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菜名宮六乃の革命日記  作者: 冬月 木
ある不良生徒について
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ある不良生徒について-7

駅前からほんの少し歩けば、デパートがあるそこそこの都会の駅ということで、平日の昼ながら意外と人の数は多かった。


ちなみに朝顔先生と別れてからデパートに入るまで俺、菜名宮、雛城の3人でいたが終始無言であった。めちゃくちゃ微妙な空気が流れていた。俺と菜名宮は面識があるが、雛城とはロクに話したことすらない。


菜名宮は鼻歌を歌いながらあたりを見回しているし、雛城は不機嫌そうな表情でずっと下の方を向いている。


普段はこんな空気にも慣れているはずだったが、なんか居心地が悪かった。多分名前をつけるなら雰囲気地獄。最下層とまでは多分行かないけどなかなか地獄だとランクが上の方だとは思う。


そんな微妙な雰囲気のままデパートの中を歩いていく。なんだか周りの人の視線がこちらに突き刺さっていた。何でこっち見てくんのかな。俺を殺しにかかってる?


だがその原因はすぐにわかった。おそらく俺以外の二人のせいだろう。菜名宮は控えめに言ってもかなり顔が整っている方だし、雛城もまたパッと見た感じでは結構綺麗な方だ。


全く違うベクトルの方向でそれぞれ顔が整っていると言えるのではないか。黙っていれば多分、多くの人が見惚れるのだろう。


後は俺たちが制服ってことも関係してるのかもしれない。こんな平日に制服でデパート来てたらそりゃ目立つか。


まあ雛城は知らんが菜名宮は多分すぐに集まってきた奴らは去っていきそうだけどな。こんなんだし。いや、普段の活発系(学校サボってる姿)の感じならわんちゃん男を虜にできるか?多分付き合ったとして3ヶ月くらいで後悔して別れそう。


下らない妄想をしながらエレベーターで高層階に上がれば、目の前に人だかりが見える。人の先にある店の看板を見れば、菜名宮が持っていたチケットに書かれていた店名と同じ名前であった。


「着いたよ。」


菜名宮が俺たちの前に出て店の方を指差す。黒みがかった茶色の木材にところどころ小さな飾り付けがされたログハウスのような建物は、どこかファンタジーな雰囲気を醸し出している。


ケーキバイキングと聞いて高級ホテルっぽい見た目をイメージしていたが、思っていたのとはだいぶ違っていた。


「人多いな…」


「人気店だし今日が最終日だからね。平日といえど客足が多くなるのは仕方ないことだよ。」


こういう時に店とかよりも人の方に目が行くのはどうかと思うが仕方ない。だって人多いところってなんか嫌だからな。


「予約取ってくるからそこで待ってて。」


そう言うと菜名宮はポケットからチケットを取り出して、小走り気味に店の方へと走っていく。その場には俺と雛城が取り残された。


そうして走る沈黙。菜名宮がいた時もダンマリとしていたが、菜名宮はデパートの周りの景色を楽しそうに眺めていたため完全なお葬式ムードというわけではなかった。しかし今は誰か死んだんかってくらいに空気が重い。


だが特に話すこともない。沈黙は決して悪いことではないのだ。特に話したいこともなければ、無理に話す必要もないだろう。


雛城は先ほどから表情を変えずにただ無表情であった。退屈そうな表情でスマホをいじるわけでもなく、ただ視線を下の方に向けている。


こうしてみるとやはり不思議だ。雛城はずっとこんな顔をしている。授業をサボっていた昨日の昼も放課後もそして車の中でも、ずっとずっと雛城は退屈そうな顔をしていた。


「…何で着いてきたんだ。」


ふと疑問に思ったことを聞いてみる。雛城は俺とは昨日が初対面だ。実は定期テストの時に同じ教室にいたらしいが、俺の記憶にないのでノーカン。多分雛城の方も俺のことは認識してないだろうし。


雛城は菜名宮ともそんなに親しげではないようだった。菜名宮は雛城のことを知りたいなんて言ってたし、こっちの方はむしろ菜名宮を嫌ってるんじゃないかってくらいだ。


ならばなぜ俺たちに着いてきたのだろう。はっきり言って、あんま親しくない奴と遊びに行くのって割と地獄だと思う。話したことはある程度のクラスメイトと遊びにいくってなったら俺は絶対無理。それはもはや新手の拷問だ。


…まあそもそも俺、誰かと遊びに行くなんてことがほとんどないけど。


雛城が唯一付いてくる理由があるとすればやっぱりケーキバイキングに行けるというくらいか。本当にそのためだけに来たのならある意味すごいな。主に欲に従ってるという部分で。


「…どうだって良くない?」


数秒の間の後、雛城は顔を上げてこちらを振り返る。まるで光が宿っていないような暗い眼差しがこちらを捉える。だから怖いって。


「バイキングが楽しみなのか?」


「…別に。」


また雛城の視線が下の方へと向いた。そして走る沈黙。これって会話になってるのか…いや、なってないな。多分俺が主な原因。


話してる様子だけ見ればお見舞いかっていうような掛け合いだった。これが南が言っていた許嫁系ラブコメってやつか。絶対違うな。


あたりの喧騒が鮮明に聞こえてくる。見渡してみ」ば大学生と思わしきカップルや、ネックレスを大量につけたおばさまたちのグループが辺りを歩いていた。彼らは皆同じ店の方へと向かっていっている。


ほんの微かに甘い匂いがした。食欲をそそるようなパン生地の匂いが鼻をくすぐる。


雛城がまるで電流が走ったかのように、ピクッと顔を上げた。


店の方に視線を向けている雛城は先ほどまでとは打って変わって、口角を少し緩ませていた。


しかしすぐに何かに気付いたのか、雛城ははっとした。視線を落としてまた退屈そうな表情に戻る。


「ケーキ、好きなのか?」


「…まあまあ。」


雛城はつんけんとこちらを睨んでくるが、先ほどよりも自然に鋭さがないのは気のせいではないだろう。


やっぱり匂いに反応した感じだな。さっきはまあまあケーキが好きなんね言ってたけどやっぱり嘘だ。あの感じ、相当好きなんだろうな。ケーキの匂いがうっすらしただけで頬緩むってだいぶじゃん。甘いもの好きって誤魔化しきれていない。


思えばさっきの屋上でも菜名宮がチケットを見せた瞬間、まるで別人のように顔を輝かせていた。


これでケーキバイキング興味ないって嘘だろ絶対。逆にここまできて甘いものがまあまあ好きって言える精神がすごい。まあまあっていうレベルでは絶対ないだろう。


「ごめん、ちょい待たせちゃった。人が思ったより多くてね。」


店の方から菜名宮が戻ってくる。スマホを見ればもう入店の5分前を切っていた。店の前には多くの人が並んでおり人だかりができている。


「並ばなくていいのか?」


「入場できる順番はある程度決まってるからね。今から並んだところで早くなるのはせいぜい1〜2分だよ。人混みの中にタキは行きたくないだろうからここにいようか。」


「流石菜名宮、俺のことよくわかってるな。」


「タキのこと分かってても何も嬉しくないんだけどね。」


「相変わらず言葉にトゲしかない。」


まあ俺の性格知ってても人生において嬉しくなることはまずないわな…悲しいけど。


「楽しみだね、芽衣奈ちゃん。」


菜名宮は俺の後ろにいた雛城の元へと歩み寄ると、視線を同じ位置に合わせる。


「はあ、別に。」


「そっか。」


そんなこと言ってるが、口元がちょっとにやついてるの誤魔化せてないからな。絶対匂いにつられてちょっと笑顔になってるだろ。


菜名宮はその表情を確認すると、さっと雛城の隣へと滑り込む。


目の前にはさっきよりもさらに人が増え、もはや店の入り口が見えない状態になっていた。本当に入れるのか心配だが、まあ菜名宮が大丈夫だと言っていたし問題はない。


沈黙する俺と雛城を横目に、楽しげに菜名宮が歌う鼻歌だけが耳に残った。




店内は外観のイメージと同じように、まるで昔話に出てくるログハウスのような印象だった。丸太を積み重ねたような壁面に、切り立ての原木が支柱として天井を重ねている。天井には何の意味があるのかわからないぐるぐると回転した風車のような物が何個もある。


店内の装飾はよく作り込まれており、別の国に迷い込んでしまったと錯覚してしまいそうになる程だ。


「こちらへどうぞ。」


店の入り口で菜名宮が招待券を見せると、店員が店内の一角へと案内してくれる。


その女性店員はしわひとつない高貴なスーツを身に纏っている。ドラマで出てくるバーテンダーが来ているあれだ。


大人びた雰囲気の服装と、店内のファンタジーな世界観、普通なら全く異なるそれらもなぜか異様に雰囲気がマッチしている。設計者はどんなことを考えてこんな組み合わせにしたのだろうか。


店の中にはすでに何組かの客が入っていた。近くにいた人に目を向けると、皆小さなプレートを手に持っている。丸い皿の上にはいくつかのケーキがのっていた。ピンク色のケーキはこの時期旬の苺のケーキだろうか。


「周囲の人をジロジロ見るのは良くないよ。」


「ああ…すまん。そんなつもりはなかった。」


「タキがじっくり周りの人を見てたら、不審者と勘違いされかねない。」


「どういうことだよ。」


「タキの目つきが怖いから危ないんだよ。」

「何が危ないんだよ…俺の目つきそんな悪くないはずなんだけどな。」


むしろ俺のことを睨んでくる雛城の方が100万倍怖いんだけどな。多分今が原始時代なら3回は死んでる。


「何で周囲を観察してたの?」


「なんか明らかに金持ってそうな人多くないかって思ったんだよ。こう、富裕層?金ありますよオーラが溢れ出ている人ばっかじゃないか?」


軽く周囲を見渡せば、煌びやかな服装やいかにも高そうなアクセサリーをしている人が多い。まるで金持ちが開いたパーティー会場に出席しているかの様な気分だ。


「当たり前だよ。さっき芽衣奈ちゃんが言ってたみたいにここって会員制だからね。招待状の類が無ければ、入場すら手間がかかる。」


確かこのケーキバイキングに出席するための会員自体、なることが難しいとか言っていたはずだ。


「まあよくもそんな入手困難なチケットを手に入れられたな。」


「私だからね。」


「それ気に入ったの?」


最近菜名宮は気に入ったのか、口癖のようにいろんな場面でこのフレーズを使っている。


「もちろん。こういえば大抵タキは納得してくれるから。」


「納得というより妥協の方が近いからな。」


実際、菜名宮のすることが大抵菜名宮だからで納得している部分は最近は多くなってきた。


ぶっ飛んだ行動も俺にはイカれているとしか思えない考え方も全て菜名宮だからで説明がついてしまうのが怖い。というかそれ以外に理由が見つからないという方が正しい。


「こちらにおかけください。」


女性店員に追随する形で大きなホールをくり抜いた様な店内の、端っこの方へと案内される。俺がよくいる教室の隅みたいなところだ。絶対にこの例え良くないな。


菜名宮が真っ先に椅子に腰掛ける。続いて雛城はサッと菜名宮の正面に座った。


…流石に雛城の隣に行くわけにはなあ、などと考えて、数秒おいたのち菜名宮の隣へ俺は滑り込んだ。


「それではごゆっくり。」


女性店員は伝票を机の上に置くと綺麗な所作で一度お辞儀をして立ち去っていった。洗練されたであろう高級感の溢れる動きだ。


「ケーキ取りに行こうか。」


菜名宮はそう言うと荷物を置いて立ち上がった。




ケーキバイキングと聞いて真っ先に思いついたのは旅行先で言ったホテルのバイキングだ。数年ほど前に家族で旅行に行った時に、朝食がバイキングスタイルだった。


あの時は選び放題に興奮していたので明らかに自分が食べれる量以上にいろんなものを取ってしまった記憶がある。ウインナーやらスクランブルエッグ、味噌汁とか煮魚、食べたいものを片っ端から取っていった結果、食べきれずに地獄を見るという経験をした。そのためバイキングにいい思い出がない。


