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武士の子孫、異世界を制す  作者: ふみぃ


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尾の道

 


 早朝、まだ日も(のぼ)らぬ頃に連盟の扉を開き中へはいると、数人の外套(がいとう)(まと)った者達が開店前の酒場の席で談笑をしていた。


 近づいていくとそのなかの一人がこちらに気づき片手を上げる、それを見て他の三人が此方を向いた。


「よ、アンタが例の助っ人か」


「ああ」


「ふーん、がっつり戦闘型って感じだな、ここ空いてるから座れよ」


 促されるままに空けられていた席に座る、他の面子を確認してみると皆同じように顔を隠していた。


「しっかし珍しいな、調査隊に参加したいなんてさ」


 黒い仮面が拳の上に頬の部分を乗せながら、こちらを興味深そうに見てくる。


「今回参加したのは気になることがあっての事だ」


「気になることですか?」


 やや高めの声で緑の仮面が相槌を打つ、体格は小さくで椅子の背に細長い剣を立て掛けている。


「森に起きている異常、その原因は流れ者だと私は見ている」


「流れ者……?」


「異世界から流れ着いた者をそう呼ぶんだ、君も気付かない内に見ていると思うよ」


 穏やかな声をした青い仮面が補足をする。


「へー」


「流れ者だと判断した要因はなんだ」


 黒い画面をした大男が低い声で問いかけてくる、外套を着込んでいても分かるその体格からし て、相当な力を持っているだろう。


「森で起きた現象、オークの群れに気付かない冒険者達、単なる魔物にこのような事は出来ないだろう」


「確証はあるのか?」


「それを確かめに向かう」


「なるほどね……」


 流れ者の仕業(しわざ)で無いのならばそれで良い、だが妖が原因であるならば、普通の人間には対処(たいしょ)(きび)しい物になるだろう。


「なんにせよ戦力が増えんのは歓迎(かんげい)だ、今回はよろしくな」


「よろしく頼む」


 足音が聞こえ視線を受付の方へ向けると、裏口から出てきた連盟関係者がこちらに歩いてきた。


「皆様おはようございます、こちらが今回の依頼内容ですので、目を通すようにお願いします」


 手渡される紙に視線を落とすと、そこには回収対象と魔物や植物の名が並んでいる。


 さらにその下には異変調査及び、可能であれば不明物の回収と明記されている。


「不明物の回収ね、簡単に持って帰れるもんなのか?」


「あくまでも可能であったらで構いません、目撃されたのは石の建物や石像でしたので」


「石像か……、人もしくは同等な知能を持った存在が作り出したと考えて間違い無さそうだな」


 赤仮面は顎に大きな手を当てる。


「石像とか建物が流れ着いた例ってあるんですか?」


「いくつか見つかっているよ、有名な物だと東の国境付近に現れた角張(かどば)った巨大な顔の石像かな」


「角張った顔……」


「しかも縦に長いんだってさ、学者の人達は何らかの信仰(しんこう)を目的として作られたと見ているようだね」


「なるほど」


 青仮面は随分と詳しいようだが、研究者達と繋がりでもあるのだろうか。


「ほーん……、まあ考察はさておいて、さっさと向かおうぜ」


 黒仮面は興味なさげに相槌を打つと、席を立ち武器を腰に差す。


「うむ」


 赤仮面がそれに続くと、残り二人も同じく席から立つ。


「まだ面白い話はあったんだけど、まいっか」


 彼等に続いて席から立ち刀を差す。


「てか長剣の二刀流なんて珍しいな」


「二刀の修練もしているが基本は一刀流だ、対象に応じて使用する武器を変えている」


「そうなのか、だとしても凄えけどな」


 (もっと)も、この二振りで二刀流をする事はこれからも無いだろう。


 一同で建物の外へ出ると黒仮面が懐から、(にぶ)く光る黒の小鐘(こがね)を取り出す。


「馬車呼ぶぞ、あと見た目に驚くと思うけど攻撃すんなよ」


 揺らされた小鐘から高く美しい音色と共に、黒い(もや)(こぼ)れ落ち地面に影を作り出す。


 それはゆっくりと広がると、そこから黒い(ひづめ)が伸び、黒いナニカに引かれた赤い車体が飛び出した。


「これは……」


 首のない黒獣に引かれる、赤き馬車。


 妖刀が僅かに震え出し、金属の小さな衝突音が聞こえ始める。


 鬼や天狗、猫叉が発していた妖気は感じ取れない、だがこの世のモノとは思えない異様なナニかが溢れ出している。


 魔物のそれとも違うまったく別のナニカだ。


「この鈴も所謂(いわゆる)流れ者ってやつだよ、んじゃ乗ってくれ」


 そう行って黒仮面が馬車へ乗り込むと、他の面々も慣れたようにそれに続く。


 馬車に乗り込むと赤と黒、その二色の車内が広がっていた。


「適当な所に座ってくれ」


「……ああ」


