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武士の子孫、異世界を制す  作者: ふみぃ


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新天地

 


「着きましたよ」


「そうか、ここまでありがとう」


 御者に礼を告げ荷物を持ち馬車を降りる、街に着くころには日も(わず)かに沈み始めていた。


「ではお気を付けて」


「ああ」


 街の奥に消えていく馬車を見送り周りを見渡す。


「大きな街だけに、かなり人がいるのだな」


 愛刀を腰に差して弓と妖刀を背負い、賑やかな街中を歩き始める。


 まだ完全に暗くなっているわけでは無いが時期に日も沈むだろう、まずは寝泊まり出来る場所を探し後は次の街へ進む馬車を見つけるべきだ。


「失礼」


「ん?どうした」


 全身に甲冑(かっちゅう)を着込み槍を持った守衛(しゅえい)らしき者に話しかける、彼ならばここに詳しいかもしれない。


「どこか泊まれる宿は無いだろうか」


 騎士はこちらの全身を見てから(うなず)く。


「旅の物か……、この道を突き当たった所を右に行けば旅人用の宿がある、そこに行くといい」


「突き当りを右か、ありがとう」


「ああ、くれぐれも騒ぎを起こすんじゃないぞ」


 持ち場へ下がっていく騎士を見送り、言われた通りの道を進んでいくと目的の建物に辿り着いた。


「渡りの巣」


 定期的に修繕(しゅうぜん)をしているのか周りの建物と比べて真新しい作りの建物眺めていると、豪華(ごうか)な装備をした者達が入っていくのを見えた。


「こうしていては部屋が無くなってしまうか」


 後に続き扉を開くと、様々な装備を身に着けた者達がそれぞれの時を過ごしていた。


「ようこそ『渡りの巣』へ、ご宿泊でしょうか?」


「ああ、一人なのだが大丈夫だろうか」


「もちろんでございます、連盟員証明証れんめいいんしょうめいしょうはお持ちですか?」


「持っていないが、それが無いと泊まることは出来ないのか?」


 初めて聞く品物だ、村にはそのような物は存在していなかった。


「いえいえ!泊まることは出来ますが、それをお持ちですと宿代を一割程安くなるのですよ」


「そうなのか、では次に来る時までには手に入れておこう」


 どうすればそのような物が手に入るかは分からないが、旅をしていくうちに出会う事もあるだろう。


只今(ただいま)鍵をお持ち(いた)しますので、少々お待ちください」


「ああ」


 とりあえず野宿を回避することが出来そうで安心をしていると、ふと視線を感じた。


 目を向けると豪華な装いをした集団の中にいた少女がこちらを見ていた、視線がぶつかると挑発的な笑みを浮かべ人の合間をすり抜け近づいて来る。


「お兄さんって連盟具(れんめいぐ)持ってないんだ~」


 二つに結んだ髪を揺らしながら、揶揄(からかう)う様な声音(こわね)で笑う少女。


「今日から旅を始めたのでな、存在もたった今知ったところだ」


「へー、じゃあ初めてってことだ、初々(ういうい)しいね~」


 村を出た事に関しては初めてでは一人旅の経験はない、そういった意味では旅に関して初心者と言えるだろう。


 彼女の背中に揺れる長杖を見るに彼女も一端の冒険者なのだろうが、その見た目の幼さと身に纏う雰囲気からは実力を推し量ることは出来ない。

 だが魔術という物は体格の優劣をひっくり返す程の力だ、決して油断することなどはしない方がいいだろう。


「どうしたの?そんなに見つめちゃって、あ!もしかして私に見とれちゃったー?」


「ああ失礼、少々不躾(ぶしつけ)だった」


 初対面の人間を観察し過ぎるのは改善した方が良いのかもしれない、人によっては不快に思う事もあるだろう。


「ぶしつけ……?」