だが今回のケーキバイキングに関しては、俺が想像していたものとは少し違っている。


まずケーキバイキングと銘打ってるだけあり、机に並んでいるのはそのほとんどがケーキやパンの類だ。ショートケーキやチョコレートなど定番のものから、ケーキ屋さんで良くみる小さなパチンコ玉みたいなのが降りかかっているもの、先ほど見かけた苺のケーキ以外にも、ブルーベリーやキウイのケーキ、あるいはぱっと見饅頭の様な見た目をしている和菓子のケーキなんてのもあった。和なのか洋なのかどっちだよ。


それと周りの人は皆、バイキング目的で来ているという感じがなかった。俺が前行っていたホテルでは常に料理が並んでいる机の前には人が大勢にて賑わっていたが、ここではケーキを選んでいる人というのは少ない。


勿論ケーキを取る人はいるのだが、それよりも各々のテーブルで雑談なんかに興じている人の方が多く、ケーキが並んでいる中央近辺が賑わっていることはなかった。バイキングは料理が並んでいるところが殺伐としていたと思っていただけに意外だ。


俺は適当に幾つかのケーキを見繕い、皿の上に乗せていく。ここで二度同じ轍は踏まない。食べたいものをあれもこれもと載せると、後で地獄を見るのはわかりきっているので選ぶケーキの数は最小限にした。食べれるならまた後で取りに行けばいいしな。


最初に案内されたテーブルに戻ると菜名宮と雛城がすでに腰掛けていた。菜名宮の皿にはチョコレートケーキや、チョコモンブラン、あとはチョコレートとフルーツを混ぜたケーキなんかが載っていた。


「…なあ、何でそんな偏ってるんだ?」


「偏ってるって?」


「お前のケーキの選び方だよ。バイキングの意味ねえじゃん。」


「え、モンブランとかフルーツケーキとかとってるじゃん。」


「全部チョコレート入ってるじゃねえか。鼻血出るぞ。」


ついで雛城の方に目をやると、目の前には大量のケーキがこんもりと積まれてある。皿3枚にめいいっぱい載せられた様々な種類のケーキは彩り鮮やかに机の上に並んでいた。取りすぎだろ。ここに数年前の俺がいるぞ。


「…何?」


「いや、何もない。」


ケーキのプレートを見ていると、雛城がすごい形相で睨んでくる。相変わらずその視線は草食動物を追い詰めた肉食動物のそれだが、なんかもう今日だけで睨まれすぎてある程度耐性がついてしまった。慣れって怖いな。


雛城を極力怒らせない様に、まるで何もない風に菜名宮の隣に腰掛ける。俺が座ったのを見ると菜名宮は机の上で手を合わせた。


「タキも来たし、頂こうか。」


「ああ。」


菜名宮はフォークを手に取ると、フルーツが入ったチョコレートのケーキを口にする。


「ん〜!美味しい〜!」


「確かに、これうまいな。」


適当に取った抹茶のケーキを一口食べたが、これが案外美味しい。詳しくはわからないが、なんか苦味とか風味とかがいい感じなんだろう、うん。


「食べないの?芽衣奈ちゃん。」


斜め前にいる雛城はフォークを机の上に置いたままケーキを取ろうとはしない。


「…やっぱり私はいい。招待してもらってあれだけど 、よくよく考えたら菜名宮とここに来る意味がわらない。」


雛城はここまできてようやく気づいたようだ。いくらケーキバイキングだからと言って、菜名宮と学校をサボってまで駅前に来る道理はない。今まで気づかなかったのは、ケーキバイキングという単語に釣られていたみたいだ。ケーキ好きすぎだろ。


「…」


菜名宮は雛城の方を見つめて目線を外さない。雛城は机の上にケーキを置いたまま、隣のカバンに置いた荷物を取ろうとする。


雛城が立ちあがろうとした、まさにその時だった。


「もがっ」


隣に座っていた菜名宮が突如立ち上がったと思えば、フォークにケーキを刺して雛城の口にイン。それは一瞬の出来事だった。おそらく団長の手刀を見逃さなかった人と俺くらいしか見えなかったのではないか。


現に雛城も何が起こってないのかわかっていないように、困惑した表情を浮かべていた。


「食べてみてよ。」


菜名宮の言葉に、しかし雛城は状況を飲み込めていないようだったが、口の中に突っ込まれたケーキをもぐもぐと頬張る。側から見ればシュールな光景だ。


「結構美味しいでしょ。」


雛城がケーキを口に頬張ったことを確認すると、菜名宮は座る。雛城は硬直したまま口だけは動かしている。


「何すんの!」


ごくんとケーキを飲み込むとギラっと菜名宮の方へと睨む。


「美味しくなかった?」


「いや…美味しかったけど。」


「素直かよ。」


「でしょ?こんなに美味しいケーキをたくさん食べれる機会なんてそうそうないんだし、せっかくだから食べて行きなよ。」


菜名宮の言葉に、雛城は何かに迷ってるようだった。んん…と眉を顰めている。


雛城はさっきから見てたらわかるが、相当甘いもの好きだ。おそらく菜名宮に放り込まれたケーキがよほど美味しかったのだろう。よくよく考えたらおかしな状況であることに気づき帰ろうとする気持ちと、ケーキを食べたいという気持ちで葛藤しているのか。


「仕方ない。」


そして数秒後、そんなことを言いながら雛城は席に再び着く。


「賢い選択だよ。」


「別にお前らと一緒にケーキを食べたいからってわけじゃないからな。」


雛城は鋭い眼光を俺の方に向ける。それはもう目一杯の殺意が籠っている。台詞だけ聞いたらめちゃくちゃツンデレってやつの発言っぽいのに、目がガチだ。これはツンデレではないのか。


どれがツンデレでどれが殺意なんだ。妹よ、教えてくれ。




即落ち2コマというのは本当に実在しているらしい。殺意を向けられてからしばらく後のこと。俺と菜名宮、雛城が座っている3人の席。甘さを中和させるためにミルクを入れたコーヒーを飲む俺の横には、相変わらずチョコレートのケーキばっか食べている菜名宮がいる。


そしてその向かい側には、まるで別人かのように満点の笑みでケーキを食べる雛城の姿があった。さっきまでの不機嫌そうな表情はどこへいったのか。3つのお皿に大量に乗せられていた多種多様のケーキはいつしか消え去っており、雛城の前には小さなショートケーキとチョコレートケーキが1つずつあるだけだった。


「芽衣奈ちゃんはどのケーキが美味しかった?」


「そうだなあ、個人的には抹茶が好きだった。」


「じゃあ次それ取ってこようかな。」


ずっと拒否反応を示していたはずの菜名宮に対しても、いつのまにかちょっと打ち解けてる。ケーキの力はかなり偉大なようだ。


そんな風景を横目に、気づけば雛城はショートケーキを平らげている。食べるの早くね?しかもめっちゃ満足そうな顔してるし。


ちなみに俺は小さなケーキ5個くらい食べたら甘さがキツくなってきた。美味しいんだけど、ずっとは食べられない感じ。


「ふう、美味しかった。」


菜名宮の方もいつしかケーキを食べ終えていたようだ。お皿にあった数個のチョコレートケーキは全て消え去り、綺麗な模様が彩られたお皿だけがそこにある。


菜名宮は手元に置いてあったカップを手に取り、優雅に口に運ぶ。その仕草は丁寧で上品なものだ。普段の菜名宮のイメージとはかけ離れた光景にほんの一瞬、視線が奪われる。


…と、ここでふと大事なことを思い出した。


「そういや、何で今日こんなとこにきたんだよ。」


今日いきなり屋上に呼び出されたと思えば、ケーキバイキングに行くと言われて、朝顔先生に送られてここまで来た。


ケーキを堪能していたがよくよく考えたらここに来る理由をまだ何も聞いてない。このままじゃただ学校をサボっただけになる。化学のテストあるのにな。


「え、理由言ってなかったっけ。」


「聞いてない。」


「ケーキ食べたかったから。」


「…は?」


「いや、ケーキ食べたいって思ったからここ来たんだよ。」


菜名宮は至極当然そうに、むしろ俺が何か間違ってるかのような表情をしていた。


「嘘だろ。」


「嘘じゃないよ。現に私お昼持ってきてないし。」


「そういやそうだったな…」


この時間帯のケーキバイキングにしたのも、それが理由だった。菜名宮がお腹空いたとか言ったから朝顔先生に車を飛ばしてもらう羽目になったんだ。

本当に朝顔先生に申し訳ない。これはもう今度いい男性紹介してあげるしかないとか思ったけど、よく考えたらそもそも俺に友達がいない。


「私がタキに嘘をついたことがあった?」


「今まで何回もあっただろ。特に学校サボる時とか、それこそ出会って最初の頃とか何回俺に嘘ついてたんだよ。」


「…そうだとしても、今回は嘘じゃないよ。」


「今回に限っては嘘であって欲しかったんだけど。」


どうやら菜名宮の反応を見る限り、嘘を言っている様子ではなさそうだ。


「ああ…それともう一つ、要件があったんだ。」


菜名宮は思い出したかのように言うと、手に持ったティーカップを机の上に置いた。


「ねえねえ、芽衣奈ちゃん。一つ聞きたいことあるんだけどいい?」


「どうした?」


「なんで学校サボってるの?」


呼びかけに反応した雛城に対し、菜名宮は何気ないようにそんなことを尋ねた。


瞬間、雛城は手に持ったフォークにチョコレートケーキを刺していた動きを止める。


「…なんでそんなこと、あんたに言わないといけないの。」


そうしてまた雛城の顔には鬼が宿る。あの獣を狩るような、凍てつく視線が菜名宮を捉えている。


「屋上で言ったでしょ。芽衣奈ちゃんのことをもっと知りたいんだって。」


「…菜名宮に教える義理はない。」


「義理ならあるよ。私は芽衣奈ちゃんをここに連れてきた。」


菜名宮は雛城に臆することなくむしろ得意げにそう言った。どうしてあの眼光を向けられて怯まないのかがまるでわからない。


ギギギ…という音が前の方から聞こえる。雛城の手元に握られたフォークが、ほんの少し歪んで言っているように見える。流石に目の錯覚だよな?本当に形変形してないよな?


「…連れてきてくれたことは感謝してる。でもそれとこれとは関係ない。」


「関係ないことないよ。」


「はあ、流石に鬱陶しい。」


「私は鬱陶しいよ。芽衣奈ちゃんが自分のことを話してくれるまで、私はここを動かない。こんなに動かないのは私と岸辺露伴くらいだよ。」


「あの人バリバリ動いてただろ。」


岸辺露伴を動かない例として使うのは確実に間違ってることだけはわかる。個人で一本作品作られるレベルのキャラが全く動いてないわけない。


「…」


「…」


菜名宮と雛城はしばらく口を開かないまま、じっと互いのことを見つめている。こう着状態とでも言うべきか、互いが互いに譲らないまま沈黙の時間が流れていた。


「はあ…負け。わかったよ。」


しばらくして雛城が諦めたように菜名宮を睨むのをやめた。手に強く握っていたフォークから手を離し力を抜く。やっぱりフォーク曲がってない?


