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武士の子孫、異世界を制す  作者: ふみぃ


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真意・下

 


「お恥ずかしい所をお見せしてしまいました……」


 目と頬を赤くしたセレナが(ようやく)く、ぎこちないながらも笑顔を見せてくれた。


 先程までの重苦しさに満ちた雰囲気は軽減され、彼女本来の性質と思われる柔らかさも表れ始めている。


「気にすることは無い、また辛くなればいつでも来ると良い、出来ることは少ないが受け止めることは出来る」


 金や地位や名誉のどれもが、人一人救うにはまだ足りていない。


 だが、私自身に出来ることであれば、力を尽くしてみせる。


「アルマ様……、はい!」


「良い返事だ、明日も早い、今日の所はゆっくり休むといい」


「おやすみなさいアルマ様……!」


「ああ、おやすみ」


 セレナは華の様な笑顔を見せると、アーティアとの部屋へ戻っていった。


「まだ奴と会えるだろうか……」


 衣服を着替え、刀の二振りを差し部屋を出る。


「カルミナ、そこにいるのだろう」


「……!申し訳ありません……!セレナさんがアルマ様の部屋に入っていくのが見えて、心配で」


 部屋からそれほど離れていない物置の影から、罰が悪そうなカルミナが現れた。


「……全て聞いていたのか?」


「申し訳ありません」


 少し圧が強まってしまったのを抑えつつ、彼女の方へ歩いていく。


 ゆっくり近づくと、彼女は少し緊張の面持ちになる。


「そうか、ではカルミナの方でも彼女に気をかけていて貰えないか?」


「え?あの……、ですがわたくしは……」


「同性であった方が何かと悩みを打ち明け安いこともあるだろう、頼めるだろうか」


「……、分かりましたわ、なるべく支えてみます」


「ありがとう、カルミナも何かあればいつでも話を聞こう」


「お心遣い感謝いたします」


「私は少し出てくるが……、何か欲しいものはあるか?」


 この宿にはそれなりの物が置かれてはいるが、何かが不足していれば今のうちに集めておきたい。


「いいえそんな……、すでに満ち足りてるぐらいですから、お気になさらないでくださいまし」


「そうか、では行ってくる」


「道中お気を付けて」


「ああ」


 カルミナと別れ、受付に部屋の鍵を渡してから宿屋を出る。


 しばらく歩くと、盗賊達が集められている収容所に辿り着いた。


「失礼、ここに囚われた盗賊の頭と話をしたいのだが」


「駄目だ、面会時間はすでに過ぎている、また明日にしろ」


「あまり時間に余裕がないのだ、とうにかしてもらえないだろうか」


「明日にしろと言っているだろう!これは規則で決められている!異例は認めん!」


「そうか……」


 さて、どうしたものか……。


 彼が何も悪い事をしていない以上、力ずくで押し通る訳にもいかない。


 重要な情報が手に入ると思っていたのだが、ここは諦めるべきか。


「やかましいぞ、一体どうした」


 分厚い鋼鉄の門に設置された小窓から、同じ様な(かぶと)兜が顔を覗かせた。


「この者が盗賊の頭と面会をしたいと」


「面会?こんな時間にか」


 小窓から(のぞ)く瞳と視線がぶつかると、僅かにその目を開かせる。


「少し待っていろ」


 小窓が閉じられ、足跡が遠ざかっていく音が聞こえた。


 そこから暫くして、分厚い鋼鉄の門が開くと、先程あった騎士隊長が現れた。


「案内しよう、来てくれ」


「助かる」


 兜で顔を隠した騎士隊長の後に続き収容所の中を歩く、檻へ目線をやるとこちらを睨む物や気にせず寝具を被る者と様々な反応が見えた。


「あまり目を合わせるな、顔を覚えられると面倒だぞ」


「気を付けよう」


 視線を前に戻し、施設の観察をしていると囚人同士の話し声が聞こえてくる。


「なんだあいつ」


「おいアンタこっちこいよ!」


「すかしやがってよ!」


「……、さて着いたぞ」


 騎士隊長はある檻の前で立ち止まると、大きな錠前を外し扉を開く。


「リード、面会だ」


「あ?俺にか?」


 リードはのそりと立ち上がり、ゆっくりとこちらへと歩いてくる。


 彼は特別な扱いなのか、この檻には一人しか入れられていないらしい。


