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武士の子孫、異世界を制す  作者: ふみぃ


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黒き翼・下


「ぐ……がっ!」


 最後の一人が地面に倒れ込み、漸く落雷が止まる。


『これは驚いた、随分と頑丈だ』


 地面に降り立った天狗が羽団扇を振るい雲を霧散させると、傍に白い毛並みをした二足歩行の獣達が降り立ち片膝を付いた。


 しかし通常の獣と違うのは、その白い獣も衣服を身に纏っているということだ。


哨戒(しょうかい)をしてまいりましたが、やはり山ごと切り離されたようです』


木っ端(こっぱ)妖共も見当たりません、我ら天狗のみがこの地へ移されたと考えられます』


『山を少し離れ周囲を飛んでみましたが、獣や植物もかなり違いますね』


『大天狗様、これからどういたしましょう』


 大天狗は羽団扇を扇ぎながら思案する。


『まずはこの地を知らねばならぬ、近くの人間を連れて来い』


『は!』


『倒れている人間達はいかが致しましょう』


『檻に繋いでおけ、まだ聞く事がある』


『は!』


 白い獣は二手に分かれると、片側が倒れた三人を担ぎ山の頂上へ飛んでいき、片側は人里を目指し山の下側へと飛んでいった。


『あの性悪の術であってもここ迄の事は出来まい……、であれば神か仏か』


 大天狗は周囲を振り払うように羽団扇を一回転させる、すると崩れた木々を押しのけるように、地面から新たな草木が急速に伸び始めた。


『僅かだが別の妖気を感じる……、この地に連れてこられたのはワシらだけでは無いらしい』


 さらに大きく羽団扇を振るうと、倒れていた一部の天狗達がのそり起き上がる。


『ただの人間と見て侮ったか、まったく情けのない事だ』


 起き上がった天狗達は大天狗を見つけると、次々と前に膝を付いていく。


『烏』


『ここに』


 音もなく、黒き大きな翼に黒く鋭い嘴、そして金色の錫杖(しゃくじょう)を持った5体の天狗が現れ、大天狗の傍に(ひざまず)いた。


『東の山を抑えよ、そこを第二の地とする』


『ただちに!』


『お前達は北へ飛べ、そこで共同の話をつけて来い』


『はっ!』


『南西に飛べ、そこで妖気を辿り正体を探って参れ』


『かしこまりました!』


 烏天狗達は主君の命を果たすべく一斉に飛び立った。


『鬼が来るか、はたまた別のナニカか』


 大天狗は凶悪な笑みを浮かべ、羽団扇を振るい旋風(せんぷう)と共に木の葉を巻き上げる。


『どちらにせよ、楽しめそうだ』


 そして天まで続く木の葉の旋風に身を包むと、その姿を消した。


 高くそびえる山に木の葉の雨が降り注ぐ。


 その地は『神の住む山』と人々には恐れられていた。


――


 「やはりおかしい……」


 森を抜けた所で一度馬車を止め、懐から小箱を取り出す。


 結局、森の中を走る最中に魔物に襲われる事は一度も無かった。


 箱を開けば中の石は綺麗な輝きを発し続けているままであり、特に変わりはないようだが。


「……!」


 不意に、妖刀が震え出した。


「妖か……?」


 柄に手を掛け周囲を探ると、僅かにだが妖の気配を感じた。


 妖の気配、妖気である事は間違いないのだが、鬼程に強烈なそれではない。


「……」


 気配を辿りながら、ゆっくりとその位置へ身体の正面を向け、何時でも動けるように姿勢を僅かに下げる。


 殺気を込めながら辿った先を睨みつけると、茂みが揺れ、黒く小さな獣が飛び出した。


『ミャァ……』


 銀の瞳に黒い毛並み、二又に分かれた尻尾。


 姿は小さいがその気配は間違いなく妖のものだ、だが敵意は感じない。


 最小限の警戒は保ちながらも殺気は抑え、構えを解く。


「お前は猫又か、何用でここに来た」


 『猫又』、日の本で長い時を生きた猫という獣が妖になった姿だ。


 人にとって悪戯(いたずら)の範囲を超えるような行いはしないようだが、それでも妖だ、何をするかは分からない。


『さぞ高名な妖であろう貴方様に、失礼を承知でお願いがございます』


「妖……?」


『……!わ、矮小な力しか持たない私めを、どうかその庇護下に置いていただけないでしょうか』


 私の気に触ったとでも思ったのか、口調を早める猫叉。


『お望みとあれば』


「……!」


 瞬間、猫又の黒い身体が青い炎に包まれた。


 そして炎が晴れると、黒い長髪に青い日ノ本の服を纏った少女が現れた。


「供物でも何でも、貴方様に捧げます、ですからどうか、お傍に置いて頂けませんか?」


 猫叉は地に手を着き、髪が地面に着くのも構わずに頭を下げる。


 どうしてそこまで必死なのかは分からないが、まずは前提を正しておくべきだろう。


「何か勘違いをしているようだが、私は妖ではなく人間だ」


「ご、ご冗談を……、それ程の妖気を持ち合わせた人間など、ありえませぬ」


 妖気、妖が持つと言われる気力であるが、私からそれを感じる原因は恐らくはこれだろう。


「顔を上げよ」


 ゆっくりと妖刀を鞘から引き抜いていく。


「はい……、な、何を……!」


 顔を上げた猫叉は妖刀を見て、その顔を恐怖に染め上げた。


「お前達にはこの刀が何か分かるだろう」