「わかったよ…話せばいいんでしょ。私が授業受けてない理由。」


「教えてもらえると助かるな。」


意外にもすんなりと雛城は諦めた。屋上の時は菜名宮に対して全く心を開いていなかっただけに意外だ。やはりケーキの美味しさによって、多少は気持ちが緩くなったのだろうか。


雛城は肘を机の上に置くとまた小さくため息をつく。


「簡単な話だ。やる気が起きないんだよ。勉強ってめんどくさいでしょ?興味がないことを毎日数時間やらされて、そんで宿題も大量に出る。うちの学校だと数学あたりは難しいし。」


雛城は手元のフォークをくるくるさせて、その先端を見つめている。昨日も目にした退屈そうにしている表情だ。


うちの学校は課題が多い方ではないらしいが、それでも確実に中学の時よりは教科が増えた分、課題も多くなっている。ていうか今日もなんなら数学の課題出てたはずだ。やりたくなさすぎて記憶の奥底に封印してたわ。


「勉強することが好きじゃないんだよね。やる意味がわからないものに取り組む意味がわからない。だから、ああして屋上でサボってる。」


「…なんか、良くも悪くも普通だな。」


「普通で悪い?」


「いや別に。強いて言うならめんどくさがってること自体が悪い。」


屋上で毎日学校サボってる理由が勉強がめんどくさいとは、なるほど確かにありきたりだが無いわけではないのだろうか。


ただ俺はほんの少し違和感を覚えた。言葉にするのは難しい抽象的なものである。勉強がめんどくさいというのは嘘ではないのかもしれないが、なんとなくそれだけが理由じゃない気がする。


雛城は髪をくるんくるんとクラスの女子がよくやってるように巻き付けている。


「わかる、勉強めんどくさいよね。」


「だよね。」


「勉強なんてする意味がわからないしさ。あんなにめんどくさいこと。」


菜名宮は雛城の言葉に同情するように、うんうんと頷いていた。


そしてまた違和感を覚える。サボりの常習犯である菜名宮は雛城と同じように授業を欠席することは多い。だが、めんどくさいなどというそんな単純な理由であったか?


「なあ菜名宮、お前が授業サボるのって。」


「タキは黙ってて。女子トーク中だよ?」


「なんだよそれ…」


なんか半強制的に言葉を遮らされた。女子トーク中ってなんだよ。勝手に学校サボらせてケーキバイキング連れてきてこの仕打ちは酷くないですかね。


「菜名宮もよくサボってるもんな。屋上に行く時によく4階にいるの見かけるし。」


「あれ、芽衣奈ちゃんも私がよくサボってるの知ってたんだ。」


「そりゃああんな頻繁に文化棟で見かけるから、それくらい知ってるよ。」


「あそこらへんサボりやすいよね。部活の時以外はほとんど生徒が寄りつかないから、バレることないし絶好のサボりスポットとして重宝してるよ。」


「屋上だったらもっとバレないよ。なんせあの鍵が壊れてることを知ってる人ほとんどいないからね。あそこ知ってるのは夏目先生くらいじゃないか?知ってるの。」


「少なくともクラスメイトはほとんど知らなさそうだよね。」


菜名宮と雛城、この2人が話している光景はまるでうざい上司に対して愚痴を言い合うOLのようだった。というかさっきまで犬猿の仲みたいだったのに普通に打ち解けてるのが怖い。女子ってこういう生き物なんだな。


女子トークの邪魔をしないように、俺はコーヒーを啜る。それはさながら、いつも学校で朝顔先生から目をつけられないようにするかのような気配の消し方だ。


「今日ここ来れてよかった。美味しいケーキ食べれるし、授業もサボれるし。最高だよ。」


「気に入ってもらえたならよかった。私としても芽衣奈ちゃんが屋上によくいる理由知れてよかったよ。」


「…そういやさっきそんなこと言ってたな,。言葉だけ聞いたらストーカーみたいに聞こえるんだけど。ちょっと怖いよ。」


「ストーカーってあながち間違ってないかもしれないね。」


「…恐ろしいな。」


雛城はそんなことを言いながらほんの少し口角を上げている。


菜名宮は手に持ったコーヒーカップを口に含んだ。さっきまで入っていた紅茶はなくなっていて、中身はすっからかんだった。


「ところでさ。もう一つ、いい?」


そうして手に持ったコーヒーカップをことんと机の上に置いた後、菜名宮はにっこりと笑顔を浮かべる。


そんな表情が『切り替わる』直前に、一瞬顔がどこか恐ろしいものになったのは気のせいだろうか。


「何?」


「授業サボる理由を、勉強がめんどくさいからって言ってたけどさ、あれほんと?」


瞬間、菜名宮の声色が変わる。先ほどまでの明らかに『作られた』ような明るいものではない。菜名宮の普通の声の高さであるが、実際その言葉を向けられた本人にとっては、とてつもない圧力を受けている感覚に陥るだろう。


「…どういうこと?」


「芽衣奈ちゃんさ、嘘ついてるよね?君が授業を受けない理由って学校めんどくさいって理由だけじゃないと思うんだよ。」


菜名宮の異様な変わりように、雛城は少し困惑しているようだった。まあこんな菜名宮を見ると無理もないか。俺は慣れているが、初めて菜名宮のこんな表情を見た人は皆同じ反応をする。


「…嘘なんかついてない。本当に授業をサボってるのは勉強が嫌だからだ。」


雛城はどこか唾が悪そうに視線を斜め下に逸らす。まるで小さな子供が親に隠し事をしているようだ。


「ならなんで、学校に来てるの?」


菜名宮はただ簡潔に、まるで何にでも興味を持つ年頃の子供が、目にしたものの名前を親に聞くように雛城に向かってそう問いかけた。


「こんなこと言っちゃったらあれだけどさ、勉強がめんどくさくて授業をサボってるなら学校なんてわざわざ行かないでよくないかな?どうせ学校に来ても授業に出席しなきゃ単位は取れないんだしさ。それならそもそも学校に来なければいいのに。」


「…っ」


菜名宮の言葉を聞いて、雛城が浮かべたのは狼狽の表情だ。それは菜名宮の圧力に押されてか、あるいはまた別の事情があるのか。


「芽衣奈ちゃんって、そんなに友達多いわけじゃないよね?」


「なんでいきなり雛城を刺した。」


まあ確かに友達が多くいるような奴が毎日屋上で黄昏るのも考えにくい。雛城は多分、こちら側と書いてぼっちと読むタイプの人間だろう。


「軽く私が調べた感じだと、少なくとも芽衣奈ちゃんに友達が多いって感じはしなかったな。友達に会いに来るわけでもないなら、尚更なんで学校に毎日来てるのかなあって思うんだよ。」


「うん?」


「どうしたの、タキ。」


「ああいや、勉強嫌いな奴でも友達と会うために学校に来るのか、と思ってな。」


「…涙拭く?」


なんかめちゃくちゃ菜名宮に憐れむような視線を贈られた。学校が交友関係を広める場所ではない俺にとっては、学校に来る理由が友達と話すためとかいう発想がなかった。多分だけどめちゃくちゃ悲しいことな気がする。


「というか、勉強以外で学校に来る理由が友達に会うためだったら、菜名宮はなんで学校に来てるんだ。お前特別親しい奴とかいたっけ。」


「友達は多いけど、関係性が深い子がいるかって言われたらあんまりだね。」


「なら余計になんで学校来てるんだよ。」


「え、タキに会いに来てるからだけど。」


「嘘だろ?」


「6割冗談だよ。」


「4割本気じゃねえか。」


菜名宮はははっと笑いながらまた雛城の方を向い直る。やっぱり菜名宮はわからん奴だ。


「そもそも勉強めんどくさいから授業受けないってところからおかしいだろ。」


「タキは真面目だなあ。」


「俺が真面目なんじゃなくてお前が不真面目過ぎるんだよ。」


「不真面目だからこそ、私はのびのびできるんだよ。」


確かに言ってることは無茶苦茶だが、菜名宮の理論はあながち間違っていないようにも思える。勉強するのがめんどくさくて授業を受けないのなら、学校に来る意味なんてほとんどないのだろう。


授業をサボりがちな奴でも、学校に来るのはクラスにいたり、あるいは同じ部活の友人と他愛ない雑談をしたり、遊んだりするためだが雛城にそういった相手がいるとは思えない。


もしかしたらいないわけではないのかもしれないが、雛城の様子を見る感じだと学校に来る理由になるほどまでの深い交友関係のやつは少なくともこの高校にはいないように思えた。


ならなぜ、雛城は来る目的がないのにも関わらず毎日学校に来ているのか、そこが謎になる。目前の雛城は黙りこくって俯いていた。


「それともう一つ、気になることがあるんだよ。勉強めんどくさいなんて言ってる割にテストはしっかり受けてるよね。それってなんでかな?」


その時俺は屋上でのやりとりを思い出した。朝顔先生が、俺たちがケーキバイキングに行くと言った時のこと。雛城は朝顔先生が言っていたテストという言葉に強く反応していた。


確かあの時はテストを受けないとまずいなんて言っていたり、勉強をめんどくさいと言っていた雛城の発言にしては少々不自然な気がする。


さっきから見てたらわかるが、雛城は多分大がつくほどの甘いもの好きだろう。このケーキバイキングの存在も知ってるみたいだったし。


それにも関わらず、小テストのために会員制の期間限定のケーキバイキングを諦めるというのは割と不自然だ。いやまあそれが普通なんだけど。それでも普段から授業をサボってるやつの行動とはどこか矛盾している。


菜名宮は雛城に視線を向けている。一方雛城は菜名宮に目を合わせることはない。しかし菜名宮はそんなことお構いなしに話を立て続けた。


「これは私の推測なんだけど、芽衣奈ちゃんってもしかして結構真面目なんじゃない?」


かばっ。と、まるでそんな効果音が聞こえるような勢いで雛城は顔を上げた。


「昨日会ったときから思ってたけど、芽衣奈ちゃんって割としっかりしてるよね。」


「…そんなことはない。少なくとも授業をサボってる時点ではな。」


「確かに授業はサボってるけど、テストはしっかり受けてるでしょ?ここの学校はテストが良ければ成績はある程度担保されてる。だから授業を絶対受けないといけないわけではないよね。それに芽衣奈ちゃんが真面目だと思う理由はもう一つあるんだよね。」


「…ああ、校則の件か。確か雛城の服装は一歳校則違反してないって話だったよな。」


昨日の夜、菜名宮と電話で打ち合わせをした時に聞いた話だ。屋上で最初に出会った際、雛城は派手な格好こそしていたがそれは全て校則に準拠した、いわゆる校則違反には該当しない格好であった。髪の毛の色も地毛なら問題ないという少し緩めの校則ではあるのだろうが、それでも雛城はそこをきっちり守っていた。


「タキも察しが良くなってきたね。」


「菜名宮の思考をトレースできるようになってもなんも嬉しくないんだけど。」


「またまた照れなくていいって。」


「俺のツンデレのどこに需要があるんだよ。」


「少なくとも私なら通報するな。」


「ひどくね…」


この子俺を誘導しては通報しようとしてくるんだけど。やっぱ俺のこと嫌いだよね?


