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武士の子孫、異世界を制す  作者: ふみぃ


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アルマリュウガンジ②

 

「賊が?」


 ジリアンが聞き返す。


「少人数みたいだけど、偵察という可能性は高いからね、応援に来て欲しいとの話だよ」


「既に本隊が山のどこかに(じん)取っている可能性が高いと?」


 別の質問の声が上がる。


「恐らくはね」


 壁に貼られた地図を見ながら賊の規模(きぼ)と、自分ならばどこを取るかと狙われそうな立地を考える。


 情報を得る為に少数の先遣隊(せんけんたい)を組み偵察(ていさつ)させる慎重さがあり、人員を容易(たやす)く割り当てられるだけの規模があると想定するならば。

 多くの人員を隠せる場所かつ、人里からそれほど遠くない場所であり、いざという時にすぐ逃げられる場所を探すだろう。


 相手の全容が掴めぬのならば、最大の脅威であると想定し、最悪を回避する対策を取るべしと書には記されていた。

 であれば今の想定すらも超える程の相手であると警戒をしておこう。


「つまりはその賊達をぶっ潰してくりゃいいんだな?」


 ジリアンが自身の拳同士を打ち付けながら気合を高めている。

 騎士団長がこの地へ来ると分かった今、何かを手土産にと考えているのだろう。


 だがこちらから攻め入るという案には賛成だ、相手が油断をしている夜間などに攻め込めば相手の混乱を巻き起こし、さらには周辺への被害を最小限に抑えることが出来るだろう。


