商業都市ザーウェイ1
ザーウェイへ到着してまず連盟へ向かう前に、騎士にカルミナ達を引き渡すべく騎士団詰所へ来ていた。
「アルマ様……、本当にありがとうございました、この恩は必ず返させていただきますわ」
「ありがとうございました……!」
安全な所へ来たという実感が湧いたのか、カルミナとノーラは目の端に涙を浮かべ肩を震わせている。
「ああ、その時を楽しみにしていよう」
「……礼を言うぞ、アルマ」
ヒュリアスが小さく言葉を発する。
どこか気恥ずかしそうな表情は少し微笑ましくある。
「な、なにがおかしい!」
「はいはい……」
「あっ、おい!」
ハイアルが顔を赤くして怒るヒュリアスの肩を掴み、横にどけてから前に出てくる。
「助けてくれて本当にありがとうございましたアルマさん、俺もっと強くなります、貴方みたいに」
「ああ、期待している」
今回起きた事は出来れば無い方が良いのだろうが、苦境を乗り越えた人間は強くなれる。
彼等はきっと真に強い人間になるだろう。
その時が非常に楽しみでならない。
「アルマさん……」
「アルマさまどこかへ行っちゃうの?」
不安げなセレナとアーティアの表情は姉妹だけあってか、やはりよく似ている。
「すぐに会えるさ」
「ほんと?」
「本当だ」
アーティアの頭を撫でながら、セレナに側へ来るように手で招く。
「?」
「……使用人達の居場所が分かった」
「……!」
「私が必ず連れ戻す、それまで少し辛抱していてくれ」
「はい……!」
直接攻め込むのが一番早いが、それでは問題があるだろう。
何か策を立てなければ。
「では、後の事はよろしく頼む」
「はい、お任せ下さい」
全身を分厚い鎧で覆った騎士が胸に手を当て礼をする。
――
馬車を街の宿屋と提携しているという宿屋に渡し、先にコラルを行かせた連盟へ向かう。
「ザーウェイか、エイノスとはまた違う賑わいだ」
エイノスも人通りが多い都市であったが、こちらは大きな荷物を背負った商人らしき者達が多い。
逆にエイノスは武装をした冒険者の数が多かった、故郷で街によって人の景色が変わる友人が言っていたがどうやら本当らしい。
「ここか」
連盟支店と看板に描かれた建物の扉を開き中へ入ると、懐かしさを感じる喧噪に迎え入れられた。
「リアム殿」
「コラル、待たせたな」
受付の側に立つコラルの下へ歩いていくと、連盟職員達の視線が此方へ集まるのを感じた。
「いいえ、それよりも彼等は?」
「騎士の下へ送り届けた」
「それは何よりです、では依頼の達成報告をしましょう」
「ああ」
コラルが依頼書や連盟証を台へ乗せると、受付がそれを確認し依頼書へ印を押す。
「確認しました、冒険者認可証の提示をお願いします」
言われるままに連盟具を取り出し、台に置く。
「ありがとうございます、ではこちら、報酬金でございます」
受付は厚みのある用紙の包みを取り出し、台の上をゆっくりと滑らせる。
表情は至って冷静そのものだが、その手は僅かに震えていた。
「ああ」
その心境をさぐる為に包みを受け取りながら目を見ると、瞳が一瞬揺れた後、取り繕ったような笑顔が表れた。
刺激をしないように扱われていると感じ、受付から離れて併設されている酒場へと足を向ける。
空いていた一席に腰を降ろすと、その正面の席にコラルが続いて座った。
「私は彼等に恐れられるような事をしたのだろうか」
「アルマ殿が成した事は讃えられて然るべきものですよ、ただ未知とは人が最も恐れる事の一つですからね、貴方の人柄を知ればきっと」
傷ついた訳では無い、ただ実感しただけだ。
「そうだな」
反応としては恐れられる事の方が正しいのだろう。
恐怖に慣れは無い、それは単純に麻痺を起こしているだけなのだ。
寧ろ慣れるべきなのは、私の方だ。
「コラル、あの者達を捕らえた報酬は渡されると思うか?」
「そうですな、あの地はエイノスとの流通において必ず通らなければならない道ですから、その脅威を排除したアルマ殿には領主様からかなりの報酬を約束されているでしょう」
「そうか、例えば人を呼び寄せる事も出来るだろうか」
「遠方に居る方ですと難しいでしょうが、なるべく要望には応えて貰えるんじゃないでしょうか」
奴はこの近辺の地を収めていた筈だ、距離に関しては問題にならないだろう。
「この地を収める領主の名は何という名だ?」
「シーラン=ケンド侯爵です」
「そのシーランという者の人間性は分かるか?外聞でも構わない」
「そうですな、慎重とはよく言われています、自らがが選んだ相手しか居城内へ入らせないそうで」
「ふむ」
慎重、悪く言えば臆病。
話から察するに近付くことは難しいが、信頼を勝ち取れば有効に扱えそうだ。
「……一体何をなさるおつもりで?」
とはいえ、位の高い貴族を大人しく公の場に引っ張り出せるとは思わない。
さらに盗賊団が捕まった直後であり、そしてそれが取引相手であったならば最大限の警戒をするだろう。
