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武士の子孫、異世界を制す  作者: ふみぃ


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対サリア

 

(まずは様子を見させて貰う(もら)うとしよう)


「始め!」


「やあああああ!」


 父上の掛け声と共に、大太刀(おおだち)(かつ)ぎサリアは飛び()かってくる。


(見事な加速だ)


 大太刀による振り下ろしを(わず)か横に身体をずらす事によって(かわ)し、足を狙った回転斬りを後方に跳び回避し再びサリアとの距離を作る。


 大太刀を振るう速度、床に刃が当たる寸前に止め、切り返す様子(ようす)はその力の強さを証明している。


 さらに距離を詰め追撃を加えてくるサリアの連続の突きを、身体を半身(はんみ)(かたむ)けることによってその全てを避けていく。


 彼女の背丈よりも長い大太刀をここまで自在に(あやつ)ることが出来るとは、年上の同門達が恐れるのも分からなくはない。


(だが、動きは直線的であり読むことは容易(たやす)い)


「ちゃんとよけられるんだ……、じゃあもっと早くしていくよ!」


 (ふところ)に飛び込んでくるサリア、宣言(せんげん)通り先程よりもかなり速度が増している。


 一撃目の大振りの斬り払いを片膝(かたひざ)を付き姿勢を下げることで躱す、これは恐らく陽動(ようどう)であり本命の一撃は別にあるはずだ。


(狙いは身体の回転を利用した蹴り……!)


 眼前(がんぜん)(せま)る膝の横に左手の(こう)を押し当て受け流し、そのまま腕を伸ばし、サリアの後ろ(えり)を掴み軽く放り投げる。


「わわわっと……!」


 サリアは空中で一回転をして着地、その表情は(おどろ)きに染まり大きな目を丸くしている。


「うんうん!あなたなら本気出しても良さそうだね!」


 瞬間、サリアの(まと)雰囲気(ふんいき)が変わり、道場内に彼女を中心とした桜色の光が混じった風が吹き始める。

 その勢いは段々と増していき、年季(ねんき)の入った道場の壁や床が(きし)み始めている。


「サリアー!あんまりやると道場が吹き飛んでしまうよー!」


「じゃあいくよ『桜楼嵐凱(おうろうらんがい)』!」


 父上が抑えるように叫んでいるが、全身に暴風(ぼうふう)(まと)うサリアの耳には届いていないようだ。


 サリアは大太刀を外向きに構えると、大太刀の刃は震え出し甲高(かんだか)い金属音が道場内に響き渡る。


「やあああ!」


 暴風に背を押されさらに速度が増したサリアの飛び込びながらの一撃を、身体をずらすことによって(かわ)すが、刃を包む風に肌を薄く切り裂かれた。


(なるほど、これは中々に厄介だ)


 至近距離で避けるのは得策(とくさく)では無いと判断し、先程よりも大きく動いて連続の攻撃を避けていく。


「これでも避けられるんだ!魔術が使えないのにすごいねー!」


 サリアは後ろに大きく飛んで距離を作ると、大太刀を振り回し何もないところを斬り始める。

 すると刃を包んでいた暴風がいくつも宙に留まり、風の刃へと形を変えていく。


「いくよー!『桜疾風(さくらはやて)』!!」


 高速で襲い来る風刃(ふうじん)を横に飛び避けると、背後にあった壁に深い(みぞ)が刻まれた。


「ほう……」


 大太刀が振るわれる度に出現する風刃が時間差で次々と飛んでくる、躱す度に壁が削られていくがこればかりは仕方がない事だろう。


 身体の軸をずらし、滑り込み、背面で飛び越え風の刃を躱していく。


「避けるばっかじゃつまらないよー!」


「そうだな、ではこちらからも行かせてもらおうか」


 軽口を返してから鞘と柄を握り、床を蹴り出し一気に距離を詰める。


「っ!」


 驚いてはいるようだが流石に動きは見えているのか、サリアは大太刀を上段に構え一気に振り下ろしてくる。


「良い反応速度だが」


 刀を抜き放ち側面に一撃を叩きつけると、大太刀の軌道(きどう)が大きく外れ、その切っ先は床に突き刺さった。


(殺し合いならばここで終わりだが、この決着は父上が求めているものではないだろう)


 動きの固まったとサリアに背を向けて歩き距離を取り、鞘へ刀を収め向き直る。


(彼女には(さい)がある、このまま(くさ)らせてはならない程のものだ)


 サリアは自分の右手を見つめ、手を握ったり開いたりと何かを確かめている。


「打ち合いで腕が(しび)れたのは初めてか?」


「っ!『桜花嵐摩(おうからんま)』!」


 軽い挑発(ちょうはつ)をしてやると、サリアは手の平をこちらに向け小さな桜の弾丸をばら()いた。


「それでこそ武士だ」


柳流剣術奥義やなぎけんじゅつおうぎ一刀無尽(いっとうむじん)』!)