「いいや、君達には私とガイウスの二人が留守にしている間の護りを任せたいんだ」


「親父と兄貴だけ……?」


「えー!そんなのつまんないよ!」


 隣でサリアが私も行きたいと駄々を捏ね始める、彼女の力の全容は分からないが流石に子供を戦わせるわけにはいかないだろう。


「サリア、護ることも立派な戦いなんだ」


「せっかく実戦ができると思ったのに……」


 父上が(さと)すように声を掛けるも納得できないと頬を(ふく)らませるサリア、やけに血の気が多いが一体どこから来ているのだろうか。


「それとアルマ」


「はい」


「近頃森の奥に行ってるようだけど、この件が解決するまでそれは控えてほしい」


「……」


「とは言っても賊をどうにかするまでの間だからね、その後は自由にしてくれて構わないよ。」


「分かりました」


 不要な心配はさせまいと余り人には言っていなかったが、どうやら気付かれていたらしい。


 それでも魔物のいる森へ行く事を止められていなかったという事は、ある程度の力を認めてもらっていたという事だろうか。


 それでも盗賊の討伐(とうばつ)に同行させてもらえないのは、まだ私が人を斬った事が無いからなのだろう。

 躊躇(ためら)いは人を殺す、それを理解しているから父上の判断ならば、受け入れるしかないだろう。


「あなたは森に入ってるの?私はダメだって言われてるのに」


 寝転がっていたサリアが起き上がり顔を向けてくる、その視線には覚えがあった。


 最近はすっかり感じなくなっていたものだ。


「師範様ー、私は何で入っちゃダメなの?」


 サリアは興味も無さそうにこちらから視線を外すと、父上に疑問をぶつける。


「山は危険だし、迷いやすいからね」


「私は魔術つかえるのに……」


 小さく(つぶや)いたはずの言葉がやけに大きく聞こえた。


「サリア、あまりそういうことを言う物ではないよ」


「……」


 サリアは()ねたように頬を膨らませると、壁の方を向いてしまった。


 静寂(せいじゃく)と謎の緊張感に支配された室内に、父上のため息が響いた。


「さて、今回の用件は以上、(みんな)下がっていいよ」


 その言葉と同時にジリアンがは立ち上がると、すぐに部屋から出て行った。


 それに続くように、他の面々も足早に部屋を後にする。


 ガイウスはそのまま残るようで、目を閉じたまま()している。


 私もここで戻らせてもらおう。


「失礼します」


 建物から外に出ると、完全に日が沈んでいた。


「……」


 この世界では魔術を使えることが当たり前であり、産まれ持って魔術の行使(こうし)できない私はまさしく異端(いたん)だ。

 まだ幼いサリアがあのような発言をすることも仕方ないことだが、それでも唐突(とうとつ)なことに少し面食(めんく)らってしまった。


 それこそ幼い頃は魔術を使えないことを揶揄(からか)われる事も多かった、歳を重ねるごとに認めて貰えたのか今ではそういった事も無くなっていたが。


 道場に置かれている角灯(ランタン)の1つを取り出し火をつける。


 村には道を照らす灯りもあまり無い為、夜道は非常に暗くなる。


 私自身は昔から夜目が効き、暗闇の中であろうとも不自由なく動けるのだが。

 人と出会った際に相手が驚きのあまり気絶してしまう事あった為、今では自分の居場所を知らせる意味で灯りを持ち歩くようにしている。


「……?」


 しばらく道を歩いていると見慣れた白黒の姿を見つけた、(そば)には食材の入った(かご)と光の無い灯りが転がっている。


「……ぐすっ」


「アニス、大丈夫か」


 (うずく)まった背中を照らしながら声を掛けると、一瞬身体を震わした後に涙に()らした顔が振り向いた。


「……アルマ様?」


「どうしたこんなところで、足でも(くじ)いたか?」


「あっ……」


 綺麗な手拭(てぬぐ)いを取り出し、涙を拭ってから彼女の手に握らせる。


「ありがとうございます……、実は魔光機(まこうき)が故障してしまったみたいで……」


 アニスは転がっていた火の無い灯りを持ち上げる、それを受け取り動作を確かめてみると確かに光を発さないようだ。


 『魔光機』とは魔力を充填(じゅうてん)することによって光を発生させる魔道具であり、これが発明されたことによって油を使わずとも光源を確保することができ、魔術を扱うことが苦手であっても夜間の活動が苦にならない優れものだ。


 ただし通常の角灯や松明(たいまつ)などと比べて高い頻度(ひんど)の整備を求められる為、技術師が少ない場所では未だに松明などが重宝されている。


「大変だったな、立てるか?」


「へ?あ、その……」


 一先ず立たせようと手を伸ばすが、こちらの手と顔を交互に見て困惑するばかりで動かない。


「買い物を頼まれたのだろう、早い所帰らなければアルスに叱られてしまうぞ」


「あ、は、はいっ!」


 ようやく掴んでくれた手を引き立ち上がらせ、食材の詰められた籠を拾う。


「ありがとうございます……」


「気にするな、では行こうか」


「はい!」


 返事を聞き、なるべくゆっくり歩きだす。


 闇を恐れているであろう彼女の方に灯りを傾けながら周囲へ気を配る、幾ら人里の中とはいえ山に賊が入ったと言われた手前だ、慎重にしておくに越したことは無いだろう。


 ――――


「さて、どうしたものか……」


 アニスを屋敷(やしき)に送り届けた後、食後の運動でもしようと刀を掴んだところで、父上に山へ入ることを止められていたことを思い出した。


 近場の修練場に行こうにも、全力を出せないため多少物足りなくなってしまうだろうか。


「……ふむ、弓だけなら迷惑も掛からないか」


 立て掛けた弓と矢筒を背負い、一応は刀も腰帯に刺しておく。


 近場の射撃場にやってくるともあってか門生(もんせい)は数人程しか残っておらず、弓を(はじ)く音、的が貫かれる音だけが響いている。


 呼吸音すら躊躇(ためら)うような静寂(せいじゃく)に、自然と心が引き()まる。


 矢筒に入っている実戦用の物を取り出しておき、壁際に置かれている壺から訓練用の矢を(まと)めて掴み矢筒へ入れる


 立ち位置に着き、背中から弓を外し前方に構え、矢を一本引き抜き(つが)える。


「ふぅ……」


 一度息を吐き心を(しず)め、息を吸いながら(つる)引き(しぼ)っていき、そして右手を離し最初の一矢を解き放つ。


 放たれた矢は空気の壁を引き裂きながら突き進み、設置されている的を真っ二つにすると、その背後の丸太をも貫通し、その勢いのまま反対側の壁に深くまで突き刺さった。


「やってしまった」


 訓練用の矢であれば全力で撃っても大丈夫だろうと()んでいたが、これは予想外だった。


「相変わらず、見事な剛射(ごうしゃ)っぷりね」


「リズ、見られてしまったか」


 声の方を向くと同門(どうもん)()であるリズリー=リベットが苦笑(くしょう)をしながら歩いてきていた、その両手にはそれぞれ弓を持っている。


 長い髪を後ろで1つに(まと)纏めているのは、彼女も修練に来ていたからなのだろう。


「壁を穴だらけにする前にこっちを使ってもらえるかしら?その弓は威力(いりょく)が強すぎるわ」


 そう言って片方の弓を差し出してくる。


「すまない、見誤(みあやま)ったようだ」


「私に謝られても困るわ」


 弓を受け取り、持っていた方を壁に掛ける。


「貴方には張力(ちょうりょく)が物足りないでしょうけれど、そのくらいの弓を使うのも良い経験訓練(くんれん)になると思うわ」


 リズから受け取った弓は自分の物と比べても小さく、試しに弦を引くとやはりかなりの軽さを感じる。


 だがリズの言葉にも同意できる、戦闘時に弓の弦が切れるなどの緊急事態が起きた際には敵の物を奪ってでも対応しなければならない、その予行演習として経験を()んでおくのも良いだろう。


