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武士の子孫、異世界を制す  作者: ふみぃ


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悪鬼立ち②

「休憩なしで走り切るってどんな体力してんだ……?」


「オーク共が逃げだしたのも納得出来る」


「すごい」


 街の門前に着くと、困惑した様子の騎士に止められた。


「ちょ、ちょっと待ちなさい!」


「一体何をしているんだ君達は……」


「怪我人を運んでいる、速く行かせてもらえないだろうか」


 あまり無駄話に時間を取られたくないのだが、彼等も仕事でやっている事であり無視する訳にもいかない。


「怪我人……?ああ、止めて済まなかった」


「気にしないでくれ」


 荷台に乗る三人を確認した騎士が道を空けてくれた、物分かりのいい人間で有り難い。


 再び荷馬車を押し連盟を目指す。


「まあ、そりゃ止めるよな」


「俺も止めるな」


 剣士二人は何処か居心地を悪そうにしているが、今は我慢をして欲しい所だ。


「お母さんアレ何でお兄さんが運んでるのー?」


「しー!見ちゃだめよ!」


 やはり目立つのだろうか、あちこちから視線を感じる。


「奴隷制って廃止されたんじゃねえのか?」


「騎士呼んだ方が良いんじゃねえかな」


「いや、あんなガチガチに武装した奴隷なんていんのか?鎖もなんにも付けてないし」


「……」


 荷台の三人は耐えられなくなったのか、外套(がいとう)で顔を隠し始める。


 早い所送り届けてやる方が彼等の為になりそうだ。


 ――


 連盟の前で荷馬車を止めると、剣士二人が勢いよく飛び降り建物の中へ入って行った。


「また置いて行かれた」


 街中でされるのは流石に不満だったのか、無表情ままだが眉が僅かに歪む。


「恥ずかしかったのだろう」


 荷台から抱え上げると、連盟の扉が開き受付が小走りでやって来た。


「彼女は足が折れている、精度の高い医療士はいるか?」


「はい、既に連盟へ召喚しております」


「それと森の調査をしている者達を集めてくれ、話をしたいことがある」


「かしこまりました」


 受付が扉を空けてくれたところを、彼女の身体をぶつけないように中へはいる。


「医療士はどこに?」


「あちらです」


 目を向けると剣士二人に医療術をかける女性達の姿があった、その場へ足を運ぶと数名ご駆け寄って来る。


 長椅子にゆっくりと横に座らせ、傍を離れる。


「アンタはどっか怪我してないかい?」


「私は幸い無傷だ」


「そりゃ何より」


 受付へ向かうと報酬らしき包が置かれる。


「救援ありがとうございます、こちら連盟からの報酬金です」


「ああ」


 包を受け取り懐へしまう。


「只今連盟関係者に連絡をしています、その間は休んでお待ちください」


「分かった」


 併設された酒場に向かい、治療している様子が分かる席に座り果実飲料を注文する。


「お待たせいたしました」


「ありがとう」


 器に満ちた薄い紫の液体を口に含み飲み込むと、強めの甘さが全身に駆け巡り僅かな疲れが一瞬で吹き飛んでしまった。


「これはどのような果実を使っているんだ?とても甘味が強いが」


「至って普通の砲の実ですが、此方を一匙だけ混ぜているんですよ」


 店主は台の下から白い粉が詰められた瓶を取り出した。


「こちらは近頃精製方法が確立された白糖という物でしてね」


「白糖……」


「果実から作られたよりも甘みが強く、疲労回復効果もあるそうですよ」


 なるほど、道理で疲れが消えたわけだ。


「とはいえ供給はまだ安定してませんから値が張りますし、常設するかは決めていませんがね」


「そうか」


 今の状況のように一日寝ていないなら注文するのもありだと思っていたが、こればかりは仕方のないことだろう。


「良ければそのお飲み物に合う軽食でも如何ですか?」


 そう言えば学園から出発する前に軽く食事をしたくらいで、それから何も食べてはいなかった。 


「貰おう」


「かしこまりました、暫くお待ちください」


 店主が裏へ下がっていくのを見てから、懐から先程受け取った包を取り出し財布へ金を移していく。


 路銀を稼ぐという一先ずの目的は果たした、そして此処まで荷馬車を押して走ってきて判ったことがある。


 それはこのくらいの距離であれば、道中の食糧(しょくりょう)は用意する必要が無いということだ。


 最低限水さえあれば他は不要と言える、最も同行者がいる場合は例外だが。


「お待たせしました」


 店主は細い芋の小山と、赤い液体の入れられた器をそれぞれ並べる。


「こちら揚げ芋の香味(こうみ)味塩掛けとこうしん(こうしん)ダレです、ごゆっくりどうぞ」


 まず一つ摘み口へ運ぶと、爽やかな香りと程よい塩気がやって来た。


 揚げたばかりだからなのか、食感も楽しく飽きさせない。


 芋を三つ摘み赤いタレを纏わせ口に運ぶと、仄かな塩気にヒリつく辛味が加えられ味の段階をさらに上昇させた。


 飲み物で口内に流し込むと辛味と塩気によって白糖と果実の甘味がさらに強調され、再び芋を食すればその甘みによってまったく逆の事が起こる。


「……なるほど」


 確かに良く合う組み合わせだ、難点としては永遠と食してしまいそうになるという所だろうか。


 治療現場を横目に見ると、丁度魔術士の足を治し終わった所のようだ。


 とはいってもまだ歩き回らないほうが良いだろうが。


 受付の方を見れば裏口から連盟の関係者らしき数人が何か会話をしている、時折此方に視線が向くのを察するに食事が終わるのを待ってくれているようだ。


