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武士の子孫、異世界を制す  作者: ふみぃ


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妖刀

「グラド、入るぞ」


 建物の扉を二回叩き、中に入る。


 刀の専門家である鍛冶師であれば、あるいは刀のことも分かるのではないかと、鍛練へ行く前に村の外れの鍛冶場へやって来ていた。


「これはこれはアルマ様、今回はどういったご用件で」


「鞘を作って欲しいのだが頼めるだろうか」


「それはもちろん構いませんけど、見たとこまだ傷も目立たないようですが」


「いや、こっちではなくこの刀の方をな」


 背負っていた刀を下ろし鍛冶師に見せる。


「刀……ですかい?」


 刀身に巻いた布を(ほど)き刃を(あら)わにさせる、と火の(あか)りを反射し怪しげな輝きが放たれた。


「こ、これは……」


 グラドが太い腕を伸ばし触れようとしたのを見て刀を引くと、何かに魅入(みい)られたかのような意思の薄れた瞳でこちらの顔を見る。


 強めの手拍子を打ち、衝撃音と空気の振動グラドの髭を(たくわ)えた顔にぶつけてやる。


「っ!俺は一体……」


 正気を取り戻したグラドは瞬きを繰り返すと頭を抱えだす、今の状況をまったく理解できていないといった様子だ。


(間近で見ただけでこうなるか……)


「大丈夫か?」


「どうにか……、それでこの刀は一体」


 理性の戻った瞳でこちらを見るグラド。


「ああ、実はな」


 刀を手に入れた時の顛末(てんまつ)を説明する。


「人を呑み込み操る刀ですかい……」


「信じられないだろうがな」


 グラドは何かを考えるかのように、自身の髭を()じり始める。


「……ある話を聞いたことがあります、これがそうだとは限りませんが」


「是非聞かせてほしい」


「わかりました、では……」


 グラドの話はこうだ。


 この大陸にはかつてある王国があった。


 その国は(まばゆ)い栄光が千年続く長い歴史と、他大陸を支配する程の力を持つ大国であった。


 そこを治めていた王は建国千年を祝うべく、国中の技術者を集め象徴(しょうちょう)に相応しき剣を作ることを命じる。


 職人達は技術を結集し、見事な一振りを造りあげた。


 その剣は何枚にも重ねた革を重みだけで両断し、分厚い金属の大鎧を容易く貫いたという。


 献上(けんじょう)された剣を大変気に入った国王は千年祭にてそれ(かか)げ国宝とし、寝る時さえも肌身から離さず、常にその宝剣を持ち歩いていたという。


 千年祭を終えたある日、騎士が任務に失敗し帰還した事で激怒した国王は、その者の首を宝剣で()ねてしまった。


 殺された騎士は国内でも有数な貴族の子息であり、騎士団内でも尊敬(そんけい)の念を寄せられた人物であった。


 そのことで反乱が起きることを恐れた国王とその周囲は、心優しい国王が乱心(らんしん)したのはこの宝剣が原因であり、国王を貶める(おとし)めるための呪いを仕掛けられていたのだと、制作に関わった者達を次々に処刑した。

 処刑を行う際も見せしめの為だと宝剣が用いられ、悠久(ゆうきゅう)の平和を願い作られた宝剣はいつしか、王国を混乱へと導いた魔剣と称され恐れられたのだった。


 混沌とした王国の様子を知った近隣の帝国はそれを好機と見たか、軍を攻め込ませ瞬く間に征服。

 王族や貴族達は一人残らず処刑され、その処刑にも象徴である宝剣が用いられた。


 帝国側の貴族に気に入られた宝剣だったが、その所有者が次々と謎の死を遂げる事件が相次ぎ、それを危険視した者達によって魔剣は人の手の届かない場所に封印されたのだった。