 入口に近い席に座り車内を見渡すが、どう見ようとも外から見えた馬車の中身とは違っている。


「じゃあ出発するぞ」


 窓の外へ目を向けると、馬車が再び闇の中へと沈み始める。


 程なくして景色の全てが闇に染まると、車内の壁に掛けられた燭台(しょくだい)に青い火が(とも)る。


「あんま警戒しないでくれよ、これ使って何かが起きたことなんて一度もないからさ」


「ボクも最初に乗る時は少し怖かったし、気持ちは分かります」


「いやそうじゃなくてな、殺気がバシバシ跳んでて怖えのよ……」


 無意識の内に気が立ち過ぎてしまっていたらしい。


「すまない」


 『白』の柄を握り、息を吐き心を鎮める。


「いや、まあ気にすんなよ」


 旅に出てからというもの、感情の抑制(よくせい)が難しくなっているように感じる。


 以前は瞬間的な怒りや焦りなどすぐ消し止められていたと言うのに、これも妖刀を振るってきた事によるものなのだろうか。


「そうだ、向こうに着く前に編成の話をしようか」


 青面が明るい声音で提案をする。


 確かに初めて組む相手だ、戦い方などを知っておく必要があるだろう。


「まず僕自身の紹介だけど、この弓と水属性の魔術を使うよ」


 青面が空間から呼び出したのは青い枝のような物、内側に湾曲(わんきょく)してはいるが(つる)は張られてはいない。


 長さで言えば短弓の部類だろうか。


「それは魔力弓か」


「そうそう、矢も持ち歩くのは嵩張(かさば)っちゃうからさ、僕はこれを使っているんだ」


 『魔力弓』、その名の通り魔力を矢のように射出することが出来る弓だ。


 所有者の魔力を込めることで弦を生成し、それが尽きぬ限りは矢が途切れることは無い。


 その特性から通常の人間には不可能な矢の連射を可能にしており、魔術士の主要武器として扱われることが多いと聞いている。


「オレはこの二本と闇属性の魔術、中近が得意な距離だな」


 黒仮面が取り出したのは二振りの三角に尖った小剣、斬ることも出来るだろうが突くことに適した刀身をしている。


「ボクは基本的に魔術専門です、自衛用に細剣は持ってるけどあまり使う機会はありませんね」


 緑画面は椅子に立て掛けていた細剣を一応はと持ち上げ、そのまま立て掛け直した。


「俺の武器はこの鎚矛メイスだ、魔術は火属性を主に使っている」


 赤仮面が出現されたのは、人の頭よりも大きな金具に長い柄が着けられた巨大なメイスであった。


 床に置いた際の音からして、常人には振るうこともすら難しい代物だろう。


「私が現状扱っている武器はこの二振りと弓だ、例えどのような距離であろうとも最大限に活躍してみせよう」


「……なんというか、戦争に行くみたいな装備だよな」


「重そう」


「長剣二振りと長弓って組み合わせは僕も初めて見たかも、動き辛くは無いの?」


「重さも動きの制限も覚えは無い」


 余程の閉所であれば弓が邪魔になる事もあるだろうが、それはその時に外せばいいだけのことだ。


「頼もしい発言だな、じゃあ遊撃(ゆうげき)を任せてもいいか?」


「引き受けた」


「よし、役割も決まったし、森も近いから浮上するぞ」


 馬車の揺れが収まると、闇の風景から薄明るい世界にきり替わっていく。


 街から森へはそれなりの距離があったはずだが、これ程の短時間で辿り着くとは、余程速度が出ていたか特殊な力が働いていたかのどちらかだろうか。


「はい到着、忘れ物しないでくれよな」


 黒仮面が出ていくのに続き、武器を持って馬車から出降りる。


「取り敢えず中域付近まで走らせたけど、何か感じるか?」


「……いや、特にそういった気配は感じない」


 妖刀を掴み意識を集中させてみるが、妖気などの気配は特に感じ取ることは出来ない。


「そんな簡単には見つからないよね、取り敢えずオークキングが出たって所まで行ってみようか」


「案内しよう」


 一同を引き連れ、記憶を辿りながらオークキングを斬った場所まで向かうと、骨だけの姿へと変えられたオークキングの亡骸(なきがら)が見つかった。


 緑仮面は小走りで亡骸の方へ近づくとその周囲をぐるりと周り、しゃがんで首の辺りを観察し始める。


「わぁ、すごく綺麗な断面……」


 やや興奮した様子でその場から立ち上がると、転がった頭蓋(ずがい)の前で再びしゃがむ。


「もしかしてその剣で斬ったんですか!?」


「ああ」


「すごいすごい!オークキングの骨は硬いオークよりもずっと丈夫なのに!」


 何をそんなにはしゃぐ事があるのか、緑仮面は小さく飛び跳ねながら近づいてくる。


「はあ……」


 黒仮面が呆れたように溜息を吐くと、その場から歩き出し周囲の様子の探索を始める。


「色々質問して良いですか!」


「今は任務中だ、後にしておけ」


「はーい……」


 赤仮面に(たしな)められると、再びオークキングの亡骸の元へ戻り観察を始めた。


(未だ気配は感じない……)


