次の街へ
「……」
目を開くと、窓から差し込む光が私の顔を包んでいた。
眩い光に顔を歪めながら毛布をどかし起きる。
酷く喉が渇いている、室温は一定に保たれているはずだというのに肌寒い、常に誰かに見られているような感覚で満ちている。
「原因はやはりこの刀か」
立て掛けていた刀を掴み眺めると、血霧童子や黒鬼と同じ妖力が発せられているのが今まで以上に分かる。
それは血霧童子の力を得た事によるものなのか、妖を斬った事が理由なのかは分からない。
「あまりゆっくりしてはいられないな」
今回は血霧童子のおかげでどうにか目覚める事が出来たが、このままどれだけ持ちこたえる事が出来るだろうか。
それは分からない、だが今は進み続けるしか無い。
———
連盟の訓練施設を特別に開放してもらい、新たな愛刀である『白』の最終調整を行う。
「これならば以前と変わらず運用が出来る」
剣を振るう程に使用された素材の面白い性質がよく分かる。
まず金属ではなく宝石のような質感をしているというのに、力を入れると僅かに曲がり、砕ける事も無く元に戻る。
そして硬いことで有名な宝石などで引っ掻こうとも傷一つ残らない。
流石にある程度の力で硬い物に打ち付けると傷は付くが、それでもかなりの頑丈だと言えるだろう。
まるで金属と宝石の良い所を合わせたような性質をしているこれが、失敗した魔術による偶然の産物なのかは分からない。
確かなのはこの剣が確実に旅の助けになるだろうという事だ。
「ミーアと武器商会の会長には感謝をしなければな」
光の消えた剣を鞘に納め、施設を後にし酒場の席に座る。
「よう、もうすぐ出発か」
「ああ、ガロスは漸く休みのようだが」
「一旦な、たくよォ、ヨウカイとやらのせいでこちとら大忙しだぜ」
ガロスは朝だというのに酒を頼むと眉間を揉み解す、目の下にある大きな隈があまり寝られてないという事を主張している。
「お前も出先で色んなこと聞かれると思うがよ、面倒がらずにちゃんと答えてくれよ?」
「分かっているさ」
何日も拘束されるようなことならば勘弁してほしい所だが、少し足止めさせられる程度ならば我慢するとしよう。
「まあ、そんな心配はしてねえけどよ、一応オレにも面子ってのがあるからよ」
机に置かれた酒を掴みガロスは席を立つ、自室で飲みすぐ寝られるようにするのだろう。
「それじゃあ気を付けろよ、お前の強さなら大丈夫だろうけどな」
「ああ、貴方もな」
「へっ、言ってくれるぜ」
ガロスは後ろ手を振りながら受付の裏へと入って行った。
「彼と対等に話せるなんて、やはりすごい度胸をしていますね」
依頼人であるコラルが入れ替わるように席に着き水を注文する。
確かに彼は身体も大きく一見粗野なようだが、話してみると心優しく気の良い男だという事が分かる。
「まだ集合時間には早いが」
「取引相手を待たせる訳にはいきませんから」
命を預ける相手であるならば、信用を築くのはなるべく早い方がいいという事だろう。
コラルは懐から金属の触れ合う音がする小包を取り出し、私の目の前に置く。
「こちらは準備金です、今回の道中で必要な物を揃える際はこちらを使用してください、勿論余っても返さなくて結構ですので」
「ふむ、そういうものなのだな」
重みのある包みを持ち上げ懐にしまう、現状必要な物は無いが大事に使わせてもらうとしよう。
コラルは水を飲み干すと荷物を背負い席を立つ。
「では、私は馬車の用意をしてきますので、後程」
「ああ、また後で」
連盟から出ていくの姿を横目で見送り、水を飲み干して立ち上がる。
まだ日も登り切っていない為、起きている者も少ないだろうが挨拶回りをするとしよう。
連盟から出ようとすると、丁度扉を開け出勤してきたライラと目が合った。
「あ、おはようございますアルマさん」
「おはよう、丁度良い、ライラに会いたかった所だ」
「へ……?あの、どうしたんですか……?」
なにやら困惑と警戒が半分という表情だ、それ程おかしな事は言っていない筈だが。
「出立の前に挨拶をしておきたくてな、短い間だったが世話になった」
「……あ、そういえばアルマさんの依頼は今日からでしたよね、道中気を付けてくださいね?」
「ありがとう、ではまたな」
「はい、行ってらっしゃいませ」
扉を開けると人通りが疎らにだが増えている、時間的には商人たちが店の準備を始める頃合いだろうか。
街を歩いていると同じように武装をしている人が良く見える、彼らも私と同じように次の地を目指しているのだろう。
「りーくーん!」
裏路地から飛び出してきたミーアを受け止める、急いでいたのか髪を結んでいない。
「ミーア、早いのだな」
「もう!ミーアに黙って行っちゃうつもりだったでしょー!」
どうやら怒っているらしい、まだ寝ているだろうと気を使ったつもりであったのだが。
「まるで兄弟みたいね、かわいらしい」
「ディアナ、一緒だったのか」
魔術師のディアナがさらに路地から歩いて来た。
「さっきばったり会ったの、彼女貴方をずっと探していたみたいよ?」
「そうなのか、それは悪いことをしたな」
「むー」
怒っているという表現なのかは分からないが、私の胸に顔を埋めたままのミーアの頭を撫でてやる。
「他の者達はまだ休んでいるのか?出来るのならば挨拶をしたかったが」
取り敢えず拗ねた様子の彼女は置いておき、微笑ましそうにこちらを眺めているディアナに問いかける。
「ふふっ、私もそうだけど皆病み上がりだもの、しっかり休息を摂っているわ、私はじっとしているのは苦手だから朝の散歩をしているけど」
それもそうか、私は傷を負っても少しの間眠りにつくことができれば大丈夫だが、通常の人間はそれほど頑丈でないのだ。
「何か話したいことがあれば私が伝えておくけど」
出来るなら全員と面を合わせて伝えて置きたかったが、今その時間は残されていない。
「ミーアの事を宜しく頼む」
「ええもちろん、いい子だもの」
仲間に入れてやって欲しいとは言わない、それは彼女自身で決めることだ。
だがもしまたあのような者達が絡んでくるようなことがあれば、彼らに頼る事が出来れば一番いい。
「それと、次会った時は共に食事でもしよう、異世界の話を肴にでもしながらな」
「ふふっ、それは楽しそうね」
「さて、ミーア」
「はーい……」
どうにかして離そうかた考えていたが、声を掛けるとミーアはすぐに離れてくれた。
肌を押し当て過ぎたせいか、その顔は僅かに赤くなっている。
「ばいばい、リーくん……」
「またね」
「ああ、また会おう二人共」
出会いと別れを短い期間で味わった彼女は、様々な事を知った。
その経験は糧となり、大きな花を付ける事だろう