「まあタキが通報される件は置いといて、テストのことと校則の件、この点を考えた時に、芽衣奈ちゃんが不真面目とは到底言えないんだよね。少なくとも私よりはさ。」


自分が不真面目という自覚があるなら直して欲しい。菜名宮の不真面目の被害食らってるの大体俺か朝顔先生だからな。


「芽衣奈ちゃんの過去を調べた時も思ったけど、多分君って根から不真面目ってわけじゃないんだろうね。」


「過去って、中学時代のこととかも?」


「そうそう。芽衣奈ちゃんがいろんな委員会に入ってて、真面目すぎて煙たがれてたなんて時のこととか、部活に熱を入れてて、『平均台の舞姫』なんて呼ばれてたこととか。」


「…どこまで調べてるんだよ。」


「言ったでしょ、芽衣奈ちゃんを知りたいって。」


「やっぱり菜名宮はストーカーじゃん。」


「確かにそうかもね。」


やっぱり菜名宮という人間は恐ろしい。一度目をつけたターゲットについて、自分の気が済むまでロックオンする様はまるで獲物を見つけた肉食動物のようだ。


「だから教えて欲しいんだよ。おそらく真面目な芽衣奈ちゃんがなん普段は屋上にいるのか。勉強がめんどくさいってのも嘘ではないんだろうけど、それだけが理由じゃなくて他にも事情があるんだよね?それを教えて欲しい。」


どうやらどこか雛城に対して感じていた違和感は間違いではなかったようだ。勉強がめんどくさいから屋上にいると言った時に感じたそれは、やはり雛城が嘘をついているからだった。


「…はあ、自分のことを話すのは好きじゃないんだけどね。」


雛城は俯いて小さくため息を吐く。そうしてどこか諦めたようにソファーに体を預けると、背中をだらけさせた。


「私の親ってさ、厳しい人なんだよ。悪い人ではないんだと思うんだけどなんかズレてる。」


雛城はポツポツと、言葉を紡ぐ。


「確か2人は、私が中学の頃体操やってるのは知ってたよね?菜名宮が『平均台の舞姫』なんて言ってたし。」


「知ってるよ。総体ですごいとこまで行ったんでしょ?」


「俺も一応、小耳には挟んだ。中学の時のあだ名みたいなもんだろ?」


「…ああ、そこまで調べてんのか。」


雛城は総合体育大会で、全国3位を取るほどの体操の実力者だった。その中でも特に抜きん出ていた平均台は当時の日本記録を更新し、その記録にちなんでついたのがそんな異名だった。


「体操を始めたのは軽い気持ちだったんだ。ある日近くの体操教室に行った。特別な理由があるわけでもなく、ただなんとなく興味があっただけ。私は運神経割といい方でさ、初めて見学に行ったとき…4歳くらいの頃だったかな。その時にすぐに側転が出来るようになってたんだよね。」


雛城は菜名宮の方でも俺の方でもなく明後日の方向を向いている。それは遠い昔に消えた過去を思い出しているようだ。


「実際、体操には向いてたんだと思う。体操を始めてからすぐに結果が出たからね。先生や周りからは天才なんて言われて私も悪い気はしなかった。体操は楽しかったし、周りの人間が褒めてくれるのは嬉しかった。」


からんからんと氷が揺れる音がする。雛城が入れていたアイスコーヒーは、すっかり氷がほとんど溶けて薄い色になっていた。


「当然中学でも体操を続けたんだけど、その中でも私はみんなより頭一つ抜けてた。これは事実だ。1年生の時から結構結果を出してたから私は当然周りから期待されたし、私もそれに応えるために毎日毎日、練習してた。」


そこで雛城の表情が曇る。コップを握る手に、少しだけ力が入ったのは気のせいだろうか。


「でもさ、毎日毎日、毎日毎日練習していくうちにどんどん体操が楽しくなくなっていったんだよね。周りから過度な期待を求められていたことによるストレスかなと思ってるけど、理由は今でもわからない。周りは私により良い大会での結果を求めていたから。結果だけを求められるのに、うんざりしていたのかもしれない。とりあえず体操やりたくないなあってなってたんだよね。」


「でも芽衣奈ちゃんは、体操続けてたんだよね。中学で全国3位になる程に。」


「一応中学の間は辞めずにいた。」


「体操やりたくない、って思ったならなんで辞めたりはしなかったのかな。」


菜名宮の思考は至極当然だった。毎日の練習が辛いなら、あるいは周囲からのプレッシャーが辛いなら、体操をやめるという選択肢だって当然あったはずだ。


自分の嫌いなことから逃げ出してはいけないという人もたまに見かけるが、あくまで時と場合に寄るだろう。


「私だって、そんな考えは何度も頭をよぎったよ。中学の後半は体操が嫌いと言えるほどだったからさ。」


「じゃあ、どうして続けていたの?」


菜名宮が問いかけると雛城は黙り込む。手元のすっかり薄くなったアイスコーヒーをストローでかき混ぜれば、カランコロンとまるで古びたカフェの入り口にあるオンボロなベルみたいな音が鳴る。


雛城はまた一つ息をついた。先ほど菜名宮に引き止められた時や、自分の過去を話し始めたのと違っている、苦虫を潰したような表情だ。 それは過去の出来事が雛城にとっていい思い出ではないと知るには十分であった。


「親が辞めさせてくれなかったんだよね。」


少しの沈黙の後、雛城は言った。


「母親に、自分が一度決めたことは最後まで責任持ってやりなさいって言われてさ。」


「責任って…ガキに言うことじゃねえだろ。」


「あ、やっぱりそう思う?」


俺がそう呟くと、雛城はそれは鼻で笑った。なぜいきなり馬鹿にされたんだと思って雛城の方を見れば、その表情は嘲笑ではなくむしろ物憂げな様子。まるで自分自身に対して嘲りを向けているかのようである。


「今にしてはわかるけど、私の母親は私に対して真面目であることを半ば強要してたんだよ。あの人自身がそうであったようにね。だから私は中学の時は真面目な生徒を演じていた。」


「中学時代、真面目すぎて煙たがられるほどに、か。」


「その通り。今にして思えば馬鹿らしいけどね。でも当時の私は母親に反発しようとは思ってなかったんだ。別に親が怖いとか、逆らったら暴力を受けるはないんだけど、そもそも逆らうって考えがなかったんだよね。多分私がまだ幼かったからね。」


親の言葉に逆らうか逆らわないかなんてのは家庭の状況によるものが大きいのだろう。俺は小学生の頃は母親に逆らいまくってたし、南に関しても同様だった。


だが雛城に関しては親に逆らうことはなかった。もしかしたら、小さい頃からずっと、真面目を強要されたことが関係しているのかもしれない。


…と、ここで一つ疑問が浮かぶ。


「真面目であることと、部活辞められないのってなんか関係あるか?」


雛城の中学時代が、親の影響によるものというのはわかった。だがそれと部活を辞められなかった問題がイコールで繋がることはないのではないか。


しかしそんな疑問に対し、雛城はあっさりとその解を答える。


「簡単だよ。あの人いわく部活を途中で辞めること自体が不真面目なことらしいんだよね。自分から始めておいて、途中で責任を放棄するのはそれこそが真面目じゃないらしい。特に私は周りからの期待が大きかった分、余計に。」


「それが芽衣奈ちゃんの母親の考え方だったんだ。」


「そう。だから私は体操をやめられなかった。」


いつのまにか、雛城の手元のアイスコーヒーの氷はすっかり溶け不自然な薄い色をしている。


「体操を始めさせたのはあの人なのにね。」


その言葉は俺に対しても菜名宮に対して向けられているものではないだろう。おそらく雛城の母親に対しても、あるいは雛城自身に対して向けられた言葉ではない。


多分明確な行き場なんてなく、どこにもぶつけることができない感情を、どこかへと飛ばしてしまいたいなんて気持ちから生まれる救いようのない嘆きだ。


「でも、芽衣奈ちゃんはもう体操をやめてるよね。」


「一応、今はもうやってないよ。」


朝顔先生は雛城が部活をしていると言ってはいなかったし、普段の様子を聞く感じ、どこか外で体操をしていると言うわけでもなさそうだった。


「…高校に上がる直前に手を怪我したんだ。」


雛城はそう言いながら自分の右手へと視線を移す。手首を動かしている様子は何か感覚を確かめているかのようだ。


「その怪我が結構重くてね。靭帯が切れた…まあ筋肉が正常に動かなくなったと思ってくれたらいいや。体操はしばらくできないだろうって、少なくとも高校の間は無理だって言われたんだ。」


「高校の間って…大分酷い怪我だな。」


大抵のスポーツをしている選手にとって、怪我は致命的であると聞いたことがある。怪我をすればその分リハビリが必要だし、練習もしばらくできなくなる。特に中学、高校の時期はたいていの選手にとって伸び盛りの時期だろう。


「大分では済まされない。怪我の重さとかも相まって、私の場合だと選手生命の危機に関わることだった。」


雛城はどこか自嘲気味に笑った。誰かを馬鹿にするものではなくやはりどこか寂しさを漂わせたものだ。


「怪我の状態を聞いて、体操を続けることが難しいって言われた時には割と絶望した。私にとって体操は人生を割とかけてきたものだったし、周囲からの期待も重かった分私が体操を止めるなんて言ったら、周りがどう思うのかって考えたら怖くなったし。」


…やはり雛城が不真面目であるとは到底思えない。一つのことに人生を賭けてきたなんて言葉も、あるいは自分が体操を辞めた時に周囲の評価が気になるなんて他人のことを気にするのも、少なくとも不真面目という人物像からはかけ離れている。


雛城芽衣奈は真面目な人間だ。その真面目な考え方が正しいとか限らないが。


「でも、それとは別に安堵があったんだよね。体操はずっと前から楽しくなかったから辞めたいと思ってたし、周囲からの期待も全部プレッシャーになってたから。正直に言えば体操を続けられないって知らされた時には、体操をやめると言う免罪符が出来たことを喜んでいたくらいだ。」


菜名宮は何も言わずに雛城の方を見つめている。ここからは見えないが、おそらくその瞳はいつも通り力強く、いつも通り目にしたものを惹きつけているのだろう。


「体操を続けることはできない。体操を続けたくはなかったから、嬉しかったんだけどね。」


そこまで言い、雛城は苦虫を潰したような表情になる。机の上で拳を少し握りしめ、何か過去の嫌なことを思い出しているかのようだった。


「まあ当然、怪我の状態を聞いて私の母も流石に体操は続けられないとわかってね。流石にそこまで鬼じゃないし、体操を続けろなんてのは当然言わなかった。…でもさ、診断を終えて病室から出た後、あの人は確かに言ったんだよ。」


そこまで言うと雛城は大きく息を吸って、また吐いた。


「『体操は続けられなくて残念だけど、また他のことを頑張ればいい。あなたは真面目なんだから、体操以外もきっと頑張れる。』ってね。」


「それって…」


雛城の言葉に対して、菜名宮はどこか意味深そうに呟いた。その言葉に込められた意図を全て読み取ったかのように。


「そういうことだよ。」


雛城は菜名宮の言葉に、また頷く。


かくいう俺は…そんな言葉を聞いて、こんな疑問がよぎった。


「別に悪いこと言ってなくないか?むしろ雛城のことを励ましてくれてるいい言葉だろ?」


雛城の母親の言葉が、別に悪いようには思えない。体操を続けられなくなったから残念だ。けれど今まで努力を積み重ねてきた雛城なら他でも頑張れる。


雛城にかけた言葉に悪意はまるで感じられない。頑張ってきたこと、将来を期待された夢を絶たれた我が子に対してかける言葉としては、至極普通なように思えた。


実際は雛城は体操にとっくに楽しさを見出せなくなっておりずっと辞めたいと願っていたわけだが、その事情を知らなければ、高校生という夢半ばで体操を辞めなければならない我が子を思った言葉ではないのか。


俺が言ったことに対して、大きなため息が一つ。隣の席の菜名宮からだった。


「はあ…だからタキ、君はモテないんだよ?」


「それとこれとは関係ないだろ。確かに俺は悲しいほどモテないけど。」


「女の子が考えていることをちゃんとわかってないよ。そんなんだからタキは中学の頃、裏で付き合いたくない男ランキングにそもそも入れられないんだよ。」


「なんでお前がそのこと知ってるんだよ。」


「そこら辺に転がってたよ。」


「俺の個人情報は石ころなのか?」


俺の中学時代の黒歴史が当たり前のように菜名宮に届いているのが怖い。ちなみに付き合いたくない男のランキング外って一見悪くはない感じはするが、実際のところは多分ただ存在忘れられてただけだ。