「ありがとう」


「どういたしまして、それじゃ」


「ああ」


 歩いていく彼女を見送ってから、弓矢を構えるがやはり軽い。


「ッ!」


 試しの一射目を撃つが、矢は標的に直撃する事なく大きく飛び越し地面に突き刺さった。


「少し引き過ぎた」


 今の弓を使うまではこの弓を使っていたのだが、歳を重ねて力が強くなってからは触れる機会も無くなっていた、その為か少々力の加減が難しい。


 リズの方を見ると、丁度弓を構えている。


 矢筒から一度に三本の矢を引き抜き弓に(つが)え、右手に残りの二本を持ちながら、弦を引き。


「ふっ!」


 そして弦を解放する、さらに二射、三射と続けて放つ。


 連続で放たれた矢は、離れた場所に設置された三つの的の中心を見事に貫いた。


 その流麗(りゅうれい)たる一連の動きは正しく鍛練(たんれん)賜物(たまもの)であり、精密(せいみつ)な射撃能力は門下一と称されている。


 何か盗める技は無いかと、彼女の一連の動きを観察しているとふいに目があった。


「どう?あなたのお眼鏡にかなう出来だったかしら」


「ああ、美しかった」


 素直に称賛(しょうさん)を伝える。


 弓の指南(しなん)(あお)ぎたいと頼んでみたのだが、『貴方には必要無いと思うけど』と断られてしまった。


 それでもたまに意見を貰えるのは彼女の優しさだろう。


「……はあ、まったく」


 ため息を吐かれてしまった。


 彼女はたまにこういう事がある、称賛の声は素直に受け取れば良いだろうと伝えたが。


 『そういうことじゃないわよ』と怒られてしまった。


 ――――


 手持ちの矢を撃ち尽くした為、再び補充(ほじゅう)に向かうと矢の入った(つぼ)が空になっていることに気付く。


「少々一人で使い過ぎたか」


 昔から修行になると熱中しすぎてしまう所があるというのは自覚していたが、こうして迷惑をかける可能性があるのならば少し(あらた)めるべきかもしれない。


 倉庫に向かい矢を(まと)めてあるものを運び出し壺へ補充していく、正直まだ動けるのだが今日の所はここまでにしておくとしよう。


 訓練用の弓を戻し、持ってきていた自分の弓を背負う。


「あら、貴方も引き上げる所かしら」


 汗を拭いながらリズが近づいてくる。


「ああ」


 (くつ)()き射撃場を後にする。


「星が綺麗(きれい)ね、この村だとそれがよく分かるわ」


「そうだな」


 同意して名も知らぬ星々達を(なが)める、十数年この村で生きもはや見慣れてしまった景色だが、美しいと思う感情に変わりは無い。


「向こうでは夜もずっと明るい聞くが」


 彼女は王都近郊(きんこう)の魔術学園に通っており、そこで魔導弓(まどうきゅう)について学んでいるらしい。


「そうね、暗い夜道を歩かずに済むのは安心できるけれど、少し(さみ)しくはあるわ……」


 技術の発展した都市では、魔術により生み出された光によって夜空の星が(おお)い隠されてしまっていると聞いたことがある。


 闇から逃れられるようになった反面、こういった美しい景色が見えなくなってしまう事が惜しいと感じてしまうのは果たして贅沢なのだろうか。


「じゃあ私はこっちだから」


「良ければ送っていこう」


「ありがたい提案ではあるけれど、今回は遠慮(えんりょ)しておくわ」


「そうか、ではまたな」


「ええ、またね」


 リズリーの背中が見えなくなるまで見送った後、屋敷(やしき)の方へ歩き出す。


「あのどれかには、同じようにこちらを見つめている者がいるのだろうか」


 空を眺めながら空想的な、そんな事を考える。


「……っ!?なんだ、今の悪寒は」


 底冷えするような黒い気配を一瞬だが感じた、それも、それほど遠くない場所からだ。


「向こうの方か……」


 父上に入るなと言われた山の方角だった。


 こんな気配感じたことが無い、未知の魔物か、それとも別の何かなのか。


「行くべきか、応援を呼ぶべきか……」


 リズはすでに居らず、周囲にも人の気配は感じない。


 見逃すという選択肢はない、力の無い誰かに被害を及ばす可能性があるというのに放ってはおけない。


 こうしている間にもゆっくりとだが気配は村へと近づいて来ているのだ、こうして迷っている時間はない。


「……」


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