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武士の子孫、異世界を制す  作者: ふみぃ


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謎の気配

 

  刀の(つば)(さや)(まと)めて掴み、矢筒の(ひも)を引っ張って揺れないよう固定し音がならないように徹底すし、姿勢を低くしたまま森の中を走る


(段々と気配が強くなっている)


 森の中を進む程に寒気は増していき、未知の圧力が全身に襲い掛かってくる。


 常人にはどれだけ耐えられるだろうか、気分が悪くなりそうな底知れぬ闇の気配を気合ではじき返す。


(見つけた)


 頭に赤い布を巻いた大男の後ろ姿がそこにはあった。


 すぐさま木の陰に隠れ、背中から弓を外し見つからないよう注意深く観察する。


 その服装や露出した肩に刻まれた刺青を見るに、(くだん)の盗賊と見て間違いないだろう。


 大男は右手に血濡(ちぬ)れた刀を持ち、左手には同じ色の頭巾(ずきん)を付けた男の亡骸(なきがら)を掴みゆっくりと村へ向かい歩いている。


(仲間割れか?いや今はそんな事を考えている場合では無い)


 装備は見たところ刀の一振りだけ、だが決して油断はしない。


 矢筒から一本引き抜き弓に番え、木の陰から(わず)かに身を出し構え、心臓に狙いを定め弦を引き絞っていく。


 いざ放とうとした瞬間、盗賊がこちらへ顔を向けた。


(気づかれた……!だがこの距離では避けられないはずだ)


 盗賊が行動を起こそうとする前に第一の矢を放つ。


 飛び出した矢は一瞬で盗賊の元へ到達し、胴体を貫き身体ごと後ろの巨木へ()い付けた。


 (確実に心臓を貫いた、……!)


 だというのに盗賊はまるで効いた様子も無く、突き刺さった矢を掴んで圧し折り、前へと踏み出すことで身体を串刺しの状態から脱する。


 第二射を構え頭へ向かって放つが、直撃する寸前で盗賊の膝だけが曲がり後方へ倒れ込み(かわ)されてしまう。


 そして、宙から紐に引っ張られたように膝だけで立ち上がった。


「およそ人の動きでは無いな」


 盗賊は腕をだらりと下げたまま、一直線に距離を詰めてくる。


 筒から矢を三本引き抜き連続で放つが、最初の一射目をわざと体制を崩すことで躱され、二射目を刀で切り払らわれ、三射目を素手で掴まれる。


 盗賊の勢いは減ること無く、さらに加速していく。


 投げ返された矢を頭を僅かにずらして躱し、弓と矢筒を地面に放り姿勢を僅かに下げ、鞘と刀の柄を掴み盗賊を待ち受ける。


『------!』


 獣ような雄叫(おたけ)びと共に振り下ろされた一撃を半身になることで躱し、返しの一撃を喰らわせようとするが。


 盗賊の白く濁った瞳を見て行動を中断し、後方に大きく飛んで一度距離を取る。


「既に死人(しびと)という訳か」


 男の目には生気が無く視線もどこに向いているのか分からない、さらには胸の穴以外にも身体のあちこちに大小の傷が刻まれている。


 だというのにここまでの動きが出来るのは、なにか魔術的な要因が絡んでいるのか。


(奴が手に持つ刀、何か嫌な気配がする)


 それは村で感じたモノと同じであり、恐らく男がこのような状態になったのも刀に原因があると見て間違いないだろう。


「魔剣か」


 死人に向かって駆け出し思い切り地面を踏み込む、そして全身の力を刀一点に込め渾身(こんしん)の抜刀斬りを放つ。


 死人は刀を地面と垂直(すいちょく)に構え受け止めを図るが、防がせなどしない。


 刃同士が激突し、鋭い金属音を周囲に響き渡る。


「はああああ!」


 一瞬の拮抗(きっこう)の後に死人は耐えきれず吹き飛び巨木へ激突(げきとつ)し、そのまま地面に落下する。


 だがすぐに起き上がると、焦点(しょうてん)の合っていない目をこちらに向けてくる。


「刀ごと身体を圧し折るつもりだったが……、いや、無理矢理動かしているのか?」


 刀の刃自体は至る所が欠けているようだが、その傷はこの戦い以前からあるものであり、(もろ)さという物自体は感じ取れない。


 刀を鞘に納め、再び姿勢を僅かに低くする。


「なんにせよ、やることは変わらない……」


『グオオオオオオ!』


 死人が空気()じりの叫びを上げる。


「ハアッ!!!」


 首を目掛けて抜刀斬りを放つが、すんでの所で躱される。

 続けて切り返し振り下ろし、足払い、胴突きを連続で放つもその全てを躱し受け流し捌かれる。


(戦い方が変わっている)


 先程までの獣のような直感的で直線的な行動は減り、裏の裏までを読むような、ひたすら隙を狙うさながら熟練(じゅくれん)の剣士の様になっていた。


(ならば)