 大きく息を吸い込み止め、刀を抜き放ち襲い来る無数の小さな嵐を切り裂きながらサリアの元へ突き進む。


 最速の抜刀斬りから放たれる連続の一撃、相手を切り裂くまで止まることのない正に無尽の刃。


 サリアの目前に迫り、下段から上段への一撃を狙う。


「うっ!」


 反射で構えられたサリアの大太刀に刀身に強く打ち付け弾き飛ばし、その勢いのまま切り返し上段に構え、頭頂部を狙い柄を刀を全力で振り下ろす。


「……あ」


 サリアの(まと)う暴風の鎧を切り裂き、刃が頭へ当たる寸前で柄を握る左手を前に押し刀を止める。


 サリアの纏っていた魔力の風が霧散(むさん)し道場に静寂(せいじゃく)が産まれ、大太刀の落下する金属の音だけが響いた。


「そこまで!勝者アルマ!」


 父上の宣言を聞いてから、そのまま三歩下がり刃を鞘へ納める。


「……」


 緊張の糸を解き息を吐く。


 サリアの表情は未だ固まったままであり、正に心ここにあらずといった様子だ。


(少々荒治療(あらぢりょう)が過ぎたか)


 とはいえ彼女も立派な武士だ、この程度で折れるほど(やわ)ではないだろう。


 サリアの横を通り、大太刀を拾い彼女の前に立つ。


「良い試合だった、痛みなどは大丈夫か?」


 顔を上げたサリアの表情は試合前までとは違う、快活さは隠れ緊張感のようなものを(あふ)れさせていた。


 これは実力を認めて貰ったと考えてもいいのだろうか。


「風の刃に鎧とは中々に厄介な技だな」


 彼女が更なる修練を積み今以上に風を自在に操れるようになれば、かなりの強敵となることだろう。


「また武を競い合おう」


「……」


 サリアは言葉を発さずに(うつむ)いてしまった。


 魔術を使えない相手に敗れるというのは、彼女にとってはかなりの衝撃だったのだろう。


「お疲れ様、二人共」


「父上」


 試合の仕切りをしてくれていた父上がサリアの頭の上に手を乗せる。


「どうだい、彼は強かっただろう?」


「……」


 無言で頷くサリア。


 父上は微笑むと、さらに言葉を続ける。


「人の強さにおいて魔術が使えるかどうかなんて、数ある要素の一つでしかないんだ、技を磨き心を磨きもっと強くなろう」


 同じ魔術が使えない身であった初代当主は、身体を鍛え技を(みが)き知識を(たくわ)えた、そして刀一振りで竜すらも斬ったという。


 いずれ私も、そのような高みに登っていきたいものだ。


「皆も彼に習い、日々の修行に励むように!」


 父上は道場の外に避難(ひなん)していた門下生達に声を掛ける。


「「「はい!」」」


 道場内に気合の籠った声が響いた。


「さて、アルマは何か用事があったみたいだけど」


「はい、父上にお願いがあります」


 道場の端で父上と向かい合って座る。


 中央では再び門下生同士の試合が行われている、先程よりも気迫(きはく)気迫の増した戦いは、見ているだけで闘争心が(あお)られる。


 サリアは未だ心ここにあらずといった様子で、道場の縁側(えんがわ)に座り外の景色を眺めているが、きっと大丈夫だろうと父上は言っていた。


「私はここを出ようと思います、父上にはその許可を」


 父上は僅かに目を見開かせる。


勿論(もちろん)構わないけど、唐突(とうとつ)だね、詳しく聞かせてもらおうかな」


「まずはこれを見てください」


 背中に縛り付けていた、包みを外し(ふう)を解いていく。


「これは……、刀のようだけど」


「はい、ですがこれは、鍛冶師に打たせたものではありません」


 巻き付けた包帯を外すと、傷が完全に(ふさ)がりさらに美しさと怪しさの増した刀身が表れた。


「そして、恐らくはこの世界で作り出された物でもない」


 言葉の意味を理解したのか、父上は目を見開く


「つまりそれは、初代当主が持っていた物と同じであると?」


「はい、そして彼の書に記されていた『妖刀』であると確信しています」


「『妖刀』、人を呑み込み喰らう刀だよね、君はこれをどこで……」


「ある物が持っていました、恐らくは賊の一人でしょう」


「まさか、山へ入ったのかい……?」


「申し訳ありません、ですが村のすぐ傍まできていましたので向かいました」


 頭を下げる。


 緊急(きんきゅう)事態とはいえ、言い付けを破り山へ入ったのは事実だ。


「頭を上げていいよ、その賊は?」


「斬りました」


「……そうか」


 刀の柄を父上に向ける。


「父上、この刀に軽く触れてみてください」


「……分かった」