「一体誰が……、あんたか?」


 白仮面を被っていないせいか、彼はこちらの正体に気付いていないらしい。


「出ろ、場所を移す」


「ちっ」


 悪態を付きながら大人しく従うのは、騎士時代の名残なのだろうか。


 三人で個室に入り椅子へ座らされたリードと向かい合うように椅子に腰を下ろす。


「聞きたい事がある、嘘は付かないで欲しい」


「何だってんだいきなり、こちとら眠る直前だったんだぜ」


 どうやら軽口を言えるだけの余裕はあるらしい。


「お前達は通り掛かる者を捕らえそれを売り物にしていたと聞いたが、その相手との記録や名簿を残した物はあるか」


「知らねえ……」


 素直に答えない事は想定していた。


 懐から白の角突き仮面を取り出し、顔に被せて見せる。


「あ、アンタは……」


 余裕のあったリードの表情が途端に驚愕の物へと変わり、大量の汗を流し始める。


 盗賊団を潰した者が再び会いに来るとは思っていなかったようだ。


「再度問おうか」


「あ、ある!青の表紙の本だ!今迄(いままで)取引してきた奴は全員書き残してある!」


 リードは震えた声で答える。


「捕らえていた者達は、取引をする際には態々連れまわしていたのか?」


「……商品の情報を記した物を見せていた、赤い表紙の物だ」


 抵抗をしてはいけないと分かっているのか、リードは言い淀みながらも答える。


「騎士隊長殿、拠点に置かれていた物は回収されているのか?」


「あ、ああ、直ぐに持って来させよう」


 僅かに面食らった様子の騎士隊長は、扉を開き部屋の外へ出て行った。


 白の仮面を外し、懐に戻す。


 ――


「青と赤の表紙、これで間違いないな?」


 騎士隊長と部下の騎士が幾つもの本を並べていく。


 この数だけ人々が囚われ誰かに売られていたのかと思うと、思わず拳を握る力が強くなる。


「……ああ」


 リードに確認を取った騎士隊長から最も新しい本を受け取り、適当な所を開くと取引日や相手の名前や所在地までもが事細かく記されていた。


 商人や貴族、他国の一般階級と様々な相手と取引をしていたようだ。


「これを管理していたのは誰だ」


「俺だ、あいつらには任せて置けねえから」


 この細かさは騎士であったからこそか。


 商品説明書と表紙に掛かれた本を取り、日付の近い後ろの方を開き確認する。


 中には人の名前や値段、そして捕らえた日時などが事細かく記されている。


「こいつは……、人の好さそうな顔をしてよくも……」


 中身を確認していた騎士隊長が苦々しそうに(うな)る、良く知る人間の名前が記されていたのだろうか。


 名前を指でなぞりながら一人づつ確認していくと、知っている名前が並んでいた。


 今宿屋にいる彼ら彼女ら以外の名前に、恐らくセレナの使用人がいるだろう。


 本を開いたままリードの目の前に置き、目を合わせる。


「この日時に間違いは無いな?」


「あ、ああ!商……、いや捕まえた奴はその日の内に価値を決めているんだ!」


 今更商品などと呼んだくらいでは怒りはしない、不快には感じるが。


「名前の上に刻まれた魔術陣はなんだ」


「これは映写機で刻んだもんだ、取引相手に魔力を流させて姿を確認させるために使ってたんだ」


「……騎士隊長殿、魔力を流してもらえるか?」


「それは構わないが、罠を仕掛けて居ないだろうな」


「仕掛けてねえよ、んな事したら信用が落ちちまう」


「……」


 騎士隊長は魔術陣に指先で触れ魔力を流し込む。


 すると白と黒を基調にした丈の長い衣服を纏った女性の姿が、魔術陣から浮かび上がった。


 その表情は絶望に満ちており、思わず拳に力が入る。


 彼女はあの場には居なかった、つまりは誰かが買ったということだ。


「後はこの三人を頼む」


 セレナと同じ日付が記された名前を示す。


「ああ」


 三人の内の二人は先程の女性と同じ服装をしている、恐らくは彼女達がセレナの従者なのだろう。


「彼女達を買った者の名前は」


「そ、それは……」


 この状況でまだ他人を庇おうとするとは状況を理解していないのか、それとも商売をしていた者としての意地か。


 リードの胸倉を掴み持ちあげる。


「ま、待ってぐれ!」


 引っ張られた衣服により首元が締まっているのか、リードの声が僅かに潰れ顔が苦痛で歪む。