「よ、妖刀ですか……?」


「そうだ、そしてお前が私の事を高名な妖だと感じたのはこの妖刀が原因だろう」


 鬼を斬った際、奴の妖気をこの刀が吸収していた、その結果大妖と間違う程の妖気を宿しているのだろう。


「では……、アナタはただの人間だと……」


「ああ」


 猫叉が纏う雰囲気が変わり、ゆらりと立ち上がる。


「人間如きに頭を下げるなど……、一生の不覚っ……!」


 怒りの形相で此方を睨み付けてくる。


「ならばどうする」


「お前を私の足にしてやる、精々感謝しろ」


 猫叉は鼻で笑うと、見下したような笑みを見せた。


「足だと?」


「我を人里へ連れいてけ、人間』


 再び青い炎に包まれ獣に姿を変えると、荷台に乗り込んだ。


 妖とは生来身勝手な存在なのだと書かれていたが、鬼然り猫叉然り、事実その通りのようだ。


「猫叉、お前は人を喰ったことがあるか」


『舐めるな、我がそのような物を口にするわけが無いだろうが』


「そうか」


 嘘を付いている用には聞こえない、とはいえ相手は妖だ、信用し切ることは出来ない。


『我の事はアキ様と呼べ、人間』


「ならば私の事はアルマと呼ぶといい」


『フン、貴様など人間で十分だ』


 妖刀を鞘に収め荷台の轅の傍へ歩くと、強い風と共に妖気がもう一つ現れた。


『異なる地へ来てなお人間に()(へつら)うとは、相も変わらず情けのない事だ』


 天から黒い両翼が舞い降りて来る、その手には金の錫杖を持ち、一本下駄を履いた黒い妖。


『烏天狗……!』


『妖気を辿って来てみれば、そこに居るのは矮小な猫叉に人間とは、些か期待外れだ』


 鬼、猫叉、そして天狗。


 どうしてこの地に妖達がいるのかは分からない、だがそこには初代がこの地に来た秘密があるはずだ。


『いや……?おい、そこの人間』


「なんだ」


『お前からは妙な気配がする、一体何をした?』


 妙な気配、妖気とはまた違う何かを感じ取っているのか……?


 あるとすれば。


「鬼を斬り、その力を受け継いだ」


『ア ハ ハ ハ ハ ハ!』


 何がおかしいのか、烏天狗が手の平で顔を覆い笑い出した。


『たかが人間が鬼を斬り、よりにもよって鬼から力を受け継いだなどと面白い事を言うなお前は!』


 烏天狗は懐から木の葉の束を取り出し周囲にばらまいた。


『ならばその腕、測ってやろう!』


 ゆらりと地面に着いた木の葉は小爆発を起こし煙に包まれ、それが晴れると黒い羽根を持った剣士達に姿を変えていた。


「……」


 剣士達の顔には大きな葉が張り付き、表情は読み取る事が出来ない。


 姿勢を低く構え妖刀の柄に手を添える。


 数は九、武器は刀の一振りのみであり、槍や弓などの長物を扱う者はいない。


『かかれ』


 瞬間襲い来る振り下ろしを身体を半身ずらすことで躱し、逆側からの一突きを籠手を滑らせることで軌道を変える。


 そのまま左の拳を作り木の葉目掛けて思い切り振りぬくと、剣士の首が抵抗も無く千切れ飛んだ。


(脆い……)


 そのまま駆け出し立ち塞がった剣士の腹を勢いのまま蹴りつけると、後方に控えた数人ごと吹き飛び、手足が折れ曲がりながら地面に転がる。


 その場から後方に宙返りしながら、下で刀を振り抜いた剣士の首に抜刀斬りを放つ。


 地面に着地し、連鎖のように襲い来る刀を躱し捌きへし折り、三人の胴体を横一閃に纏めて断ち切る。


「ふぅ……」


 息を入れ直し妖刀を収め姿勢を限りなく低くしながら走り出し、強く踏み込みながら抜刀斬りを放ち、迎え討とうと振り下ろされた刀ごと首を跳ね飛ばす。


「こんなものか」


『見事な体捌きと力よ、人間程度の耐久力の人型とはいえこうも屠るとは』


 烏天狗が腕を振るうと地面に転がった剣士達が崩れ、ただの木の葉へと戻った。


『お前であれば大天狗様もお喜びになるだろう』


「大天狗だと……?」


『北東の山に来い、歓迎してやる』


 烏天狗は翼を羽ばたかせ、彼方へと飛び去った。


『烏だけならまだしも、大天狗も来ているというのか……?』


 『大天狗』数多の天狗を纏める総大将。

 

 神通力と呼ばれるその技は様々な奇跡を呼び起こし、その力は神にさえ匹敵するという。


「鬼の次は大天狗か、面白い」


 己の限界を測るには良い機会だ、腕試しに行ってみるのも悪くない。


『……人間にしては中々やるようだな』


「腕にはそれなりの自信がある」


 轅を乗り越え掴み歩き出し、ゆっくりと速度を上げていく。


「自らを矮小だと卑下しているようだが、お前が望むのならば私が稽古を付けてやるぞ」


『抜かせ、誰が人間の稽古など受けるか!』


「そうか」


 妖には妖の気位という物があるのだろう。


 —————


『おい人間!速度を出しすぎだ!』


 馬車を押しながら振りかえれば、猫又が転ばないようにしているのか、荷台に爪を立て体勢を低くしていた。


「……」


 妖という者は総じて人間よりも高みにいる存在だと思っていたが、案外そうではないのかもしれない。


『この化け物め……!』


「化け猫が何を言っている」


 これ以上荷台に傷を増やされないよう、速度をいくらか下げることにした。

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