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武士の子孫、異世界を制す  作者: ふみぃ


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帰園



「アルマさん!」


 山を下りる道中、単騎走竜に乗ったトリニティと遭遇した。


「トリニティ、他の者たちは無事か」


「はい、現在は山を下りて解放された人達を送り届けて貰っています」


 心配そうな表情をしたトリニティは走竜から降りると、(そば)に寄り頬に触れてくる。


「どうした」


「傷ができています、放置してはいけませんよ」


 触れた手が温かくなり、身体中の疲労が抜けていく。


「ありがとう、気づいていなかった」


「いいえ……」


 恐らく大天狗の風を斬った時に出来た傷だろう、完全に防いだつもりであったが、もっと精度を高めていかなければ。


 トリニティは頬から手を離し傍を離れる。


「では学園へ戻りましょう、後ろに乗ってください」


「いや、今回は私が前に乗ろう」


 トリニティを手で制し、走竜に着けられた輪に弓と矢筒を掛け背に跨る。


「え?」


「戦闘や移動による疲れもあるだろう、走竜の操作は私がやる」


 大天狗との戦闘もあったが、トリニティに(いや)してもらった事もあり、体力は最大まで回復している。


「……アルマさん?」


「どうした」


 何故かトリニティは後ろに乗る事を渋っている。


「次期に日が沈む、夜は妖怪達の力が最も高まる時だ、いくら敵対してないとは言え彼等の領域からはなるべく離れたほうがいいだろう」


 トリニティは私の顔を見つめてから、自身の纏っている外套を直し後ろに乗った。


「では出発する、落ちないよう捕まってくれ」


「……はい」


 トリニティがゆっくりと腰に腕を回した。


 走竜の横腹に足を軽く触れると、ゆっくりと歩き出し段々と速度を上げ始める。


「長い時間を走っていたはずだが、速度が殆ど落ちていないな」


 最大積量は分からないが荷運びにも有用そうだ、いずれは平地用の走竜を購入するのも良いかもしれない。


 再び横腹を叩いてさらに速度を上げさせる。


「あの、少し飛ばし過ぎでは無いですか……?」


「この山に向かう際よりは幾らか落としている、走竜の体力は十分持つだろう」


 走竜の息に未だ乱れは無い、この様子からして人間を後一人乗せようとも問題なく走るだろう。


「……分かりました、貴方に任せます」


 回される腕の力が強くなり、僅かに離れていた距離が無くなった。


 ――


 学園の城門前に到着した所で、一定だったトリニティの呼吸が小さく短くなった。


 どうやら目が覚めたようだ。


「あの、どうして腕を……」


「走竜から落ちないようにしていたんだが、気安かったか?」


 手を離すと回っていた両腕が離れる。


「いえその……」


 後ろに乗ることを提案してから、どうにも様子がおかしい。


 会った当初は余裕という雰囲気を纏っていたが、今はそういった気配を感じ取れない。


 走竜から先に降りて手を伸ばすと、トリニティは遠慮がちに手を乗せ地面に降り立った。


「……ありがとうございます」


「ああ」


 城門の横の扉を叩くと、向こう側で解錠する音が聞こえてきた。


 扉が開かれ青鎧を着込んだ数人が出てくる。


「おかえりなさいませ、トリニティ学長」


「警備ご苦労さまです」


 青鎧が横にずれたのを見て、トリニティの後に続き中へと入る。


「トリニティ学長、戻られましたか」


「はい、生徒達は何処へ?」


「救護室に、今の所異常は無いようです」


「そうですか……」


 トリニティは安堵したのか、胸に手を当てほっと息を吐く。


「アルマさん、学園の案内は……」


「構わない、今は生徒達の事を優先するべきだろう」


「ごめんなさい、また機会があれば残りの施設も案内させてくださいね」


「ああ、その時は頼む」


 トリニティは足早に白い建物の方へ歩いていった。


 荷馬車の元へ向かうと、リズが荷台に座っているのが見える。


「……!」


 目があったリズが此方に駆け寄って来る。


「戻ったのね……」


「ああ、心配をかけたようだな」


「ええ、とても心配したわ、一団の中に貴方の姿が無かったから」


「見ての通り大した傷もない、安心してくれ」


 両腕を広げてみせると、リズは安堵したように微笑んだ。


「ふふっ、少し心配しすぎたかしらね?」


「有り難いことだ」


 弓と矢筒を外して荷台に載せ、轅を乗り越える。


「もう出るつもりなの……?」


「仕事は終えた、それに部外者がいつまでもここに居るわけにはいかないだろう」