もしちゃんと存在が知れ渡っていたら多分クラスで2位か3位に入ると思う。1位には多分ならない。…ならないよな、きっと。うん。考えれば考えるほどネガティブなことしか浮かんでこないからやめよう。


「…まあ、そう考えるのは普通だよね。」


雛城の手元にあるアイスコーヒーはすっかり氷が溶け切っており、ストローをくるくるとしても、カランコロンという古い喫茶店のベルのような音は聞こえない。


「実際、母は私を励ますつもりで言ったんだと思うよ。そんなのを言われた時に、あの人は悪意を特別持っていたわけではないんだろうね。」


「ならなんで」


俺が言葉を続けようとした矢先、菜名宮がフッと俺のことを鼻で笑った。


「まだわからないの?」


「残念ながらな。」


「流石だね。」


菜名宮は俺に対して、いつも通り皮肉めいたように言った。ただその言葉には少々怒りが含まれているようにも感じられる。


「大丈夫だよ。私だって自分の気持ちをわかってもらいたくて言ってるわけじゃないし、篠末の考え方は普通だ。」


「…芽衣奈ちゃん、続けて。」


菜名宮は俺の方から雛城へと視線を向ける。当然だが雛城に対して俺に見せた怒りは当然ない。


「そんなに面白い話じゃないけどね。…私はその時、頑張ることに疲れてたんだ。周囲からのプレッシャーとかも強かったし、何より母からの言いつけがあったから部活を辞めたくても辞められなかった。そんな私にとっては、怪我って体操を辞めるいい理由になってたんだよ。頑張ることに疲れてたから特にもう頑張らなくていいんだ、って思ってね。でもあの人は病室から出た時にまた別のことを頑張ればいいって言った。私にとっては、体操に取って代わってまた別のことを頑張れって言ったようにしか聞こえなかった。」


当時のことを思い出したのかまた雛城の表情が暗くなる。おそらくその記憶はずっと心の奥底に封印してきたものなのだろう。


過去の負の遺産を掘り返すことが雛城にとってどれだけ辛いことかわからないが、少なくとも過去の記憶を自慢げに、快楽に酔いしれるために語る人間特有の承認欲求を満たしたいという気持ちから来ているわけではないということはわかる。


雛城にとって当時の記憶は間違いなくマイナスであり、今の自分をプラスにするための『いい思い出』ではきっとない。


「母にとっては何事にも真剣に取り組むのが真面目なことだったんだよ。体操も、勉強も、普段の生活も。体操ができなくても別のことを頑張ればいい。それって結局、私がやることに対して真面目に取り組んでいきなさいっていうこと。あの人は私に真面目であることを強要していただけなんだよ。私の嫌いなことであっても構わずにね。結局私の本当の気持ちを考えることもなく、あの人は私に真面目であってほしいっていう自分の願望を押し付けてただけなんだよ。苦手なことに真面目に取り組むってのが、どれほど大変か知りもせずにね。」


矢継ぎ早に立てられたそんな言葉には、いろんな感情が含まれているように感じられる。


自分の気持ちを理解されない苦しみ、あるいは母親に対する怒り、または自分に対する呆れなんかだろうか。ずっと何を考えているかわからなかった雛城の、心の内に秘められたそれらの感情が初めて垣間見える。


「そんなのを言われた時になんかいろんな感情が爆発してね。なんで私のことをわかってくれないんだとか、ああ、この人は私を何も見ていないんだなとか。怒りとか失望とかいろんな感情がぐちゃぐちゃになって、今まで溜め込んでた分も含めて溢れ出ちゃって。母親に対して、今まで我慢してた気持ちを全部ぶちまけたんだよ。あの人に反抗したことなんてなかったのに。」


「反抗したのはその時が初めてだったのか?」


「そうだよ。それまで私は優等生だったから、親に言い返すことなんてなかったし。」


「親に従順な雛城って全く想像がつかねえ。」


授業をサボり先生に反発し続けている今の雛城と全く一致していない。今ここにいる雛城と中学時代の雛城は聞いていた通り、全くの別人のようであった。


「今は私自身ですら当時の自分がわからないんだよね。なんであんなに親に従ってたのか、理想の子供像である真面目な子になるために、あの人の傀儡になってたのか。」


「確かに今の芽衣奈ちゃんと同じ人には思えないね。」


「でしょ?でもね、母親に初めて反抗してからこんな風になるまでは意外と早かったんだよ?」


そう言ってまた雛城は笑う。今度は過去の自分を馬鹿にしたような嘲りではなくいわば普通の笑顔だ。


「ずっと体操のせいでできなかったことを色々やり始めてね。元々興味があったのに練習時間のせいで出来なかったオシャレをしてみたり、体調管理の邪魔になるって言われて今まで口にしてこなかったお菓子をたくさん食べてみたりね。」


雛城はまるであの頃は良かった、なんていい年頃のおっさんが自分の若かりし頃を語るように過去を懐かしんでいふる。


先ほど体操をやっていた時のことを語っていた雛城の表情との違いを見るに、母親に反抗した行動は雛城にとって悪い過去ではなかったのだろう。


「おしゃれとかお菓子食べるって別に普通のことじゃないのか?いや俺はオシャレはしないが。」


「タキが化粧するとかなんの拷問?」


「そこまでひどいのかよ。もしかしたら化粧をすれば絶世のイケメンになる可能性もあるぞ。」


「F-ZEROの新作が出るくらいはあるかもね。」


「ほぼゼロだろそれ。」


確かに俺は人生でほとんど化粧をしたことはないが、そこまで言われるか?


「…菜名宮って篠末に対しては割と辛辣だよね。」


「これが普通だよ。」


「平常運転が暴走してる奴が何言ってるんだ。」


「違う違う、暴走が平常運転なんだよ。」


「暴走って自覚してるなら止めてくれ。」


菜名宮の平常運転って大体、他の人にとっては想像がつかない異常な行動だ。まあ俺のことを馬鹿にするのは普通なんだが、少なくとも授業サボってケーキバイキング行くのは大抵の人にとって異常な行為だ。しかし菜名宮にとっては至って普通なのである。


「普通、か。おしゃれもお菓子をたくさん食べるのも、みんなにとっては普通だよね。」


「芽衣奈ちゃんには違ってたの?」


「私にとっては体操をする上で邪魔なことだったんだよね。おしゃれもお菓子も、真面目のために障害になる不真面目だったんだよ。」


「…お前って本当に真面目に取り憑かれてたんだな。」


「真面目であること以外に存在意義がなかっただけだよ。」


あっけらかんと放たれたその言葉には、例えばさっき雛城が嘘をついた時のような違和感は全くない。雛城の言ったことは事実なのだろう。


真面目であることを母親に望まれて、その通りに雛城は生きてきた。母親の傀儡という言葉もあながち間違ってはいないのかもしれない。


「周りの子が放課後や休日に街へ遊びに行く話をしてたり、あるいはおしゃれをしている時に私はずっと練習をしていた。勿論周りの子全員がそうではないと思うんだけど、少なくとも私にとっては私が普段していないことがみんなにとっての当たり前だったんだよ。」


俺の勝手なイメージだが中学生はまだ大人というには程遠い。それでも小学生より数歩確実に階段を上がっており、街で遊びに出かけたり、他愛ない話で友人と盛り上がることがより多くなる時期であると思う。


ただ雛城は自分が成長したと自覚し始めて、多感になる時期のほとんどを体操の練習で過ごした。周囲からの期待、母からの無言の圧力、そして雛城自身の真面目さが災いした結果なのだろう。


「けど体操をやめたことで、母親からの呪縛もある程度解放されて自由にやってたんだよね。」


「今そんなにケーキ食べてるのもその反動か。」


「なんか言った?篠末。」


「なんでもないです。」


また睨まれた。弱った草食動物を狩るような獣の視線だ。5秒以上あの視線に睨まれたら多分俺くらいだったら死ぬ。俺じゃなくても多分気絶する。


「…まあ、否定はしないけど。実際私が甘いものをちょっと好きってのを知ったのもその時期だからね。」


「あれちょっとってレベルじゃないでしょ…」


菜名宮がポツリと呟く。確かにケーキバイキングで大皿3杯のケーキをぺろりと食べ切るのはちょっと甘いもの好きとかいうレベルじゃないな。人によるが普通だったら1皿食べれば結構満足すると思うぞ。


雛城の食べてる量はもはや糖尿病が心配になるレベルだし、多分朝顔先生くらいの年齢になったらやばい。


菜名宮が引くほどの甘いもの好きの雛城は、しかし胃もたれしているなんて様子は見せていない。なんならさっきもう一回取りに行くとか言ってたな。胃袋バケモンだろ。


「あの時は楽しかったよ。人間ってこんなに自由になれるんだって。今まで体操のせいで制限されてきたものが多かったから余計にね。」


「…あの時ってことは、今もずっと自由を満喫してるわけではなさそうだけど。」


「まあ、いろいろあってね。」


確かに菜名宮の言う通り、雛城の物言いは今の現状を物語っているものには聞こえない。


それに話を聞く限りでは、体操から解放された直後と今の雛城の人物像が絶妙に一致しない。昨日屋上で出会った雛城はもっと無気力で、退屈そうで、つまらなさそうであった。人生の楽しみを見つけて希望に目を輝かせているとは到底言えない。


「何があったの?教えて欲しいな。」


「しつこいな、菜名宮も。」


雛城は呆れ半分といった様子でさっきまで菜名宮に見せていた敵意は全くない。まるで古くからの友人を相手にしているような、温和な態度だ。


「しつこいよ。だって私は今の芽衣奈ちゃんがこうなった理由を聞きにきてるからね。」


雛城は思い出したかのようにそう呟くと、頭に手を当て、悩んでいるような素振りをする。


「あんまり自分のことを話すのは好きじゃないんだけどなあ。別に自慢でもなんでもないし、むしろ黒歴史を掘り返しているだけだし。」


「それでも私は芽衣奈ちゃんのことが知りたいっていうエゴがあるんだよ。そのためにケーキバイキングに連れてきたんだから。」


「…話聞きたいだけでここまでする?」


今日屋上で出会った時に雛城に対して、菜名宮は雛城のことを知りたいと言った。おそらく今の菜名宮の原動力は雛城のことを知りたいという好奇心、あるいは朝顔先生の願いを叶えたいなんて気持ちもあるのだろうか。


ただそれだけのために雛城について調べ上げ、一流ケーキバイキングのチケットを取り、挙げ句の果てに先生に車を運転させた。整理したらわかるが相当ヤバいことやってる。


「菜名宮ってマジでイカれてるね。」


「やっと気づいたか?こいつって結構ヤバい奴だぞ。」


「篠末って苦労してたんだな。」


「ああ、正直めっちゃしんどい。変わってくれ。」


「めんどくさそうだからパスだね。」


雛城が同情するような視線でこちらを向く。先ほど向けられた視線との温度差が激しすぎてやばい。


高校に入って菜名宮に何回振り回されたかわからない。平穏だったはずの俺の生活を、無茶苦茶にして良くも悪くも毎日が退屈にならないのは菜名宮のせいだ。


「えっと、それで私がこんなのになったのが知りたいんだっけ。」


「うん。どうして毎日授業をサボって屋上で過ごしているのか。なんで毎日、退屈そうに空を眺めていたのか。」


「はあ、ここまできたら話すしかないか。」


雛城は手に持った、すっかり氷が溶けているミルクティーを煽る。やはり本来のミルクティーの味ではなかったのか、「うっす」と雛城は呟く。


そしてストローでミルクティーを飲み干すと、雛城はコップを机の上に置いた。


「最初の方は楽しかったんだよ。体操という枷も、母親という枷からも外れていろんなことが楽しかったし、それこそ世界に色がついた感じだった。でもいろんなこと、自分の興味のあることをやってくうちに私は何をやってるんだろって思い始めてね。」


