第一話「職人、クビになる」
基本朝7時頃、夜19時頃投稿します。楽しんでいただけると幸いです。
第1話を執筆します!
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# 自動車解体業者のおっさん、クビになったのでダンジョン内の魔導機兵をバラバラに解体して無双する
## 〜「油臭いから近寄るな」と言うのに、なぜかS級美少女たちが離してくれません〜
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## 第一話「職人、クビになる」
人生で一番惨めな瞬間というのは、案外あっけなくやって来る。
佐藤 渉、四十五歳。
自動車解体一筋、二十五年。
彼の人生で最も長い時間を過ごした場所は、神奈川県某所にある「山下自動車解体工業」の作業場だった。廃車の山、エンジンオイルの匂い、錆びた金属の感触。それが渉にとっての「家」だった。
しかしその「家」から、今日、追い出された。
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「わかってます? 佐藤さん、あなた、解雇なんですよ」
事務所の応接室。革張りのソファに深く腰かけているのは、先代社長の息子――山下 颯太、二十七歳。昨年、父親の急逝によって二代目社長に就任したばかりの若造だった。
颯太はスマートフォンを指で弄びながら、渉の顔をちらりとも見ずに言った。
「うちの会社、今後は完全デジタル化を進めていくんで。経験年数だけが取り柄の職人さんは、ちょっと……ね」
渉は黙っていた。
反論する言葉がないわけではなかった。二十五年間、この工場で培ってきた技術の話をしようと思えばいくらでもできた。廃車一台の解体を四十五分で終わらせられる人間が、この国に何人いるか。エンジンに触れれば音だけで不具合を言い当てられる人間が、業界全体でどれだけいるか。
でも渉は口を開かなかった。
代わりに視線を自分の手に落とした。
油が染み込んで、もう何年洗っても落ちない黒ずんだ指の節。細かい傷が無数に走る掌。利き手の親指の付け根には、十年前にスピンナハンドルが滑った時の、白い傷跡。
――こんな汚い手で、何を言えるっていうんだ。
「荷物は今日中にまとめてください。雇用保険の手続きは総務に聞いて」
颯太は最後まで目を合わせなかった。
渉は立ち上がり、「お世話になりました」と頭を下げた。それだけだった。
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更衣室で作業着を脱ぐ時、同僚の田中が声をかけてきた。田中は渉より十歳若い、三十五歳のベテランだ。
「佐藤さん……ひでえよ、あの坊ちゃん社長。俺たちみんな怒ってますよ」
「いや、いい」
渉はロッカーに作業着を畳んで置いた。持っていくものは何もなかった。貴重品はポケットの中だけ。二十五年間ここにいたくせに、私物らしい私物がほとんどない男だった。
「でも……」
「田中、お前はまだここで働けるだろ。波風立てるな」
渉は田中の肩を一度軽く叩いて、更衣室を出た。
作業場を横切る時、渉はゆっくりと歩いた。
整然と並んだ解体待ちの廃車たち。油圧プレス機。天井に走るクレーンのレール。壁に整然と掛けられた工具たち――インパクトレンチ、ブレーカーバー、フレアナットレンチ、各サイズのソケット。
「お疲れ様でした」と、渉は小声で呟いた。
誰に言ったのか、自分でもわからなかった。
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工場の外に出ると、初秋の風が顔に当たった。
渉はポケットに手を突っ込んで歩き出しながら、考えた。
貯金は少しある。でも長くは持たない。再就職か。四十五歳の、専門が「車の解体」だけのおっさんを雇ってくれる会社が、この世にどれだけあるのか。
スマートフォンを取り出して、求人サイトを開く。
「年齢不問」「経験者優遇」「即日採用」。
目に留まったのは、少し変わった求人だった。
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**【急募・未経験歓迎】ダンジョン内ジャンク回収作業員**
**雇用形態:日雇い 報酬:日給2万円〜**
**業務内容:第一層〜第三層における廃棄魔導部品の回収・分別・搬出**
**資格:なし(ダンジョン入域許可証取得のみ必須)**
**備考:肉体的にタフな方、歓迎。道具は支給します。**
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渉は三十秒ほど画面を見つめた。
ダンジョン。
十二年前に東京湾岸に突如出現した、地下迷宮。以来、全国に七か所。現在確認されているだけで世界に三百以上。人類にとって最大の謎であり、同時に最大のフロンティア。探索者と呼ばれる者たちが潜り、魔石や希少素材を採掘する、新しい産業。
渉には縁のない世界だと思っていた。
――でも「回収・分別・搬出」か。
俺の二十五年間、ほぼそれだったな。
渉は電話をかけた。
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〈第一話 了〉
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