 自らの事について(たず)ねたいことがあったが、天狗の件で精神をすり減らしたであろう教員達に尋ねるのは気が引ける。


「もうすぐ魔物が活発になる時間帯なのよ?いくら貴方の実力でも危険だわ」


「実力不足を実感していた所だ、修練には丁度いい」


 短い戦闘だったとはいえ、現状のままでは大天狗に刃が届かないと実感できたのは僥倖(ぎょうこう)だった。


 他の強者を含めた相手といずれ斬り結ぶことがあると考えれば、さらなる高みを目指さねばならない。


 最も魔物が寄ってきてくれるかは不明だが、逆に力のある者が集まる可能性もあるだろう。


「それに、時間もあまり残されていないようだからな」


「時間がない?それってどういう意味なの……?」


 大天狗の言葉が確かならば妖刀を持つ私はいずれ妖になる、その前に一刻も早く呪いを解かなければならない。


「以前先祖が遺した書について話したことがあるだろう」


「ええ、私達がまだ幼かった頃だけど、しっかり覚えているわ」


「その際に話した闇の住人、『妖』がこの世界にも来ている」


「それって、もしかしてあの山にも……」


「ああ、居た」


「どうやって来たというの、世界を超えたってこと……?」


「分からない」


 鬼も天狗もこの世界には迷い込んだ様子だった、少なくとも自らの意思でやって来た訳では無いだろう。


「恐らくだが他にも妖は流れ着いている、既に勢力を広げ始めている勢力もいるはずだ」


 脅威の差はあれど、いずれも影響があるという事に変わりは無い。


「……」


「学園の者達には何があっても山へ近づかないようにと伝えてくれ」


「分かったわ、貴方も気をつけて」


「ああ」


 荷馬車を押し城門の前まで行くと、他の者は休んでいるのか青鎧が一人だけ立っていた。


「あれどうしたんすか?」


「外へ出る、門を開けて欲しい」


「いや、もうすぐ夜っすよ?」


「問題ない、夜目は効く方だ」


「んー、でも一人で外に出すのは流石に騎士道に反すると言うか、後で絶対怒られますし……」


 話し方は軽いが、騎士としての矜持はしっかりとしているようだ。


「その時は私に脅されたと言えばいい」


「いいんすかそれ……、まあそんなに言うなら開けますけど」


 呆れた様子を見せながらも、青鎧は門の横に刻まれた魔法陣に手を当てる。


 すると城門が響く音を鳴らしながらゆっくりとせり上がっていき、私の頭の上の辺りで止まった。


「道中気を付けて下さいよ?これで死なれたら滅茶苦茶寝覚め悪いんすから」


「注意しておこう」


 門の下を通ると、後ろから差していた光がゆっくりと消えた。


「ここでは不満か」


『こんな窮屈(きゅうくつ)な場所、我には合わん』


 猫又は不満を口にしながら荷台へ跳び乗り、畳んである布の上で丸くなる。


「その小さな身体には十分な大きさだろう」


『貴様!我を馬鹿にしたな!』


 喧しく猛る猫又を無視し、懐から地図を取り出す。


 聖国へ続く経路を辿っていると街を二つ見つけた、一先ずは近い方を目的地とするのがいいだろう。


『無視するな!』


「暴れていると落ちるぞ」


 轅を押し、地を蹴り一気に速度を上げた。


 ――


「あれは……」


 学園から走り続け夜明けの日が見え始めた頃、道の中央に浮かぶ黒い靄を見つけた。


「魔物……、いや妖か……?」


 魔物の気配も妖気も感じ取れないが、一先ず荷馬車を停止させ弓を掴み矢を二本抜き取る。


『どうした……』


 不意に黒の(もや)が揺らめき、そこから茶色く二対の翼を持つ魔物が複数飛び出した。


 その小さな魔物達は周辺を(しばら)旋回(せんかい)すると、何事もなかったかのように地面を突き始める。


『ミャッ!』


「……!何をしている」


 突如荷台から飛び出した猫又の首根っこを掴みぶら下げる。


『……はっ、本能が!』


 意味不明な事を言う猫又を荷台に下ろし、視線を魔物の方へ戻すが特に移動もせず地面を(くちばし)でつつき続けていた。


「いくら小型とはいえど、正体の分からない相手に無策(むさく)で飛び込むものでは無いぞ」


「正体だと?そんなもの分かりきっておるわ、あれはただの『雀』よ」


「スズメ?つまりあの靄の向こうは私達の故郷と言うことか?」


 私の先祖や妖達、そしてこの妖刀が生まれた地。


『さあな、だが我が最後に見たのはあのような闇だった』


 あの向こうに行けば妖刀の呪いを解く方法があるいは見つかるのかもしれない。


『妙な事を考えるなよ、あの黒からは何も感じぬ、おかしな程にな』


「……分かっている」


 無論飛び込むつもりは無い、少なくともこの世界に戻る方法を得ない限りは。


「あの黒に鬼や大天狗ほどの大妖が抵抗の間もなく連れてこられた、何もないはずが無い」