雛城は、今度はまるで昔の自分を馬鹿にするように笑った。


「簡単に言えば生きがいがなくなってたんだよね。体操をやってた時は毎日辛くても、やること、目標が常にあった。周りの人の期待とかも私が体操を頑張る理由になってた。私が大会に出ていい結果を取ることで褒めてくれる人とかがいるし、周りのみんなも喜んでくれてたから。」


先ほども雛城は周囲の期待が体操をする理由になると言っていた。雛城から体操をやめる選択肢を奪い、雛城を追い詰めた原因の一つではあった。


雛城は体操を続けられなくなったことで、周囲の期待という鎖の一つから解放されていた、はずだった。


「周囲の期待が、雛城にとっては体操のやりがいの一つだったのか。」


「残念ながらね。」


雛城の声は暗くそこに覇気はない。


言い方を変えれば、雛城の生きがいとして周囲からの期待もあった。自分自身を苦しめていたものが自分の人生を肯定する理由になった。そうだとすればなんと皮肉なことだろうか。


「私から体操を取ったら何も残らなかったんだよ。嫌な話だよね。私を最も苦しめていた体操が、私のことを最も苦しめていた母の存在が、私を私たらしめるものだったんだよ。」


雛城が笑ったのはおそらく自分自身のことを、体操をやめた直後の解放されたと喜ぶ能天気な自分を嘲ったのだろう。


「それに気づいた瞬間、何もやる気が起きなくなってね。私が生きてる意味ってなんだろうって毎日考えてた。最低限やってた勉強も全く手につかなくなってね。無気力症候群とかいうやつだったのかな。」


「体操から解放されてからも勉強やってたのか?」


話からてっきりずっと遊んでいたものだと思っていたが、案外普通の学校生活を送っていたようだ。


「もちろん、勉強は元々嫌いじゃなかったからね。」


「なんか意外だね。授業にずっと出てないから勉強のこと大嫌いなんだと思ってた。」


「そりゃね。毎日体操という辛いことをしていた私にとって、勉強は息抜きだったからさ。」


雛城はあっけらかんと告げた。勉強が息抜きなんてマゾだろって一瞬思ったが、裏を返せば勉強が息抜きと思えるほど雛城にとって体操は辛いものであり、人生を蝕んでいたとも言える。


「でもそんな嫌いではなかったことさえもできなくなっててね。気づいたら授業が出ることがめんどくさくなって、サボることも多くなった。」


「それで今の雛城になったというわけか。」


「大体そんな感じ。」


雛城が毎日屋上でつまらなさそうにしてるのも、授業をサボっているのも、雛城自身の過去からきているというわけか。


「…嫌いなことはやめたって言ってたけど、おしゃれはしてるんだね。」


「これは半分惰性かな。好きだったことをいまだに引っ張ってずるずると続けてるだけ。」


雛城は髪につけているヘアピンをいじり、そちらに視線を向ける。茶色がかった黒の髪の毛は、雛城が言っていた通り地毛なのだろう。


「私から体操をとったら何も残らなかった。そんな事実を否定するために、好きになったことを形だけでも続けてるんだよ。」


生まれながらの類稀な才能、母からの重圧、真面目であるが故に、嫌なことから逃げ出せず雛城は苦しみ続けていた。


ある日ようやく逃げ出す機会を得て好きなことができるようになった。しかし自分を縛り続けていた鎖は、自分が生きる理由になっており、それを失った雛城は生きる理由がわからずあらゆるものに対してのやる気を失ってしまった。


「なんというか…わからんな。」


「わからないって?」


「雛城は自分から体操を抜いたら何も残らないって言ってたよな。それって自分が存在してる理由がなくなったから、いろんなもんにやる気が起こらなくなったってことだよな。」


「まあ、そうだね。」


雛城もまた菜名宮に吊られるようにこちらへと向き直る。


「生きる理由って必要なもんか?正直、俺は自分が生きる理由なんて持ってないぞ。毎日惰性で生きてる。」


人生は平穏であるべきだ。毎日布団から出て、眠い目を擦りながら洗面台へ行き、朝食を食べて学校へと行く。気だるい授業を受け、昼飯を食べてまた授業に臨む。家に帰れば、本を読んだりスマホをいじったりして、夕食を食べてお風呂と歯磨きをして床に着く。俺の最近の生活は大体こんなもんだ。


まとめれば一見、単調な生活であり、大きく荒れることもなく変化することもない日々だ。勿論毎日こんな生活というわけでもなく、時たま変わることがあるが大きく崩れることはない。


「俺は大した生きがいなんてものはないけど、それでも普通の高校生活が嫌なんて思ったことはない。だから雛城が言ってるような生きる理由が見つからないから、何にもやる気が起きないってのが正直わからないんだよな。」


強いていうなら南の存在くらいだ。俺が居なくても世界が大きく乱れることはないが、多分南は荒れる。あれでもあいつは相当な家族思いだ。


俺が家族の中にちゃんと入っていれば、多分大切にはしてくれていると思う。この前仮に俺がいなくなったらどうする?って質問をしたら『過激なBL本を日本全国にばら撒く』とか言ってたし多分俺のことはちゃんと思ってくれてるはずだ。絶対にそんなことしてほしくないが。


「そこの認識のずれは多分、生きてきた世界の違いなんだろうね。」


「生きてきた世界…?」


「芽衣奈ちゃんみたいに一つのことだけに人生をかけた経験ってタキにはないでしょ?」


「…ないな。」


「タキは人生に強い生きがいを持ったことがないんだよ。何か大きな夢をもったり、人生の大半を一つのことに捧げることをしたことがない。ずっと平穏な世界で生きてきたんだろうね。」


「なんか俺のこと貶してない?俺の人生は何もなし得てないように聞こえるんだけど。」


「貶してなんかないよ。正直なところ、私たちの世代はタキみたいな人の方が多いよ?この時期に自分のやりたいことを見つけてる人とか、本当の生きがいのためだけに生活してる人なんて少ない。」


菜名宮はコーヒーカップをまた手に取る。上品な仕草で音を立てることなく、それを口元まで運ぶ。そうしてカップを傾けるとすぐにまた平行に戻した。

どうやらカップの中身がもう空だったようだ。


「そりゃあその時々で楽しいこととかは当然あるだろうけど、人生の大半を一つのことに注ぐ人の方が珍しいからね。でもそういった人たちって別に人生における生きがいなんて物がなくても、何のやる気もなくなるなんてことはない。大体の人ってタキの言うように、大体惰性で生きてるんじゃないかな。」


「雛城はそうじゃないのか。」


「違っているだろうね。だからこそ今苦労しているんだろうし。」


先ほど菜名宮は俺と雛城の認識のずれとして生きている世界が違っていると言った。俺が人生における生きがいなんてものを見つけてなくても毎日生きているということは、その反対の雛城は生きがいがなければ生きていくことができないと言っている。


「タキは女の子の気持ちに鈍いからね。芽衣奈ちゃんの気持ちがわかってあげられなかったんだ。」


「そんなことないけどな。」


「嘘だあ。タキが鈍くないなら、罰ゲームでタキに告白した子の気持ちをすぐにわかってあげられたはずだよ。」


「だからお前はなんで俺の昔のことを知ってんの?」


中学2年の夏、教室に急に呼び出されたと思ったら、

クラスの見知らぬ女子に告白されたことがあった。


ついにも俺にもモテ期が来たと思って、告白の返事をしようとした途端にそれが陽キャ共の遊びだったと知った時の絶望度は半端なかった。急に目の前の女子が笑い出して「もう無理ぃ」なんて笑いながら教室のドアの方に向かって行ったと思ったら、廊下でクラスの陽キャが大爆笑してるの見て割とガチで凹んだんだからな。


あまりにも凹みすぎて3日間寝込んだ。そんで絶対に誰にも知らせないように墓場まで持ってくつもりだったのに、なんでこいつは知ってるんだ。


「芽衣奈ちゃんには体操っていう、それこそ人生をかけた生き甲斐があった。」


「またスルーかよ…」


菜名宮がスルーする時はネタだってわかってても、たまに傷つきはするのでやめてほしい。


「芽衣奈ちゃんは多分、体操をやめるまではずっと体操のために毎日生活をしてきたんだよね?」


「まあ、そうかな。」


「いわば体操が人生の支柱になってた。芽衣奈ちゃんのこれまでは、体操という大きな柱によって支えられてたんだよ。でもそれがある日突然崩れ去った。芽衣奈ちゃんは自分の支えを失ったわけだ。今まで自分を支えていた物がなくなって、どうすればいいかわからない。おしゃれとか、お菓子を食べてみたりするとかしたけど、体操に変わるものはなかった。自分を支える柱をずっと見つけられないから、芽衣奈ちゃんは毎日が退屈だと思うわけだ。」


菜名宮は片手で円柱のような形を作り、もう片方の手でにティーカップを持つ。そうしてコンコンと2回、円柱にコーヒーカップを軽く当てもたれかかせるようにした。


菜名宮は生きがいを柱と見立てれば、雛城はその体操にもたれかかって生きていたという。怪我によって体操という強い生きがいを失ったために今はずっとフラフラとしているということだろうか。


「あるいは芽衣奈ちゃんのお母さんの言いつけも、芽衣奈ちゃんが体操をする理由になってたのかもしれないね。中学時代の芽衣奈ちゃんは体操という大きな支柱に、言いつけとか周囲の期待という名前の鎖で結ばれていた。けれど怪我をきっかけにその支柱ごと無くなったから、どうすればいいかわからなくなってる。」


菜名宮は断定した口調でそう告げる。まるで雛城の全てを知っているかのように。雛城の人生を全て見透かすしているかのような強い言葉だ。


雛城は複雑そうな顔をしていた。菜名宮の言葉に思い当たる節があるのか、あるいは検討外れなのか、斜め下を向いたその表情からは読み取れない。


「生きがいっていう支柱を失ったから雛城はこんな風になってるなんて言うが、俺は元々そんなもんないぞ?」


菜名宮は生きがいを生きる理由を支柱に例えた。それを失ったから雛城は何もかもにやる気を見出せなくなったと。


しかし俺の場合はどうなるのだろうか。俺には、あるいは多くの人間には、生きがいという大きな支柱は存在していない。


「そこがタキと芽衣奈ちゃんの明確な違いだね。タキの場合、まあ一般の人の場合って言えばいいのかな。その人たちって支柱がなくても生きてこられたんだよ。今までずっと支柱がない生き方をしてきて、それに慣れているから。」


菜名宮は机の上に置いていたコーヒーカップをまた手に取ると、一部分を机の上に乗せて傾ける。カップは45度くらいの体制で綺麗にキープされている。


「でも芽衣奈ちゃんは今まで支柱に支えられて生きてきた。体操をやめた瞬間、その支柱が消えた。今まで生きがいに寄りかかった生き方しか知らなかったから、支柱のない世界での過ごし方を知らないんだ。」


「生きてる世界が違うってそういうことか。」


生まれてこの方、生活の大半を一つのことに捧げたことのない俺は強い生きがいがなくてもそれなりに平穏に暮らす術を知っていた。しかし雛城はそうではなかった。


「タキが芽衣奈ちゃんのことをわからないのは、ある種当然だよ。人間、生きている世界が違うなら分かり合えないこともある。もしお互いがお互いのことを全て理解できるのなら、この世に争いは生まれない。」


