死闘を終えて
森を抜け、屋敷への足を速める。
全身を血で汚している状態を誰かに見られると色々と詰められてしまうだろう、後に刀の事に関しては説明するつもりではあるが、今は消耗した肉体と精神を休ませておきたい。
屋敷の壁を飛び越え裏口へ回り、足音がならないように最大限に気を配り水場へ向かい血や汗を流す。
髪を布で拭いながら部屋に戻っている最中、自室から人の気配を感じた。
自身の気配を隠せないような相手ならばそこまで警戒する必要はないのだろうが、一応はと柄に手をかけながらゆっくりと扉を開く。
「……すぅすぅ」
「なにをしているんだ」
私の寝床で使用人のアニスが、枕を抱え穏やかな寝息を立てていた。
音を立てないよう近くと、余程落ち着くのか口元から涎を垂らす緩み切った寝顔が見える。
口元を綺麗な布で拭き取ってやると、逃げるように顔を逸らし枕に顔を埋めてしまった。
「怒られても知らないぞ」
持ち帰ってきた刀を離れた所に置いておき、弓矢と愛刀を壁に掛ける。
籠手と膝当て、脛当てを外し定位置に置く。
「これはどうしたものか」
この刀に関して父上には報告するべきなんだろうが、まだこれがどういったものか分からない以上それは躊躇われる。
あの死人のように操られでもしたら厄介だ、流石に肉親を斬りたくはない。
「さて、私も寝たいのだが……」
出来ればすぐに睡眠を取りたいのだが寝床はアニスに占領されている、広さだけは十分にあるもが共に眠る訳にもいかないだろう。
「起こすのも可哀相か」
アニスに布団を掛けてやり、近場の椅子に座る。
「えへへぇ……、アルマさまぁ……、くぅ」
「まったく……」
睡眠を取るために瞼を閉じ深く呼吸をする、刀については起きた時に考えるとしよう。
――
「……何をしてるんだ」
すぐ傍に近づく気配を感じ、瞼を開くと眼前にアニスの顔が迫ってきていた。
「ひぇええ!あっえっとその!これは誤解です!」
アニスは弾かれたように傍を離れ釈明を並べ始めるが、殆ど言葉の形を成していない。
「それよりもアルスへの言い訳を考えた方が良いのではないか?」
「へ?……あっ」
アニスの双子の姉であり、同じく私の専属使用人である彼女は今、アニスの事を探しいるのではないだろうか。
無表情ながら、中々の才能を感じる圧力を発している所を思い出しながら警告をしておく。
「どっどうしましょう、私怒られちゃいます!」
「甘んじて受け入れることだ」
「そんなー!」
そんな悲鳴を無視し、収納から替えの服を取り出す。
「あっ!お手伝いします!」
「結構だ」
「アルマ様あああ!」
アニスの背中を押して部屋から出て行かせ、服を脱ぎ包帯を外す。
傷口は既に塞がっており、これならば気づかれることは無いだろう。
幼い頃から傷の治りは人より早かった、何故かは未だ分かっていないが、それで困ることも無く特に気にしてはいない。
「この程度ならば、いつも通り動こうとも問題はないか」
短い時間とはいえ睡眠を取ったことにより、肉体の疲労と摩耗した精神は十分に回復しただろう。
これならば、いつも通りに修練を行うことは出来そうだ。
服を着込み装備一式を身に着け、持ち帰ってきた刀を背負う。
昨夜の戦いはどうにか征すことが出来たが、改善の余地は見つかった。
この経験を活かしさらなる力を付けていきたいところだ。
「その前に鞘を用意してもらうべきか、抜身のままでは持ち歩きづらい」
扉を開くと、アニスはすでにアルスの元へ向かったようだ。
――
「遅かったわねえ……」
敷地内の庭でアニスは、満面の笑みだがどこか威圧感を感させる表情をしたアルスに迎えられていた。
「これには、事情があって……」
「へー、それは是非聞いてみたいわねぇ」
「そ、それは、その……」
顔を真っ赤にして胸の前で自身の一刺し指同士を弄ぶアニス、その様子を見たアルスは表情を変えないまま額に青筋を浮かべる。
「まったく、アルマ様もすぐにアニスを甘やかすんだから……」
「甘やかすなんてそんな……、えへ」
「なんなのよそのにやけ顔は……」
アルスは蟀谷を指で押さえため息を吐くと、箒をアニスに持たせる。
「ほら仕事に戻るわよ!」
「あ!待ってよアルー!」
今回は短めです