 それが出来るほど力を持った存在など最早神や仏の(たぐ)いだ。


「あのスズメとやらはどういった存在だ?」


『力も何もないただの畜生だ、数と生息地だけはやたら多いがな』


「そのような存在をこの地へ送り込む意図はなんだ……?」


『我が知るか』


 暫くすると黒の靄は消え去り、雀達も何処かへと飛び立って行った。


 再び荷馬車を押し黒の靄があった場所を通過するが、やはり何も感じ取ることは出来なかった。


「あのような物が幾度も現れているとすれば、思っているよりもこの世界は向こうの存在で溢れているのかもしれないな」


 私が今まで戦ってきた魔物達も元を辿れば向こうの存在だったのだろうか。


 ――


 あれから走り続け日が暮れかけた頃、一つ目の街に辿り着くと、門の前で騎士に呼び止められた。


「この街へ来た目的は」


「休息と食料の補充を」


「君一人か?」


「ああ」


 猫又は街が見えるやいなや、何も言わず荷台を降りて街へ入って行った。


 ここまで運んだ私に対する礼すらも無かったが、まあ妖という存在はそういうモノだろう。


「一応荷台の中を確かめても?」


「構わない」


 騎士達二人が荷台の中身を調べ始める。


 今の時勢で一人旅をする者は、それ程に警戒されるということなのだろうか。


「不審な物はありません」


「よし、通っていいぞ」


 荷車を押して門を潜り、一先ずは馬車を置ける場に停め荷物を背負い連盟を目指す。


 街中はまだ明るいが露店などは既に閉まっており、今日の所は食糧を買うことは出来なさそうだ。


 見つけた連盟の扉を開き中へ入ると、そこには静かな空間が広がっていた。


 受付へまっすぐ向かうと、口髭の先を尖らせた紳士のような職員が頭を下げる。


「ようこそ連盟へ、本日はどういったご要件でしょうか」


「連盟員用宿の場所を聞きたい、それと近隣での討伐依頼が残っているのなら受けさせてほしい」


 連盟具を見せながら要件を伝える。


「連盟員の方でしたか、まず連盟員用宿ですがこの建物から出て右の二軒先の建物がそうですよ」


「ふむ」


「そして依頼の方なのですが、申し訳ございませんが近隣の討伐依頼はもう残っておりません」


「そうか……」


 路銀を稼ごうと考えていたが宛が外れてしまった、だが厄介事が片付けられていると考えるならば喜ぶべきだろう。


「ひとつ聞きたいことがあるのですが、腕に自信はおありですか?」


「そこらの人間よりは確実にあると確信している」


 質問の意図はいまいち掴めないが、ここで卑下する意味は無いだろう。


「……ではお任せしたい仕事がございます、朝に依頼を引き受けた連盟員方の捜索をして頂けませんでしょうか」


「引き受けよう、人数と受けた依頼の内容を教えてほしい」


「ありがとうございます、まず連盟員の数は三人、受けた依頼は薬草の採集です」


 そこまで難しいような依頼には思えないが。


「目的の物がある場所は危険な魔物が生息しているのか?」


「いいえ、どの種も森の中腹以前に採集出来る物ですので、出会うとしても小型の群れ程度でしょう」


「森の魔物は完全に把握されているのか?」


「はい、連盟の方から定期的に森の調査依頼を出していますので、その都度情報を更新しています」


 男は机の下から分厚い本を取り出すと、置き広げる。


「依頼で求められている薬草はこの線よりも前で採集できます、そして生息する魔物もこの欄にある通りです」


 線よりも向こうは中腹に位置するという事だろう。


 出現する魔物は危険性の低い小型の草食魔物に、角の生えた中型魔物の群れ、それを捕食する中型以下の肉食魔物が主のようだ。


 どの辺りにも出現するゴブリンはそもそも臆病であり、一定以上の規模の群れか、相手が弱ってでもいない限り人間を襲うことは無い。


「三人の実力と戦闘法は分かるか」


「剣士が二人と魔術師が一人です、まだ歴は浅いですが魔力量に関しては三方とも多い方でした」


 余程の魔物でも無い限りは逃げ帰る事は出来そうだが、その例外が起きたということだろう。


「他に依頼を受けた者達は戻っているのか?」


「はい、皆様無事に依頼を終えられています」


「そうか、三人はどういう形であれ私が必ず連れて戻ろう」


「宜しくお願い致します、それと此方を」


 男は液体入りの青い瓶を四つ机に置いた。


「これは」


「魔力回復用のポーションです、三方ともかなりの消耗をされているでしょうからお渡ししてください」


「分かった」


 ポーションを受け取って連盟を後にし、荷馬車を押して森へと走り出した。

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