「さっき雛城のことを理解できない俺を鈍いとか言ってたじゃねえか。」


「そんなこと言ったっけ?」


「お前…都合の悪いことになるとほんと記憶力悪くなるよな。」


まあそのことは置いておいても、菜名宮は割とこういったところがドライである。世界から平和をなくしたいなんていう考えはまるで戯言だと言うように、菜名宮は現実を受け止める。


「菜名宮の言う通りなんだろうね。」


雛城が小さな声で呟いた。


「私は体操を今までやってきて、生きがいにしていた。でも手を怪我したことによって体操ができなくなって、私を支える物がなくなった。私は多分、生きがいがないと自分の人生に価値を見出せないんだよね。それが普通だったから。」


その声はどんどん小さくなり、消えていきそうになる。


「…でも体操はもうやりたくないんだよ。周囲からの期待も、母からの視線も。全部全部プレッシャーで毎日辛かったんだよ。体操自体に楽しさを見出せなくなって、何にも面白くなくって、毎日毎日苦しかった。」


机の上に置かれている雛城の握られた拳は小さく震えている。雛城は俯いており、前髪によってどんな顔をしているのかは見えない。


もう目の前には昨日屋上で出会った、何も感情がないような冷酷な雛城の姿はない。そこにいるのは多くの人間が理解できないような、天才ゆえの葛藤を抱え苦しんでいる1人の女子高生。雛城芽衣奈は自分の人生にあがき、苦しんでいる。


「じゃあ体操以外の事やれば?」


どこか悶え苦しんでいるような声で苦しんでいる雛城に対して、菜名宮はまるでなんでもない風にそう言った。


「…え?」


雛城は困惑したように、菜名宮に聞き返す。そんな雛城に対し菜名宮はニヒルな笑顔を向けた。


「体操をやりたくないんでしょ?なら他のやりたいことを探せばいいじゃん。それこそ、体操にとって変わって生き甲斐となるようなものを。」


菜名宮の態度は何を悩んでいるんだ、とでも言いたげなように堂々としている。


「支柱がなくなったなら、代わりを探せばいい。ただそれだけのことじゃん。芽衣奈ちゃんの生きがいは体操しかないなんて、絶対そんなことないでしょ。」


「そうかもしれないけど…」


確かに雛城にとって今までの人生の生きがいが、自分が存在している理由が体操だったとして、今もそうである必要はない。特に高校生ならこれから先、もっと別の何かのことを真剣に好きになったり、価値を見出すことはあるかもしれない。菜名宮の考えは、確かに至極当然だ。


「でも菜名宮、それは難しくないか?」


「どうしてそう思うの、タキ。」


「そりゃあ、雛城って体操やめた後自分の好きなことをしてただろ?そうして遊んでいるうちに、自分が何をしたいのかわからなくなったって言ってたじゃねえか。」


菜名宮の考えは、雛城が体操をやめた後に試したこととそう代わりない。雛城は体操以外のことをやって、しかし体操の代わりになるものを見つけられなかった。なら今同じことをしても、その時の二の舞になるだけだろう。


「…体操を辞めた後、私は色々したつもりだよ。でも結局どれもすぐに興味が無くなったし、今同じようにしても、何も意味がないんじゃないかな。」


そう話す雛城はどこか複雑そうな面持ちをしている。俺の意見に納得して、そしてネガティブな考えが脳裏を支配しているのだろう。


しかし菜名宮は、その言葉をまるで待ってました、と言わんばかりに満面の笑みで笑う。なんかムカつくなこの顔…一発殴るとまではいかないがムカつく。


「芽衣奈ちゃんは確かに体操やめた後いろんなことやってたって言うけど、それって全然羽目を外してないんだよ。」


「羽目を外していない…?」


「芽衣奈ちゃんは真面目だったからね。いろんなことなんて言ってるけど、おしゃれをしたり、お菓子を食べることとかって本当に誰でもやってるんだよ。」


「ああ…要は雛城が体操に辞めた後にやってたのが別に特別ではないってことか。」


「その通り。芽衣奈ちゃんにとって新鮮でも、他の子にとっては当たり前のことなんだよね。言い換えれば芽衣奈ちゃんは体操を辞めて初めて、周りの子と同じになれたわけだよ。」


菜名宮の言い分は自然と納得ができるものだった。


雛城は先ほど、周りの子が好きなことをしている時にずっと体操の練習をしていたと言っていた。中学時代の雛城にとって、お洒落やお菓子を食べることは特別なことだが、雛城以外の人にとっては普通のことだ。


「いくら体操の実力があるといえども、芽衣奈ちゃんだって当時普通の中学生であることには変わりない。年頃の女の子がお洒落をしたり、お菓子を食べたりするのって普通だよね。」


「普通か…」


「お洒落とか、お菓子を食べるのとかを生きがいにしている中学生ってほとんどいないでしょ?ましてや人生の支柱にしている子なんて。」


「服選んだり、お菓子食べたりするのが好きって奴は多いと思うけど、生きがいとまではいかないな。」


小学生から中学生になるとまるで世界が広がったかのように変わる奴は多い。中学生は少し大人びたような気がして、ほんの少し背伸びをしたくなる時期だ、と誰かが言っていた。特に女子なんかが、自分の見た目を気にし出すのは自然なことだろう。


だがお洒落をしたりお菓子を食べることを人生の生きがいにしているやつなんてまずいないだろう。いるとしても、モデルやってるとかそんな奴くらいか。


少なくともお菓子を食べることを人生の支えにしている奴は聞いたことがない。まあ調査サンプルが少ないので断定はできないけどな。


「芽衣奈ちゃんも他の子と同じだったってだけだよ。お洒落したり、お菓子を食べることに生きがいを見出せなかっただけ。」


菜名宮は正面に向き直ると、雛城のことを指差す。


「もっと不真面目になってみない?私みたいに。」


そうして決め台詞かのようにそんなことを言った。




ヒュッ、パシュッ。空気が何かに擦れる音が聞こえると思えば、その先にはいえーいと言いながらハイタッチをしている男女の姿がある。


俺たちは先ほどのケーキ屋と同じビル、数個上の階に来ていた。辺りにはさまざまな種類の機体が置いているゲーセンがあり、その一角奥の方にひっそりと建てられているダーツができるコーナーにいる。


「なんでダーツ…」


「え、なんでって…私がやりたかったから。」


「本当お前さ…」


こいつマジで自分本位でしか動いてないのかと思ったが、よく考えたら菜名宮が人のためだけに動くことの方が珍しいか。わがままな方が菜名宮らしい。


「私はいつも自分がしたいことばっかしてるよ。芽衣奈ちゃんと違って私は不真面目だし、学校に行かないことも多いし、課題は成績に含まれる割合が多い教科しかしてない。」


菜名宮は手元に置かれた棚から、ダーツの矢を一本、手に取った。


「芽衣奈ちゃん、私と勝負しようよ。」


そんなことを言いながら、菜名宮は左手に持った矢を一本、目の前の的に向かって投げる。体の軸がブレることなく、手元だけが綺麗な弧を描くフォームであった。


その矢は的のど真ん中、50と書かれたところに綺麗に刺さった。




ダーツコーナーは壁側に的に見立てた電子機械が置いてあり、少し離れたところに白線が引いてある。


その少し奥にはソファーとダーツ用品がいくつか置いてありそれが1セットとなってまるでボーリングのように、同じセットがいくつか並んで構成されていた。


投げた矢が的に刺さると、刺さった箇所に応じて機会が反応して上側に点数を表示する。もちろん的に刺さらなければ0点だ。点数が高ければ高いほどエフェクトが豪華になり、最高得点であればまるで花火が一気に咲いたような、綺麗なエフェクトが出る。


なんか俺の知っているダーツとは大分違ってる。俺のダーツのイメージって古びたバーの一角とかにポツリと的が置いているようなものだった。


老紳士たちが酒を嗜み、談笑しながら遊ぶどこか古臭いゲーム、そんなイメージを持っていたからこそゲーセンの横に、若者が遊びに来そうなダーツコーナーがあるのが意外だった。


俺はソファーに座りながら的の方を眺めている。目の前では雛城と菜名宮がダーツの矢を数本持ち、交代ごうたいで的に向かってそれを投げている。


側から見れば女子高生2人が放課後に遊びにきた平和な光景だ。実際はバリバリ授業中なんだけど。


後、平和な光景と表現したがそれも本当か怪しい。なんせ2人とも結構ガチでやってる。さっきから菜名宮も雛城も高得点の50点近辺にバンバン矢を刺して行ってる。多分お互い5本くらいは刺さってる。エイム良すぎるだろ。


ちなみにダーツってど真ん中の50点が最高得点ではないらしい。ダーツの的は中心から円の端の中間くらいの一周がポイント三倍ゾーンになっているようで、例えば4点の三倍ゾーンにさせば12点が入る。的の中心から斜め下、時計で言えば4時の方向近辺に20点があるのだが、そこの三倍ゾーンに刺さると60点になり、それがダーツの最高得点らしい。


2人はダーツの最高得点が60点であることを知っているみたいだが、しかしど真ん中を狙い続けている。それは菜名宮が「三倍ポイントなし」という独自ルールを設定したからだ。曰く計算がめんどくさいらしい。点数三倍して計算することのどこがめんどくさいんだよ。


そんな計算小学3年生でもできるぞなんてツッコミをしようと思ったが、菜名宮の意図はすぐにわかった。20点の三倍ゾーンはダーツの的の円の中心から外れたところ、いわば中途半端な位置にあるのだ。


正直狙って投げるのは大分難しい。プロとかでない限り、刺されば運が良いとも言える位置だろう。


菜名宮は極度の負けず嫌いで極度の勝負師だ。ダーツの三倍ポイントの存在で運ゲーになることを拒んだのだろう。絶対実力主義の勝負にするのが三倍ポイントを消した理由らしい。


ダーツをそんなにガチにする必要があるかは微妙だが、まあ菜名宮だし仕方ない。菜名宮だからって言葉便利すぎる。


「菜名宮、強いな。」


「芽衣奈ちゃんこそ。私にここまで迫った人、初めてみたよ。」


ちょうどゲームが1セット終わったところらしい。ここで言う1セットとは、1回ごとに矢を3本投げて点数を出してから交代、それを10回繰り返すことを指す。1セットで投げれるダーツの矢の数は合計30本と言うことになる。機械に表示された点数を見れば菜名宮が1250点、雛城は1222点。


結構ギリギリの勝負だったようだ。というか単純計算で菜名宮も雛城も大体25本は真ん中に刺してることになる。的中率で言えば大体8割越えくらいか。ダーツってそう簡単に真ん中に刺さるものなの?


