ある者の視点
夕暮れ時のとある荒野、火山が噴火して出来たと言われる大岩の群れの中に、ならず者の一団を纏める男がいた。
薄くなってきた頭髪を全て刈り地肌だけとなった頭に、オーガの入れ墨をした大男。
「ゴロンの兄貴ぃ、今日も誰も通りませんねぇ……」
「同業者が暴れてっからなァ、騎士共の監視が減ってシノギがしやすくなったがよ」
ゴロンと呼ばれた盗賊の頭は、自慢の斧についた土埃を払い空を見上げる。
「魔物も暴れてるんじゃあ、こっちもやりづらくてしょうがねえ」
盗賊団同士はお互いの縄張りからはあまり出ない為、諍いが起こることは稀である。
それこそ食料の買い出しに行く時は別だが、それでも護衛を付けておけば被害が大きくなることはない。
魔物に関しては話が別だ、奴等は土足で縄張りに入り込んで来ては荒らしに荒らして帰って行く。
中型までならなんとか追い払う事は出来ても、大型以上になると嵐が過ぎ去るのを待つかのように、何処かに隠れているしかない。
「オイラそろそろ女が食いてーっすよぉ!あー奴隷馬車でも来ねえかなー!」
「今時女運んでる馬車なんか襲っても割に合わねえよ、内引きがいりゃ別だがよ……」
この荒れた時世で女を安い警備で運ばせる狂人など何処にもいないだろう、大抵は大人数の護衛が付いているか、少数の精鋭などに限られている。
それを襲うくらいならば、男一人の行商人を襲って、街で女を買うほうが余っ程安全であり確実だ。
「盗賊やって生き残るなら頭が良くなくちゃいけねえ、ハズレ引いて首が飛んだ同業者なんか山程いんだからな」
「良く分かんねえけど流石っす兄貴!」
「まあな、明日は街行くからそんときに抱かせてやるよ」
「マジすか!死ぬまでついていきますよ兄貴!」
馬鹿共を手懐けるにはたまに餌をやらないと働かなくなるから面倒だ、力で押さえつける奴よりは長持ちさせられるから結果的には安いが。
「カシラァ!馬車が走って来ます!」
岩の上から見張らせていた一人が獲物を見つけたようだ、これで手ぶらで帰らずに済む。
「やっと来たか……、特徴はなんだ!」
「多分奴隷馬車です!」
奴隷馬車なら稼ぎは確実だ、馬だけじゃなく乗ってる人数分の金と顧客情報が手にはいる。
さらに後ろめたい事情もあって、連盟の護衛が付く事も無い。
だがその前の多分という単語が引っかかる
「多分ってのはどういう事だ!」
「いえそれが!馬車を引いてるのが人間なんですよ!」
「なんだそりゃ……」
「兄貴どうします?」
馬車を引く人間、見たことがないわけでは無いが、それは裏町の極一部の話だ。
魔物が出てくる場所でそのような事をするのは、頭のイカレタ奴しかいないだろう。
「引いてる奴は何人だ!」
「一人です!」
馬車を一人で引く野郎が、街の外を走っている。
「そいつは見逃せ!時間の無駄だ!」
「良いんすか?今日稼ぎ無いっすよ兄貴!」
「馬鹿野郎!こんな所で馬車引っ張り回す野郎なんかやべえ奴に決まってんだろ!」
長生きしたいなら、わけの分からない奴に喧嘩は売らないってのがこの世の鉄則だ。
「カシラァ!後ろに女が乗ってますよ!しかもかなり上玉だぁ!」
遠視の魔術が扱える部下の一人が、女足らずの世界では言ってはならない単語を口走った。
「女!?」
「女だって!?」
「久々の女だ!」
女という単語一つで、それまで静かだった者達も騒ぎ出す。
「馬鹿共!明日街に行くから大人しくしてろ!」
「でも女っすよカシラァ!!」
頭が悪いやつはこれだからだめだ、目先の欲望に囚われてすぐ死に急ぐ。
「あっ!お前撃つな!」
部下の一人が聞き捨てならない事を叫んだ。
「おい!何があった!」
「ビルの馬鹿が弓で攻撃しちまいました!」
「ちっ!おい!当たったか!」
ゴロンは眉間を歪ませ持ながら、女がいると報告した遠視魔術の使い手に叫ぶ。
「いや……、馬車引いてる男に掴まれてます!」
「……大外れじゃねえか馬鹿野郎!お前等!ずらかるぞ!」
「え!女がいるんすよ!」
「口答えすんなクソ野郎共!」
ゴロンは部下の一人を殴りつけると、斧を担ぎ岩陰からアジトの方面へ走り出す。
(確定だ!奴隷馬車なんかじゃねえ!イカレ野郎だ!)
「カシラァ!馬車が滅茶苦茶な加速してこっち来てます!」
「クソったれ!だから見逃せって言ったろうが!」
ゴロンは魔術による身体強化をしながら走り続けるが、不意に振り返ると馬車を引いた黒髪の男が輪郭が分かる距離にまで来ていた。
(最悪だ!だから今まで相手を選んできたってのによ!)
「カシラァアアア、グェっ!」
「アガっ!」
「ぎえっ!」
追いつかれた部下たちが、馬車男に次々と撥ね飛ばされていく。
二日酔いの時に見る悪夢のような光景だ。
「クソっ!ゴロン様を舐めんじゃねえ!」
覚悟を決めた盗賊団首領ゴロンであったが、斧を持ち振り返った瞬間に、さらに加速した場所に撥ね飛ばされたのであった。
「がはっ!」
薄れ行く意識の中でゴロンは心に誓う、次シャバに出たら田舎で畑をやろうと。