「ミーアちゃん鍵貰って来たよ!……そいつは?」


 彼女の背後から仲間と思わしき男がやってきた、背には剣を背負っているがこれまた豪華な装飾だ。


「うちのミーアちゃんに何か用でも?」


 どうでもいいことだが、ミーアと呼ばれた彼女と私に対する口調の違いが不思議だ。


 彼は何故か怒っているようで、(かば)うようにして前に立った。


「用という程の事ではないが……」


「この人にはミーアから話しかけたんだからあんまり怒っちゃだめだよ?」


「そ、そうなの?」


 ミーアが話しかけた途端に口調が柔らかくなり表情も弱々しくなる剣士、その様変わりっぷりは少し面白い。


 だが見知らぬ人間に警戒心が強いのは良いことだ、突然襲われるような事もあるかもしれないのだから。


 もっとも私がそのような事をするつもりはないが


「お客様、鍵をご用意が出来ましたが……」


 会話の終わりを待っていたであろう店主が話しかけてくる。


「すまないな、ありがとう」


 一応の謝罪を告げ鍵を受け取る。


「お部屋はお二階の奥でございます、ではごゆっくりどうぞ」


 受付を離れ階段へ向かう、振り返ってみるとミーアに手を振られていたため一応は振り返しておく。


 用意された部屋の扉前に立ち、取っ手に()め込まれた青い石に鍵を押し当てるとガチャリと音がした。

 取っ手を握り捻ると抵抗も無く扉が開く。


「これは便利だな」


 荷物を置きベッドに腰を下ろす、床へ敷く布団に慣れているため少々違和感があるが贅沢は言っていられない。

 屋根の下で夜を過ごせるだけ恵まれているのだ。


 まずは明日以降の馬車を探さなければならないが、その前に連盟とやらに行ってみるとしよう。


 村から東の国を往復できるだけの路銀はあるが、所持しているだけで安くなるというのならば行かない手はないだろう。


 階段を下りて広間へ出るとミーアがこちらに駆け寄ってきた。


「あー!来た来たー!もう待ってたよ~」


「なにか用でもあったか?」


 特に約束をしていた訳でもない筈だが。


 つい先程出会ったばかりだというのに妙に距離の近いミーアから一歩距離を取り周囲を見渡す、先程の剣士や他の冒険者たちはどうやら不在らしい。


「あなたって今日旅を始めたんでしょー?だからミーアが連盟に連れてってあげようと思って」


 ミーアの声で観察を取り止め視線を戻す、その眼からは悪意を読み取ることは出来ない。

 素性の知れない相手だというのにここまで親切にしてくれているのは有難いが、一応の警戒はするべきだろう。


「それは非常に有難い話だが、どうしてそこまでしてくれる?」


「いいのいいの!同じ冒険者のよしみだよ、じゃあしゅっぱーつ!」


 ミーアに腕を組まれ宿から連れ出される、このような強引さも冒険者には必要なのだろう。


「……ちっ」

「……けっ」


 後方から悪意の込められた視線を感じ振り返ると、主に男の冒険者たちがこちらを睨みつけていた、特に何かをしてくるという訳では無いようだが。

 一方ミーアの方は特に気にした様子も無く上機嫌で鼻歌を歌っている、彼女にとっては特に珍しくもなく大した問題ではないのかもしれない。


「そうだ!あなたの名前教えてよ!」


「そういえば自己紹介も済ませていなかったな、私はアルマだ」


「ミーアはミーアだよ、ねえアーくんって呼んでもいい?」


「構わない、好きに呼んでくれ」


「よろしくね、アーくぅん」


 所謂(いわゆる)あだ名という物だが、今まで砕けた呼び方をされた事が無いため少々不思議な感覚だ。


「ということで到着ー、ここが連盟拠点!」


 立ち止まるとそこには大きな建物があった、看板には『冒商協同連盟支店ぼうしょうきょうどうれんめいしてん』と描かれており、そのすぐ下には剣を支柱にした天秤(てんびん)刻印(こくいん)がされていた。


