔導機兵をバラバラに解体して無双する

〜「油臭いから近寄るな」と言うのに、なぜかS級美少女たちが離してくれません〜


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第十話「お前なんかが住んでいいのか、という話」

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 パーティへの正式加入が決まったのは、フィオナの提案から三日後のことだった。


 書類上の手続きは思ったより早く終わった。リーニャが騎士団のコネを使い、メイが技師団のコネを使い、フィオナが「二人とも遠回り」と言いながら組合窓口に直接乗り込んだ結果、「冒険者パーティ正式登録」の紙に渉のハンコが押された。


 ハンコは百円均一で買った三文判だった。


 メイが「佐藤さんの三文判……」と感慨深そうに見つめていたが、渉にはその感情が理解できなかった。



「では、加入祝いをしましょう」


 リーニャがそう言ったのは、登録を終えて管理棟の外に出た直後だった。


「また食事ですか」と渉は言った。「この前のお礼もまだ返せていないのに」


「今回はお食事ではないんです」


 リーニャの表情が、少し緊張していた。


 隣のメイも、フィオナも、同じ顔をしていた。


「……なんですか」


「来てください」



 馬車で四十分。


 管理棟からも、繁華街からも少し離れた静かな区画に、その建物はあった。


 石造りの、二階建ての家。庭付き。庭の裏手に、レンガ造りの別棟がある。


 渉は馬車を降りて、それを見た。


「……これは」


「佐藤さんの家です」とリーニャが言った。


 沈黙があった。


「は」


「パーティ加入のお祝いです。三人で出しました」


 渉はもう一度、建物を見た。


 二階建て。庭。別棟。


 別棟の扉は金属製で、内部は石の床になっていた。天井が高い。壁に工具掛けのフックが等間隔に設置されている。


 渉はその別棟の中に入って、ゆっくりと見回した。


「……工房ですね、これ」


「佐藤さんが道具を置けるように、設計してもらいました」とメイが続けた。「床は油で汚れても拭きやすい素材にしてあります。換気のための窓も、作業時の姿勢を考えて高さを決めました」


「……」


 渉はしばらく黙った。


 工具掛けのフックに、そっと指を触れた。


 間隔が絶妙だった。インパクトレンチとバールと、各種スパナを掛けた時の重量バランスを考えた間隔だ。誰かが渉の道具を実際に採寸して、設計したとしか思えない。


「……採寸、したんですか」


「いつかお借りしようと思って、少し前に」とフィオナが言った。「怒りますか」


「怒らないですけど」


 渉はまた工房の中を見回した。


「俺なんかが、こんなところに住んでいいんですか」



 三人が顔を見合わせた。


「『俺なんか』、ではないです」とリーニャが静かに言った。


「でも……俺、ただのEランク清掃員で……」


「ただのEランク清掃員は、神話級を七体同時に倒しません」


「あれは仕事の延長で……」


「ただのEランク清掃員に、NDMは接触しません」


「あれは誤解で……」


 リーニャが一歩、前に出た。


「佐藤さん」


 渉は黙った。


 リーニャの声が、少し変わったからだ。騎士の声だった。いつもの少し緊張を帯びた声ではなく、腹の底から出てくる、覚悟のある声だった。


「私は今まで、色々な実力者の方を見てきました。Sランクも、Aランクも。でもあなたみたいな人は、見たことがない」


「俺みたいな……?」


「道具を大切にして、仕事に誠実で、自分の凄さに全く気づいていない人です」


 渉は何か言おうとして、言葉が見つからなかった。



 メイが一歩前に出た。


「佐藤さんの工房から漂う匂いを、この家に満たしたいんです」


 全員が静止した。


 渉も含めて。


「……え」


「油の匂いと、金属の匂いと、ケミカルの匂いです。佐藤さんが作業した後の工房の空気は、私にとって……その、落ち着くというか……」


 メイは耳まで赤くなって、手帳で顔を半分隠した。


「研究意欲が出る匂いなんです、あれは。学術的な意味で。だから、科学的な根拠があって……」


「科学的な根拠……」


「あります!!」


 フィオナが口を押えて笑いをこらえていた。



 渉は工房に戻って、もう一度だけ内部を見た。


 工具掛けのフック。石の床。換気窓。


 誰かが、渉のために考えて、設計して、作ったものだ。


 渉は昔から、そういうものに弱かった。


 車もそうだ。設計者の意図が見える機械は、それだけで愛着が湧く。使う人間のことを考えた設計は、使った瞬間にわかる。


 この工房は、渉のことを考えて作られていた。


 それがわかった。


「……ありがとうございます」


 渉は三人に向かって、深く頭を下げた。


 三人が同時に「っ」という声を出した。


 顔を上げると、リーニャが目を潤ませていて、メイが手帳をきつく握っていて、フィオナが壁の方を向いていた。


「……なんで泣きそうなんですか」


「なんでもない!!」と三人が同時に言った。



 渉がその夜、工房に道具を並べたのは、一人になってからだった。


 バールを壁にかける。インパクトレンチを定位置に置く。各種スパナを大から小の順に吊るす。浸透潤滑剤とラスペネを棚の定位置に立てる。パーツクリーナーの缶を隣に並べる。


 一つずつ、定位置に収めていく。


 その度に、工具掛けのフックがぴたりと合う。


 深さが、角度が、重量に合わせた太さが、全部ちょうどいい。


 渉はしばらく、その工房に立ったまま、道具たちを眺めた。


「……いい場所だな」


 誰にともなく、小声で呟いた。


 外では秋風が木を揺らしていた。


 そしてその翌朝。


 工房の窓の下に、三人分の足跡が残っていた。


 渉は気づかなかった。


 気づいていたとしても、きっと理解できなかっただろう。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

           〈第十話 了〉

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【次話予告】

 工房に持ち込まれた「謎の遺物」。それは、錆びついた二輪の乗り物だった。

感想を頂けますと大変喜びます。(豆腐メンタルの為お厳しい意見はご遠慮ください)


ブクマなどもしていただけると嬉しいです。

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