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武士の子孫、異世界を制す  作者: ふみぃ


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尾の道②


 飛び跳ねる石像の後頭部を掴み地面に押し付けると、白い煙を伴った小爆発が起き、石像は獣へと姿を変えた。


 暴れる獣の首根っこを掴み持ち上げると、特徴的な大きな尾が目に入った。


「やはり『化け狸か』……」


 鳴き声を上げる化け狸を運んで道へ戻ると、他の者達も既に捕らえ集まっていた。


「こんな魔物初めて見ました……」


 緑仮面は(かご)にいる化け狸を覗き込み観察しては、何かを本に書き記している。


「戻ったか、じゃあ早速だけど説明頼めるか?」


「ああ」


 化け狸の首を掴んだまま地面に座らせる。


「まず、こいつは流れ者だ」


「流れ者……」


「その確証は何処からだ?」


「私の故郷には異世界について記された書がある、そこに載っていた」


 それ程の情報は集まっていなかったのか、記された事は少なかったがそのどれもがこれとは一致していた。


「なんだと……!」


「もしかして、君は異世界と縁がある人なのかな?」


「ああ」


「それは、とても興味深いね」


 だが今やるべき事は私を知ることでは無く、この化け狸をどうにかすることだ。


 化け狸を再び持ち上げ、顔をこちらに向けさせる。


「お前、私の言葉が分かるか」


「それに言葉なんて通じるのかよ?」


 化け狸は私からそっと視線だけを外し、ゆっくりと口を開いた。


『こ、殺さないで……!もうイタズラしないから……!』


「っ!」


「人間の言葉を話した!?」


「そう、この者達は人の言葉すらも巧みに操る、『妖怪』だ」


「ヨウ、カイ……」


 書によれば余りに低級の妖は言葉を操ることは出来ないようだが、一定の力を得れば自然と扱えるようになると遺されていた。


「その妖怪がオークキングが逃げ出した原因だと言うのか?」


「さっき追いかけた時、それだけの力は無いように思えたけどねぇ」


 確かに化け狸は力の弱い妖怪だ、だが優れている所はそこでは無い。


「石像に化けている姿はお前達も見ただろう」


「確かに見ましたけど……、何かに変身する魔物はいない訳では無いですよね……?」


「あー、オレも何回か戦ったことあるな」


 この世界にも身体を他の姿に変化させる魔物は存在している、だがそれらの魔物達は自身の体格よりも大きな存在にはなる事が出来ない。


「お前の中で一番強い者に変化しろ」


 化け狸を地面に起き、首から手を離す。


『は……?』


「逃げようなどとは考えるな、私はお前よりも速い」


 『白』に手を掛けながら、脅すように強めの口調で続ける。


『わ、分かりました!』


 化け狸は前足で器用に木の葉を掴むと、額の上にそれを乗せる。


 そして発生した白煙に包まれ、それが晴れると。


『グラアアアアアア!』


 全身が赤く染まり、額から一本の角を伸ばした赤鬼がそこには居た。


「でっか!」


 その体格はオークキングよりも遥かに大きく、気性の荒い種が迷わずに逃走を選ぶ事も理解できるだろう。


「なるほどね……」


「自分よりずっと大きな身体になれるんだ……!自然に置いてかなり優位に立てる能力です!」


『隙ありいいいいい!』


 何を思ったのか、こちら目掛けて振り落した化け狸の拳を片手で受け止める。


『なっ!』


 やはりと言うべきか、見た目だけは大きくとも赤鬼と比べて力は弱い。


 それどころか通常のオークよりも貧弱だろう、人間が殴られれば多少の怪我はするだろうが。


「これ程の体躯があれば、対する魔物がオークキングであろうと逃走を選ぶ事だろう」


「だ、大丈夫なんですか?」


「問題無い、元の姿に戻れ」


『は、はいぃ!』


 赤鬼となった化け狸は再び白煙に包まれると、元の獣姿へと戻った。


「いかに姿を変えようとも力は大して変わらない、連盟員であれば容易く対処出来るだろう」


「問題は魔物が追い出されて起きる被害をどうやって防ぐか、かな?」


「素早い解決を求めるのならば、根本を全て断ち切れば解決するが」


『かかか、勘弁してください!私達も急にこの地に来て何処へ行けば良いのかも分からなくて!』


 囚われている化け狸達が、一斉に許しをこう鳴き声を上げる。


「うーん、それは可哀想な気がしちゃいます……」


「ボクも人語を話されると揺らいじゃうなあ」


「オレはどっちでもいいぞ、斬るのをアンタがやってくれるならだけど」


「異世界の知識を得られる貴重な機会だ、話を聞いてからでも遅くはない」


 無論、友好的であるのならば私も斬るつもりは無い。


「群れの元へ案内しろ、お前達への対応はそれから決める」


『わ、分かりました……!』


 ――


 洞窟の中で歩を進める程に、獣の臭いが強くなっていく。