 一歩二歩と距離を取り、刀を鞘に納め。

 そのまま柄に添えたままで肩の力を抜き、自然体で体をゆっくりと揺らしながら相手を待ち構える。


 初代当主が持ち込んだ刀の技術の一つだ。


 風に吹かれ揺れるような姿が彼の故郷の木に似ている事から、名付けられたと書には記されていた。


「さあ、斬り合おうか」


 笑いそうになる表情を抑え、高ぶりそうな感情を静める。


『ギギギ……』


 死人は言葉に反応したかのように(うな)ると、放たれた矢のように飛び掛かってくる。


 死人の初撃を避け、首を狙い返しの一撃を振るうが、(わず)かに薄皮(うすかわ)を斬る程度の距離を取られ致命傷(ちめいしょう)を回避されてしまう。


 行動力を奪うために返しの刃で足の切断を狙うが、死人はこちらを飛び越えて回避する。

 落下する最中に放たれた斬撃を、振り返りながら下から刀を打ち付けることで死人を弾き飛ばす。


 再び距離が離れた所で刃を鞘に納める。


 互いに決定打の無いままに生傷(なまきず)だけが増えていく、一進一退の攻防の様だが不利なのはこちらの方だ。

 無尽蔵(むじんぞう)の体力で大きな傷を(いと)わない者と、頑丈な自身はあるあるが限界値のある私、どちらが長く戦っていられるかは明白(めいはく)だ。


 一度大きく深呼吸をする。


「強いな、お前は」


 (いく)ら相手が自身を省みること無い(しかばね)であったとしても肉体には限界があるはずだ、追い詰めるならばそこしかない。


 両足に力を込めて一気に男との距離を詰め抜刀斬りを放つが、それは僅かな所で回避される、だがそれは()り込み済みだ。

 刀を振り切らず途中で止め、そのままさらなる一歩を踏み出し首を狙った突きを放つ。


『ギギァッ!』


 首を貫かれた死人は声とも言えぬ声を発しながら、刃を掴み首から引き抜こうとするが、そんなことなどはさせるつもりはない。


 力を入れて腕を引き喉仏(のどぼとけ)から外に掛けて刃を滑らせ切り裂き頭部を分離させ、そのまま刃を掴む左手を切断する。


 地を蹴って死人から距離を取り、刀を振るい刃に付着した血を払い、刀身を(そで)で拭い鞘に収める。


 頭部と左手を無くしたというにのに死人は倒れそうになる事も無く、血潮(ちしお)をまき散らしながら刀を無軌道(むきどう)に振り回しながらもこちらへにじり寄ってくる


「首を無くそうとも倒れないとは」


 やはりその肉体を操っているのは奴が持つ刀であり、恐らく魔剣と呼ばれる(たぐ)いの代物(しろもの)だ。


「だがこれで終幕だ」


 呼吸を整え姿勢を低くし、鞘と柄を強く握り地にめり込む程大きく力強く踏み込む。


(初代当主が異世界からこの地に持ち込んだ刀の極致(きょくち)


 全身の力を右腕に集める。


 だが程よく脱力もしなければ、この業を放つことは出来ない。


柳流剣術奥義やなぎりゅうけんじゅつおうぎ燕断(つばめだ)一閃(いっせん)』)


 火花を散らしながら抜き放たれた刃は、死人が咄嗟(とっさ)に構えた刀をすり抜け、手首そして上腕を両断し、その勢いのままに胴体へと到達し上半身を上下に分断した。


 音をも切り裂く最高速の一撃は、刃に血や油が纏わりつくことすら許さない。


 分離された肉体が地面に落下し、切り離されて尚も右手に握られたままの刀が地面に突き刺さる。

 鮮血(せんけつ)を小さな滝の(ごと)如く(あふ)れさせ、死人はゆっくりと崩れ落ちた小さな血の池を作り出した。


 十秒ほどその場で待ち、(ようや)緊張(きんちょう)の糸を解く。


「……ふぅ」


 息を吐き、袖で刀身を拭き取り鞘へと納める。


「初代が持っていた刀と似ている」


 刃は所々欠けてしまっているが、その美しさ自体は失われてはいない。


 星明りを反射するその刀身の輝きには思わず心を奪われる。


 刀を握ったままの手を開かせて地面に置き、突き刺さった刀を引き抜く。


 試しに空を斬り払うと、不思議と昔から慣れ親しんでいるような感覚になった。


「この者達を弔ってやらねば」


 とはいえ穴を掘る物が無い以上、一度は村へ戻らなければならないだろう、多少の傷も負っている。


 弓と矢筒を拾い村の方へ歩き出す。


 集中していた為。どれだけ戦っていたのかは分からないがそれなりの時間は経っているはずだ、使用人達も心配をしているかもしれない。


「……っ!」


(頭が……!、身体から力が、抜けていく……!)


 強烈な痛みに思わず膝をついてしまう、何かが頭の中に入り込んでくるような得体のしれない感覚がする。


「ハァ……、アァ……、くっ!」


 怒り、悲しみ、恨み、憎しみ、様々な悪感情に心が支配されそうだ。


「意識が……!」


 抵抗をしようにも、身体を鎖で縛り付けられたかのようで、動かすことが出来ない。


 世界が黒く染まった。

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