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武士の子孫、異世界を制す  作者: ふみぃ


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19/54

これからのこと

 


「ありがとうございました、またのご利用お待ちしています」


 小さくは無い出費であったがどうにか愛刀の代わりを手に入れる事が出来た。


「良かったねあーくん!」


「ああ、ミーアのお陰で見つける事が出来た、ありがとう」


「もうっ、まっすぐなんだから」


 少し照れた様子のミーアが縛った二つの髪で顔を隠してしまう。


「さて、この後はどうする、また依頼でも受けるか?」


「そうだねー、ミーアもソードワンド買うのにお金使っちゃったからお仕事したいかも」


「では、連盟に向かおうか」


「はーい!」


 元気のいい返事で歩き出すミーアと共に連盟へ向かった。


 ――――

 ――


「ようこそ連盟へ、先程はありがとうございました、アルマさんミーアさん」


 連盟へやってくると書類仕事を(はげ)むライラに笑顔で出迎えられる、彼女の傍に積み上げられた紙の束は全て今日の仕事なのだろうか。


「ああ、また絡まれなかったか?」


「お陰様で無事真っすぐたどり着けました」


「それはなによりだ」


「困ったらいつでも言ってねー」


「ふふっ、その時はお願いしますね?」


 ミーアとライラが笑顔で会話を始めた、どこか姉と妹のように見えて微笑ましい。


「ライラ様が絡まれたと?それはいったいどこの不届き者ですかっ!」


 近くで話を聞いていて好機と判断したのか冒険者達が受付に集まってきた。


「二度とそのようなことが無いように、良ければ私が護衛いたしましょう!」


 やたらと髪を靡かせた長髪の剣士が、自らの胸に手を当てながらライラに赤い花を差し出す。


「結構です」


 一刀両断。


「いやお前じゃ頼りねえって、ここは俺が送り届けますよ」


 花を弾き飛ばし弓使いが割り込み自身を売り込む。


「必要ありません」


「いや俺が!」


「僕が!」


「…………」


 まとめて断っても次々現れては割り込んでいく冒険者達にライラも呆れたのか、途中から無視をして書類作業を再開している。


 どうやら連盟は今日も賑やかなようだ。


「アンタ、昨日の今日でもう依頼を受けに来たのか」


 ミーアと共に掲示板の依頼を吟味していると、槍使いの男ラウルに声を掛けられた。


「ラウル、もう怪我は大丈夫なのか……?」


「俺の名前教えたっけ?まあいいか、腕の良い医療術師に当たったみたいでさ、もう全員歩ける状態だぜ」


 彼やその仲間達の名前は、血霧童子を討伐した帰りに連盟で確認している。


「それはなによりだ」


 彼の身体を観察してみるがどこかに不調が見える事も無く、本当に傷は全て()えているようだ。


「依頼に行く前に少し話せないか?」


「私は構わないが」


 確認の意味でミーアに視線を向けると、彼女は柔らかく微笑む。


「ミーアも良いよー」


「そりゃよかった、こっちだ」


 彼に続き賑やかな酒場の中を進むと、仲間達が各々に会話をしているのが見えた。


「連れて来たぜ」


 促されるままにミーアと席へ着くと全員の視線が集まった。


「まず先に言わせてくれ、助けてくれて本当にありがとう」


「貴方達は命の恩人よ」


「あんたらのお陰で、また今日を迎える事が出来たよ」


「ありがとうございます、この御恩は決して忘れません」


 全員からこうして礼を言われるのは少し気恥ずかしいが、死者を一人も出さなかったことは喜ぶべきことだ。


「一つ聞きたいんだが良いか?」


「構わない」


「あの魔物って何なんだ?槍で突いても、魔法で攻撃してもまるで効いてるって感じがしなかったんだよ」


 伝えるべきかは悩む所ではあるが、彼らは実際に被害を受けたのだから知る権利があるだろう。


「少し長くなるが構わないか?」


「ええ、勿論」


 ――


「ヨウカイねえ、それに異世界か……」


 ラウルが左右のこめかみを揉みながら難しそうな表情をする。


「闇から生まれた存在……」


「信じられないか」


「いや、信じるよ、実際に見たしな」


「ヨウカイについてはまだ何とも言えないど、異世界についての存在は確認されているわ」


 深い紫の長髪を後ろで(まと)めた、魔術師のディアナが意見を述べる。


「見つかった物は数えるほどしかないけど、この世界のどれとも一致しない文字の描かれた物が発見されることがあるの」


 例を挙げるならば私の先祖である初代当主と、背中にある妖刀がそうだ。


「例えばだけどこの二本針、これもそのはずよ」


 ディアナがどこからか取り出したのは、浅い緑色の珠の中心に細長い二又の金属が通された物であった。


「依頼の最中に発見した物だけど、その地には人が住んでいたという歴史は無かったの」