 感知できないほどの距離があるか、隠すことが余程上手いのか。


 正体が妖で無いのであればそれに越したことはない、だが自らの妖気を抑えるだけの力量があるとすればかなり厄介だと言える。


「死体を調べてみましたけど、特におかしな事はありませんでした」


「魔術を受けたような痕跡も特に無かったね」


「はい、骨には別の魔物が(かじ)った(あと)なんかはありましたけど、死体が分解される時は絶対に付きますし」


「私が見た段階では奴の肉体に目立った傷は無かった」


 正確な姿が思い出せるわけでは無いが、出血した様子は無く(むし)ろ活力に(あふ)れているように見えた。


「争わないで住処を追い出されたって事かなー、結構厄介かもね」


「もしかして、竜とかですかね……!」


 緑仮面の息がやや荒くなる。


「竜であれば飛ぶ姿が目撃されているはずだ」


 赤面が冷静に否定する。


「痕跡だって分かりやすく残すだろうからねー、中域以降に行っていた連盟員達がいない訳ではないんだし」


「すみません、言ってみただけです……」


 竜であれば良かったというような言い草だが、私としてもそちらの方が分かりやすい相手ではある。


「これ以上調べても意味なさそうだし、住処に行ってみるか」


「それがいいね」


 巨木の跡を離れ、洞窟を目指し歩き出す。


 ――


「森の中でゆっくり歩くのってなんか久々だなー」


「そうだね」


「魔物に一回も会わないなんて森に来て初めてです」


 私がいるから魔物がやってこないのだと、果たしてどう説明するべきだろうか。


 一時背中を預ける間柄とは言え、妖刀について話すことはあまり好ましくはない。


「待て、何かがある」


 赤仮面が立ち止まり前方を指差す。


 その先にあったのは、一列に立ち並ぶ小さな石像であった。


「これが依頼にあった石像かな?」


 穏やかな幼子のような顔つきに、ゆるく表現された衣服、そして額に乗せたように表現された木の葉。


「なるほどね、確かに石像だ」


「これは持って帰れませんよね?」


「小さいとはいえ石像を担いで帰るのは勘弁だな」


「間違いなく人の手による物だよねこれ」


「ああ、信仰の形として石像が掘られることはよくある事だが、額のこれは何を表している……?」


 赤仮面は石像の周りを一周すると、何処からか手帳を召喚し見比べ始める。


「少なくとも、今まで見てきた物の中でこれと特徴が一致した石像は一つもない」


「流れ者確定と見ても良いかな?」


「ああ、俺はそう確信している」


(膝丈ほどの石像、額の木の葉、そして……)


 石像の裏に周りその背を見ると、下部辺りから伸びた何かが石像の土台に巻き付いていた。


「持ち運べるようにすれば回収できるか?」


「あん?どういう事だ?」


「頭部だけであれば荷物にはならないだろう」


 石像の前に立ち、妖刀の柄に手を掛ける。


「……!待て、歴史的構造物の可能性があるこれを壊そうというのか!」


 常に冷静なままであった赤面が急に焦りだし、石造の前に立ち(ふさ)がり両手を上げる


「石の切断かー、魔術強化したらどうにかって感じか?」


「魔術でやった方が速くないかな?」


「触った感じは普通の石材って感じですけど……、オークキングの骨を切断できるならもしかして!」


 赤面以外の三人は賛成のようだ。


 鞘からゆっくりと引き抜き、石像の頬に刃を押し当てる。


「呪術が仕掛けられている可能性もある!物事は慎重に行うべきだ!」


「その時はボクが解いてあげるから大丈夫だよ」


 石像に押し当てた妖刀が僅かに震える、であれば間違いは無い。


「下手をすれば剣が折れるぞ!」


「綺麗な剣だな……」


 足元に転がっていた拳ほどの石を拾い上げ宙に放り、一太刀で両断してみせる。


「なっ……!」


「わ!」


 刃を一度納め姿勢を僅かに低くする、そして鞘と柄を掴み歩幅を縦に開く。


「ん?その構えってアレか?」


 息を大きく吸い込み、呼吸を止め、全力で殺意を放ちながら刀を一気に抜き放とうとした所で。


 石像が煙を放ち、その場から逃げ出した。


「へ?」


「やはりか……!」


 妖刀から『白』に持ち替え、逃げ出した石像を追いかける。


「あれなんだ!魔物か!」


「後で説明する、殺さずに捕獲してくれ」


「難しいこと言うじゃねえの!任せな!」


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