後攻の菜名宮が点数を確認すると、50点ゾーンに刺さった3本の矢を引き抜く。直前まで雛城が勝っていたが、最後に菜名宮が逆転したみたいだ。当たり前のように50点を3回出してるのはなんなんだ。


「芽衣奈ちゃんはダーツ初めて?」


「ああ、ルールは知ってるけど、実際にやったのは初めてだよ。」


「それなのにあんなに点数高いのすごいね。」


菜名宮は素直に感心してるようであった。菜名宮はダーツを何回もやったことがあるらしく、点数は高いのはある種納得できるが、雛城はあれで初めてなのか。ど真ん中への的中率めちゃくちゃ高かったんだが。


「ダーツって要はさ、50点に入れる動きを見つけて、同じことを繰り返せば同じところに入るでしょ?同じ動きを何回も繰り返すってところで言えば、体操も同じところがあるしさ。」


「さらっとすごいこと言ってんな…」


同じことを繰り返せばいいなんて雛城は言ったが、多くの人はそんなことができないだろう。全く同じ動作で矢を投げることができれば理論上、最高得点を取り続けることが可能になる。


しかし実際はそんなこと不可能だ。同じような条件でも人の手はその時その時によって動き方が微妙に異なり、そのせいで矢が的に当たる箇所も変わる。もし完璧な反復が簡単にできるのなら、ダーツはそもそも競技として成立しないだろう。


「…これ、すごいことなのか。」


「少なくとも俺には到底不可能だ。運動神経いい奴でも多分そうそうできん。」


「私はダーツずっとやってきたから出来るようになったけど、初めての頃はそんなに50点にバシバシ入れるのは不可能だったよ。本当にうまい。」


菜名宮もさらっと意味不明なことを言ったような気がするが、その言葉が霞むくらい雛城がすごい。同じような動作を自然に何度も実行できるのはある種の才能だ。


「同じような動作を寸分違わずできるのは、やっぱり体操でも生かされてたのかな。」


「…そうかもしれないね。私は競技会の時はいつも練習と同じことをしてただけだし。それが普通の人に出来ないことなのなら、やっぱりすごいことなのかな。」


雛城はどうやら本物の天才らしい。同じ動きを全く同じ動作で繰り返すというのを雛城は周りの人が皆、誰でもできると考えていた。自分の秀でた能力が他者にも同じように備わっていると考えるのは、純粋な天才の発想だ。


「まあ、こんなものも今は意味ないんだけどね。」


雛城はどこか寂しげな顔をしながら、右手の方を見つめる。その呟きに何も返すことができなかった。


雛城の能力は、おそらく体操において大いに役立っていたのだろう。もしかしたら体操で好成績を残したのも、一度した動きを再現できるからというのもあるかもしれない。


だがもう雛城は体操をしていない。だとすれば、その才能は雛城にとって必要のないものなのだ。


雛城は手に持った矢をテーブルに置かれた布で拭きながら、俺の向かい側に座る。俺の隣には菜名宮が座った。


「楽しかった?」


重い空気を払拭するように、菜名宮は明るい笑顔で雛城の方へと向き直る。


「まあ、そこそこかな。」


雛城が口元にほんの少し笑みを浮かべた。最初は訳が分からなかったようだったが、案外楽しかったみたいだ。


「なら良かった。学校サボってまでこんなところにきたのに、楽しくなかったらどうしようかなと思ってね。」


時計を見れば今はお昼を少しすぎたくらいだった。多分午後の授業は今頃始まっているだろう。


「学校サボってまでなんて言ってるけど、お前の場合いつもサボってるじゃねえか。」


「それを言うなら芽衣奈ちゃんもだよ。」


「雛城は学校に毎日来てるけど、お前の方は最近学校にも来てないだろ。」


「失礼な、週3で来てるよ。」


「普通の学生は週5で来るんだよ。」


菜名宮サボりすぎなんだよな。先週なんて1日中学校にいたの1日しかいなかったぞ。おかしいだろ。


菜名宮の信念として自分のやりたいことを優先させるというものがある。学校の授業よりも優先することがあれば、菜名宮は間違いなく学校に来ないし、逆に菜名宮が学校にいれば、授業が一番大切であるという証明になる。


人助けが好きな菜名宮のことだ。多分学校いない日はそういった活動をしてるんだろうが、それはそれとして学校サボるのは良くないと思う。


目の前の雛城は綺麗に磨いたダーツの矢をケースの中にしまっていた。クロスを綺麗に折りたたんで隣に置くと、またソファーに座り込んでふうと息を吐いた。


「私はやっぱり真面目な人間なんだね。」


「いきなりどうしたんだ?」


突拍子のない呟きに疑問を呈すと、雛城はこちらの方を向いて、いやね、と前言を置く。


「私は授業をサボってるけど学校には毎日行ってる。正直、学校に行く意味なんて今はないと思ってるんだけどね。けれど登校はしないといけないと心のどこかで思ってるんだ。」


「それが普通なんだけどな。…でもまあ、わざわざ授業を受けるわけでもないのに学校来てるのは変だな。うちの学校の場合だと特に。」


極端な話、学校の授業を受けないのなら学校に来なければいい。特にうちの学校は最悪授業を受けなくても単位は取れる仕組みである。学校に来なくてもやることさえやれば卒業はできるのだ。現に実践してる奴が隣にいるし。


「学校に毎日行かないといけないと思ってるんだ。やっぱり芽衣奈ちゃん、変に真面目だね。」


菜名宮は机の上に置いてあるカップ、コーラが入ってるそれを手に取ると口元へと持っていく。


「それ、俺が買った奴なんだけど。」


「お金はまた今度返すよ。」


「あのなあ…」


まあ菜名宮がこんなところで嘘をつくとは思えないしいいんだけど、せめて許可は取って欲しい。無許可で飲み物奪ってこないでくれ。


「サボりを推奨する訳じゃないけど、授業を受けないなら学校行く意味もないよね。それなのに毎日登校してるって、芽衣奈ちゃんの中で学校はいかなきゃいけないところっていう固定観念があるんじゃないかな。」


「…やっぱりか。真面目を強制されて、それが嫌だったはずなのに、根は真面目っておかしな話だよね。」


「テスト受けるし課題も出してるんだったよな?真面目嫌いなのに矛盾してる。」


確かに、母親からの真面目であるべきという期待をプレッシャーに感じて母親に逆らった雛城本人が真面目な考え方を持っているというのもおかしな話だ。


ただ菜名宮はその矛盾を否定した。


「別におかしいことじゃないよ。生まれながらの環境が人の性格に与える部分って大きいからね。厳しい親に育てられれば気難しい人になるし、逆に甘い親に育てられればポジティブになる。この地球上の生き物なんてそんなもんだよ。」


「…環境。私の場合だと、母さんの影響か。」


雛城はそう呟くと手元のカップを手に取り、ストローを口に含んだ。中身は確かいちごオレだったはずだ。ほんとブレないなこいつ。どんだけ甘いもの好きなんだよ。


「菜名宮がバイキングを出る直前に不真面目になろうって言ったのは、私が真面目だから生きがいができないって思ったからだよね?」


「概ねそんな感じだよ。芽衣奈ちゃんは真面目に取り憑かれてるからね。」


菜名宮は飲んでいたコーラを口から離し、雛城の疑問に対して頷く。


「やっぱり、無理じゃないかな。」


「無理って何が?」


「菜名宮は私の生きがいとなるものを探そう、なんて言ったじゃん。でも私は菜名宮と違って真面目な性格だ。」


「真面目と言っても学校はサボってるけどな。」


「それでもだよ。菜名宮みたいに学校をサボるのに抵抗ないわけじゃない。私は変なところで真面目だから、学校サボってまで生きがいを見つけるなんて到底出来そうにない。今日だって、サボりを躊躇してたくらいだよ。」


雛城はどこか投げやりだ。確かに今日屋上で雛城は、化学のテストのために今日ギリギリまでサボることを渋っていた。(それが本来正しいはずだが)雛城が不真面目であれば、学校をサボることは造作もないだろうが、実際は毎日授業のやる気がなくても学校には毎日行っている。まるで不良に絶妙になり切れていない元優等生みたいだ。


「…なんか芽衣奈ちゃんって勘違いしてない?」


菜名宮は手に持っていたカップを机の上に置くと、雛城の方へと向き直る。カップの中身はほとんど空になっていた。嘘だろこいつ半分以上飲みやがった。


犠牲になった俺のコーラを横目に、菜名宮の視線はどこか真剣なものだ。よく人のものパクってそんなキリッとしてられるな。


「学校サボったから、不真面目になったから生きがいが見つかるものとは限らないよ?」


「…え?」


菜名宮のその言葉は、確実に雛城の考え方を否定するものだった。


「あれ、てっきり不真面目になることで生きがいを見つけようとしていたと思ったんだけど。」


「冷静に考えてみてよ。授業をサボってるだけで生きがい見つかるんなら、学校はいらない存在じゃん。もしそうだとしたら、みんな毎日遊んで過ごしているよ。」


菜名宮は至極当然だとでも言いたげな様子である。


「そもそも学校で学んだことが生きがいになってる人も当然いるでしょ。数学や物理の研究者は大抵授業とかで専門分野に興味を持って、大学に行く人がほとんどだよ。その人たちは授業をサボったりしなかったんないかな。」


「…そりゃ確かにそうだな。」


菜名宮の言い方的に雛城の生きがいを見つけるためには学校をサボることが必要だ、なんて捉えていたが、よくよく考えれば人生に生きがいを持っている人皆が学校をサボっていたわけではないだろう。


有名な発明家エジソンは小学校を辞めて家で毎日勉強をしていたというが、反対にエジソンのライバルと言われたグラハム・ベルは大学に通っていたなんて記録も残っている。学校をサボることでしか生きがいを見つけられないというのは間違いだろう。


「ならなんで、菜名宮は不真面目にならないかなんて言ったの?」


雛城は頭に疑問符を浮かべているようだった。至極当然な疑問だ。


「真面目だからとか不真面目だからとか、そういった理由じゃないんだよ。問題なのは、限られた視野しか持っていないこと。」


菜名宮は一見答えにならないような返事をすると、ふと両手の親指と人差し指で四角を作る。それをレンズのように片目に当てて、雛城の方へと覗き込んだ。いつぞや屋上で見せたポーズと似たものだった。


「芽衣奈ちゃんはお母さんの言いつけによって、体操にとって邪魔なもの、あるいは不真面目をほとんど知らなかった。さながら世間知らずのお嬢様みたいにね。」


横から見る菜名宮の口角は上がっていた。おそらく屋上で俺が見た表情と同じ顔をしているのだろう。


「真面目という性格は芽衣奈ちゃんに根付いている。だから芽衣奈ちゃんは体操から離れたとしても、自分の性格に囚われたせいで不真面目なことをするのが躊躇われた。」


菜名宮の笑顔は相変わらず綺麗なものだ。菜名宮の元々整った顔立ちも合わさり、あまりにも清廉潔白で人を惹きつける。


「だから不真面目なことをしてみようって言ったんだよ。いわば思考の転換かな。活発なお嬢様が城下町に潜入捜査して世界の仕組みを知るように、芽衣奈ちゃんが知らない不真面目な世界を見ようって言ったんだ。」


「不真面目な世界…」


「体操の代わりとなる芽衣奈ちゃんの生きがいはもしかしたら不真面目な世界にあるかもしれない。でも別に確定してることでもないんだよね。もしかしたら芽衣奈ちゃんが知らないだけで、芽衣奈ちゃんが普段過ごしている世界の中に生きがいとなるものがあるのかもしれない。」


そして菜名宮はまるでカメラのような形見たいな、両手で作った形をダーツの的や、コーラのカップ、辺りにあるものに色々照準を合わせていく。


「生きがいなんてそう簡単に見つかるものじゃないよ。芽衣奈ちゃんの人生において体操が占める割合はきっと多かった。代わりなんてそうそうない。」


菜名宮はそう言いながら、レンズ越しにまた雛城の方へと向いた。


「だからいろんなことやってみようよ。真面目なこと、不真面目なこと。今までにしたこと、経験のないこと。とにかく色々してみて、芽衣奈ちゃんの人生に必要なもの探していこうよ。必ずどこかにあるなんて断言するほど能天気じゃないけど、視野を広げて挑戦していかないと何も始まらないよね。」


ごくん、と唾を飲む音が聞こえた。菜名宮の前に座る雛城は緊張したような、あるいは何かに夢中になっているかのように表情を変えない。雛城の目にはおそらくあの菜名宮の力強い、人を惹きつける菜名宮の目が映っているのだろう。


「生きがいがない、じゃなくて生きがいを探す。やる気がないならやる気の出るものを探す。そうしていけば、もしかしたら芽衣奈ちゃんの世界を彩る何かが見つかるかもしれないよ。」


菜名宮はどこか確信めいたようにそう言った。その言葉は、その口調は、いつも通り世界を変えてしまいそうな時の菜名宮のものだった。


誤字脱字等がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。


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