 妖刀と聞いているからなのか、恐れと困惑の混じった表情で父上はゆっくりと刀に触れる。


「……ウグッ!」


 瞬間、父上の上体が沈み床へ倒れ込みそうになる。


「父上!」


 刀を引き寄せ、父上の身体を支える。


「こ、れは……」


 滝のような汗と荒い息、まるで高い強度の運動を行った直後のような状態だ。


「……大丈夫ですか?」


 妖刀の事を信じてもらう為とはいえ、やりすぎだった。


「いや、大丈夫だよ、……ふう」


 父上は呼吸を整えると、汗を拭い座りなおす。


「一瞬で魔力の殆どを吸い取られた……、いやそれだけじゃない、生命力すらも持っていかれるような感覚だった……」


 父上の顔色は未だに良くない、ただ(わず)かに回復はしてきているようだ。


「アルマ、君は大丈夫なのかい?」


「一番最初に触れた時には同じような症状がありました、ですが今は何も」


「……そうか」


「父上、刀に触れた時に誰かの記憶のような物を見ませんでしたか?」


 刀を見ていた父上は顔を上げるとこちらを注視する、普段の穏やかな雰囲気はそこにはない。


「いいや、君は見たのかい?」


「この刀を打った鍛冶師の記憶を見ました」


 気を失っていた際に見た記憶をそのまま伝える。


「そうか……、つらい物を見たね」


「はい、とても悲しい記憶でした」


 彼の心境を思うと、同情せずにはいられなかった。


「この刀にはきっと彼の魂が囚われている、私はそれを救ってやりたいのです」


 自己満足でしかないが、このまま捨て置くという事はどうしても出来なかい。


「刀の鞘が届き次第、東の国へ向かおうと考えています」


「東の国というと、聖都(せいと)の大聖女か」


「はい、そこで刀を清め魂を解き放ちます」


「騎士団に聖都まで運んでもらうのは駄目なのかい?何も君だけが背負う事はないんだよ」


 それではきっと駄目だと、心の奥底(おくそこ)が叫んでいた。


「この刀は魔性(ましょう)です、人を取り込み乗っ取ろうとするでしょう、任せてなどおけません」


 確かに騎士団の人々は日夜(にちや)鍛え心も磨いている事だろう、だからと言って妖刀に飲まれない保証などないのだ。


「それは君にとっても同じことだろうに……」


 そう、私にも言える事なのだが、不思議とそうならないという自信があった。


「分かった、そこまでの思いなら旅に出ることを認めるよ」


「父上……」


「ただし、僕を倒すことが出来たらだ」


 父上の雰囲気が変わり、全身から途轍(とてつ)もない威圧感が放たれる。


「望む所です……!」


 妖刀を戻して背負い、立ち上がる。


「皆、悪いけど下がっていて貰えるかな」


「「「は、はい!」」」


 突然放たれた父上の圧力に手を止めていた門下生達が慌ただしく壁際に下がっていく。


 それを確認した父上は中央に歩いていきこちらを向く、私も腰に愛刀を差し中央に立って向き合う。


「君が勝てば旅に出ることを認める、ただし僕が勝てば刀を騎士団に預ける、いいね?」


「分かりました」


 初めて相対する本気の父上に思わず身体が震える。


(これは恐れているのか?いや違う、この高揚感は……!)


 この震えは、この鼓動は、きっと強者と相対した時にしかきっと味わうことが出来ないものだ。


 父上が身を案じてくれているが(ゆえ)の行動だというのに、感情が(たか)ぶりを覚えている事を恥じながら、父上の全力とぶつかり合えるという喜びを噛みしめる。


「じゃあ始めようか」


 父上は姿勢を低くし柄に手を添える、あれは抜刀の構えだ。


「はい、父上」


 同様に構える。


「いざ尋常(じんじょう)に……」


「「勝負!」」



 ――――。


 ――。


 ―。


「参ったな、あそこまで育っていたなんて……」


 日も暮れ、誰も居なくなった道場に疲れ果てた男の声が木霊(こだま)木霊する。


 度重なる戦闘によって嵐が通り過ぎたように荒れ果てた建物の中央、リュウガンジ家現当主であるミリザレフが座り込んでいた。


「いずれ来た時の為に鍛え直さないとな……」


 刀身が中程で折られた刀を見つめながら当主は呟く。


「いや、あの子なら必ず成し遂げられるはずだ」


 だがもしその時が来たならばと、父親は決意を固め道場の門をくぐる。


「その前に道場を直さなくちゃかな……」


 まったくやんちゃな子達だと、大暴れをした二人を思い浮かべ微笑みながら屋敷へと帰宅した。

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