第32話 戦に勝つにはまず相手を知ろう1
昼間からの焼き肉宴会で満腹になった二人は、しばらく洞窟の前で風に当たりながら休んでいた。
サーヤはビールの余韻に浸りながら、空を見上げて満足げに息を吐く。
「ふぅ!ビールと焼き肉・・・恐ろしいほど旨かった・・・」
「飲みすぎてないか?顔真っ赤だぞ?」
「騎士は酒に強いのだ!これくらいどうということはない!」
そう言いながら、サーヤはふらりと立ち上がり、すぐにぐらりと揺れた。
「おいおい・・・」
壮真が慌てて支えると、サーヤは胸を張って言った。
「だ、大丈夫だ!私はもう完全に回復している!・・・たぶん」
「たぶんって言うなよ。」
そんなやり取りをしていると、サーヤが急に真剣な顔になった。
「壮真殿。次はガガブルだな。」
「・・・そうだな。」
サーヤは腰に手を当て、騎士らしい凛とした表情で続けた。
「前にも言ったがガガブルは、私の国でも討伐対象に指定されている強敵だ。」
「そんなにヤバいのか?」
「うむ。ガガブルは“森の暴君”と呼ばれている。手は長く、爪と牙は鋭く、皮膚は硬く、怒らせれば木をへし折るほどの怪力を持つ」
「・・・それ、普通に死ぬやつじゃないか?」
「だが、倒せば大量の素材が手に入る。肉は旨く、爪と牙は武器に皮は防具に最適だ」
「モンハンみたいだな・・・」
サーヤは拳を握りしめ、力強く言った。
「壮真殿はガガブルを見たことがない・・・ここは先にガガブルの生態を知り、討伐の準備を整えるべきだ!」
「・・・どうした?やっぱり酔ってるのか?急にまともな事を言って?」
「酔ってなどおらん!!失礼な!!私だってたまには真面目に話すぞ!!」
「たまにはって・・・自覚あるのかよ!」
「とりあえず決まりだな!明日ガガブルを探しにに行くぞ!」
「いや、決めるの早っ!」
そして翌日・・・
壮真はキャンプ用リュックに最低限の装備を詰め、サーヤは剣を背負って洞窟を出た。
「まずはガガブルの住処を探す。奴は縄張り意識が強いから、痕跡を見つければ近くにいるはずだ。」
「痕跡って・・・足跡とか?」
「うむ。ガガブルは私の1.5倍ほどの獣だ。足跡も大きいし、木の幹に爪痕を残す習性がある。」
「なるほどな・・・」
二人は森の中を慎重に歩きながら、周囲を観察した。
何かを見つけたサーヤは地面にしゃがみ込み、土を指でなぞる。
「ふむ・・・このあたり、何かが通った跡があるな。草が倒れている」
「ガガブルか?」
「いや、これはムームーだな。足跡が丸い。」
「お前、ほんとに詳しいな。」
「騎士は野営も多いからな。痕跡を読むのは基本だ。」
サーヤは胸を張るが、すぐにまたしゃがみ込んだ。
「む・・・これは・・・」
「ガガブルか?」
「いや、これは・・・ただの糞だ。」
「紛らわしい!」
森の奥へ進むにつれ、木々が太くなり、空気がひんやりしてきた。
「このあたり・・・魔物の気配が濃いな。」
サーヤが剣に手をかける。
「気配ってわかるのか?」
「うむ。魔力の流れが違う。空気が重くなるのだ。」
壮真は周囲を見回すが、特に変わったものは見えない。
「俺には全然わからん」
「安心しろ。私がいる、壮真殿もそのうちわかるようになる。」
サーヤは頼もしく言ったが、次の瞬間・・・
「ぴぎゃああああああああああああああああああああああ!!!!」
「うおっ!?なんだ!?」
木の上から、奇妙な鳥が飛び出してきた。
「チャーキーだ!」
「あの弱ったやつを狙う鳥か?俺ら弱ってねぇよ!」
「奴らは判断が雑だ!」
チャーキーは壮真の頭上をぐるぐる飛び回りながら、時折つつこうとしてくる。
「おい!やめろ!やめろって!」
「壮真殿! 動くな!私が追い払う!」
サーヤが剣を抜き、チャーキーに向かって振り上げた。
「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!
木の枝が一本、真っ二つに切れた。
「おい! 鳥じゃなくて木切ってるぞ!」
「むっ・・・!外した!」
「外したじゃねぇよ!」
チャーキーは驚いて逃げていった。
「ちっ!運のいい奴め。今日はここまでにしてやる。」
サーヤは剣をしまいまた歩き出した。
「吉本みたいなお約束はいらねーよ!!」
さらに奥に進み5分がたった時、
「・・・む?」
サーヤが急に立ち止まった。
「どうした?」
「これを見ろ!」
サーヤが指差した先には、巨大な木の幹があった。
その表面には・・・
深くえぐれた2本の爪痕。
「・・・これって」
「ガガブルの爪痕だ。間違いない!」
壮真は思わず息を呑んだ。
「でかすぎないか・・・?」
「うむ。これは・・・かなりの大物だな。」
サーヤは剣を握りしめ、真剣な表情になる。
「壮真殿。覚悟はできているか?」
「・・・まあ、やるしかないよな」
「うむ。では・・・」
サーヤは森の奥を鋭く見据えた。
「ガガブルの巣は・・・この先だ!」
二人はゆっくりと、慎重に、森の奥へと足を踏み入れた。