 どこかで見た事がある形だ。


「少し見せてもらってもいいだろうか」


「ええ、特別よ?」


「ありがとう」


 ディアナから受け取り観察する、やはり書に記されていた物で間違いない。


(かんざし)だ」


 ディアナに簪を返し記憶を掘り起こす。


「カンザシ?そういう名前なの?」


「ああ、女性が髪を纏める際に使用する飾りだ」


「そう、やはりそうなのね……」


 ディアナは満足そうに頷くと、簪を大切そうにしまう。


「しかし随分と詳しいのですね、異世界についての研究はそこま進んでいないというのに」


 肩まで伸びた銀髪の弓使いであるスコットに当然の疑問を投げかけられる。


「私の祖先である初代当主は、その異世界からやって来たんだ」


「本当ですか!?……それが事実であれば異世界の研究はかなり進みますよ」


 唐突に大声を出したスコットは周囲の視線が集まった事に気づくと咳払いをし、周囲の賑わいが戻った所で再び話を再開する。


「研究つってもなぁ、それでまたあの化け物みたいなのが来るのは御免だぜ?」


 赤髪の剣士ジュードが酒を片手に複雑そうな顔をする。


 あのような目に合ったのだ、その反応になることは仕方の無いことだろう。


「またあのような事が起こらないための研究ではあるのですが……、なるべく戦いたくないというのは同意できますね」


「私もこの刀が無ければどうなっていたかは分からないな」


 無論負けるつもりは無いが、日が変わる程に戦い続けていたのだろうか。


「まあその話は今はいいんじゃねえか?取り敢えず礼に一杯奢らせてくれよ」


「私達はこれから依頼があるのでな、酒は遠慮しておこう」


「分かってるって、俺達も酒は今止められてんだ」


 ラウルが笑いながら飲み物を人数分注文する。


 優秀な医療術師によって傷が完治したとはいえ怪我が明けたばかりなのだ、なるべくであれば身体に刺激(しげき)がある物は控えるべきだろう。


 ――

 ――


「ディアナんまたねー」


「ええ、またね」


 ディアナに手を振るミーアと共に連盟の外へ出る。


「仲良くなったのだな」


「うん、ディアナんって大人のお姉さんって感じで素敵だと思わない?それに今度魔術も教えてくれるんだってー」


「それは良かったな」


 こうして彼女の周りに頼れる人間が増えるのは喜ばしいことだ、彼らは実力や人間性のどちらも信用が出来る。


 その後は幾つかの討伐依頼を終わらせ街へ戻って来た。


「ご飯食べよー、ミーアお腹すいちゃった」


「そうか、では行くとしようか」


 ミーアが言うには近くに美味しい食事処(しょくじどころ)があるらしい、決まりのように腕を組んでくる彼女を連れその店へ入る。


 店で一番人気らしい料理を注文し待っていると、どこか暗い表情が視界に入る。

 目が合うと彼女は笑顔を作るが、すぐにその表情を(くも)らせてしまう。


「あーくんは明日になったらこの街を出ちゃうんだよね……」


「ああ」


 明日から行商人の護衛として出発し次の街を目指す、暫くここへ戻ることはないだろう。

 ミーアを一人置き旅立つのに思う事はあるが、彼女も連盟に所属する冒険者なのだ。

 

 それに依頼人に相談も無く連れていく訳にはいかない。


「ミーアはこれからどうするつもりだ?」


「ほんとはミーアの事も一緒に連れてって言いたいけど、今のままだときっと足を引っ張っちゃうから」


 先程までの暗い表情が彼女から消え、決意を秘めた瞳でこちらを見つめられる。


「頑張って今よりも強く大きくなるから、その時まで待っててねあーくん」


「ああ、期待していよう」


 ミーアは出会ってから一番の笑顔を見せる、その表情にはもう暗い感情は残っていない。


「お待たせいたしました」


「おいしそー!」


 その後は再び食べさせあいがしたいとねだれたりもしたが、楽しい食事会となり今日は部屋の前で解散となった。


 ————


『オノレ……』


(声が聞こえる)


『オノレ!オノレ……!』


(悲愴、そして憤怒に満ちた者の声だ)


『オノレ!!!!』


 言葉と共に闇が崩れていく、そして新たに現れたのは一面が赤く染まった世界の中であった。


 周囲が燃え盛る炎と噴き出す溶岩が満たす、終わりの世界のような景色が広がっていた。


 その中央には立つ大きな黒い影が、大きく肥大した拳を地面に叩きつけている。


(あれは、血霧童子……?)


 ふいに黒い影が振り下ろす手を止め、ゆっくりと振り返る。


(いや、べつの鬼だ)


 それはいたのは赤ではなく黒であった。


 黒い筋肉質の体に白い髪、頭には長い一本の角が伸びた鬼。


『侍……!サムライ!』


 突如黒い鬼が叫びを上げる。


 それと同時に鬼の身体から黒い炎が噴き出し、空間を業火(ごうか)が満たしていく。


 肌を焼く感覚と、深く思い気配が全身に襲い掛かってくる。


(これは、記憶ではない……!)