 そして、その帝国も程なくして滅びを迎えた。


「魔剣、やはりか」


 人を操り、悲劇を引き起こす剣。


 手に持った刀を見つめると、私声に呼応(こおう)したかにように輝いた。


「あくまで伝承の一つですが」


「どうにかして清めることは出来ないのだろうか」


「と言いますと」


「この刀に触れた時に見たんだ、記憶を」


 苦痛や悲壮で満ちた表情が、頭の中で焼き付いて消えてくれない。


 彼の魂がこの刀に囚われているのならば、救ってやりたいと思ってしまった。


「……そうですな、東の国に住まわれている聖女であればあるいは可能かも知れませんが」


「東の国か……」


 向かうとすれば、長い旅になるだろう。


「ところでアルマ様、貴方の身に何かおかしな事などは起きていないのですか?」


「そうだな……」


 最初に拾った時こそ強烈な痛みと虚脱感などがあったが、今はそういった事も全く感じていない。


「特には無い」


「そうですかい、ですがお気を付けください、今はまだ眠っている状態なのかもしれません」


「心しておこう」


 いつか私もあの野盗(やとう)のように、死人となっても動き続ける末路を迎えるのかもしれない、だがこの刀を放って置くわけにもいかないだろう。


「では、刀の採寸を済ませたいのですが、私は触れられませんので」


「ああ、私が測ろう」


「ありがとうございます」


 グラドから巻き尺など諸々(もろもろ)の道具を受け取り言われる通りに寸法を測っていく、こういった細かい作業もたまにはいいものだ。


「では完成次第届けさせます」


「ああ、頼む」


 鍛冶場を後にし、屋敷の書庫に入る。


 本当は修練をしたいところだが、どうしても気になることが出来てしまった。


「人を操る魔剣か……」


 初代当主がかつて暮らしていた故郷の様々な記述が遺されたこの書庫であれば、恐らくはこの刀の事が書かれた物もあるかもしれない。


「これだ」


 書によれば初代当主が元々いた日ノ本という国には、妖刀と呼ばれる刀があったそうだ。


 妖刀はこの世の物とは思えぬ美しさと恐ろしい切れ味を持ち、その怪しげな輝きは人々を魅了(みりょう)し狂わせ呑み込む。

 そして、手にしたを手にした者はいずれも血塗られた運命を辿り、そして最後には刀の切れ味で自らをも切り裂いてしまうという。


「正しくこれが魔剣や妖刀の類であるのならば、私の末路もまた血塗られたものになるのだろうな」


 これらの話を見聞きしても刀を手放す気になれないのは、既に私も取り憑かれているからなのだろうか。


「ん?」


 妖刀の刃先を見ると、あれだけ酷かった刃こぼれが治り始めている、拾ってから一度の手入れもしていないというのにだ。


 世の中には傷を修復する魔術の施された剣という物が存在するらしいが、これがそうだという保証などはどこにもないのだ。


 出発は早い方がいいだろう。


「父上は道場にいるだろうか」


 書を棚に戻し書庫を後にする。


 ̄ ̄ ̄ ̄


 道場の門をくぐり戸を開けると、門下生達が木刀の素振りを行っている最中であった。


 父上はその前をゆっくりと歩き、一人一人に指導をしている。


 私は今でこそ修練を行っているが、以前はここに混じり父上から直接の指導を受けていた。


(たまにはここに混じって修練を行うのも、いい刺激になるかもしれないな)


 とはいえ今回ここに来たのはそれが目的ではない、邪魔にならぬように端の方に座り待っておくべきだろう。


師範(しはん)様ー!私と戦ってー!」


 道場内に、快活な声が響き渡った。


 声の方へ目をやると、二つに(まと)めた髪を揺らしたサリアが入って来た。


 彼女は拾われてきた孤児であり、今では本当の肉親のように父上に懐いているようだ。

 小柄に似合わない大太刀を振り回すだけの膂力(りょりょく)を持ち、純粋な力だけなら村の中でも一番だと言われているとも聞く。


「サリア、今は彼らの訓練中だから後でね」


「えー、私は今すぐがいいのにー……」


 頬を(ふくら)ませて膨らませ()ねるサリアを(なだ)める父上を見て、私も(かつ)てはあのような感じだったのだろうかと考える。


 ただでさえ力も強い彼女は、道場に入ってから剣の技を身に着け、同じ門下生からは恐れられ勝負を受けて貰えていないそうだ。


 幼い故に加減を知らないのだろう。


 父上からは勝負を求められたら引き受けてあげて欲しいと言われていた、いまだその機会は訪れていないがその時がくれば無論(むろん)受けて立つつもりだ。


(私も(ひさ)しく父上と手合わせをしていないな)