 建物の中からは賑やかな声が絶えず漏れており、相当な人数を収容していることが分かる。


「ほらはやくはやく!」


「ああ」


 ミーアに腕を引かれ中に入る。


「大した賑わいだな」


 酒場も併設されているのか、多くの冒険者や商人達が各々の時間を過ごしていた。


「この街で一番おっきな連盟だからねー、受付はあっちだよ」


 歩を進め受付へ向かうと数人の女性達が忙しなく動いているのが見える、ここまで人も多いとなればやはり忙しいようだ。


「失礼」


「あっはい!新規の御依頼でしょうか」


 髪を横で纏めた受付の女性が作業の手を止め応じてくれた。


「いや、こちらで連盟員証明具という物があると聞いて来たのだが」


「はい、確かにここでは連盟員証明具を扱っています、連盟員登録をしていただくことでお渡ししておりますがどうなさいますか?」


「是非登録したい」


「かしこまりました、ではこちらにお名前をお願いします」


 渡された用紙に必要な情報を記載していく。


「アルマさんですね?では冒険者認可証と商業認可証の二つがございますが、ご説明いたしましょうか?」


「よろしく頼む」


 名前だけを聞いた限りでは冒険者許可証の方が適しているのだろうが、両方を知っておいて損はないだろう。


「はい、冒険者認可証の方から説明いたしますね」


「ああ」


「まず連盟の所有している土地への通行許可、連盟加盟店の割引、そして連盟の紹介している依頼などを引き受けることが出来ます、主に採集や要人護衛(ようじんごえい)、魔物の討伐などですね」


 やはり私はこちらを選ぶべきだろう、旅の中で資金に困ることがあれば依頼を引き受けてみるのもいいかもしれない。


「続いて商業認可証ですね、通行許可、割引などは変わりませんが、貴重な品の融通(ゆうずう)、連盟の所有している店舗の貸し出し、連盟内での依頼料をこちらで三割程の負担、交渉の橋渡しなどですね」


「なるほどな」


 やはり関係はなさそうだ。


 しかし連盟というのは旅人にとってこれ以上は無い程の重要な組織のようだ、これだけの人が集まるのも納得してしまう。


「認可証の説明は以上になりますが、他に聞きたいことなどはありますか?」


「依頼などはどこで受ければいいのだろうか」


「依頼でしたら基本的にはあちらの掲示板に張り出してある依頼書類を受け付けに持ってきていただいて、受理され次第依頼開始となります」


 手で示された方を見ると何枚かの紙が張り付けられた大型の板が設置されており、その前では冒険者たちが依頼を吟味(ぎんみ)しているようだった。


「個人間で依頼を受ける場合もこちらに申請していただければ、正式に連盟の依頼として受理させていただきますよ」


「それをすることによって何か意味があるのか?」


「はい、依頼者側の報酬の負担や交渉の立ち合い、必要になる物資の支援、そして万一依頼を達成できなかった際の補償(ほしょう)などですね」


「ほう」


「さらに冒険者の方へ対しては連盟内の評価が上がるなどの利点があります」


「連盟内の評価」


「こちらも説明いたしますね、現状のアルマ様ですと受けることが出来る依頼が制限されているのですが、こちらの評価が上がりますと危険性の高い依頼を引き受けて頂くことだ出来るようになります」


