プロローグ
私は復讐するために、人間になる。
そのためなら、声も、尾も、帰る海さえもすべて捨ててやる。
姉は王子に愛されたはずだった。だが最後に残ったのは、海に溶ける泡だけだった。
おとぎ話は嘘だ。人魚は王子と結ばれても、幸せにはなれない。
だから私は物語を書き換える。
◇◇◇
『人魚姫』という、人魚の物語が地上にある。
人魚の主人公が薬で人間になり、さまざまな困難を超えて愛を手にする物語。
だが、現実はおとぎ話のようにはならなかった。
私の姉であるカノン姉様は、人間の王子と結婚した。
しかし、カノン姉様は海に身を投げて泡となってしまった。
それがどうしても、許せなかったのである。
美しい泡沫が、カノン姉様の死を私に実感させたのだ。
海は全てを記憶している。泡となった者の最後の感情さえも。カノン姉様は全てに絶望し、身を投げて泡になったのだ。
(何故、心優しいカノン姉様が泡にならなければいけなかったの?)
そんな考えばかり頭を支配する日々だった。しかし、私にとある考えが浮かんだのだ。
そう、私も足を手に入れて、王子に復讐してやればいい。
私は一人、静かに笑った。
「こんなに簡単なことを何故思いつかなかったのかしら。」
カノン姉様を騙し、裏切り、挙句の果てには泡にさせた。そんな王子に、私が自ら鉄槌を下すのだ。
その道は過酷だろう、相手は一国の王子なのだから。
しかし、私がやらねば誰が復讐をする?
私はセレン。先祖が人間になる前、血筋を残していった。私はその末裔、人魚姫の末裔だ。
ならば、人魚姫と同じように人間になって、王子を冥府の深淵に落としてやる。
私は渦巻く怒りを胸に、急いで海の魔女の元へ向かった。
海の魔女は、色々な薬を作ることで有名だ。人魚が人間になるための薬だって、彼女には作れてしまう。
待っていなさい、王子。貴方の物語をハッピーエンドで終わらせたりなんてしないから。
__だから私が、人魚姫の物語を書き換える。