 群れが近いということだろう。


 そして細道を抜け広間へ出ると、数十はいる化け狸達、さらに一際大きな化け狸の一匹の姿がそこにあった。


長様(おささま)!』


『長様!長様!』


 案内をさせていた化け狸が、大きな化け狸の下に駆け寄りその裏側に身を隠した。


『おや、客人かい……?』


 理知的な瞳がこちらを見据える。


『これはこれは、人間方が我らに何用で……』


 やや遅い口調と荒く黒ずんだ毛並みが、かなりの(よわい)である事を伝えてくるようだ。


「お前達妖がこの洞窟を支配したことによって、私達人間は被害を受けている」


『そうでしたか、それは大変失礼な事をしたようですね……』


 申し訳ないと言った口調こそしているが、その表情は変わらぬままであり、その瞳は未だにこちらを見定めようとしている。


「一つ聞こう」


『何でしょうか……』


「森の人間達に迷いの術を掛けているのはお前か?」


『ええ、この巣に入られては困りますので……』


 化け狸は自身がしているとはっきりと認めた、我らは何も悪いことなどしてないと認識しているのだろう。


「そうか」


『人間方は我らを退治しに来られたのですか……?』


「お前達が危害を加えないとなれば退こう、傍に住む人間達にもこの場所へ近寄るなとも伝える」


『分かりました、我らは人間方に危害は加えません……』


 大狸はあっさりと提案を受け入れた、(いささ)拍子(ひょうし)抜けではあるが事を荒立てずに済むのならそれでいい。


「森の中へ閉じ込める事もしないで欲しい、近づけたくないのならば遠ざけてくれ」


『ええ、勿論です……』


 話が早い妖怪で助かった、たとえ妖怪と言えども斬らずに済むのならばそれに越したことは無いのだ。


「行くぞ」


「え?あっ、待ってくださーい!」


 細道を抜け洞窟を後にする。


「あれで良かったのか?」


「向こうは敵対の姿勢を取らなかった、ならばこちらも取る必要は無い」


 少なくとも街の人間に被害が及ぶ可能性は低いだろう、森に入った連盟員に対しても迷わせる事も(しばら)くは無いはずだ。


「異世界の知識を得られる可能性が無くなったのは惜しいがな……」


「ボクもそこが惜しいかな、仕方ない事だけどさ」


「平穏を望むのならば不可侵である方がいいだろう」


「そうだね……」


 今回は相手が穏やかであり警戒をしていたからこそ対話を無事に終えることが出来た、刺激してまで情報を得たとして、被害が出ては意味が無い。


「一応の目的は達成したし街に戻るかー」


 黒仮面が小鐘を鳴らし馬車を呼ぶ。


彷徨(さまよ)っているオークの対処はしなくても良いのか?」


「それに関しては、連盟が討伐依頼を出して調整するから問題無いよ」


「オーク一体の討伐報酬は結構高いからな、あっという間に減るだろうさ」


「そういうものか」


「そういうもんよ、んじゃ帰ろうぜ」


 ――


 アルマ一行(いっこう)が出て行った洞窟内(どうくつない)、交戦することもなく人間達を返した大狸に、捕まえられていた化け狸達は疑問を覚えていた。


『長様、どうしてあのまま行かせたのですか?』


『平穏に暮らすのなら、争わないに越した事は無いよ……』


 大狸は何処からか木の葉を丸めた塊を取り出すと、それを咥えて端に火をつける。


 草の焼ける臭いと煙を嫌がり化け狸達は散っていく、その様子を一瞥(いちべつ)すらせずに一息で持ち手の辺りまで燃焼させると、紫煙(しえん)を吐き出し葉巻を地面で擦り消した。


(嫌な臭いだ)


 長く生きる妖で有ろうとも、長生きをしたければ生き方を選ばなければならない。


 千年を越える寿命を持とうが、殺され喰らわれてしまえばそこ迄の命である。


 短気はすぐに焼き切れるのだ。


(大妖の気配をあんなにも纏わせて、……それにあの刀)


 一目見ただけでも理解が出来た、あの者は(ただ)の人ではないと。


 もし死合(しあ)うならば、大将としてこの者らを全て逃がしてみせるが、私の首を守り切ることは難しいだろう。


 小妖(しょうよう)であった頃から強者を見極める嗅覚(きゅうかく)があった、ここまで生きて力を付けることが出来たのも、それのお陰だと言える。


 この世界に(かどわ)かされた当時は狼狽(うろた)えたが、土地を占める大妖(たいよう)から離れる事が出来て喜ばしいとも考えていた。


 この世界の妖達は賢くはない、脅かしてやればすぐに追い払える程だ。


(春が来たと思っていたが、越冬の期間はまだ続くか……)


『嫌な臭いだ』


『口に入れていたそれのせいじゃないですか……?』


 大狸は指摘をしてきた小狸を一瞥だけした後、改良した術を森に掛け直した

古山(こやま)古狸(ふるだぬき)

とある山を住処(すみか)にしていた狸の妖怪。

元々力は弱かったが、その知恵を生かして400年という年月を生き延びている。


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