「大規模の盗賊を一人で壊滅させた者は貴族にとってどう映るのか、それを確かめる」
力無き者達に恐れられるのは今迄で十分理解している。
それが力を持った相手ならば一体どうなるのか。
個では無く、集の力を持っている者とどれだけ渡り合えるのかを探るいい機会だ。
「随分と物騒な話をしているじゃないか」
受付の方から深い深い青の髪を腰まで伸ばした女性が歩いて来た。
「リアメイン殿……」
どうやらコラルは彼女の事を知っているらしいが、連盟の関係者だろうか。
「アンタに聞きたい事がある、少し顔貸しな」
真っすぐと見据えてくるその青い瞳は、こちらの事を見極めようとしているようだ。
「良いだろう、また仕事をしよう、コラル」
「はい、ありがとうございましたアルマ殿」
コラルと別れと約束の握手を交わし、すでに先を歩いているリアメインの後に続く。
――
受付を通り廊下を歩く、そうして導かれたのはそれなりの広さがある一室だった。
壁に立て掛けられた大槍は彼女の武器だろうか、髪の色と同じ柄に黒く輝く穂先、なのある名工が作り上げた一品だろう。
「適当に掛けてくれ」
刀と弓を立て掛け、置かれた椅子に腰を下ろす。
「森の盗賊達を潰してくれたそうじゃないか、それもたった一人で」
「ああ」
リアメインはこちらへ振り返ると、机の上に腰を乗せ腕を組む。
「アンタには感謝しているよ、連盟も騎士も動けない状態だったからね」
「……それだけの為にここまで連れて来た訳では無いだろう、目的はなんだ?」
感謝を告げるだけならば態々ここまで連れてくる意味は無い、あの場でも良かっただろう。
「ある物を届けて欲しいんだ」
「ある物……?」
リアメインは黒い小さな木箱を棚から取り出すと、私の目の前にそれを置き近くの席に腰を下ろす。
「錬金術師に作らせた魔核石だ、これを魔導学術園へ運んで欲しい」
リアメインが木箱を開くとそこには黒い宝石が入っていた、昏い黒の中には金色の粒子が渦巻くようして浮いている。
「美しいな……、これは何に使われる物だ?」
「街には魔物侵入を防ぐ結界が張られているだろう?これはその核だよ、といっても都市程の規模ではないけどね」
「結界?」
「何だ知らないのかい」
「最近故郷を出たばかりでな、あまり外の世界には詳しくないんだ」
「成る程ね……、街の中央に高い塔が建てられているだろう?それには魔物の侵入を防ぐ結界を張る機能があるのさ」
つまりはあれさえあれば人々は魔物の脅威に晒される事は無くなり、騎士は盗賊の警戒だけをしていれば良くなるという訳か。
「世の中には便利な物があるのだな」
故郷にはそういった物は設置されていなかった、最も危険性の高い魔物は居ないため問題は無かったが。
「ああ、だけどその便利な結界もそこに無ければ意味が無い、そこで小型の魔核石作りを小規模な村に設置するのさ」
「そういった事は騎士の領分では無いのか?」
街の管理や警備、道の舗装といった事は国の事業であり民間でやるような事では無かったはずだが。
「どこも人手が足りないのさ、活発化した魔物の対応だけじゃなく隣国への警戒も疎かに出来ないからね」
「ふむ、そこで連盟に協力要請が出たということか」
「そういうことさ、教育機関でもある学園にも声が掛かってる、あそこは知恵と力の集まる場所だからね」
国全体がここまでの状況になっていたとは、故郷にいたままではきっと分からなかっただろう。
父上がこの事を黙っていたのは私達を思ってのことか。
もし私がこの事を知ったならば、すぐにでも村を飛び出していた。
そして妖刀を持たずして鬼へ挑み、命を落としていたかもしれない。
「それで、依頼を引き受けてくれるかい?勿論報酬は弾むよ」
「無論、引き受けよう」
人々の為ならば、武士として引き受けない訳にはいかない。
「助かるよ、未加工の状態のそれは魔物を遠ざけるどころか引き寄せる、結界の外では注意してくれ」
リアメインは木箱を閉じるとこちらに滑らせる。
つまりは結界の設置されていない村などにはあまり近づくなということか。
「これはまだここに置いておく」
木箱を抑えリアメインの方へ僅かにずらす。
「……?」
「私にはまだやるべき事があるのでな、運ぶのはそれからだ」
これを持っていては街の外を録に歩けない、それだと彼女達を助け出せなくなってしまう。
「良いだろう、だが早めに頼むよ」
リアメインは理解のある人物のようだ。
「ああ」
「同行者はいくら増やしても構わないよ、要望があるならこちらで選出する」
重大な仕事だ、確かに人手は幾らあっても良いだろう。
「いや、私一人で十分だ」
だが魔物を引き寄せるという危険性の高い状況では、信頼の置ける相手でなければ背中を任せることは出来ない。
「そうかい、では頼んだよ」
「ああ、必ず送り届けよう」
刀と弓を身に着け部屋を後にした。