 つまりはこの評価によって依頼を任せても良い人間かを判断されるようだ。

 慈善ではなく責任のある仕事なのだから当然の事だと言える。


「依頼についての説明は以上ですが、他に聞きたい事はございますか?」


「いや充分だ、ありがとう」


 気になることをは大体聞くことができた、他に知りたいことが出来ればその都度(つど)質問するのがいいだろう。


「では冒険者認可証と商業認可証のどちらになさいましょう」


「冒険者の方で頼む」


「かしこまりました、でしたら必要書類と器具をお持ちしますので少々お待ちください」


「ああ」


 下がっていく受付の背中を見送り酒場の方へ眼をやるといくつかの視線とぶつかった、すぐに逸らされてしまったがあれは人を見極めようとしている目だ。

 つまりはこれから何かを計るような事があるということだろう。


「りーくーん!」


 ミーアはと言えば、酒場の方で鮮やかな色の飲み物を片手にこちらへ手を振っていた。


「お待たせしました」


 軽く手を上げてから受付の方へ向き直ると、紙と丸い水晶が台の上に置かれていた。


「ではこちらに必要情報の記入をお願いします」


 名前や年齢、出生地などを描き込んでいく。


(さてどうしたものか……)


 すぐそばに置かれた水晶を横目に見る。


 これは村にもあった物と同じと見て間違いないだろう、名は鏡魔水晶(きょうますいしょう)、その名の通り触れた者の魔力を映し出すものだ。


 戦闘能力の求められる冒険者だ、それならば当然魔力の検査は行われるだろう。


「はい、ではこちらの水晶に手を押し当てて魔力を流し込んでください」


 言われるがままに水晶を手で掴む。


「……」


 当然反応する訳が無い。


「……あの、やり方をお教えしましょうか?」


「いや、それがな……」


 このまま真実を告げるべきだろうか、だが魔術を使えないと言ったら落とされてしまうかもしれない。

 いっそのこと水晶を握りつぶしてしまい、力を証明して見せるのも手だろうか。


(いやそれは駄目だろう)


 強めかけた握力を抑える。


「……ええと、どうかされました?」


 困惑の表情を強める受付嬢、これ以上待たせるのも迷惑だろう。


「実は、魔力が使えないんだ」


「……へっ?」


 いつの間にやら静まり返っていた連盟内に受付嬢の抜けた声が響く。


「えーと、少々お待ちください!」


 再び裏へと下がっていく受付嬢、流石に魔術を使えない人間が来るというのは想定していなかったのだろうか、他二人の受付嬢も作業の手を止めてこちらを凝視(ぎょうし)している。


 それも仕方のない事ではあるが。


「なんだ魔盲(まもう)かよ……」


 いつの間にか静寂(せいじゃく)に包まれていた連盟内が、その言葉を皮切りに賑やかさを取り戻していく。


「あの……、冒険者認可証が欲しいとのことですが、魔術が使えないとなると依頼の達成が大変困難であると予想されまして」


 戻ってきた受付嬢がやんわりではあるが、辞める事を進めてくる。

 正しい反応ではあるだろう、連盟側も仕事であり、信頼で売っているのだから。


「魔術は使えないが戦闘には自信がある、どうにかならないか」


「そう言われましても……」


 正直言って連盟には入っても入らなくてどちらでも支障(ししょう)は無いのだが、(あなど)られこのまま引き下がるのも(しゃく)だ。


「それならよ!実戦で確かめるってのはどうだ!」


 声がした酒場の方を見ると、金髪を逆立たせた男が酒を片手に立ち上がっていた。


「そいつは自分の事を(つえ)えって言ってんだろ?ならそれが出任せ(でまかせ)かどうか見極めてそれで決めてやろうぜ!」


「ガハハッ!そりゃいいや!」


「魔術が使えねえってのにどれだけ出来るか見物だな!」


 周りの男達が同調し叫ぶ、彼らにとっては酒の(さかな)肴程度の事でしかないだろうが、これは好都合だ。


「私はそれで構わない」


「そうこなくっちゃなー!」


「いいぞー!」


「ちょっと勝手なことを言わないで下さい!」


 傍で受付嬢が声を上げるが、騒ぎに飲まれ声が全く届いていない。


「どうしたんだ騒がしい」


 連盟内に低く分厚い声が響いた。


「支店長!どうにかしてください!」


「なんだ、まだ帰らせてねえのか」


 受付の奥から現れたのは、(ひたい)傷痕(きずあと)のある大男であった。



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