「おい!死んでしまうぞ!」


 騎士隊長と部下が引き剥がしに来るが、そんな事は分かっている。


「わがっだ!わがっだがらはなじでぐれぇっ……!」


「駄目だ、問いに答えろ」


「ガルマ=リゾールど!アズガル=マーノだ!」


 手を離してリードを椅子に座らせ、顧客名簿を開き名前を探す。


「ゲホッゴホッ……!畜生……!」


「こいつは明日ザーウェイに移送するんだ、アンタの気持ちは分かるが抑えてくれ……」


「気を付けよう」


「まったく……、おいしっかりしろ」


 ガルマ=リゾールとアズガル=マーノの名前を探し出し、地図を広げザーウェイと二人の所在地を調べる。


 ガルマはザーウェイからそれ程距離の離れていない地に居を構え、アズガルは隣国にいるようだ。


 従者の三人はガルマが纏めて買い上げ、残りの一人はアズガルの下へ行ったようだ。


「ガルマ=リゾールか、厄介だな」


「知っているのか」


「ああ、国内で有数の大貴族だ、まさか彼程の男が人を買っていたとはな」


 大貴族、ならばかなりの戦力を有しているだろう。


 そして国内での地位が高いとあれば、何か大きな被害を受けたとしたら騒ぎが大きくなりすぎるかもしれないな。


「無茶な事は考えるな、いくら盗賊団を一人で壊滅させたとはいえリゾール家の戦力は相当な物だ」


「正面から潰せば面倒な事になるだろう事は分かっている、だがそれ以上の力を利用すれば問題は無い」


 流通の妨げとなっていた盗賊達の征伐をしたとなれば、街を仕切る領主と会う事が出来るかもしれない。


「まるで戦えば負けないといった感じだな、まったく恐ろしい話だ」


 知りたい事を知る事が出来た。


 本を閉じて席を立つ。


「この本達はどうなる」


「盗賊達と共に明日ザーウェイへと移送されるだろう」


「ここに記された者達の捜索はされるのか?」


「当たり前だろう、国境を超えた者達も時間は掛かるだろうが必ず見つけ出すさ、取引をした者も例え貴族であろうと捕まえて見せる」


「ならばいい」


 もし地位によって捜索が打ち切られるような事になれば、私が直接取り返しに向かうつもりだ。


「安心してくれ、この国はそこまで腐ってはいないさ、説得力は余り無いがな」


「分かった、期待しよう」


 懐から白の仮面を取り出して被り、刀の柄に手を当てリードと目線を合わせる。


「もし逃げる事があれば、もし再び事を繰り返すのならば」


 刀を抜き放ち、リードの眼前に突き付ける。


「どこに行こうが見つけ出し、必ず貴様の首を獲る」


 ゆっくりと刃を鞘に納め、扉まで歩き取っ手を掴み振り返る。


「覚えておけ」


 部屋を出て扉を閉じる。


『剣を抜く瞬間が見えなかった……』


 知らない声が中から聞こえる、恐らく部下の騎士の物だろう。


 どうでも良い事を考えながら、来た道を戻り出口へ向かっていると。


 檻の一つから太い腕が伸び、袖を掴まれ引き寄せられた。


「なあアンタ、俺をこっから出してくれねえか?」


 その行動を切っ掛けに収容所内が騒めきだす。


「なにやってんだか……」


「ははっ!いいぞやっちまえ!」


 煽る者呆れる物と様々な声が聞こえる。


 盗賊達と思わしき者達は何事かと前の方へ近づいてきたが、私の事を見るなり目を見開いて下がって行った。


「力比べがお望みか?」


「あ?何言って……」


 檻の中へ手を伸ばし、大男の袖を掴んで引き寄せる。


「アガっ!」


 顔面が檻に衝突し大男が短い悲鳴を上げる。


「お前の方からも引っ張ってみろ」


 金属の柵が男の皮膚へ食い込み、触れた部分が赤くなっていく。


「がっ!ぎぃい!」


 このような輩は一度力を見せてやらないと舐めて掛かってくる、今後他の者に被害が出ないように教え込んでやるのも私の役目だろう。


「……」


 大男が白目を向いた所で手を袖を解放すると、後ろに倒れ込み動かなくなった。


 殺してはいない、これはただの脅しだ。


「次はだれだ?気の済むまで付き合おう」


「……」


 収容所内が静まり返った所で再び出口へ向けて歩き出す。


 これで同じ目に合いたくないと感じ、更生を目指してくれたらいいが。


 その後は宿へと戻り、血と体力の回復へ専念するべく床に着いた

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