 芋を平らげ飲み物を完飲し、代金を置いて受付へ向かう。


「すみません、急かしたようで」


「構わない」


「全員の治療が終わったようなので、森での話を聞きましょう」


 関係者と共に身体を確かめている三人の元へ向かう。


「隣に座ってもいいか?」


「うん」


 刀を外し椅子に立て掛け、魔術士の隣に腰掛ける。


「ではまず、依頼を受けて森に行った時のことを教えてください」


「今日は採集依頼を受けたんだが、最後の1種類が中々見つからなくてよ、それで中域まで進んで漸く見つけたんだが」


 受付は中域より前で見つかる物だと言っていたが、やはり自然相手だとそう上手くは行かないか。


「んで帰るかってなった時になんつうか……」


 剣士はなぜか言葉を(にご)らせる、それ程言い辛い事なのだろうか。


「私達は迷子になった」


「地図と磁針はお渡ししましたが、それでも迷われたのですか?」


「俺達もちゃんと地図と方位磁針を頼りに進んでたんだ、けど地図に無い道があって分からなかったんだよ」


「地図に載ってない道ですか?」


「分かんねえけど……、何か小さな石の家とか膝ぐらいの高さがある石像が置かれてたりさ、明らかに景色が違ったんだよ」


「小さな石の家に、石像ですか……」


 三人の表情を見る限りでは、嘘を付いているとは思えないが。


「今までそのような報告はあったのか?」


「いえ、ありません」


 連盟職員もいまだ聞いたことは無いらしい、つまりそれが現れたのはここ最近ということだろうか。


「そんで、迷ってる内にオークの群れと遭遇したんだ」


「……洞窟外でですか?」


「そうそう、それで交戦して逃げ回ってた内に森の中域辺りに着いて、巨木の下にあった空洞に隠れてた」


「しかもオークキングまで来るんだからな、本当に死ぬかと思った」


「オークの群れにオークキングが洞窟外、それも森の中域付近に出没……」


「その後、彼が来て助けてくれた」


「なるほど……」


「明日、調査隊を編成し改めて森を調べてみましょうか」


「そうですね」


「一つ聞きたい」


「何でしょうか」


「他に依頼を受けた者達から、オークキングやオークの群れを見たという報告は無かったのか?」


 今日連盟で依頼を受けているのは彼等だけではない、それにオーク程の魔物が群れるならば誰も気付かないということはありえないだろう。


「ええ、戻ってきた方々からオークに関する報告は一つもありませんでした」


「嘘だろ?あんだけのオークが走り回ってたんだぞ、鳴き声ぐらいは聞こえてそうなもんだろ」


「そうですね……」


 生息地から飛び出したオークの群れ、小さな石の家に石像、そしてその事象に誰も気づけなかった。


「明日の調査に私も同行させてもらいたい」


「理由を聞いても宜しいでしょうか」


「恐らくだが、その原因は流れ者にある」


 そして、ほぼ間違いなく妖の仕業だと見ている。


「流れ者ですか、突然現れたと考えればこの現象にもいくらか納得は出来ますが……」


「……流れ者、ってなんだ?」


「異世界から流れ着いた様々な何かの総称」


「異世界ねぇ、ほんとにあんのかよ」


 この世界では流れ者、異世界に対する認知度はそこまで高くはない、研究をしている所はあるようだが。


「貴方が使っている短剣、その原型も流れ者」


「まじ?」


 剣士が後ろから取り出したのは鞘付きの短剣、ゆっくりと引き抜かれると中央に縦長の穴が空けられた特徴的な刀身が現れた。


「見た目が気に入ったから買ったけどそうなのか……」


 耐久性を上げるためなのか刀身自体は分厚く作られているが、中央の穴は軽量化の為だろうか。


「分かりました、同行を認めましょう、明日の日の出頃に連盟へお願いします」


「ああ」


「我々は話を詰めてきますのでこれで失礼します」


 連盟役員達は受付から裏へと戻っていった。


「はー、散々な目にあった」


「だな、腹減ったし飯でも食おうぜ、アンタもどうだ?」


「そうだな、私も共にしよう」


 軽食は摂ったが、明日また動くと考えればもう少し補給をしておきたい。


 三人と食事をした後、連盟員用宿へと共に向かった。


「送ってくれてありがとう」


「構わない、明日一日は休む事だ」


「うん、そうする」


 腕から手を離し部屋の鍵を開け、扉を開いた魔術師が此方に振り返る。


「……またね」


「ああ、また会おう」


 此方を見つめながら扉の向こうに消えていくのを見送り、今宵(こよい)一泊する部屋へと入り水場で汗を流す。


「鬼、天狗、森の異変……」


 いずれもあの黒い靄が原因としているという事は分かる、だがなぜそれが起きているのか、その理由が分からない。


 偶然が重なって起きた自然現象に過ぎないのか、はたまた荒ぶる神が混沌(こんとん)を求め引き起こしているのか。


「原因を突き止めなければ」


 流れ着く者は無害な獣や善側の妖に限らない、鬼のように争いを好む物もいるのだ。


 もし大天狗のような力を持ちながらも理性を持たぬ者が現れたとすれば、この国や世界は悲惨な方向へ進んで行くことだろう。



オークキング

全長 3.5m

大型の二足歩行魔物

オークの突然変異種であり、その身体は通常種よりも一回り大きい。

頑丈さも力の強さも通常のオークとはかけ離れており、食欲や凶暴性も増している。

たとえ相手が格上であったとしても勝負を挑むため、自然界での寿命はそれほど長くはない。

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