 自分の実力を()し量るといった意味合いで頼んではいるのだが、最近は何かに理由を付けて相手をしてもらえないでいる。

 最後に言われたのは、私と実戦稽古(けいこ)をすると疲労と筋肉痛が続いて辛いからという理由であり、魔術で治せば良いのでは提案するも私の一撃は芯に響くからと逃げられてしまっている。


「素振りはここまで、次は打ち合い稽古に移ろうか」


「「「「はい!」」」」


 門下生達は、掛け声と共に各自で二人組を作る。


「では、始め!」


 打ち合いが始まった。


 一対一の打ち合い訓練とは本来相手に対する意識以外を極力()ぐ物であるが、この密集した状況で行う訓練は実戦を想定し、常に周囲の気配を探り不意の一撃を回避する事を目的としている。


「いいなー、私もやりたい」


 サリアは寝転がり、羨ましそうに呟く。


(私も戦いたくなってきたな)


 だが今回の目的はそれでは無い、今は瞑想をして少しでも身体を休めておくとしよう。


 時間が経ち所々で勝負が付き始めた頃、サリアが動き出した。


「ねぇねぇ、私と戦お?」


「は、え?」


 一対一の稽古を制し喜んでいた青年に対して、サリアが絡んでいる。


「いや~、それはちょっと……」


「なんで?やなの?」


 幼いながらに放たれる、中々の圧力を直で受けた青年は滝のような汗を流し震えだす。


 これ以上は止めるべきだろうと父上を見ると、呆れたようなため息をついていた。


「サリア、そこまでにしておきなさい」


 父上は青年とサリアの間に割って入り圧を遮る、青年の顔はもはや青くなり遂には膝を着いてしまった。


「どうして?どうしてダメなの?」


 父上が止めているというのにサリアは圧力を弱めるどころかさらに強めていく、それを感じ取った周囲の門下生達も戦いの手を止めて壁際まで下がっていった。


(見事だが精神がまだ未熟だ、年相応ではあるのだろうが)


 逃れ損ねた青年を助け起こし、端の方へ連れていき座らせる。


「た、助かった……」


「少し休むと言い」


「ああ……」


 父上の傍まで歩いていく。


「アルマ、以前頼んでいたことを頼めるかな」


「分かりました」


 父上が下がっていくのを見送りサリアの前に立つと、光の灯っていない瞳で見つめられる。


「でもあなたって魔術が使えないんでしょ?ならつまらないよ」


 こうして明確(めいかく)に下に見られるのはいつ以来だろうか。


 魔術が扱えて当たり前の世界でそれを行使することが出来ない身体を持って産まれた、それによって不当に扱われることもあった、もはや慣れてしまったが。


 私がどう言われるかは今はどうでもいいことだが、彼女の将来の為にもこの試合で考えは改めて貰おうべきだろう。


「サリア、彼は君よりもずっと強いよ、私よりもね」


「ふーん……?」


 疑念(ぎねん)の視線は変わらない、だが僅かな興味は芽生えてくれたようだ。


(だがそれよりもだ)


「父上、私はまだ貴方の事を打ち倒してはいませんが」


 毎回時間切れで強制終了させられて終わるばかりで、負けを認めさせたことなど無いというのに。


「まあまあ、今は集中して」


 まったく納得は出来ていないが、決着は必ず付けさせてもらう。


「さあ、やろうか」


 サリアから距離を取り、鞘と柄に手を添える。


「すぐに終わったら私怒っちゃうから……」


 サリアは大太刀の鞘を投げ捨てると、空気を揺らすほどの圧力を解き放った。

アルマが扱う刀はグラドが打った物であり

他の者が扱うそれよりも厚く作られている

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