 足元から出現した巨大な金鎚(かなづち)、そして巨大な刀を黒鬼は両手に持つ。


「その金鎚に刀、お前は鍛冶師なのか……?」


『グラアアアアアア!』


 その巨躯(きょく)からは想像もつかない速度で近づいて来た鬼の一撃を大きく後ろに跳ぶ事でどうにか躱し、着地時にまた後方へ跳びさらに距離を離す。


 金槌が地面に直撃すると、生じた(ひび)から黒い炎が噴き出し空間の温度を更に高めていく。


「刀に魂を囚われ、そして妖となったか……」


 負の感情に囚われた者は、人から妖怪へ変化する事が稀にあると書には遺されていた。


『グオオオオオオオ』


 黒鬼が叫ぶとその衝撃波(しょうげきは)が空間を揺らし、業炎(ごうえん)がさらに吹き出し空間を焼き尽くしていく。


「!」


(身体が、動かない……!)


 突然、身体の自由が利かなくなる。


 視線を下ろすと、骨と金属が混ざり合ったような何かが気付かぬ内に身体に巻き付いていた。


「このっ……!」


 全身に力を入れようとも、それには(ひび)一つ入らない。

 

 力を込める程に締め付けが強くなり、鋭いトゲのような物が伸びて身体に突き刺さっていく。


「ぐっ……!」


 身体が動かない間にも、黒鬼は確実に近づいて来ている。


 そして目の前に立った鬼は、巨大な刀を振り上げる。


 全力で巻き付いた何かを破壊しようと力を込める程に、全身から鮮血が溢れ出し地面に血だまりを作っていく。


(このままでは……!)


 光の消えた瞳で見下ろされ、刃を振る降ろされた。


「……っ!」


 黒鬼の振り下ろした刀が、どこからか現れた太く紅い腕に受け止められた。


『オレを斬ったお前が、元人間の奴に殺されたらオレが地獄で笑いモノにされんだろうが』


「血霧童子……!」


 瞬間、身体が指先から崩れ紅い霧へと変わっていき、(まと)わり付いていた骨が身体をすり抜けて地面に落下した。


 好機と見て前に飛び出し、霧が集まり赤鬼のような大きさになった右腕で黒鬼の心臓の位置に突き刺す、そのまま腹を蹴りつけ反動で腕を引き抜きながら飛び退き距離をとる。


『おのれ……!』


 憤怒(ふんぬ)狂気(きょうき)悲愴(ひそう)の瞳で(にらみ)()えられる。


 黒鬼の穴が開いた胸から赤と黒の奔流(ほんりゅう)が溢れ出し、どこかへ消えていく。


『ウガアアアアアア!』


「鍛冶師……」


 突如、黒鬼は姿勢を崩し悲鳴をあげる。

 

 その背から異形の腕が次々と生えていき、最終的に六本の腕となった。


 目に見える程の暗く重苦しい圧力が周囲を支配していく。


『ウオオオオオオオオオオオ!』


 その叫び声と共に途轍(とてつ)もない妖力と黒炎(こくえん)が解き放たれ、(こら)えきれずに吹き飛んでしまう。

 背中に当たる衝撃で意識を飛ばしそうになるのを耐え立ち上がるが、感じた事の無い圧力で押しつぶされそうになる。


『オレの……、カゾ……ク……!』


 悲痛な声が聞こえ、心の奥底から熱い何かがこみ上げてくる。


(鍛冶師は、救いを求めている……)


「おおおおおおおおおおお!」


 解放するように声を張り上げると、全身から血の霧と赤と黒の奔流が広がっていく。

 鍛冶師から放たれた妖力と、私の血の霧と妖力がぶつかり、世界を揺らす衝撃が広がっていく。


 空間が罅割れ、眩い光が差し込み始めた。


『グオオォ……!』


 その白光を身体に受けた途端に、鍛冶師が苦しみ、放たれる妖力の勢いが落ち始めた。


「好機……!」


 血の霧を集め一振りの刀を作り構え走り出し、一気に鍛冶師との距離を詰め高く跳び上がる。


(柳流剣術奥義『光芒烈日(こうぼうれつじつ)』!)


「はああああああ!」


 空中で一回転をし刀を振り下ろし、頭から下までを一息に切り裂く。


『グオオオオオ!』


 鍛冶師は断末魔を上げると地面に片膝を付き、傷口から赤と黒の奔流が噴水のように溢れ出した。

 

 追撃を仕掛ける為に刀を横に構えると、鍛冶師は金槌を大きく振り上げ地面に叩きつけた。


「!」


 地面に生じた亀裂から黒い炎が吹き上がり、燃え盛る壁となって鍛冶師との間を(ふさ)ぐ。

 

『おまえを……!コろしテやル……!』


 黒い鬼となった鍛冶師は呪詛(じゅそ)を吐くと、全身が黒炎に包まれどこかへと消えてしまった。


 段々と世界に差し込む光が強くなり、やがて目を開けていられない程になり、思わず目を閉じる。


闇は人を変える

その果てに救いはあるのか

答えは刃の先にある

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